マタギの里として知られる山形県小国町で、名物のクマ肉料理が消滅の危機にある。東京電力福島第1原発事故の影響でクマ肉の出荷制限が続いているためだ。地元では「伝統の食文化が絶えてしまう」と不安が広がっている。
事の発端は昨年4月。山形県内で捕獲されたツキノワグマ2頭の肉から、国の基準値を超える放射性セシウムが検出された。国は同9月、県全域のクマ肉の出荷制限を指示。半年以上たっても制限が解除されていない。
マタギ文化が残る小国町では毎年5月、春の猟で捕獲されたクマの供養のため「小玉川熊まつり」が開かれ、約3000人の来場者でにぎわう。客のお目当てはクマ汁。クマ皮の抽選会も評判だ。
昨年は出荷制限前で例年通りだったが、今年はクマ汁販売は中止。抽選会は原発事故前に捕れたクマの皮で行う。マタギ歴50年という実行委員の舟山堅一さん(70)は「クマ汁が出せないと客が減ってしまう」と祭りの人出を心配する。
山形県内では鶴岡市の「タキタロウまつり」など、大型連休のイベントでも例年クマ汁が提供されてきたが、今年は見送られる。
観光業界も影響を受けている。小玉川地区にあるクマ鍋が自慢の国民宿舎、飯豊梅花皮荘では年間約800万円の売り上げ減という。熊谷勝弘支配人は「クマ肉が出せないと伝えると、常連客も予約をやめてしまう」と頭を抱える。
国と県はこの春の猟で捕獲されたクマを検査し、出荷制限を継続するか解除するか判断する。小国町猟友会会長の金熊太郎さん(72)は「規制が長引けば、猟をやめる人が増えてしまう」と危機感を募らせている。
大日本猟友会によると、クマ肉は北海道から中部までの一部地域で食べられている。主に駆除目的で年間1000~2000頭が捕獲されており、食用になるのは1割程度。1キロ1万円以上と高級和牛並みの高値で取引される。
厚生労働省のまとめでは15日現在、山形、岩手、宮城、福島、群馬、新潟の6県でクマ肉の出荷制限が続いている。
<熊森から>
クマ汁を楽しんでいる場合ではない。野生生物の被曝問題に、人間がどう責任を取るか考えるべきでしょう。