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森の劣化によるクマ個体群の衰退 ー捕殺より 森の生産力の回復をー 金井塚務氏に聞く

メディアは「クマが出て騒動になっている」という事象しか伝えません。今森の中で何が起こっていて、今後どうしていかなければならないのか。宮島や西中国山地で野生生物の研究を進める環境NGO広島フィールドミュージアム代表 金井塚務氏にお話しいただきました。

金井塚先生にズームでインタビュー

生息地を移す「ドーナツ化」
広島県では1975年に初めてクマの有害鳥獣駆除の事例がでて、それ以降年々有害鳥獣駆除が増えています。西中国山地ではクマが絶滅の恐れがあるという指定を環境省より受けています。1994年に狩猟禁止の措置がとられたが、そこから急に有害鳥獣駆除が増えました。2000年以降は隔年ごとに大量出没が見られ、広島県では2002年、2004年と大量捕殺されました。隔年で出てくる傾向が3回くらい続いた後、それが3年、5年と間遠になってきて、それもクマが集落にそれほど多く出てこなくなっています。個体群が縮んできているという恐れがあります。

1994年度以降狩猟による呼格禁止措置がとられるが、有害鳥獣による捕獲数が激増している。1975年以降に有害鳥獣による捕獲が顕著に増えていることに注意。

西中国山地では、5年毎に再捕獲調査という形で個体群推定の調査をしています。信頼度としては疑わしく絶対数が推定できるわけではありませんが、繰り返して調査をすると、一定の傾向は見て取れます。中核地域の生息数に一定の係数を掛けて、ランク分けされ地域の面積を掛けて、全体の頭数を推定します。ところが目撃された外周を生息域と呼んでいるので、生息域というのは年々広がっています。面積が広がると、広がった分だけ数が増え、過大に見積もってしまう可能性があります。しかし、中核地域、本来の生息域では、生息密度が低下している可能性が高い。例えば細見谷地域でビデオカメラを設置して調査を続けていますが、クマの痕跡やビデオカメラに写る頻度が年々低下しています。クマが本来の生息地で生活しきれなくなり、生息場所を移す「ドーナツ化」が起こっている可能性があります。「生息域が広がる」というのは、クマの数が増え人口爆発が起こって広がっているのではなくて、クマが生産力の落ちた奥山から分散して人間の生産物に依存する生活に適応しながら、里へ広がってきているということなんです。

細見谷渓畔林。群を抜く生物多様性と西中国山地の原生的自然を保持し、絶滅の恐れのあるツキノワグマ個体群の中核的生息地ではあるが、近年ここですらクマの痕跡の低下がみられる。

 

深刻な森の劣化
一方で森はというと、1960年代に広葉樹林帯を大面積皆伐し、そこにスギ・ヒノキの造林地を増やしていきました。川にはダムがどんどんできて、支流には砂防ダムができて、「森の生産物が川を伝って海へ流れて、干潟を養ってまた戻ってくる」という循環が切られていきました。川を遡上してくるサケ科の魚などが森に帰っていけなくなる。私たちは調査をして、クマはサケ科の魚、渓流魚を冬眠前の秋にかなり集中的に食べていたのではないかと考えています。それが断ち切られてしまったのが、1970年前後。サケ科の魚が豊かな地域の人に聞くと、「今でもクマは魚を捕っているよ」と。環境があれば食べるんです。そういう環境が失われてしまったことが問題なんです。魚は毎年上がってくるので、安定的に捕れ、栄養価が非常に高い上に消化率も高い。ドングリが重要でないとは言わないが、栄養的にも消化の面でも動物質に比べてあまり優秀ではありません。さらに、クマは春から夏にかけてのハチ、アリ、アブを食べ、昆虫など動物質のものに頼ります。今山では、集中豪雨などで表土層が流され、そうした昆虫類が減少してしまってあまりいません。そのことがクマをはじめとする野生動物にかなり深刻な状況を生んでいます。

サケ科魚類のゴギ(左)とアマゴ(右) サケ科の渓流魚は水温上昇に弱い。人工林化による保水力の低下や渓畔林の衰退は、水温上昇をもたらす要因となる。

西中国山地の裾野はずっとクリ林が広がっていました。1950~1960年代、戦後復興の枕木としてどんどん切り出され、クリがなくなる。さらにはクリタマバチでクリがやられる。ミズナラ、コナラくらいしかなくなって、ごくごく限られたものに頼らざるを得なくなったクマたちが、高密度に生活できるわけがない。一方で人は二次林の利用をやめて、都会へ出て行き、過疎化していきます。残るのは利用されない二次林。そこにコナラ、クリが残る。そこがクマや野生動物の利用の場になるのは当たり前のことです。森は冷温帯落葉林が外観としてはあるが、その内容はかなり劣化していて、大型野生動物を養うだけの生産力がなくなっている、それが原因なんです。クマが増えているというが、集落周辺が増えているだけで、奥山には全く増えている傾向はありません。

 

対処療法ではなく、根本解決を
【熊森】現象だけ見ていると「激増」となって、有害捕獲を前提として生息推定数を出して、大量に捕殺しています。それを繰り返してしまうと、新潟、石川のような生息数が安定していただろうという地域においてすら、絶滅の危険が出てくるのではないでしょうか。
なります。むしろその方が危険。実際にはドーナツ化が起こっているのに、事故を起こす率が高まって、それを全部除去してしまうと、個体群が衰退してしまいます。歴史的に森林の状況や河川の状況を見て、生物層がどれだけ劣化しているのかを考えると、増える要素がない。東北にしても中部山岳地帯にしても森林の生産力、樹木だけでなくて川の生産力が劣化しています。これは自然の問題というよりは人間の社会政策の失敗です。

ツキノワグマ分布の経年変化。「生息地の拡大」と言われるが、実際には「ドーナツ化」

里に出たクマは何度でも奥へ持って行って放獣するということを繰り返す必要があります。行政は「住民の反対がある」と放獣をしようとしないが、こういう危機的な状況だからと対策をとらねばならなりません。
環境省はガイドを出し800頭を超えたら、超えた分は捕殺してよいと言っているが、その根拠はありません。有害鳥獣駆除をベースにした個体数推定をすると簡単に800頭を超えてしまいます。それは捕殺するための数字であって、本来の個体群維持になっていません。目撃数や、有害鳥獣の捕獲数をベースにして調査をする個体数推定数というのは無理がある。もっと条件を厳しく吟味しなければなりません。環境省にしても林野庁にしてもシカやイノシシの個体数が増える政策ばかりしています。うっそうとした森林にしていけばそんなにシカやカモシカは増えません。だいたいクマが増えるとシカの個体数を抑えることができます。林道を通したり、斜面を切って風力発電やメガソーラーを設置すると森林を傷つける、それでイノシシやシカが爆発的に増えて被害が出る。解決策としてジビエなどが出てくる。そんなマッチポンプ的な政策ではなくて、本来の森林の生産力を復活させる予算を組むべきです。

