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2017-10-29

10月9日 「天然記念物奈良のシカ駆除問題」について、くまもり本部が午前中にJR奈良駅前で初のシールアンケート・午後に集会

この日の午後、くまもり本部は、奈良県文化会館で、一般市民向けに「奈良市D地区シカ駆除開始問題」を考える集会をもつことになっていました。

事前参加申し込みがあまりにも少なかったので、いったいこの問題について奈良市民がどう考えているのか、午前11時~12  時までの間、JR奈良駅前に立って奈良市民かどうかを確認してからシールアンケートを行い、インタビューしてみました。

 

午前のシールアンケート

JR奈良駅にて、シールアンケートを行う熊森本部スタッフたち(緑色のジャンパー着用)

何の話か聞く前に、みなさん余裕がないのか、知らない人とかかわり合いたくないのか、多くの方が忙しそうに避けて通り過ぎて行かれます。

それでもなんとか38人の方にお答えしていただくことができました。

「奈良のシカ」駆除に関するシールアンケート結果。中央は、どちらとも言えない。(クリックで拡大)

 

アンケートの結果、多くの人がこの問題を知らなかったり、知っていても全く関心がないことがわかりました。

悲しいけれど現実です。これでは集会に人が集まらないはずだと、納得しました。

私たちは、奈良県が今年120頭を上限に、奈良市内の山間部にある2つの地区(田原・東里)で天然記念物「奈良のシカ」の駆除を開始したことをひとりひとりに伝えていきました。

アンケートの結果は、以下です。

駆除に反対という方の方が少し多く、ホッとしました。

 

・駆除に賛成の意見…12人

・シカの数が増えすぎたので減らすべき。

・農作物被害が深刻で、農家が困っておられる。

 

・駆除に反対の意見…18人

・「奈良のシカ」は神様の使いだから。(少数、高齢者)

・殺すなんてかわいそう。

・柵を強化すればよい。

 

アンケートを取ってみて、奈良市民から神鹿文化が消え去りつつあるのを感じ、さびしくなりました。伝統文化を、学校で教えないのでしょうか。

初めてのシールアンケート。短時間に人々の動向をつかむのに、最適です。支部でもぜひご活用ください。お勧めです。

 

午後からの集会 15名参加

まず初めに、奈良奉行の知恵で、シカによる農作物被害や人身事故等の問題を乗り越え、「奈良のシカ」が今日まで神の使いとして人々に護られてきた長い歴史を、映像で見ていただきました。

映像視聴中

 

その後、くまもり本部の野生動物保全担当の水見竜哉が、今年7月に行った現地調査の報告を行いました。

参照:7月13日くまもりNEWS:殺しても鹿害は減らない、予算は防除柵強化に!奈良市D地区訪問

 

続いて、シカよけ柵の設置補助実態について、奈良市と兵庫県豊岡市を比較してみました。

 

 

奈良県は天然記念物のシカを殺す前に、兵庫県など近隣府県のように国からの補助金(「鳥獣被害防止特措法」)を取って、地元の方々のために、金網の強固なシカ防除柵を現地に設置してあげてほしいです。

 

<参加者の意見交換会>

Aさん:私は長年ネコの保護活動をしてます。動物を殺すのは一切嫌です。近所の90歳くらいのおばあちゃんに「奈良市D地区のシカ、殺されるみたいやで」って話したら「そんなんあかん。神様の使いやで。」と言われました。でも若い人にこの話をしてみたら、反応ない。難しいんです。この問題、ネットに流したら、意外と海外の方が反応があるかもしれません。

 

Bさん:初めて知ることが多く、参考になりました。もっと多くの人達にこの問題を知らせていかなければならないと思いました。税金は、シカを殺すことではなく、柵に使って欲しいです。

 

Cさん:新実南吉の「ごんぎつね」を思い出しました。もっと、人間は動物の声に耳を傾けてあげなくてはなりません。シカの存在を否定するのではなく、草が生えて困っている場所にシカを連れて行って除草してもらうとか、活用できないのでしょうか?

