くまもりHOMEへ

ホーム > _クマ保全

カテゴリー「_クマ保全」の記事一覧

石川県猟友会金沢支部、捕獲したクマの熊の胆を、長年薬事法に違反して売買していた (中日新聞記事)

5月20日の中日新聞によると、石川県猟友会金沢支部が、長年にわたり、捕獲したクマの熊の胆を薬事法に違反して、無許可で売買していたことが、この度、判明したということです。

石川県行政から金沢市のクマ捕獲隊長に長年任命されている猟友会員は、金沢市でクマ肉などの料理店を経営している人です。このような職業の人をクマ捕獲隊長に任命していることに対して、くまもりはずっと石川県行政に疑問を感じてきました。

この際、捕獲したクマの熊の胆だけではなく、遺体の処理はどうなっていたのか、クマ肉は販売されていなかったのかなど、徹底的に調べていただきたいと思います。

有害として捕獲したクマがお金になるなら、クマに口がないのをいいことに、殺さなくてもいいクマまで有害に仕立て上げて、駆除隊が有害駆除してしまうことも考えられます。動物愛護法違反です。実際、当協会には、そのような内部告発がいくつか各地から来ています。

2013.5.20(月)北陸中日新聞

猟友会員に追われ、怖くて非常階段の下でうずくまっていたクマを射殺していたことが判明

金沢市の中学校で殺されたクマのテレビニュースを、多くの人に見てもらいたいです。クマは、人間に見つかってしまい、銃を持った人たちに追いかけ回され、怖くて非常階段の下でじっとうずくまっていたのです。殺す必要など全くない状況であったことがわかりました。このような弱者への共感や思いやりのない今回の金沢市の対応を知って、人間として恐ろしくなりました。

 

以下、ブログやさしい雷より

報道によるとクマは暴れるそぶりはなく校舎の非常階段下にうずくまっていたそうです。
————————————-
現場に駆けつけた県猟友会金沢支部副支部長の広村靖男さん(71)によると、クマは敷地内をうろつき、校舎の非常階段下にうずくまった。暴れるそぶりはなく、麻酔銃の使用も検討したが、登校時間が迫っていたたため、同6時半過ぎに猟友会のメンバーが1発を発砲したという。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20130517-OYT8T00424.htm
(2013年5月17日 読売新聞)

署員らが辺りを捜索し、午前4時59分に森本中の正面玄関でクマを発見。クマは校舎裏へゆっくりと移動し、同6時37分に非常階段付近でうずくまっているところを猟友会のメンバーが射殺した。
http://www.hokkoku.co.jp/subpage/E20130516001.htm
2013/05/16 15:47 【北國新聞】

侵入したクマは体長およそ1メートル、体重40kgほどで、校舎の裏にある非常階段の陰に隠れていたところを地元の猟友会のメンバーに射殺された。
猟友会のメンバーは「わたしが見たのは、非常階段の下に隠れていたということで、身を隠していたというか、見えないように隠れていた」と語った。

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00246130.html
(05/16 19:50 石川テレビ)

16日早朝、金沢市の中学校にいたクマは、麻酔銃で眠らせて山へ放すべきだった 

石川県は、全国で初めて、クマに対して個体数調整を導入した県です。この、個体数調整という殺し方は、野生動物にとって、大変理不尽で問題のある殺し方です。

これまで、クマは、狩猟か有害獣駆除かのどちらかで殺されてきました。狩猟は趣味のハンティングであり、狩猟期間が決められています。

有害駆除は、クマが農作物を食べたなど、有害とみなす理由があって殺すものです。

 

ところが、個体数調整というのは、人間がクマの個体数を調整するという名目で、生息地の中に入っていって何の害もないクマを殺すものです。石川県に何頭クマがいるかなど、正確には誰にもわかりません。何頭いたらいいかも、人間にわかるものではありません。わからないのに何もしていないクマを殺すのです。クマたちの命への尊厳が少しでもあれば、できることではありません。

 

今回の事件ですが、なぜこのクマが、午前3時半に、北陸新幹線の工事をしている所まで出て来たのかという問題です。

単に迷い込んだだけかもしれませんが、他にも考えられる理由があります。今年、3月~4月にかけて、奥の山で個体数調整として、金沢市だけで9頭のクマを撃ち殺しています。