【熊森】捕殺抑制をしながら、生息地を回復すべきと自然保護団体としては訴えていて、クマの研究をしている人こそ言ってほしいのですが。
大学に籍を置くと、政策に反するようなことはなかなか言えない。例えば県立だと県の方針を下支えする役割を負わされたりするので、そういう立場でしかものを言えないのではないでしょうか。

 

森林・河川の生産力の復活
【熊森】私たちも奥山の生産力を高める活動はしていますが、森林の劣化の方が勢いが強く、転換をしていくことは容易ではありません。その間、絶滅に至る地域が出てきてしまいます。奥山の回復をしながら、どのように中山間地域の人は、そして私たち自然保護団体はクマと付き合っていけばいいでしょうか。
今はある意味で「耐える時期」です。奥山の生産力を回復するには時間がかかります。人間の生産物でクマの命をつなぐのは最低限にしておかないと、野生本来のところでの生活が難しくなるので、兼ね合いは難しいですが、10~20年は人間がエサを媒介して接触しないようにしつつ、なんとか奥へ戻ってもらう。戻ってもらう先も、例えば河川上流の一定の地域での釣りを禁止にして、あまり勧められたことではないが養殖的な工夫をなどしてそこにいた在来魚を増やす努力をする、沢沿いの森を優先的に復活させるといったことを続けていれば20~30年でかなり回復すると思います。しかし、行政は手を打つことをなかなかしません。西中国山地の保護計画のなかでも「クマが生活できる自然を回復させる」という項目を入れたが、予算措置がとられていません。本来はそこに予算を投下して、生息地の環境を整備視することを通じて事故防止のための予算執行へと変えていく努力をしないといけません。今林野庁が目指している皆伐政策は間違いです。間伐でも複層林化を目指す間伐で、まず沢筋を復活させれば、部分的でも復活の兆しが見えていくだろうと思います。

自動撮影カメラ(左)と沢を利用するクマ(右) かつては川面が盛り上がるほど渓流魚がいたという。川の生産力が衰退しており、沢沿いの森を復活させるのは急務。

 

【熊森】使っていない林道は閉じたらいいのではないか。森を回復させる提案としてはあり得るのかなと思うのですが。
あり得ます。林道を潰すと森が復活する。それと同時にいらない砂防ダムを撤去すべきです。ほとんど土石流は皆伐後の人工林や林道の路肩から起こっている。林道の開発と皆伐が原因です。それを止めれば砂防ダムも撤去できる。物質循環の「血管」の役割をしている河川を復活させる努力をしないといけません。それが日本全体の生産力を高めることにもなります。河川の三面張り護岸工事で伏流水が遮断されたりしているが、流水が海を養うということ、自然があらゆる面で我々の生活維持のベースになっているということを政治や社会政策に携わる人が持たなければなりません。また、森林についても、今までは材としてしか見なかったが、森林の持つ生産力が我々の暮らしにどういう意味を持っているか、評価に入れなければなりません

 

人身事故を防ぐには
基本的にはクマがパニックに陥らないように心掛ける。住宅街などクマにとってあまり馴染みのないところだと、どうしても緊張状態になるので、そうしたところでは事故が起こりがちです。不安でいる動物の前に突然人が出てきたりするとパニックになってしまいます。そこで正面突破を図るクマに小突かれたり噛まれたりして事故が起こります。逆に人里離れたところでは、人もクマもある程度慣れているので、穏やかな接触で、避けることができます。要するに人も動物も「落ち着いた出会い」をすれば、まず事故は起こりません。犬をけしかけるとか、大騒ぎするとか、クラクションをならすとか、追い立てる、追い詰めるというのは効果としてはマイナス。茂みのなかで近距離でばったり出くわす、子グマが好奇心でなんだろうと人間に寄ってくるといった避けようがない事故はいくつかありますが、避けることができるのは、ばったり出くわすことを止める、緊張を強いるような行動を避けるということです。例えば夕方散歩をするときも一人では行かず、複数で話しながら行くと、相手にも気付いてもらえます。
クマも不安になると暗いところや狭いところに逃げ込もうとする、それが家の中だったりします。そしてわーっと追い立てるとますますパニックになって大暴れする。それをしばらく放っておくと、クマもあきらめて寝てしまったり、ゆっくり休んだりするので、それから処置すればそんなにひどいことにはならないわけで、もう少し寛容になる必要があります。それからメディアの責任は大きいと思います。追いかけ回して、大したことはなくても、リポーターも大声を上げてわめきながらリポートしている。

 

寛容さの必要性
【熊森】この山の状況だと、オニグルミやクリとか食べているのであればそっと見守って山に戻るのを待つくらいの寛容さが必要ではないでしょうか。
食べたら帰るんです。帰れる状況を作ってやるのが重要です。それから集落周辺の柿もぎをやっているのもあるが、これもケースバイケースだと思うのは、柿を目当てにやってきたクマがそこに柿がないとなるとさらに里に来てしまう。飢えているということには変わりないので、さらにエスカレートしていきます。だから一番は出てこないようにするのが大事だが、それができなければ、当面柿の数を減らしつつ、ある程度はそこで柿を食べてしまってもいいくらいの余裕はあっていいと思います。それと家には入られない工夫は必要です。
【熊森】うちの会はこういった山の状況なのでカキを食べに来るのは許してほしい。ただそうは言っても人身事故が起こる可能性があるところには、カキをもいでクマの通り道におくということをしている。
何でもクマにエサをやればいいという発想ではいけないが、緊急避難的にはそれも必要だろうと思います。ただ出口戦略をよく考えて対応しないといけません。
【熊森】あくまでも奥山の回復をする間の、絶滅回避の緊急対策として、検証しながらしています。

 

熊森と行政担当者でカキもぎを行いました【兵庫県豊岡市】

約150㎏ほどのカキの実を回収。豊岡市の職員と熊森本部を入れて総員7名で作業を行いました。

 

