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2016-09-19

兵庫県森林動物研究センター10周年事業とNHK

9月17日13時から、兵庫県三田市の兵庫県立人と自然の博物館4階ひとはくサロンで、兵庫県森林動物研究センター10周年事業として、企画展特別セミナー「ひょうごのツキノワグマ 保護管理のあゆみとこれから」が催され、約50名の県民が参加しました。

 

第1部

①過去から現在までのツキノワグマの分布 森光氏

②ドングリの豊凶とツキノワグマの人里への出没 藤木氏

③行動と繁殖 横山氏

④何頭いるか 高木氏

 

第2部

①兵庫県に於ける保護管理の方針と現場での対応 広瀬氏

②豊岡市鳥獣対策員 岡居氏(ハンター)

 

質問時間なし

 

発表してくださったみなさん、ありがとうございました。

 

 

しかし、熊森は、みなさんの発表で、いつもどうしても腑に落ちない部分があります。

 

●クマ生息地の荒廃や、劣化した自然環境の話が全く出ない

どうしてクマたちの本来の生息地の写真や話が出ないのでしょうか。生息地の自然環境の変化を抜きにして、クマ問題は語れないと思います。

みなさんの発表には、今回も、人工林のジの字も自然林劣化のレの字も出ませんでした。奥山にどんどん道路や砂防ダムができているのに、開発のカの字も出ませんでした。

生息地は内部が砂漠化した放置人工林でいっぱいですよ。残された自然林は、内部が公園状態で、下層植生が消えており、臆病者のクマが棲めるようなところでは、もはやありませんよ。

 

兵庫のクマたちの生息地の自然環境について、兵庫県森林動物研究センター研究部長の横山真弓さんはいつも、「兵庫の森は今絶好調、豊かな自然にめぐまれている」と言われますが、クマたちが聞けば泣くと思います。兵庫県立大学の研究者たちは、みなさんとても頭のいい方なので、クマ生息地の荒廃や劣化に気づかないはずはありません。

研究者として、生息環境の問題については触れるなと、環境省や林野庁から注意されているのでしょうか。理解に苦しみます。

地元の人達はみんな知っていますよ。戦後の森林政策の失敗で山にえさがなくなったから、動物たちが山から出て来るようになったことを。

 

●どうしてクマたちの心がわかってやれないのでしょうか

山の実り大凶作年に、夜、民家の柿の木に親子で登っていたクマの映像を2回出されましたね。突然強烈なサーチライトで照らされても、母熊は逃げずに木の上でじっとしており、何もわからない子熊は、母熊の背中に乗ったり降りたりしていました。これは、人間を恐れなくなったクマとみなしていいのでしょうか。

私たちは、この母熊は、心臓が爆発するほど怖かったのだけれど、子供がいるので逃げるに逃げられなかったんだと思います。

同じ場面を見ても、人間側からだけ見るのと、クマの立場にも立って見るのとでは、解釈が180度反対になります。

前から不思議に思っているのですが、熊森本部がある兵庫県では、県立大学や森林動物研究センターに送り込まれてくる研究者たちは、なぜかみなさんワイルドライフ・マネジメント派で狩猟大好きという方が多いようです。

この日発表された皆さんも、狩猟再開を進めたいと思っておられるのでしょうか。

もしそうなら、ライフル銃を持った人間に追い回される恐怖や、弾が体にあたったときの痛さを想像してみてください。人間にも恐怖や痛さがありますが、動物たちも人間と同じように、恐怖、痛み、悲しみ、生への欲求があります。もし自分がハンターの餌食にされて、何もしていないのに銃で撃たれたらどう思うだろうかと想像してみてください。

 

クマ数が20年で10倍になったら、誰でも気づきます

みなさんは大学で専門的に勉強したエリートでなければわからないむずかしい計算ばかりされていますが、猟友会の方に一度アンケートを取ってみられたらどうでしょうか。クマの痕跡やフンの数が20年で10倍になったら、どんな鈍感な人でも、計算などしなくても気づきますよ。

今回、最後に猟友会の方が、兵庫のクマが今940頭いるのなら、前から940頭いたのだと思うと言われたのは至言です。

熊森協会が出来て20年です。20年前と比べて、本当に熊棚を見かけなくなったし、クマが木に登った爪痕を見なくなりました。糞も見つけられなくなりました。クマが10倍に増えたなどあり得ません。

コンピューターで何日もかけて計算するより、山を歩いている人間の感覚の方が、ずっと正確だろうと私たちは思います。

 