 

Dさん:私、人権擁護委員している関係で人間にも人権があるように、動物にも植物にも生きる権利があるとおもうんです。特に日本人は昔から自然を大切にする民族だったはずです。

 

Eさん:小さいころから奈良のシカとふれあってきました。動物が大好きです。奈良のシカに関する科学的なデータの収集が進んでいません。今回の奈良県の調査費1800万が、しかるべき調査に使われるといいのですが。

私は、奈良公園のシカが本当に健康なのか、幸せなのか気になります。今の奈良公園のシカは健康でないと思います。あの狭いエリアで本当に暮らせる頭数は何頭なんでしょうか。奈良公園のシカは毎年子供を産む数が減っており、高齢化してきている。

公園外に出て農作物に被害を与えると捕獲されて公園に連れ戻され、狭い檻の中に収容されて終身刑状態になります。もう、一生外には出してもらえない。見に行ったら、本当に悲惨でした。

奈良のシカと一言に言っても、田原地区と大台ケ原、京都東山は山が続いているのでシカは移動しています。奈良公園にいるシカと山にいる野生のシカは暮らし方が違う。

もっと情報集めをしなければ、多くのことは指摘できないと思います。

 

(森山会長の終わりのあいさつ)

今日JR奈良駅で奈良市民にシールアンケートを実施しました。シカ問題になど関心ないという人が、ものすごく多かったです。

全生物と共存してきた祖先の文化が、今、人間のことしか考えない文化に急速に変化していっています。私たち自然保護団体は、これがとても怖いのです。

なぜなら、いろいろな生き物たちの命の尊厳がわかって初めて自然破壊にブレーキがかかり、自然を守っていこうということになるからです。

人間のことしか考えなくなった文明は、自然を破壊して滅びます。

世界で唯一ここだけの奈良の神鹿文化は、本当にすばらしい。貴重です。人類の宝です。人とシカとの共存は奈良がお手本にならなければならない。

奈良の人たちに今一度神鹿文化の歴史を学んでいただき、全国に世界に、行政に声を挙げていってもらいたいです。

誰も声を挙げる人がいないというので、今日は兵庫県からやってまいりましたが、この後は奈良市民が継いでいただきたいです。

 

熊森から

人々の関心がなくても、大事な問題は、気づいた者が粘り強く取り上げていかなければなりません。

どうしたら、人々に関心を持ってもらえるか、知恵を絞っていきましょう。

ひとりで考えていたらしんどくなります。

みなさん、日本熊森協会に、ご入会下さい!

一緒に考えていきましょう!

 

10月7日 兵庫県クマ狩猟問題を考える 講師 金井塚 務 氏(広島フィールドミュージアム代表) 於:芦屋市民会館 参加者63名

この日、西中国山地のクマ生息地を長年調査されてきた金井塚務先生(西中国山地ツキノワグマ保護対策協議会科学部会委員)を広島からお招きして、現場第一で研究されてきた研究者として、中国山地の西で起きていることを話していただき、その後、参加者全員で改めて、中国山地の東端にある兵庫県のクマ狩猟を考えてみる会を持ちました。

 

(1)子供たちの未来のために

まず初めに、森山まり子会長が、

「子供たちに豊かな自然が残せるのかどうか、今、大人たちの子供たちに対する愛が問われています。

クマとの共存をめざすならば、クマの生態観察や、生息地である奥山の現地調査が欠かせないはずなのに、クマ狩猟再開に至るまでの兵庫県行政のプロセスではこの部分が抜け落ちており、狩猟実施の根拠となった数字の科学性にも大きな疑問があります。

兵庫県はクマ生息数の低減に躍起で、今年9月末までに32頭ものクマを有害獣として捕殺していますが、本来、有害な動物などいません。人間が有害にしたのです。

クマたちにも、喜びや悲しみなど、人間と同じ感情があります。兵庫県行政を動かしている捕殺推進派の研究者たちは、このことがわかっていないのではないでしょうか。

利権のある有識者たちの判断に任せるのではなく、利権のない一般国民の澄んだ目で、環境省や地方行政が物言えぬ自然や生き物たちにしていることの善悪を判断し、声を挙げて改善していく必要があります」

と、あいさつしました。

森山会長

 

(2)「生息域分布にドーナツ化現象が確かめられたため、西中国3県のクマは今期も保護計画の対象であり、狩猟は導入しません」

 

次に、金井塚先生が、「フィールド調査から見た西中国山地のツキノワグマの現況」という題で、1時間の講演をしてくださいました。

以下、要旨を平易にまとめました。多くの図表やグラフは、ここでは割愛させていただきました。すばらしい内容だったので、いずれきちんとまとめてみたいです。

会場風景

西中国山地でも、1979念の1.5倍にまでクマの生息域が年々拡大しています。

ツキノワグマの分布の経年的変化1998年~2015年(ダブルクリックで拡大します)

 

考えられる原因は3つです。

①個体数増加

②個体数は同じだが、生息地の生活資源量が減ったため、分散して生息密度が低下

③個体数が増えたのではなく、本来の生息地の環境が悪化したため、新天地を求めて周辺地域に分散するドーナツ化現象が起きている

金井塚先生

 