大量の捕獲罠を常設している兵庫県

兵庫県でも、今年は山の実りが昨年に増して悪く、「大凶作」と言える年でした。しかし、クマの目撃数や捕殺数は昨年よりはるかに少なかったです。兵庫県は、平成29年の途中からクマの捕殺を強化し、推定生息数800頭前後と推計されるクマに対し、2000を超える罠を常設し、かかったクマは0歳や1歳の子グマであっても原則殺処分の体制をとっており、過去3年でクマの210頭を超えるクマを捕殺しています。捕り過ぎて数を減らしてしまっていることを心配しています。

 

11月になり、兵庫県でもクマが里へ下りだした

しかし、さすがに11月には、兵庫県でも、冬眠前のクマが里へ出てきたという目撃情報が増えだしました。

クマの捕殺が繰り返されている自治体へは、熊森としては何度も「捕殺ではなく共存・棲み分けを!」と訴えに行き、捕殺が必要なほどクマの被害が深刻な場合はぜひ、熊森本部が被害対策をしますので呼んでくださいと、お願いしてきました。

 

地元行政から応援要請を受け、現場へ急行。カキもぎを実施

11月17日、兵庫県のクマ生息地である豊岡市で「クマが柿の木に来ている場所がある。クマが来ないように柿をもぐのを手伝ってほしい」と、市の担当者から熊森本部へ連絡がありました。このように、行政の方から応援要請をいただけるのは、大変うれしいことです。

 

早速、熊森本部は、翌日18日、スタッフ2名、ボランティア4名で現場へ急行しました。

 

現地へ着くと、実が付いた柿木がおよそ8本目につきました。現場は駐車場裏手の山裾になります。すでに地元の方が何人かで取りやすい部分の実は取り終えられたようで、残っている実は道具がないと取れない高い部分にありました。

早速かきもぎを開始です。この日は天候にも恵まれ、温かい一日でしたが、高い木の上の柿をもぐのは一苦労です。それぞれのスタッフが、役割分担をしながら安全かつ効率よく作業を進めていきます。

林業用のはしごに登りながら高枝バサミで柿の実をもぐスタッフと、下ではしごを支えるスタッフ。木から実が落ちてくることもあり、ヘルメットを着用は必須。

竹の先に切り込みを入れて、枝ごと実をとるスタッフ。昔ながらの柿の実の収穫方法。

 

落ちたカキが潰れて、周囲を汚さないようにブルーシートで保護をしてから作業を進める。

 

現場には、クマが柿を食べたフンが数か所に落ちていました。まだ新しいものです。クマが柿を食べたフンは、柿をペースト状に混ぜたようなきれいなオレンジ色をしています。しかし、時間がたつと、フンの中の柿の成分が酸化して黒くなっていきます。他にも、クマの爪痕が新旧幾つかがありました。

新しいカキの糞 2020年11月18日

 

時間がたつと黒くなる、クマが柿を食べたフン 2020年11月20日 クマが来て約3-4日後

クマの新しい爪痕(赤枠内、今年)。新しい爪痕は、傷跡が白い。

古いクマの爪痕(赤枠内、昨年以前)。古い爪痕は、傷跡が黒くなる。以前もクマが来ていたことがわかる。

 

カキもぎをした木は大きく、木々の間にはササの繁みもありなかなか大変な作業で、応援要請があった理由がわかりました。豊岡市からも職員の方が1名応援に駆けつけてくださり、手伝っていただきました。

 

人身事故防止のため、草刈りもお手伝い

カキをもいだだけでは、人身事故防止対策としては不十分です。クマの人身事故が起きる原因は、見通しの悪い場所で、お互いに相手に気がつかないうちに、人とクマがばったり遭遇してしまうことです。集落に草が茂り、見通しが悪くなっている場所があったので、草刈りを行い、20m先まで見通せるように環境整備をしました。

草刈り前(駐車場側から撮影、2020年11月20日)

草刈り後(同地点 2020年11月20日)

地元の方々にも大変喜んでくださり、私たち作業スタッフ一人ずつに、差し入れをしてくださいました。地域の皆さんも心優しい方で、嬉しくなりました。

豊岡市のシンボル「コウノトリ」をモチーフにした、夢クッキー。コウノトリのような白黒の模様がなされたクッキーで、味もおいしかったです。

このような機会を下さった豊岡市と、地元の皆さんに感謝申し上げます。豊岡市からは、今も、別の場所でクマ被害対策としてカキもぎの要請を頂いております。

 

【クマ出没でお困りの自治体はぜひご連絡ください】

~ボランティアも募集中です~

日本熊森協会は、クマとの共存のために、人身事故を防ぎたいと強く願っており、人身事故防止やクマを寄せ付けない環境づくりの支援に積極的に取り組んでいます。

冬場はクマの活動は弱まりますが、クマが集落近くに来て困っているけれど、どう対策をしたらいいかわからない、手が回らないという方は、自治体でも、個人の方でも、ぜひ熊森本部にお問い合わせください。

 

熊森のクマ被害対策活動に、一緒に活動してくれるボランティアの仲間も募集しています。

一般財団法人  日本熊森協会

TEL:0798-22-4190

mail:contact@kumamori.org

 

熊森から

今秋も熊森本部は日々非常に目まぐるしく、11月に掲載予定の上記ブログが遅くなってしまいました。

ボランティアとして熊森活動を手伝ってくださる方、職員として人生をかけて熊森活動に取り組んでくださる職員、熊森は本気で自然を守りたいと願う多くの活動家を求めています。

 

 

 

 

[速報] クマ捕獲規制と共存対策を求める 26,798筆の全国署名と要望書を環境大臣、農林水産大臣宛に提出!!

絶滅回避と人身事故防止のために、緊急対策を要請しました

左から、宮崎勝環境大臣政務官、室谷会長、片山大介顧問

11月27日、環境省にて、宮崎勝環境大臣政務官(参議院銀)に、熊野正士農水大臣政務官に、全国から集まった26,798筆の署名とクマの絶滅回避と人身事故防止のための緊急対策を求める要望書を提出しました!