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上写真は、当日の研究者のパワーポイント発表

上図には、1996年の兵庫県クマの生息数は100頭以下で、20頭~50頭と書かれています。

兵庫県は、これを提示することにより、その後20年間で県内のクマが10倍に爆発増加して、狩猟を再開しなければならないほどの異常事態に陥っていることを強調したかったのでしょうが、反対に、墓穴を掘ったと思います。

日本のツキノワグマ研究の第一人者に、20年で10倍に増加の兵庫県のクマ数変化グラフを見せると、即座に一言、「あり得ないよ」と言われました。

県内の20年以上山に入っておられる猟友会のみなさんに、このグラフを見せて下さい。みんな笑いだすのではないでしょうか。「ありえないよ」って。日本の人口は、現在1億2千万強ですが、20年後に12億になったという割合です。そんなことになれば、誰でも増えたと気づきます。実際は、山中のクマの痕跡は、見つけられないほど、ますます減ってきているのです。

さあ、兵庫県は、今度はどんな手で、すでに発表してしまった<20年で10倍増加>の、もみ消しをしていくのでしょうか。

ちなみに、940頭の推定生息数を発表した研究者は、現在、さっさと県職員を辞めて、野生動物捕獲会社を設立し、その社長に収まっています。

 

当日会場に、NHKのカメラマンと記者が来られていたので、本日の行政発表だけを一方的に流さないようにお願いしておきました。しかし、NHKニュースを見られた人から、行政発表だけを一方的に流していたという報告を受けました。残念です。一方的な報道では、国民が判断を誤ってしまいます。マスコミの責任は重大です。

 

 

 

 

9月16日 兵庫県農政環境常任委員会傍聴の報告

兵庫県クマ狩猟再開の決定権を持っているのは井戸知事だそうですが、県議会議員さんたちには常任委員会で意見を言う機会があります。

傍聴席が10席あると聞いて、みんなで傍聴に出かけました。

兵庫県議会の入り口です。

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常任委員会が開かれる部屋に入ってびっくりしました。常任委員会の議員さんは12人で、委員長と副委員長が前に座り、後の10人の方は5人ずつハの字型に座っておられましたが、なんと、その後ろに70人ぐらいの職員の方たちが部屋いっぱいにびっしりと座っておられたのです。

もちろん、部長・局長・課長さんたちが前の方に座っておられます。壮観なので写真を撮りたかったのですが、禁止されているため撮れませんでした。残念。撮りたかったです。

傍聴席はそのさらに一番後ろで、発言者の声がすごく聞き取りにくかったです。次回からマイクを用意してくださるようにお願いしました。

 

これだけの数の優秀な人材が関わっておられて、この中にたったひとりでもいいから、「放置人工林の砂漠化と自然林の劣化で、本来の奥山生息地を失った兵庫県のクマが、年平均20%で爆発増加して10年で4倍以上になるなどありえないだろう」と自分の頭で考えて、素直な疑問を持たれた人はいなかったのだろうか。クマの立場に立って、狩猟やクマ狩猟の問題点を考える人はいなかったのだろうかと、不思議に思いました。

これまでどの論文を読んでも、クマは繁殖力の低い動物で、年増加率は5%ぐらいとされてきました。ロシアの研究者の発表によると、豊かなカムチャッカ半島の森の自然保護区でのヒグマの増加率は、年2%だそうです。

もし、兵庫県のクマだけが、年15.5%~24.0%で増加していくのなら、何かとんでもない異変が起きているということで、クマを狩猟している場合ではありません。その異変の原因を見つけて、そちらにすぐ手を打たねばならないはずです。

 

まず最初に、鳥獣対策課担当者が、1992年に60頭で絶滅寸前だった兵庫県のクマが、今や著しく増加して940頭になったため、今年から個体数調整のための狩猟を再開して、ハンターに山の中に入っていただき、環境省目安の800頭以下にならないようにしながら狩猟をしていただく。これによって、棲み分けを復活させると説明されました。

山に食料がないから人里に出て来ているのに、山の中でハンターがクマを追い掛け回して、どうして棲み分けが復活するのか、説明に矛盾を感じました。しかも、本気でクマ数を減らしたいのなら、狩猟ではなく、有害駆除の方が簡単です。要するに、環境省の(バックはアメリカ?)、日本民族を狩猟民族に変えていくという方針に従うために、何が何でも狩猟再開へ持っていこうとしているだけなのでしょうか。

 

担当者の説明後、常任委員会の委員である県会議員さんが次々と意見を述べられました。以下は要約です。(文責:熊森)

 

A議員(クマ生息地選出):私の所もシカやクマが出て来る。他人事ではない。山が変わってしまっている。

クマ、シカ、イノシシ、みんな山に餌がなくなったから出て来ているんです。940頭?本当にこんなに増えているのか、もっと少なかったら?もっと多かったら?どうする。森造りを何よりも早くやらねばならない。いつ見ても山は、スギやヒノキばかり。動物のためにも、山を広葉樹林に戻すべきだ。

 

B議員:940頭という推定数をどうして出したのか説明してほしい。山に餌がないから出て来ている状況の中で、そのような山の環境も考えて、推定した数か?

