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福井大学助教授のドングリ運び批判はどこがおかしかったのか①

これまで熊森のどんぐり運びをきちんとした文章にまとめて批判した人は、保科英人氏(2004年当時福井大学助教授32歳)ただひとりです。保科氏は当時、熊森に対して、自らの立場も明かして実名でドングリ運びをメールで批判してこられました。匿名で立場も明かさず保科氏の言葉を利用して熊森批判を楽しんでおられる人たちよりずっと立派だと熊森は思います。

 

問題の文章は、福井市自然史博物館に投稿された研究報告文で、今もネットから検索可能です。

「野生グマに対する餌付け行為としてのドングリ散布の是非について」
~保全生物学的観点から~

福井大学助教授 保科英人

 

 福井市自然史博物館研究報告 第51号:57−62(2004)

 

あれから16年、未だにこの分類学者の研究報告文に影響を受ける人がいることがわかったので、若い研究者の日本の森林生態系に対する知識不足と実証なき憶測が引き起こしたドングリ運び批判の間違いを、きちんと総括しておきたいと思います。

 

この研究報告文について、当協会の研究者である京都市在住主原憲司先生2004年当時56才(森林生態学:専門はブナ科に付く昆虫)のコメントをお伝えします。

 

まず最初に、主原先生の簡単なご紹介をさせていただきます。
先生は、中学1年生の時、鱗翅学会の会員になられました。中学生の学会員など前代未聞であったと思われます。先輩の研究者たちに大変かわいがられて、教授陣からの誘いで中学1年生の時から近くにあった京都大学の研究室に通われるようになり、素晴らしい先生方から薫陶を受け、研究を深めていかれました。

 

先生は23歳の時、中学時代から調べ続けていた生態不明の最後のゼフィルスと呼ばれた「ヒサマツミドリシジミ」というチョウの生態を解明し、国際会議場で開催された鱗翅学会で論文を発表されました。

その結果、この蝶を採集しようとする人たちが現地に殺到して乱獲、この蝶が絶滅するのではないかという大変な事態に陥りました。この時、先生は、もう二度と研究したことを論文に発表しないと誓われました。

以後先生は、庭にブナ科の各種樹木を植えられたり、ブナ科に付く各種の虫を飼育されたりして、オリジナルの研究に没頭されていきます。

また、奥山生態系に関しては、小学校6年生の時に一人で石川県白山に登られて以来、北海道を除く全国の山々や海岸を調査のために歩かれ、各地の森林生態系を長年にわたって観察調査されてきました。いくつものブナ科に付く虫の新種も発見され、以後、何冊もの本になるような膨大な研究データをお持ちです。しかし、論文は発表されません。

 

以下、保科氏の研究報告文に対する主原先生のコメントです。

 

保科氏のドングリ運び批判の問題点

 

①「種内の多様性」の欠落

 

保科氏の主張は、ドングリを他の地域に運ぶとドングリやドングリに付いている虫などの遺伝子の交雑が起こるので運んではならないということですね。この主張に、保全生物学的観点からという副題を付けることは、保全生物学に対する冒涜です。

 

保全生物学は、生物の多様性を守ることが最も大切であるとする学問です。生物の多様性には、以下の3つがあります。

1,生態系の多様性

2,種の多様性

3,種内の多様性=遺伝子の多様性

 

生物の多様性というと、1番や2番だけを思い起こす人が多いと思われますが、3番目の種内の多様性もとても大切です。現在地球上に存在する生物種が、様々な環境変化にもめげず種を存続して来られたのは、種内の多様性のおかげです。種内の多様性は遺伝子の交雑によって生じるもので、遺伝子が交雑することは 種の存続に絶対に必要です。保科氏は、保全生物学の名を使いながら、保全生物学の3つめの多様性を知らない人だったと言われても仕方がありません。

 

くまもりのドングリ運びに際しては、私がこれまで調べてきた各種ドングリの発芽温度、生育温度などを元に、どのようなところに運べば発芽生育が起きないか置き場所を指導しましたから、ドングリとドングリや虫と虫が交雑する可能性は ほぼないと思います。しかし、もし万一交雑するようなことがあったとしても、種内の多様性が増え るだけのことで、何の問題もありません。これは熊森がドングリを運ぶ運ばないにかかわらず自然界でも起こっていることです。交雑種が環境に合えば増えていくでしょうし(雑種強勢)、環境に合わなければ消えていきます。(雑種弱勢)種内の多様性が増すことを否定されるなら、その種は滅びてしまいます。

 

保科氏は研究報告文でブラックバスやマングースの例 を出して、ドングリ運びはドングリやドングリに付いている虫の遺伝子を攪乱させ自然破壊につながる危険な行為であると自然生態系への脅威を訴えておられますが、これらは元々日本にいなかった動物種です。ドングリ運び批判の引き合いに出すべきものではありません。お門違いの批判です。ちょっと勉強した人なら、保科氏の報告文を読んで、すぐにおかしいと気付くと思います。

 

保科氏の研究報告文の次なる問題点は、森林生態系を歴史的に見る目の欠如です。

次回に続く。

 

熊森から

熊森を目の敵のように批判され続けておられる方々がいます。かれらは遺伝子の交雑を、遺伝子の撹乱とか遺伝子の汚染とか遺伝子の純潔を守れとかおどろおどろしい言葉で表現されるため、一般の人々は、遺伝子が交雑することはそんなに悪いことなのかと勘違いされてしまいます。このような言葉は学問ではなく思想だと思います。

 

 

 

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