コロナ禍の中、人と会うことが制限される中で、本当にたくさんの人が、1頭でも捕殺されないように、クマと共存し、クマの棲める水源の豊かな森が日本にも残るようにと必死で集めてくださいました。署名提出には、赤松正雄顧問(元衆議院議員)、片山大介顧問(参議院議員)その他、たくさんの方にご尽力いただきました。

思いのつまった署名を、室谷悠子会長、片山大介顧問、クマ保全担当の水見職員、川崎東京支部長らと届けてきました。

 

捕殺より、えさ場の確保、人身事故防止、生息地復元が急務

熊野正士農林水産政務官を囲んで(右から川崎東京支部長、室谷会長、伊藤会員、熊野政務官、水見クマ保全担当職員、菅原職員)。

 

近年、食料を求めてクマが里に大量に出没し、誘引物を入れた罠に誘引され、大量に捕殺されています。昨年度のクマ捕殺数は過去最多6000頭を超えました。

私たちは24年間奥山を歩き、調査し続けてきました。クマが、人里に出てきたのは、クマが増えたからでも、人を恐れなくなったからでもなく、クマの本来の生息地である、奥山水源域の自然林が、クマを養えないまでに劣化したことが原因です。

拡大造林政策により広大な奥山自然林が失われ、ダム建設によって俎上するサケ科の魚を失い、地球温暖化によって昆虫が消え、液果は実を結ばず、酸性雨によってドングリ類を枯死させるナラ枯れが全国的に大発生、山にクマの食料が皆無という危機的な状況となり、大量出没が起こっています。

今年の全国のクマ捕殺数は、9月末現在で4000頭を超えており、このままいけば昨年を上回る捕殺数となることが予測されます。

クマをこのまま捕殺し続けると、クマは絶滅し、生態系保全上からも人道上からも問題です。豊かな水源の森の造り手を失えば、人間も近い将来水不足で苦しむようになります。

環境大臣への要望事項 ※要望書はこちら

【クマとの共存のための緊急要請】

 全国の自治体が捕殺を抑制しながら、人身事故回避・共存対策を実践できるように、今年度改訂予定の「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ類編)」においても、以下の対策を反映させてください。

1 山の実りがない年は、緊急対策として、里のどんぐり、オニグルミ、カキ・クリなどをクマに分けてやってください。人身事故の危険がある場合は、実をもいで山へ運ぶことを実践できるようにしてください
栄養補給ができればクマは山に戻って冬眠します。山の実りの凶作年は、人里周辺の木の実を食べに来たクマには近づかないでそっと見守る。民家が近く、人との接触の恐れがある場合は、実をもいで、山へ運ぶことを、緊急対策として、推進してください。

2 人身事故が起きないようにするためにも、できる限りの捕殺抑制を
ただ出没しただけで、子グマや親子グマまで大勢の人たちで追いかけまわして捕殺しており、クマは恐怖のあまりパニックに陥り、かえって人身事故を誘発します。クマ出没時に人が至近距離に近づかない工夫をすることで事故は防げます。過剰捕 獲は地域的な絶滅を招く恐れがあり、捕殺をできる限り抑制することが必要です。
捕殺を抑制できるように全国的な放獣・一時保護体制の整備をしてください。また、シカ用・イノシシ用罠での錯誤捕獲の放獣を徹底してください。

3 クマが里に出てくるのを押さえるために、山裾にクリなどを植え、クマ止め林を造る必要があります
奥山の自然林劣化の回復には時間がかかり、今後も奥山のエサ不足の頻繁な発生が予測されます。クマが人里に出て来ないように、集落から離れた里山にえさ場を作っていくべきです。全国の自治体で実践できるよう事例の紹介や補助事業の創設をしてください。

4 潜み場除去のための草刈りや誘因物除去など人身事故防止対策の徹底を
人とクマの至近距離での突発的な遭遇が人身事故の原因です。過疎と高齢化により、これまでできていたクマを寄せつけない集落づくりができない地域が多くあり、公的支援が必要です。今後は、捕獲ではなく、被害防止と棲み分け対策に力を入れるべきです。

5 根本対策として、奥山の生息地の復元を
奥山にクマの生息環境があれば、クマと人は以前のように棲み分けて共存することができます。時間はかかりますが、根本対策である放置人工林の広葉樹林化や奥山自然林の劣化を止めるための土壌改良など、さまざまな対策が急務です。

農林水産大臣への要望事項 ※要望書はこちら

【クマの人身事故防止と棲み分け対策のための要望】

鳥獣被害対策予算、森林整備関連予算、森林環境譲与税などを活用し、クマの生息環境整備と人身事故防止及び棲み分け実現のため、以下の対策を実現ください。

1  人が気をつけることで人身事故は防げます。潜み場除去のための草刈りや誘因物除去など人身事故防止対策を鳥獣被害対策予算で実現させてください
人とクマの至近距離での突発的な遭遇が人身事故の原因です。過疎と高齢化により、これまでできていたクマを寄せつけない集落づくりができない地域が多くあり、公的支援が不可欠です。捕殺のための事業メニューはたくさんありますが、一番必要な被害防除のための予算を充実させ、利用しやすいものにすることが急務です。

2  里のどんぐり、オニグルミ、カキ・クリなどをクマに分けてやってください。人身事故の危険がある場合は、実をもいで山へ運んでやってください
栄養補給ができればクマは山に戻って冬眠します。緊急事態として人里周辺の木の実を食べに来たクマには近づかないでそっと見守ってください。木の実と民家が近く、人との接触の可能性がある場合は、実をもいで、山へ運ぶことも鳥獣被害対策予算で実現できるようにしてください。

3  根本対策として、生息地・奥山の広葉樹林の復元を至急進めてください
奥山にクマの生息環境があれば、クマと人は以前のように棲み分けて共存することができます。時間はかかりますが、根本対策である放置人工林の広葉樹林化や奥山自然林の劣化を止めるための土壌改良など、さまざまな対策が急務です。
森林整備予算、昨年創設された森林環境譲与税を活用し、奥山の広葉樹林化を至急進めてください。これは、保水力豊かな災害に強い森をつくることでもあります。

4  クマが里に出てくるのを押さえるために、山裾にクリなどを植える「クマ止め林」を造るための事業に公的補助が使えるようにしてください
奥山の自然林劣化の回復には時間がかかり、今後も奥山のエサ不足の頻繁な発生が予測されます。クマが人里に出て来ないように、集落から離れた里山にえさ場を作っていくべきです。
これらも鳥獣被害対策予算や森林整備予算、森林環境譲与税の活用により実施できるようにしてください。

室谷会長は、「本来の生息地である奥山にえさのないなか、捕殺を繰り返しても、出没や人身事故は無くなりません。①えさの問題をどうするか、②棲み分けをどう進めていくかという視点の対策が急務です」と訴えました。

宮崎勝環境大臣政務官は、「来年度前半までに、ガイドラインやクマ出没対応マニュアルの改訂が予定されており、「共存」という視点を取り入れていきたい」と答えられました。熊森が実践し、提案するえさ場の確保や棲み分け対策、放獣体制の整備などもガイドラインに取り入れられるよう重ねてお願いしました。共存のための各自治体のモデルになるガイドラインができるように、今後も要請を続けます。