以前聞いたところでは、ダム湖に船を浮かべて、その船に乗って、奥山へ個体数調整に入るのだそうです。いわゆる、春グマ狩りです。この時期は、雪が消え、まだ若葉が出ていない時期であり、クマたちが棲む落葉広葉樹林の中が一番見渡せる時期です。つまり、一番、クマを見つけて撃ちやすい時期なのです。しかも、この時期は、熊の胆が一番大きく、何十万円もの高値で売れる時期でもあるのです。

猟友会員たちが、冬ごもりからやっと覚めたクマたちを追いかけることによって、クマたちはここに居ては殺されると危険を感じ、里の方に降りて来たのではないかとも考えられます。

 

金沢市の担当者に電話で聞くと、今回、担当の獣医師をたたき起こして、麻酔剤の調合をしてもらっていたということです。金沢市は、クマなどの大型野生動物用の麻酔銃を保持しているそうです。市の担当部署としては、このクマを捕獲して、金沢の奥山に放獣しようと思ったのだそうです。しかし、クラブの早朝練習の生徒たちが登校する時間になってきたのに、獣医さんが来るのが遅れたので、仕方なく射殺したと言われていました。5月~8月の期間に、さらに個体数調整枠として、金沢市では石川県から10頭殺していいと割り当てを貰っていたから、それを使って射殺したということでした。

 

<熊森から>

金沢市がそこまで考えておられたのなら、人間は言葉を持っているのですから、学校の周りを車で回って、拡声器で、今、校庭にクマがいるので獣医さんが来るまで登校しないようにと呼びかけてもらったら、解決した話ではないでしょうか。それをせずに、さっさと殺してしまった金沢市。個体数調整捕殺枠があることによって、安易に射殺したのではないかと感じました。個体数調整を県に導入した石川県に猛省を促したいと思います。

 

石川県は、クマ肉や熊の胆が高く売れる地域です。心配になったので、念のために、市の担当者に、殺したクマの遺体は、その後どうなったのかたずねました。

以前、石川県民らが、石川県内のある市で、有害駆除したクマの肉を、行政や、新聞記者、警察などみんなが、猟友会員らから口止め用に?分けてもらっているのを見たことがあるからです。(焼却することになっているのに、実際はしていなかった)

また、狩猟期でもないのにクマを殺して解体している猟友会員らの現場を、たまたま見てしまった人たちもいます。

隣の福井県は、クマとの共存をめざして、出て来てはいけない所に出て来たクマはつかまえて、居てもいい所にドンドン放獣してくださっています。一方、石川県は、捕まえたクマはすべて殺すことにしています。この違いは、何でしょうか。

 

今回、金沢市の担当者が言われるには、大きくて焼却炉に入らなかったため、体をいくつかに切り分けて、焼却したということでした。漢方薬として高く売れる熊の胆のことも、売られていないか心配になったので聞いてみましたら、これが熊の胆かとみんなで確認してから、こちらも焼却したということでした。

 

最後に、今回の射殺場所は、学校であり、全生物の命の尊厳を生徒たちに教えなければならないところです。今回の金沢市の対応は、教育上からも問題です。熊森は、金沢市、石川県、環境省に、抗議文を送ります。

 

 

石川県七尾市で目撃されたツキノワグマについて

石川県では、以前、能登半島にはクマはいないと言われていましたが、昨年度、能登半島にある七尾市では5件のクマの目撃情報が寄せられているそうです。

514日の地元新聞によると、今年5月にも、七尾市では山間部で3件の目撃があり、ドラム缶型クマ捕獲檻3基を設置することになったということで、捕獲檻の写真が大きく載っていました。

 

熊森は心配になってきて、捕獲されたクマがどうなるのか、七尾市や中能登農林事務所などの地元行政にさっそく電話で尋ねてみました。石川県では、いったん捕獲されたクマには殺処分以外の選択肢はないという答えでした。

お隣の福井県では、居ては困る所に出て来たクマは捕獲後、本来の生息地にさかんに放獣してやっています。クマという動物が、日本の国土で、人間と共存できる動物であることを理解し、無用の殺生は避けるという、生き物に優しい対応をされているのです。

放獣しないと言われている石川県でも、昨年度、研究用の学術捕獲では、3頭を放獣しています。

 

今回の七尾市のクマは、本来のクマ生息地から移動してきたと思われます。山間部におとなしくいるだけなので、捕獲しても殺さずに、元の生息地に返してやっていただけないものか。14日、熊森と、行政各部署との交渉が、夜まで続きました。

