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そもそも「階層ベイズモデル」でクマの生息数の推定などできないと統計学の専門家が指摘

京都府のクマ生息数激増発表に大いなる疑問を感じた熊森は、京都府が調査委託したWMO(株)野生動物保護管理事務所作成の「京都府平成30年度野生鳥獣(ツキノワグマ)生息実態調査業務報告書」(平成31年3月)を、全文読んでみました。さすがWMO、しっかり書けていると思いました。

 

しかし、生息数推定のページになると、どこかに下請けでも出したのだろうかと感じるほど、この部分だけが、タッチが変わり意味不明です。

「階層ベイズモデル」は、ソフトが市販されているので誰でも使えますが、本来、経済学で使うモデルで、10年後の経済成長をどれくらいにするかなど、答えを先に決めて使うモデルです。

 

クマが何頭いるかわからないというような答えがわからないものには元来使えません。使えないのに使おうとすると、初めに何頭いることにしようかと答えを決めなければなりません。要するに、「階層ベイズモデル」によるクマの生息数推定は、答えをいかようにも好きに出せるということなのです。

要するに、いかさまに使える推定法なのですが、計算法が非常に複雑なので、一般行政マンをけむに巻くにはもってこいの推定法だとも言われています。

 

「階層ベイズモデル」によるクマの生息推定数が初めて日本に登場したのは2011年春兵庫県で、出してきたのは、当時兵庫県森林動物研究センターの研究員で兵庫県立大学の准教授でもあった坂田宏志氏です。

コンピューターを何十日も煙が出るほど長時間動かしてやっと解を得たということで、兵庫県のツキノワグマ最大値は2004年の180頭から1651頭に爆発増加している(7年間に9倍以上に増加)という驚異的なもので、熊森はずっこけそうになりました。

しかも、2010年は奥山の実りゼロというあり得ない凶作年となり、次々と山からクマが食料を求めて出て来て、有害捕殺や交通事故で80頭以上のクマが死亡しているのに、全体の生息数は増え続けていることになっていたのです。

 

ありえないと熊森が真っ先に発言したのですが、訂正されませんでした。しかし、専門家たちからあり得ないという声が上がると、坂田氏は一挙に生息推定数を751頭という半分以下に訂正されました。いかようにもできるという「階層ベイズモデル」の特性がよくわかる一面でした。

 

この度、統計学の専門家である日本福祉大学経済学部経済学科の山上俊彦教授(京都大学卒)に、京都府のクマ生息推定数のページを読んでもらい、「階層ベイズモデル」でクマの生息推定数を出すことについてのご意見をいただきました。特に、全国の行政担当者に読んでいただきたいです。

以下に掲載します。

 

1.「階層ベイズモデル」について

報告書における「階層ベイズモデル」による京都府のツキノワグマ生息数推定は、状態・空間モデルを援用したものであるが、その趣旨が生かされたものではない。

報告書では、生息数と自然増加率の関係は次式で示される。

 

今年の生息数=昨年の生息数×自然増加率-昨年の捕殺数

 

式が一本で、データは捕獲数しかないため、生息数と自然増加率は確定できない。

確定できない数値はベイズ法を用いても推定できない。

これを推定できると考えるのは自然科学者の知的傲慢である。

 

事前分布として設定した生息数、自然増加率、捕獲率については、捕獲数データは何ら情報を与えない。つまり、満足なベイズ更新がなされないままに、データの数値変動から事後分布が導かれていると考えられる。これは、事前に設定した生息数によって結果としての生息数が導出されたに過ぎず、このようにして出した生息数推定値を政策議論に用いることは不適切である。

 

また、京都府は2017年から予察捕獲を実行しており、この結果、捕獲数が異常な増加を記録している。つまり捕獲数データが京都府の方針変更に伴う行動変化を反映したものとなっており、統計解析には用いることができない。

この「科学的」ではないデータを用いると、特に近年の推定値は上方バイアスが大きくなって生息数の過大推定につながる。これは当初からクマを殺せば殺す程、生息数推定値が増えると懸念された「階層ベイズモデル」の致命的欠陥を示すものである。

 

なお、報告書ではベイズ法における核心的部分である尤度関数の記述が省略されているため、具体的なMCMCによる解探索過程は確認できない。このことは尤度関数の最大値を正しく求めているか否かが不明確なままであることを意味する。

また、プログラミングは公開されておらず、再現性に乏しい。この意味で推定は「科学的」根拠を欠いている。

 

2.生息密度について

京都府の森林面積は3423㎢、自然林面積は2107㎢なので、生息数推定値を京都府が主張する1400頭とした場合の生息密度は0.664/㎢となる。米国の著名な研究成果ではクマの生息密度は0.15/㎢程度なので、米国の生息密度を日本に適用したとすると、京都府の推定結果は過大推定であることが伺える。(山上俊彦)

 

熊森から

日本に於けるツキノワグマの生息密度を調べた論文を見つけました。

ツキノワグマの地域個体群区分と保全管理―生息環境と必要な面積―
Local Population and Conservation of Asian Black Bear; Habitat Preference and Minimum Area Size
米田政明*Masaaki YONEDAランドスケープ研究64 (4), 2001*(財)自然環境研究センター

316ページに、好適な生息地における生息密度は0.15~0.3頭/km2とあります。

2001年はまだナラ枯れも下層植生消滅もなかった時代です。その当時ですら、生息密度はこの程度なのですから、自然林の内部が大荒廃した今の京都府で生息密度が0.664/㎢とは、おかし過ぎます。

 

以下は、京都府に於けるツキノワグマによる農林業被害額と作物別の被害面積の推移です。(京都府資料より)

今回の京都府の発表では、平成15年から16年間で、府内のクマ数は4倍に激増したことになっていますが、農林業被害や作物別面積は大幅に減少しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上のグラフを見ただけでも、京都府のクマ数が4倍に激増したというのは、おかしいと思います。

このようなおかしげなデータが、世の中を通っていくなんて、研究者のみなさん、行政のみなさん、本当に自分の頭でしっかり考えてくれたのですかと思ってしまいました。

 

 

 

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