熊野農林水産大臣政務官には、奥地の放置人工林をクマの棲める広葉樹林に戻してほしいということと、鳥獣被害対策として、捕殺に頼らない棲み分け対策やクマたちのえさ場の確保に力を入れてほしいとお願いをしました。熊野政務官は、エサの問題、生息地の問題を考え、棲み分けをすることが必要という話を、「ゾーニングが大事なのですね」と真剣に聞いてくださりました。

「農林水産省の鳥獣被害対策予算が、来年度さらに拡充される予定です」と政務官がおっしゃられたので、現在の捕殺を中心とする獣害対策から、野生動物たちが山で暮らし、棲み分けができるような環境整備と野生動物を寄せつけない集落づくりにシフトしていくことが必要なことをお伝えしました。

 

農政記者クラブでの説明の様子

署名提出に合わせて、環境省記者クラブと農政記者クラブで、記者に説明をしました。「クマが出てきて捕殺された」「事故が起こった」という現象だけではなく、クマたちが奥山から出て来ざるを得ない現状や共存と人身事故防止のため、何をすべきかということを報道してほしいと訴えました。「現場を取材に行きたい」とおっしゃられる記者さんもおられました。

日本熊森協会の提案は、いずれも24年間、クマ生息地で実践してきた取組に基づいて行われているものです。ぜひ、私たちの活動を取材に来ていただきたいです。

現在も、全国各地で、クマが出没し、捕殺が続いています。署名提出を契機に、安易な捕殺に頼らない共存の取組みが進んでいくよう、今後も、国に対して要請を続けるとともに、都道府県や地元自治体にも共存対策の実施を働きかけていきます。

 

国際動物福祉団体 Wild Welfare(ワイルド ウェルフェア)も共存対策を提案

世界をまたにかけて、飼育下にある野生動物の福祉向上に取り組むWild Welfare(ワイルド ウェルフェア)の幹部のSimon Marsh(サイモン マーシュ)氏からも、小泉進次郎環境大臣宛の親書を授かり、政務官にお渡ししました。

サイモン氏は、捕獲された野生動物の自然復帰プロジェクトに関わった経験を持ち、人との軋轢を減らすための啓発や捕まったクマの放獣、野生復帰のための一時保護施設の整備などを、日本熊森協会などのNGOとも連携し、行うべきだと提言をされました。

Wild Welfare(ワイルド ウェルフェア) サイモン氏の親書はこちら

海外では、クマが人里へ出てきただけで捕殺するのではなく、原因を究明し、人側も十分に注意し、クマを寄せ付けないように配慮して行動することを徹底している地域が多くあり、学ぶべきことがたくさんあります。

四国山地の奥山で、熊森がついにクマたちの餌場づくりを開始 

戦後の林野庁の拡大造林政策により、頂上近くまでスギやヒノキの人工林でびっしり埋め尽くされた四国山地。

この山の中には、動物たちの食料が皆無です。

結果、四国のツキノワグマは残りわずかな自然林の中の食料を食べるしかなく、あと十数頭にまで追い詰められています。

絶滅の危機に瀕していることが報道されて久しい四国のツキノワグマ。

にもかかわらず、誰一人、彼らの餌場を復元してやろうとしません。

熊森の四国トラスト地内を歩くクマ。誘引物なしで熊森自動撮影カメラが撮影。

 

見かねた熊森は、数年前からツキノワグマたちの生息地のど真ん中にトラスト地を探し始め、2017年と18年、各1カ所をトラスト地として取得、2019年からトラスト地に登れる道を造り、人工林を伐採し、着々と準備し続け、ついに2020年11月12日、第一弾の実のなる木の植樹にまでこぎつけたのです!

今回伐採に参加してくださった2名は、いずれも若手の森林組合職員。「こんな何もない山にクマたちは住んでいるのか。かわいそうに」を、連発されていました。

かかり木にならないように、一発で倒す。プロの腕の見せ所。

頂上が平原だからか、木は意外と大きく育っていた。伐り出せればよいのだが、奥地過ぎて伐り出せないので捨て伐りに

 

今回の伐倒で、開始前はうっそうとして何も見えなかった人工林の内部の空が急に開かれ明るくなり、何と、隣接する標高1708メートルの石立山の雄大な山頂が見えるまでになりました。

石立山が見える

 

今回シバグリやクヌギ以外に多く植えたのは、ナラガシワ。このドングリは4年で実がなります。堅果(ドングリ類)、液果、昆虫、とにかくえさになるものを四国の山奥にもう一度そろえてやろうと思います。動物は食べ物を食べないと生きていけない生き物です。食べ物がなくなって一番に滅びていくのは、クマなど一番たくさん食料を必要とする大型野生動物たちです。

ついに夢にまで見た植樹こぎつけた

鹿よけ網を張って植樹終了

 

 

この日、熊森徳島県支部の大西さちえ支部長も息子さんたちと険しい山を登りきり、他のボランティアさんたちと初の実のなる木の植樹を行いました。

今回の作業は、12日から14日までの3日間でした。徳島新聞が同行取材して、1日目のことを記事にしてくださいました。感謝。

今回、本部スタッフや愛媛、徳島両県支部の会員ら9人が地元森林組合の2人と協力してトラスト地に登山して、トラスト地のスギやヒノキの人工林約150本をチェーンソーで伐倒し、実のなる木を合計35本植樹しました。昨年間伐した場所の地面を目を凝らして見ると、小さな植物の芽がいくつか顔を出していることがあちこちで確認できました。実生の生育も楽しみです。

 

 

まだクマの餌場づくりは始まったばかり。この山だけで22ヘクタールもあります。作業は50メートル四方の区域で展開。群状間伐といわれるやり方で、まず今回で2カ所の伐採ができました。今後も順次作業を続けていきます。

 

手っ取り早く大型ドローンで里のドングリを山に運んでやればどうか、道が急峻すぎて一般人が登れない場所のため、道づくりから始めるべきだ、潜在植生でなくてもよいので、ナラ枯れに強いものを植えればいいのでは、スギやヒノキの人工林で放置されているよりはずっといいなど、いろいろな声をいただいています。皆さんのお知恵もいただいて、試行錯誤しながら、会員の会費と寄付で食料豊かな森に戻していきます。

 

静岡県から駆けつけてくださった伐倒のプロである山路淳さんは「今回の伐採と植樹は絶滅寸前のツキノワグマを救うために、わずかでも動き出そうとする確かな一歩だと思います。歴史的なことでもあると思い、ぜひとも参加したいと思ってやって来ました。伐倒では思っていたより太い木も多かったですが、作業が順調に進み、目標の植樹もできてよかったです」と話されていました。