七 尾市行政としては、クマなど見たこともないということで、対応に戸惑っている感じでした。行政ですから、万一、住民に何かあれば大変だと思うのは当然で しょう。七尾市民のなかには、マスコミによって、クマは凶暴という間違ったイメージを植え付けられている方もあり、早く捕まえてほしいと思う人がいるのは当然でしょう。そ れぞれの立場の方々の気持がわかるだけに、熊森としても考え込んでしまいました。

 

熊 森は、野生動物の個を守るのか、個体群を守るのか、種を守るのかなどと、追究して来る人もいます。しかし、そんなことは分けて考えられるものではなく、や はり、生物の多様性を守るためには、無用の殺生をしないことが必要で、一頭一頭の命の大切さ、尊厳を訴えていくことが、共存の基本であると考えます。

今回、石川県の地元行政の方たちと長時間話し合って、人間として共感できるところが実にたくさんありました。また、石川県のクマ対応の実態についても、今まで以上に見えてきました。新聞情報の、不正確で読者に誤解を与える部分も問題でした。

こ ういう食い違いは、お互いに、よく話し合わずに一方的に判断して進めることによって、生じています。人間と人間、じっくり話し合えば、ほとんどのことは、 理解しあえるのではないかと、改めて、人間という動物に信頼感を持てた石川県行政の方々との話し合いでした。長い時間、根気よくいろいろと本音を話してくだ さった行政のみなさんに、感謝します。

 

<七尾市で目撃されたツキノワグマについてわかったこと>

5 月11日(土)に、市民がクマを目撃し、警察に通報した。土曜日であり、行政がお休みのため、警察情報を元に、新聞記者が行政に取材せずに記事を書いたの で、事実と違っている部分が何カ所かある。記事中のドラム缶型クマ捕獲檻の写真は、以前、万一に備えて七尾市が何台か購入した時の古い写真で、今回目撃さ れたクマを捕獲するために設置したものではない。

今回目撃されたクマは、山中におり、捕獲罠は、かけていない。中能登農林事務所としては、行政が休みの日に緊急事態があれば、捕獲許可を出せないので、今回目撃されたクマとは関係なく、3頭の捕獲許可を申請していただければあらかじめ捕獲許可を出しておきますと七尾市に伝えてある。捕殺のための捕獲が必要な緊急事態かどうかは、石川県では長年の経験がある猟友会の捕獲隊長が判断する。今回目撃されたクマは、おそらく緊急事態と判断されないだろう。捕獲許可をもらっていても、必要がなければ、一頭も捕獲しないでその年を終えることもある。石川県は、クマの※個体数調整を導入しているので、捕獲されたクマは、捕獲上限数に達していない限りは、捕殺する。(以上)

 

個体数調整 の問題については、別の機会に書きたいと思います。

3月5日 兵庫県野生動物保護管理運営協議会に出席して

【森林被害】清浄な空気や水を生み、兵庫県民の生活を支えてきてくれてた広大な兵庫の森。その中で、今、下草や、昆虫、魚、鳥、シカ以外のけものなど、生きものたちの姿が忽然と消え、「沈黙の森」が、一気に広がっています。木々の弱りも目立ちます。

このままいくと天然更新ができなくなり森が消えるかもしれないという大変な事態が進行しているのに、この日も報道関係者の取材はゼロ、傍聴者は2名のみでした。

 

報道関係者を含め、一般国民に、現在、最重要国家問題であるこの深刻な事態が全く伝わっていないと強く感じました。

 

【農業被害】もちろん、農業関係者は何年か前から、山から出て来た野生鳥獣に田畑を荒らされて、悲鳴を上げ続けています。しかし、大部分の県民は都市に住んでおり、このような実態をほとんど知っておりません。

○第一次産業のこと、○森のこと、○野生動物のこと、県民のみなさんにもっともっと関心を持っていただけるように、私たち市民団体も、広報にがんばらねばならないと思いました。

s-DSC_0005

神戸市教育会館501号室で開かれた協議会のもよう

 