 

C議員:940頭という推定数はどれくらい正しいのか。人工林の広葉樹林化は進んでいるのか。隣接他府県からの移動はどれくらいあるのか。クマがシカと同じくらいのペースで増えていくなどあり得ない。

940頭という推定は論文にまとめられているのか。

まだ論文にもなっていない940頭という数字を使っての狩猟再開判断、これはまずい。

日本福祉大学の山上俊彦教授が、推定940頭というのは、山の実りゼロというあり得ないことが起きた2010年の異常に多かった目撃数、異常に多かった捕獲数を入れて計算したことなどによる過大推定だと指摘しているがどうか。

この推定生息数の算出において、奥山に餌がないという状況は考慮されているのか。

 

D議員:兵庫県だけ増加率が高いのは、県内だけで増えたのか。県外からの流入があって増えたのか。

 

 

<担当行政回答>→(熊森感想)

E氏:平成14年度から、スギ・ヒノキの間伐を進めている。下層植生を生やすことによって、野生動物の環境が良くなる。

→(熊森感想)やらないよりはましかもしれないが、間伐しただけでは、クマの生息地などにはならないし、豊かな水源の森にもならない。奥山は広葉樹林に復元させることが必要。

平成18年からこれまでに、270haの広葉樹を植えてきた。野生動物育成の森や水源林に早くなるように取り組んでいる。

→(熊森感想)この20年間で、兵庫県では、広葉樹林が増えるどころか、逆に、人工林面積も人工林率も増えている。どういうことか説明してほしい。クマなどの大型野生動物たちが餌場として利用できるように、自然林に復元できた山は、どこに何ヘクタールあるのか。提示してほしい。

 

F氏:まだ論文にまとめられていないが、論文が完成次第、学会に発表してもらおうと思っている。

→(熊森感想)順序が逆でしょう。査読に耐えられる論文が発表されてから、政策に取り入れるべきです。

捕まえたクマはGPSで行動を追っており、奥山の方でも行動していると聞いている。

→(熊森感想)ご自分で奥山を歩いてみられたら、こんな荒れた山ではクマは棲めないと体感されるのではないでしょうか。ご自分の目で確かめてみてください。一体どれだけのクマが奥山にいるのか、GPSでわかっていることがあるのなら公表すべき。森林動物研究センターは、熊森の情報公開請求を拒否しているが、隠ぺい体質が過ぎる。

なぜ兵庫のクマの繁殖率が高いのかわからないが、鳥取や京都と状況が違う。

→(熊森感想)隣接府県との境は人間が行政ラインを勝手に引いただけで、自然界は繫がっています。状況は同じなのです。兵庫県のクマだけが爆発増加などあり得ないのです。

 

<全体的な熊森の感想>

やはり地元の議員さんは、しっかりと自然を見てきておられるので、祖先の文化である生命尊重思想に基づき、自信を持って質問されていました。また、都会選出の議員さんでも、独自によく勉強しておられる方がいて、すごいなあと思いました。

 

このような会で、行政担当者が議員の質問に答えるのは無理です。日本の行政は、長くて3年で部署が絶えず変えられていくので、専門性が育ちません。まして、今年の春来たばかりの人が責任ある答弁などできるわけがありません。今回のクマ推定生息数940頭は、ある研究者が、行政担当者でも検証できない複雑難解な計算式を作って出したものです。答弁に、なぜ、研究者本人を出してこないのでしょうか。本人以外の人が説明などできません。兵庫県のクマが爆発増加した。狩猟を再開すべきだと言い出した人こそを、この席に呼んで、どうしてそう考えるのか説明させるべきです。

 

全体の県議会を傍聴したことはありますが、このような常任委員会を傍聴したのは今回が初めてでした。すごく参考になりました。全国民の皆さんに、このような常任委員会をぜひ傍聴されるようにお勧めします。すぐ目の前で議員の表情まで見てとれるので、議員の力量や人格が手に取るようにわかり、次は誰に投票したらいいか、これでかなり判断できます。

同僚の議員が、まじめに一生懸命質問しているのに、なめきって横でニヤニヤ笑っている議員がいました。ご自分の人格を落としていることにお気づきではないのだと思います。議員として成長していただきたいので、態度を改めた方が良いと、教えてあげたいです。(完)

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