大異変!秋の奥山自然林の中が食料ゼロと化していた 岐阜県本巣市根尾

10月29日、公益財団法人奥山保全トラストが所有する岐阜県の奥山自然林175ヘクタールの秋の実り調査を行いました。

頂上は1170m、うーん、いい森です。見渡す限りの山々がトラスト地。とにかく、広大です。

参加したのは本部から昆虫研究者とスタッフ3名、あとはクマ大量捕獲罠に規制をかけてほしいという熊森署名を今年4000筆以上集めた岐阜県支部の皆さんで、総勢20人。みんな自然保護と向学心に燃えています。

昨年夏に撮影された山の写真を見て、クマの痕跡が見られるのではと、期待して行きました。

 

 

2019年8月撮影

 

立派な集落が残っていましたが、廃村になっていました。

元の山主さんが軽トラで私たちに会いに来てくださいました。90才というのに、ものすごくお元気です。

この集落はかつて積雪が4メートルもあったそうです。

昔はこの山に、ウサギや山鳥など生き物がいっぱいいたそうです。

冬は毎年集落で6頭ぐらいのクマを捕っていて、みんなで食べたもんだとそっと教えてくださいました。

 

どんな生き物たちがいるのだろうか。久しぶりに下草の生えた自然林に入れて、兵庫県本部から来たスタッフたちは感激です。

この山にはまだシカが入っていないのかとも思いましたが、しかし、よく見ると、道の両側の草は先端のないものが多いです。

少しはシカが入っているようです。

 

 

三段滝は、やはりすばらしかったです。

突然現れた三段滝

 

しかし、こんなに大勢で一日中歩いたのに、見つけたドングリはなんとゼロでした。

ミズナラの木が枯れてしまった後の山なのだそうです。

若いミズナラの木を少し見つけましたが、もちろんドングリは一粒もなっていませんでした。地面にも一粒も落ちていませんでした。

堅果ゼロ!

 

秋の自然林の中は、色とりどりの液果が美しいはずと期待して行ったのですが、全く実りがみられませんでした。

液果は、昆虫がいて受粉してくれないと実らないのです。

液果ゼロ!

 

ヤブデマリも実りなし

 

 

兵庫県と違って岐阜の山はまだ野生動物たちが住めると思っていたのですが、これでは何も住めません。

岐阜県もか。

なんだか恐ろしいことが日本の山で起きていると思いました。

もちろんクマの痕跡もゼロでした。出会った動物もゼロ。

山から生き物たちの気配が消えていました。

みんな食料を求めて里の方に移動してしまっているということです。

 

里に出て来るようになったクマの数を見て、クマが山で増えていると言っている研究者がいますが、食料が何もないのにどうして山で増えられるのでしょうか。

 

みんなで勉強しようと、この日、奥山生態学に詳しい研究者に同行してもらったのですが、ほとんど何も説明していただくものがありませんでした。

なんてこった。

岐阜の奥山の実態を調査して怖くなってきました。

何とか、食料になるものを山で育てないと、これでは棲み分けができません。

こんなことになってしまって一番困っているのは森の動物たちです。

次に困るのは、山から出てきた野生動物たちに農作物を食べられてしまう農家の皆さんです。

気持ちが沈んでいく参加者たち

 

うーん、こうなったらもう常識にとらわれない思い切った対策が必要です。この事態を放置していたら、人間も水源の森を失います。

動物たちに帰れる森を!山に昆虫と実りを取り戻せ!

11月12日徳島新聞に徳島県支部設立の大きな記事

11月12日、熊森四国トラスト地では、残りわずかなクマたちの餌場を再生しようと、林業のプロ3名が人工林のヒノキを次々と伐倒、参加者が、実のなる木を植樹している最中です。

徳島新聞がくまもり活動を大きな記事にしてくださって、励みになります。

新聞を読んだとして、14日の支部結成記念シンポジウムなどに関する徳島県民からの電話問い合わせが、朝から本部に相次ぎました。

 

静岡県で「クマ止め林」づくり!

熊森の会員がボランティアで頑張ってくださっています

 先日、「クマ止め林」を作ろう!という記事を公開しましたが(10月18日)、実際に静岡県の山でクマ止め林づくりに取り組んで下さっている会員の山路淳さんをご紹介いたします。 

静岡県の天竜川上流で広葉樹林化をめざす

(公財)奥山保全トラストの静岡県佐久間トラスト地での広葉樹林再生活動。衛星写真で茶色く見える部分は人工林を部分的に伐採したところ。

現場は、静岡県浜松市の公益財団法人奥山保全トラスト地が所有する佐久間トラスト地です。

(公財)奥山保全トラストは、熊森の自然保護活動から生まれたナショナル・トラスト運動を進める自然保護団体で、市民のみなさんからいただいた寄付で、生物多様性豊かな水源の森を開発されないように買取って保全する活動をしています。現在、全国に19か所、2346haの水源地の森を買取り、保全しています。

スギ・ヒノキの人工林率77%と山のほとんどをスギ・ヒノキにしてしまった浜松市では、野生動物の棲める生息環境はわずかにしか残っておらず、放置人工林の荒廃も深刻です。人工林地帯である静岡県では、ツキノワグマは絶滅危惧種に指定されています。

奥山保全トラストが所有する294haの佐久間トラスト地も3分の1がスギ・ヒノキの人工林です。ここでは、地元森林組合や日本熊森協会のボランティアに協力いただきながら、クマをはじめとする野生動物の生息地の回復や、保水力ある災害に強い森をめざして、スギ・ヒノキを伐採し、広葉樹林再生活動を積極的に行っています。

 

くまもり会員によるクマ止め林づくり

佐久間トラスト地の一角で、熊森協会の会員の方による動物のえさ場となる森づくりが進められています。

十数年に亘り、ご夫婦でボランティアでご協力くださっているSさんご夫妻の熱意に触れて参加されるようになったのが山路さんです。

山路さんにクマ止め林づくりにかける思いをインタビューしました。

(山路さんが伐採しているスギ・ヒノキの林。伐採したことで光が入るようになりました。)
 

くまもり活動にかける思い 

茨城大学 理学部卒業後、静岡県西部で、高校の理科非常勤講師をしながら、ゴミ拾いや耕作放棄地の草刈りなどの環境活動に取り組んできました。

7年前に林業に転職。現在、中田島砂丘の海岸林整備、春野町、愛知県新城市の里山再生、広葉樹林化。竹林再生プロジェクトで、浜松市天竜区、中区の竹林整備を進めています。 海から山まで、総合的な環境保全の必要を考え、研究活動を行なっています。