<野生鳥獣被害対策>

毎回、協議会のたびに思うことですが、そもそも、ワイルドライフを人間がマネジメントする(=野生鳥獣対策に保護管理を導入する)と決めた1999年当時の環境庁の発想(=「鳥獣保護法改正案」)自体に無理があります。当時、熊森は国会で、「保護管理というけれど、こんなものを導入したら、保護の話にはならず、何頭殺そうかという駆除の話ばかりになるに決まっている」と、反論したことを覚えています。実際、全国で、クマ・サル・シカ・イノシシや彼らの生息環境を保護するために人々が協議しているという話は、全く聞きません。被害防除と駆除話ばかりです。

 

特定鳥獣に指定されたクマ・サル・シカ・イノシシは、大・中・小・極微、いろいろな他生物と、生態系の中で複雑に絡み合って生活しています。生態系の他の生き物たちを無視してこの4種の動物の生息数だけを、人間が操ってやろうとしても、そもそも、初めから不可能な話なのです。

そんな中で、この4種の動物に対する、兵庫県の平成25年度事業実施計画が発表され、協議されました。

 

兵庫大学の研究者の研究結果では、兵庫県のクマの自然増加率は昨年度20%で、この1年で100頭も増え、約600頭になったのだそうです。

クマの生息数 を推定するために用いたデータは、1、目撃数、2、捕獲数、3、再捕獲数、4、初捕獲数、5、新規標識放獣個体数、6、人為的死亡個体数、7、標識有の人 為的死亡個体数、8、ブナ科堅果類の豊凶指数だそうです。

<クマの推定生息数と保護管理方針>

400頭未満      狩猟禁止   可能な限り、殺処分しない

400頭~800頭   狩猟禁止 有害捕獲個体は、原則殺処分 ・・・ 兵庫県は、現在、この範囲だそうです。

800頭以上       狩猟再開 有害捕獲個体は、原則殺処分

 

<熊森の見解>

配布された資料が膨大であり、担当者の御苦労は大変なものだったと思います。ただ、配布資料が、推定生息数など、人間にわかりっこないものをあえて数字に表しており、あいまいな数字が独り歩きして、人々に誤った印象を与えてしまうのではないかと、心配します。

 

野生鳥獣など何頭いようが、彼らの勝手で、絶えず変化していくものであり、それが自然です。昔のように、人間が一歩下がり、野生鳥獣と人間との棲み分けが復元できたら、それでいいだけのことではないでしょうか。

 

今は、クマ対応方針が、推定生息数という数字だけで決められていますが、数字だけではなく、どこに住んでいるかという場所や何を食べて生きているのかなども、対応方針を決めるにあたって重要となるはずです。800頭いたとしても、山奥にいるのなら問題ないのでほっておけばいいし、200頭しかいなかったとしても、民家の裏に集結していたら、人身事故や農作物被害が絶えず起こり、クマも絶えず駆除されることになるので大問題となります。

 

 

 

 

 

 

 

3月10日 JBN主催シンポジウム ~紀伊半島・絶滅危惧個体群のツキノワグマの行く末を考える~(於:奈良教育大学)に参加して

前日のポカポカ陽気を思い、薄着で出かけたところ、この日は一転、冬に逆戻りかと思うほど寒くて震え上がる一日でした。

 

わたしたちは、紀伊半島のクマを守るため命を懸けられた、当協会顧問故東山省三先生のことを、忘れたことがありません。

熊森こそ、このようなシンポジウムを紀伊半島で持たねばならないのに、まだ力不足で、持てていません。JBNがこのようなシンポジウムを持ってくださったことに感謝します。

s-DSC_0003

 

紀伊半島のツキノワグマは完全な孤立個体群で、その推定生息数は残り約200頭とされ、種の保全には危機的な数です。胸が痛みます。

ツキノワグマたちをここまで追い込んだのは、紀伊半島の人工林です。(黄土色の部分が、人間によるスギ・ヒノキの人工林)

s-紀伊半島_0034

研究者の中には、純血を守ることよりも、種の存続に重きを置いて、今後、コリドー(=動物たちが移動できる回廊)を造って、京都や滋賀などの近隣府県のクマたちとの交流を可能にしようと提案される方もおられ、とても現実的な提案に、うれしくなりました。その研究者は、紀伊半島のクマを、四国に放すことも考えておられました。紀伊半島と四国のクマは、遺伝的には同種で似通っているということですから、残り十数頭と予測される四国のクマが消える前に、早く取り組むべきだと思いました。

 

現在、多くの研究者たちは、なぜか、遺伝子の攪乱を何よりも恐れておられ、地域個体群間の交雑を絶対に認めようとしません。しかし、以前、京都府で有害捕殺されたクマが、石川県のタグをつけていたことを思うと、もっと人間が少なかった頃、動物たちは今より自由に移動していたと思われます。長いコリドーを造ることは大変で、すぐには無理でしょうが、近隣府県で有害捕獲され、殺処分されるクマがいたら、紀伊半島のクマ生息地に運んで放してやれば、コリドー効果と同じ効果があります。

 

しかし、問題は、紀伊半島には、もはやクマたちが生き残れる自然環境がほとんど残されていないことです。生息環境を復元してやらねば、いくら他地域からクマを入れても、餓死するだけです。研究者によると、紀伊半島で餓死グマを3頭も発見したそうです。解剖すると、胃の中は空っぽだったそうです。こんなことは他地域ではありえないと言われていました。

 

和歌山県でこの前、人里に出て来て有害捕殺されたクマの場合、痩せてガリガリで餓死寸前だったのに、全くエサのない奥山に3回放獣して、また出て来たので3回目だからと殺処分したということでした。このような場合、保護して、春まで飼育し、元気にしてから放してやればいいのではという提案に対して、好意的な研究者もあれば、予算がないなどとと反論する研究者もありました。当協会は無料でやらせてもらいます。

 

自然林がほとんど残されていないという厳しい環境の紀伊半島で、下の照葉樹林と山の上の落葉広葉樹林をうまく使って生き延びているけなげな三重県のクマたちの撮影に成功された地元林業家の映像が上映されました。すばらしい映像でした。

s-DSC_0075

 

ただし、紀伊半島のクマは、スギのかわはぎを行うので、林業家から、害獣としての駆除要望がとても強いのです。

s-DSC_0097

この方のブログは、すばらしいので、ぜひ紀伊半島のクマに思いを寄せる方は、ご覧になってください。

 

(熊森から)

以前、紀伊半島の林業家のみなさんが多くおられる会で講演させていただいたとき、紀伊半島では、クマの捕殺が毎年ゼロですと話すと、みなさんが、「そんなはずはないだろう。うちもだけど、みんな獲ってるよ。クマは林業の敵だ」と教えてくれました。ただし、誰も行政には届けないと言われていました。行政のみなさんは、きちんと見回りをして、違法捕獲を厳しく取り締まっていただきたいです。

 

シンポジウムに出られた行政の方が、当県の林業を守るために、クマの被害を何とかしないとという話を強調されたため、奈良県の山の中を歩き回ったり、動物の棲める森を復元したりされている熊森会員が、会場から発言を求め、「林業が成り立っている所は守ってもらいたいが、当県では多くの人工林が放置されて、荒れ放題。林業なんかやっていない場所がほとんど。そういう所は、動物たちが棲めるように広葉樹林に戻してほしい」と、人々の胸に響くように、しっかりと落ち着いて訴えられました。すばらしかったです。

兵庫県森林動物研究センター主催シンポジウム <野生動物の保全と管理の最前線>拡大する被害にどう立ち向かうか」に参加して

2月16日、兵庫県立美術館で、今年も、7種(クマ・サル・シカ・イノシシ・アライグマ・ヌートリア・ハクビシン)の野生動物の保護管理(=ワイルドライフマネジメント)に携わる兵庫県立大学の先生方や森林動物研究センターの専門員(県庁職員)のみなさんによるシンポジウムがありました。

みなさん、大きな声で、しっかりと発表されており、立派だと思いました。

また、今年は、動画が多用され、よりわかりやすく臨場感のあるものとなっていました。

さらに、少しだけではありましたが、戦後の開発や拡大造林政策が野生動物たちに及ぼした負の影響や、シカによる下層植生の消失問題なども取り上げられ、内容が年々レベルアップしていると感じました。

 

わたしたちが特に興味深かった発表について、まとめてみました。

 

「野生動物はなぜ出没するようになったのか 」

    藤木大介氏(兵庫県立大学)

野生動物たちが人里に出て来る大きな要因は、①個体数増加、②分布の拡大、③里山環境の変化、④行動の変化なのだそうです。(熊森が発表するなら、①奥山環境の変化としたと思います。)

 