 

熊森との関わりは、Sさんご夫妻のお宅の竹藪を整備して、沢沿いの眺め良くしつつ、孟宗竹の伐採技術の開発をしたことがきっかけで、熊森協会の存在を知り6年。奥山保全の重要さを改めて再確認して、入会しました。

人口減社会で、林業を続けるのが困難な場所を広葉樹林に戻していくことは、野生動物の保護だけでなく林業の今後の発展にも必要だと思い、活動に参加しています。

現在、ツキノワグマなど市街地の出没で騒動の中にいる人たちに、奥山の重要性について少しでも知ってもらいたいと思っています。

野生動物の聖域として保全しているトラスト地に立つ看板。Sさんご夫妻の思いのこもった動物たちのポスター。とてもキュートですね。

 

共生の場をつくりたい
 

かつてくまもりが植樹した場所。すっかり植物に覆われ地面が見えない。苗木も順調に育っている(2019年11月撮影)。

 現在、佐久間トラスト地でスギ・ヒノキの伐採や広葉樹の保護、生育調査を行っています。今後は、トラスト地全体の調査と適切な生態系保全に向けての簡易土工の実施をしていきたいです。

尾根伝いのスーパー林道の傍(最初の写真)は随分と明るくなりました。
栗の木が生えているので、それを避けて伐採を進めるのは難儀ではありますけど、広葉樹とスギ・ヒノキが混交する森を、作ること。
そのための高度の伐採技術を、地元の人々に見せていきたいです。
熊止めの森。人間と野生動物の共生の場を作っていくこと。そこは死ぬ気でやらざるを得ません。

 

山路さん、Sさんご夫妻、いつもありがとうございます。 奥山保全トラストや日本熊森協会の活動は野生動物との共存を願うたくさんのボランティアのみなさんに支えられています。

京都府与謝野町でクマによる人身事故現場を調査 

現地のクマ生息地の山は、凶作の上にナラ枯れが深刻、エサ不足が懸念されます

10月24日、京都府与謝野町でクマによる人身事故が発生したと報道されました。

読売新聞オンライン 10月25日

熊森本部は、近畿圏で発生するクマによる人身事故の現場を訪ね、お怪我をされた方をお見舞いし、再発防止対策を伝えたり、再発を防ぐお手伝いをさせていただいたりしています。

10月26日、熊森本部スタッフたちは現場へ急行しました。

事故現場と思われる場所を指さす、スタッフ

 

お怪我をされた方のご家族と少しお話が出来ました。現場は、ご自宅の裏のクリの木付近とのことです。お怪我をされた方は、24日の朝8時頃、金属製のヒバサミを使って栗拾いをされていました。栗を拾い終えて帰るころ、クマが茂みから突然出てきて、背後から耳を引っかかれ、男性が転倒した後にクマは来た道を逃げていったそうです。幸い、命に別状はなかったそうです。

今年は、京都も山の実りが悪いと発表されています。エサが無く、里のクリを食べに来ていたクマと鉢合わせになったものと考えられます。なるべく、クマと人が至近距離で合わないように、この場の草刈り等が必要と感じました。

 

全国各地で、クマが出来てた、事故が発生したというニュースが後を絶ちません。秋にクマが出てくる原因を考えるには、「クマの生息地が今どうなっているか」ということを調べる必要があります。

くまもりNEWS「もはや末期症状 クマが山から次々と出てくるその訳は?」

熊森のスタッフは事故が発生した現場近くの山の調査をしました。

写真(左)葉が茶色く枯れるコナラ 写真(右)スタッフが指をさしている場所から根元までびっちりと白い粉を吹いて枯れる、ミズナラの木。決して老木ではない太さ。

 

クマが降りてきた山を下から見ると、ナラ枯れが起きているようには見えません。しかし、山に登ってみると、標高600m程の山の上にある、コナラ、ミズナラが、木の根元から粉を吹きだし枯れていました。

100m歩くだけで、ナラ枯れで、虫の穴が開いている木は15本も見つかりました。

しかし、そのうち5本は、樹液を出して樹皮を修復しようとしていました。

黒く染みのようになっているのが、樹液を出している個所。アベマキにこのような傾向が見られた。

樹液を吹きだしている木には、クワガタが樹液を吸いに来ていた!

ナラ枯れの原因は、カシノナガキクイムシが木に穴をあけることだというのが国の見解ですが、元気な木であればこのように樹液を出して復活できます。スタッフは、ナラ枯れ以前に木そのものが弱っていると感じました。

この山はクマの棲む自然林なのに、下草が全くありません。下草が無ければ、クマが身を潜める場所や、夏のクマの食料となる昆虫の生息環境もありません。

クマたちは、もう山に棲めないのでしょう。

 

里だけを見ていると真の原因や対策はわからない

山を見た後、地元の与謝野町役場を訪ねました。担当者は、山の中がこのような状況であることを知らなかったようです。その理由として「里で生活していると、里のことしかわからないから、クマが里に出てきたという情報だけしか問題にならない」ということでした。担当者は、ナラ枯れで山奥にクマがいないことは、あまりにも別世界の話でにわかに信じがたいという様子でした。

 

事故が発生した現場は、クマ捕獲罠が設置されましたが、1日で撤去されました。担当者のお話では、クマは事故直前に、事故現場の隣の家の柿の木に来てカキを食べていたようです。このカキを、事故後にすぐに隣の家の方が除去してくださったので、被害対策が出来ているか罠の撤去に至ったようです。

 

 

全国のクマ生息地自治体の皆さま

クマによる事故が発生した、クマの目撃が絶えない、そういった地域では、クマがなぜ、本来の生息地である山から出て来ているのか調査してみてください。山でナラ枯れが発生していたり、山の実りの大凶作など、大来な異変が発生しています。里に出て来たからといって捕獲していては、クマは滅びます。

どうか、山から降りてきたクマに遭遇しないように気をつけてください。

山の実り大飢饉の今、里の実りをわけてやってください。

人身事故の危険性がある場合は、柿の実を採って山中のクマの通り道に運んでやってください。今年のような異常年、クマと人が安全に棲み分け・共存していくためにはそれしか策はありません。

 

 

以下、今回初めて被害対策にきた、新入スタッフの感想です。

初めて事故現場を訪ねました。

事故に遭われた方以外にも町の方のお話もお伺いしましたが、対して気にされていない方から怖くてお墓参りにも行けないんだという方、クマや森の話をしても無関心な方という多様な反応に出会いました。

実りゼロという異常事態が山で起きていることに無関心な方が多いと、人身事故を起こすかもしれないクマは捕殺しておこうとなり、安易な捕殺が暴走するのではないかという印象を受けました。

問題に対し関心を持ち、実際に山に入って原因を探り、対策を考えることの重要性を改めて感じました。これからも、徹底した現場主義を貫き、現地を歩き続けます。

 

 

【埼玉県飯能市】このまま、メガソーラーのために森林破壊を許していいの? 工事を止めるため、もう一度、声を上げませんか!