60年間の植生変化

我 が国の国土の植生記録で最も古いのは、戦後のアメリカ軍(進駐軍)の空撮なのだそうです。そのため、1950年より古い資料はありません。写真を見なが ら、植生に合わせて地図上に色塗りをしていくのだそうですが、本当に緻密で根気のいる作業だったと思います。兵庫県では、広大に存在していたアカマツ林 (赤色)が、60年後の今、ほとんどがコナラ林(落葉広葉樹・黄色)に遷移したのだそうです。

(熊森からの注:クマの食料は、春夏秋と刻々と変化していきます。それらの全てが揃っているかどうかは、コナラ林であっても、内部を調べないとわかりません。「コナラ林クマが生息できる森」なのです。)

ちなみに、以下の植生図中、青色は草地や荒れ地で、黒色は針葉樹の人工林で す。

兵庫県の植生変化1950-2010

 

この60年間の森林の変化のうち、野生動物の生息環境としてマイナスに働いたのは、下の左地図で、針葉樹の人工林の増加(黒色)と、開発による森林消滅(赤色)だそうです。また、プラスに働いたのは、下の右地図で、アカマツ林のコナラ化(緑色)と、草地や荒れ地が森林になったり(青色)、植林されたり(黒色)したことなのだそうです。

s-植生変化と動物への+-

兵庫県のシカは、拡大造林が盛んだった1970年(昭和45年)代は県内1000頭以下で、絶滅が心配されるほど減っていたのだそうです。それが、現在14万頭ぐらいに激増しているのだそうです。

クマは、1970年代は、氷ノ山・扇ノ山山系のごく狭い範囲に数頭程度、床尾山系に数頭程度で、絶滅寸前だったと推測されるそうです。1992年ごろのクマは数十頭で、絶滅が危惧されていたのが、現在は、数百頭に激増しているのだそうです。

 

以下は、長野県が推定した、長野県内シカ生息推定数の変化だそうです。

s-長野県のシカ生息数の変化

 

(熊森より1)うーん。藤木氏の主張はわかったけれど、実際はどうだったのか。私たちも刺激されて、いろいろな方法で調べて、熊森説を打ち出していけるようになりたいと思いました。

以下、参考資料のひとつ。昭和28年から平成24年までの兵庫県ツキノワグマ捕殺数の推移です。青色が狩猟数、赤色が有害捕殺数を示しています。

平成になるまでは、クマたちは山奥にいて、奥地の人たちとうまく共存していたことが、下のグラフからも、これまで熊森が聞き取りをしてきた地元の高齢者のみなさんの証言からもわかります。兵庫では、クマ狩猟数も毎年ごくわずかで、クマに狩猟圧がかかっていたとは思えません。

山がコナラ林に遷移して、コナラが実をつけ出したのは、何十年も前からで、わたしたちが活動を開始した1992年頃には、すでに、里山のコナラ林は放置され、巨木になっていました。しかし、クマたち山の動物たちが大量に人里に出て来たのは、2004年2006年2010年です。このずれは、どう説明できるのか。自然界のことは、本当にわらないことだらけなのです。できるものなら、森の動物たちに、一体最近山に何があったのか、インタビューしたい気持ちに、しばしば襲われます。

 

(熊森より2)もう一つ興味深かったのは、最後に森林動物研究センターの林良博所長が、野生動物への餌やりについて話されたことです。所長によると、世界中どこへ行っても、人間という動物は、何人であっても、野生動物を見たら餌をやろうとする傾向があるのだそうです。所長は、もっと人間は理知的になって、餌やりを止めよと訴えられていました。他人や他生物を見たら、何か食べ物をあげたいと思うのは、人間の共生本能なのでしょう。

 

 

2月12日 同じ兵庫の山、同じ兵庫のクマを見ているのに、どうしてここまで出した結論が正反対なのか   ―― 日本熊森協会と兵庫県森林動物研究センターとの第1回意見交換会 ――

都道府県の野生動物問題について、電話でたずねたり何かをお願いしたりしようと思ったら、たいてい、そこの都道府県庁に電話をして、担当部署につないでもらいます。クマを駆除したり、奥山に放獣しなければならないなどの実際的な業務が生じたら、行政から委託されたハンターや委託業者が現地に飛んでいきます。兵庫県も、以前はそうでした。

 