埼玉県飯能市が所有する加治丘陵の森林の伐採が始まっています。
●誰のためのメガソーラー開発?
この森は、飯能市が「自然公園」を目的に(すなわち、豊かな森林を守るために)20億円かけて買い戻している場所です。莫大な税金を投入した市民の財産を、飯能市は、年間たった120万円で、一般社団法人飯能インターナショナルスポーツアカデミー(https://hisa.world/index.html)に貸し出し、サッカー練習場とメガソーラー開発が行われます。
開発予定地は、17ヘクタールもあり、多様性豊かな雑木林や針広混交林で、絶滅危惧種も多く発見されています。
インターナショナルスポーツアカデミーから開発事業を請け負ったのは、大手住宅総合メーカーのダイワハウスの子会社ダイワリース株式会社(https://www.daiwalease.co.jp/)で、事業費は60億円を超えると言われています。
メガソーラーの売電収入は年間2億円と試算されています。
市民の税金で買い取った豊かな森林は、一部の人たちの利益のために、今消えようとしています。森の生きものたちはどうなるのでしょうか。
●10月14日、工事着工 伐採が進んでいます
 日本熊森協会は、加治丘陵のメガソーラー開発を知り、地元で工事中止を求めて活動する「加治丘陵の自然を考える会 飯能」のみなさんと、9月27日にシンポジウムを開催しました。
 スタッフも入れて170人を超える方が参加され、飯能市にお住いの方もたくさんご参加くださいました。「計画を詳しく知らなかった」「何とかして止めたい」という声もたくさんあり、もっと事実を知ってもらうことで、開発を止めてほしいと声をあげる市民の輪は広げて行けると感じました。
●一度、壊してしまった森は、二度と戻らない
 動物の棲める森復元に24年間取り組んできた日本熊森協会は、一度、壊してしまうと元に戻すにはたいへんな時間がかかることを身をもって知っています。
今、この森を壊すのは誰のためでしょうか。子どもたちや次世代のために、豊かな森を残してほしい、開発を中止してほしいと、もう一度、森林の所有者である飯能市、事業者である一般社団法人飯能インターナショナルスポーツアカデミー、開発業者である大和リース株式会社に訴えませんか。
 森林の伐採が始まり、開発地の隣の地区では、ニホンカモシカが2頭現れたそうです。工事により、追い出されたのかもしれません。
●10月25日13時~TBS「噂の東京マガジン」に出ます
 森林文化都市宣言をした飯能市の暴挙ともいえる、メガソーラー開発問題が、25日(日)13時~TBS「噂の東京マガジン」で取り上げられます。
たくさんの方に広めていただきたいです。

 

【速報】クマ止め林をつくろう! 

凶作年にクマたちが集落に出ないように、

えさ場づくりをめざして植樹会を開きました

10月18日 兵庫県宍粟市 原観光りんご園の裏山

ナラ枯れと山の実りの大凶作でクマをはじめとする野生動物にとって深刻な食料危機が現実になっている中、山から食料を求めて下りてくるクマたちのえさ場となるように、日本熊森協会は18日、兵庫県宍粟市波賀町原の原観光りんご園裏山でクマのえさ場づくり植樹会を開きました。兵庫県の奥地では、昔は、山すそにクリやカキを植えている地域が多く、奥山の実りの凶作年に、クマがクリやカキを食べに来て、植えた木々によってクマが集落に下りるのを止めていたそうです。

線路の枕木の利用や拡大造林のために伐られてしまった「クマ止め林」をもう一度、復活させたいと考えています。

 

兵庫県内だけでなく、大阪府や滋賀県在住の会員や非会員など15人とスタッフ4人が参加。原観光りんご園で約5年前まで専務理事を務めておられた幸福重信さん(83歳)に選んでいただいたカキ10本、クリ6本、ヤマボウシ2本を植えました。

 

幸福さんは、専務理事ご在任当時に苦労して育てたリンゴ約1万個を山から下りてきたクマたちに食べられてしまった体験を参加者に話されました。

「被害を知って腹は立ったけれど、よくよく考えてみると山に食料がないから生きるために下りて来たことが分かった。人間だけが良かったらいいのではなく原因は人間の側にあるのだ、人間が反省しないと、と思って共生の森づくりを熊森さんたちと始めました」と幸福さんはこれまでのいきさつを紹介。現場の裏山での植樹の取り組みなどを振り返りました。

幸福さんは「今年はあのころと同じように、山にえさがないひどい状態。あの当時から数えてちょうど今年は15年。クマたちと共生できる森をつくるために、いっしょに頑張りましょう」と呼びかけました。

りんご園の向かいの奥山も深刻なナラ枯れで、ドングリの実りが全く期待できない状況です。

幸福さんは続いて樹高約1メートルほどの苗木を手にとり、土を掘って水を入れ、土で固まった根を手でほぐしながら植え付けていく方法を身ぶり手ぶりを交えて解説しました。幸福さんの指導を受けながら、親子連れの参加者が植え付けにチャレンジ。植え終わると満足そうな笑顔を見せていました。

子どもたちもクワやスコップを持って植樹

最後に、シカなどが侵入して食べられてしまう被害を防ぐためネットを外側に貼る作業をしました。

この日植えられた木は3年ほどで実をつけます。幸福さんは「皆さん自身の手で植えた木をぜひまた見に来てください」と呼びかけていました。奥山に実りが少ない状況は、当面は続くと思いますので、今後、液果やすぐエサになるものを補植していきたいと考えています。

シカやイノシシが植えた木を食べたり、掘り起こしたりしないように電柵とネットも張り、看板も新しく作りました。

小学1年の娘を連れて、初めて熊森の野外活動に参加した兵庫県の女性は「植えることの大切さや森林の意味についてとてもよく分かる説明で、参加して実際に植えることができて良かったと思います。必ずまた植えた木を見に来たいし、活動にも親子で参加します」と目を輝かせて感想を話していました。

 

山にエサがないクマたちが集落に降りて来ないようにするには、当面のえさ場が必要です。本部や支部を中心に、全国でこのような活動を広めていきたいです。

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