し かし、兵庫県では、2007年から、県庁から遠く離れた旧青垣町(人工林率81%)に建設された、兵庫県立「兵庫県森林動物研究センター」が、その業務を担 当することになりました。「兵庫県森林動物研究センター」では、研究員として兵庫県立大学の先生たち数名が研究にあたられ、現地に飛び出していく専門員としては訓練を受けた兵庫県庁職員数名があたられて、オール公務員で、兵庫県の野生動物問題に対処するという新体制ができあがったのです。

s-DSC_0004

ところが、困った問題が生じてきました。当協会も、、徹底した現場第一主義で山を歩き回って調べつづけているすばらしい何名かの研究者に指導していただきながら、自然保護活動を進めてきたのですが、同じ兵庫の山、同じ兵庫のクマを見ているのに、出した結論が、熊森とセンターでは、ことごとく正反対なのです。これは、いったいどういうことなのか。

 

2 月12日は、「兵庫県森林動物研究センター」の相談日だったようですが、ご無理をお願いして、研究員の先生方や専門員の方に午後の3時間をとって、一体なぜこんな違いが生じるのか、当協会側の研究者にも同席していただいて、初めての意見交換会を持っていただきました。

0006

私たちも、正直に誠実いっぱいに、これまで生きてきた人間です。お互い、自然観や動物観の違いはあるでしょうが、じっくり話し合えば、誤解がとけたり、なにか少しは接点が見つかったりするのではないかと期待して意見交換会にのぞみました。

 

中心話題

(1)クマが山から出てくるようになったわけ

(センター)クマの生息数増加、生息地拡大、人慣れ、味しめ、人間による里山の放置、ハンターの減少 ⇔ (熊森)山の食料不足

 

(2)兵庫県のクマ数の増減

(センター)大幅増、そのうち狩猟再開も視野に ⇔ (熊森) クマの生息を示す痕跡がどんどんと減ってきており、絶滅に向かう恐れ。多くいるように見えるが、山の奥にはいないドーナツ化現象。

 

(3)兵庫の森の状況

(センター)ますます良好に ⇔ (熊森)どんどんと劣化が進む

 

意見交換会の結果

意見交換会を持てて、とてもよかったと思います。私たちがわかったことは、「同じ兵庫の山、同じ兵庫のクマを見ているのに、この違いは何なのか」という長年の疑問に対して、「お互いが、違うエリアの山、違うエリアのクマを見ている」ということです。

 

私たちは、自然保護団体として、主に、本来のクマ生息地であったブナ・ミズナラの山々を見続けてきました。戦後の観光開発や広大な原生林を伐採してのスギの人工林化によって、動物たちは棲みかを失っただけではなく、わずかに残された原生林も、なぜか、近年どんどんと急速に劣化していっており、クマたちが棲めなくなっていっています。クマたちが食料を求めて、山から出て行くと、原則殺処分の有害捕殺が待っています。

 

ところが、センター側は行政ですから、主に、地元住民から獣害を何とかしてほしいと訴えのあった集落周辺の山やクマを見ています。

 

立場が違うということは、こんなに見えているものが違うのかということが、よくわ かりました。

 

お互いに相手の顔を見てじっくり話し合うということは、人間にとって欠かすことのできない大切なことだと改めて思いました。意見交換し合ったことを、これから、熊森内部でじっくり検討していこうと思います。

 

お忙しい中、お時間を取ってくださったセンターのみなさんに、心よりお礼申し上げます。

クマ保護管理計画に関するパブリックコメントの結果  A県&B県

A県・・・「クマの有害駆除の許可権限を、現在の県から市町村に降ろす」という案について

応募されたパブリックコメントは、県内から13人、県外から36人、応募意見は100%が、反対意見だった。

 

→しかし、その結果県が作った<第2期ツキノワグマ保護管理計画案>は、

原案通りのままであった。パブリックコメントというのは、県が県民に参考に意見を聞いてみただけで、応募意見の全部が反対であっても、原案を変える必要はないということです。

 

 

B県・・・ 当協会が特に問題とした2点は、以下です。

①春グマ狩りを復活させる。

②現在、4月1日から、その年度のクマ捕獲数のカウントを開始しているが、猟期が始まる11月15日からに変更して、毎年、狩猟が確実に実施できるようにする。狩猟で獲り過ぎた年は、有害捕殺数の方を押さえる。

応募されたパブリックコメント県内17人、県外392人、応募意見の約3分の2は、原案に反対意見だった。

 

→ しかし、その結果、県が作った<第3次ツキノワグマ保護管理計画案>は、①②とも、原案通りのままであった。

 

県としては、県外からの意見も一応、全部読むことは読んだが、参考にしようと思ったのは、県内在住者の意見ですということです。

担当者としては、パブリックコメントをとったのは、参考にしたい意見があればと思ったのであって、原案に反対する人が多くても、原案通り進めて問題ないという考えだそうです。

 

<熊森から>

ただ単に、日本におけるパブリックコメントの実態を、国民のみなさんに知っておいていただこうと思って書きました。

 

1月24日 本部職員・東京都会員・山梨県支部長ら、クマ保護と森復元を訴えて、東京多摩地区行政を訪問

無念にも殺された1頭の子グマが、1月24日~25日、本部職員、東京都会員、山梨県支部長を動かしました。

 

新年早々、熊森本部は、昨年12月25日のクリスマスの日に、東京都あきる野市でツキノワグマの子ども1頭が罠にかけられ捕殺された事件を重く見て、現地調査&役場への「クマ保護と森復元」の申し入れに出向くことを決定しました。

 

こ の母子グマが、民家のキウイを食べたりごみ箱をあさったりしたのは本当ですが、冬ごもり期をむかえて、食い込みができていなかったためです。新聞報道によ ると体長60センチで10キロしかなかったそうです。(痩せてガリガリ)こういう場合、殺すのではなく、傷病鳥獣扱いで、保護対象にできなかったのでしょうか。まして、東 京都のツキノワグマは、絶滅危惧種であり、絶対に守らねばならない対象のはずです。

 

あとわずかとはいえ、<首都に、野生のクマが棲んでいる>のは、日本国民の誇りです。平成24年度は、前代未聞、東京都では、4頭ものクマを有害捕殺しています。東京都のクマの灯を消すな!わたしたちは、今後のことも考えて、東京都の多摩地区に残されたクマの保護に、全力を挙げて取り組まねばならないと思いました。

 

関東でクマの奥山放獣に取り組んでいる方に、相談してみました。

「母子ぐまに罠をかけて、子グマだけが掛かった場合は、→その場でただちに放すのがこの世界の鉄則で す。近くに絶対に母グマがいますからね。母グマにとって何がショックと言って、子グマが罠にかかるほどショックなことはない。ここは怖い所だというので、 動ける力があるなら、子グマを連れてどこかへ消えるはずです。母子グマがそろって掛かった場合は、奥地放獣です。東京都に放獣体制がないなら、次回から、うちが放 獣してあげますよ」(熊森が放獣費用を全額負担することは可能です)

 

うーん。今回のあきる野市の事件でも、この子グマが殺されて以来、残された母子グマの目撃が、ぷっつりと途絶えています。餓死したのかもしれませんが。

 

絶滅危惧種を守るために、人間側がすべきだったこと。

①短期的

・捕獲された子グマは、ただちに放す。

・母子グマを人里離れた所に誘導し、ドングリなどをたっぷり与えて元気にして、冬ごもりに入れるようにする。それが難しい場合は、母子グマを捕獲して保護施設に収容し、ドングリなどをたっぷり与えて春になったら奥山放獣。熊森が、ただちに大量のドングリを無料で現地に届けることは可能です。

②中期的

・行政担当者や都民への提案や啓蒙

③長期的

・奥山人工林の強度間伐などによる、自然林の生息地復元

 

 

→多摩環境事務所(都庁の出張所)

s-IMG_2360

 

→あきる野市役所 ・人工林率82%

s-IMG_2368

 

→現場視察・聞き取り キウイ畑(あきる野市)

s-IMG_2398

 

→青梅市役所・人工林率73%

s-IMG_2431

 

→奥多摩町役場 人工林率47%

s-IMG_2436

 

→立川市役所での記者会見

 

(結論) 食い込みが出来ずに、冬ごもりに入れず、痩せてガリガリになって人間の前に出て来たクマの保護に備えて、クマ保護施設の建設が必要。

●世話やエサやりは、熊森がボランティアで請け負うこと可能。

 

この子グマは、住民の安全を脅かす危険が高いという理由で捕殺されました。しかし、10キロの子グマに、何の危険性もありません。

今後、現地の方々にクマや森に対する理解を深めていただくために、シンポジウムを開催したり、山の見学会を催したりしていく必要を感じました。

 

 

フィード

Return to page top