東中国山地行政と違って、西中国山地行政のいいところは、3県の科学部会に属する研究者たちが集まって、喧々諤々と議論しているところです。

上地図の赤塗りしている部分が、西中国山地のクマの中核的生息域で、5年おきにクマを捕獲し、再捕獲法でこの25年間、生息個体数を推定してきました。(再捕獲法がどこまで科学的かというと、多くの仮定の上に成り立っているため、科学ではありません。正確な数値など出ません。しかし、何回かやっているうち、ある程度のトレンドは出ると考えられます。他にクマの生息数を推定する良い方法がない現在、再捕獲法を使うしかありません。)

私たちの出した結論は、上記③です。

西中国山地のクマは山奥に棲めなくなり、人間の生活圏内に近い所まで降りてきており、生息域分布のドーナツ化現象がどんどん進んでいます。

実際、私の調査している広島県のクマの中核的生息地である細見谷でも、5・6年前までは一つの沢に少なくとも10頭のクマが出入りをしていたのですが、今年はどうも4頭ぐらいしかいません。このままいけば、クマは生きるために人間の生活圏に入り込んで来て軋轢を引き起こし、駆除され続けて滅びていきます。なぜ、クマたちの本来の生息地が、クマたちが棲めないまでに劣化したか。原因はみんな人間です。原生林の徹底的な伐採、人工造林、林道、ダムや砂防堰堤・・・人間活動によって、山も川も海も循環を絶たれてしまい、悲惨なことになっています。

以上のことから、西中国3県のクマは今期も保護計画の対象で、狩猟は導入しません。

 

(3)兵庫県はクマ狩猟を中止すべき

1、「推定数字だけにとらわれず、生息地の実態調査を」(要旨) 

日本熊森協会本部 クマ保全担当 水見竜哉

 

兵庫県のクマ狩猟は、環境省の中央審議会が決めた成獣の推定生息数800頭が安定個体群という根拠不明の全国一律基準に基づいて実施されます。

しかし、日本のクマが生息する森は、東北地方のように山が深く豊かな広葉樹林が残っている県もあれば、兵庫県のように山が浅く人工林だらけで、わずかに残された自然林まで近年一気に大劣化してクマが山で生きられなくなっている県もあるのです。

計算した推定生息数の数字ばかりを見て生息地の実態を見ず、全国一律基準に基づいてクマ政策を決めるのはまちがっています。

兵庫県は山中でクマ狩猟を行うことによって人里近くにいるクマを山奥へ追い戻す効果があると言っていますが、かえって山中から人里にクマが出て来てしまう恐れがあります。このような取り組みでは、クマと人は共存できないし、地元の人たちの安全も守れません。山中で踏ん張っているクマは、そっとしておくべきです。

水見発表 兵庫県発表では、クマが爆発増加したことになっている

 

2、「被害防除の徹底と、森の再生を」(要旨)

日本熊森協会本部 森保全担当 家田俊平

 

私たち日本熊森協会は民間の自然保護団体として、実のなる木を奥山に植えてクマに餌場を提供したり、広大な人工林を伐採して水源の森となる広葉樹林を復元したりしてきました。被害防除の徹底と共に、このような森再生に税金を使って実行していただければ、クマが集落に現れることもなくなっていくはずです。被害防除と森の再生につきます。私たちは今後も「動物たちに帰れる森を、地元の人たちに安心を」という言葉をスローガンに、クマと人間の棲み分け共存ができる森造りを進めていきます。

家田発表 植樹クリに今年もクマ棚

 

質疑応答 左から、金井塚先生、家田、水見

 

◎参加された方の感想から

・西宮で暮らしているとクマという動物は身近かではありません。だから、人が襲われたというニュースで、日頃からクマはイメージの悪い動物になっていますが、クマのすむ山が人間活動によって荒廃してしまっているという現状があって人里に出てくるんだということを、みんなで世に伝えていく必要があると思いました。

 

 

◎熊森から

今夏、金井塚先生に兵庫県のクマ生息地を見ていただきました。山に液果の実りがほとんど見られず、谷川は両岸の土砂が崩れて浅くかつ狭くなり、水量も激減で魚影も見られず・・・、ここのクマたちは、夏食べるものが何もないと驚いておられました。せめて、魚がいれば、生き延びられるのだがということでした。先生が、「このまま、奥山にクマが棲めず、人里近くにしかクマの餌がない状態が続けば、最後の1頭が有害捕殺されるまで人間とクマの軋轢が起こり続けるでしょう。」と言われました。衝撃でした。

形だけの審議会で、議論することもなく安易にクマ捕殺が進む中で、西中国3県の科学部会は本当に大きな存在意義を持っていると思いました。

もし、東中国3県に、西中国3県の科学部会のような行政に物が言える存在があれば、兵庫県や岡山県のクマ狩猟再開はありえなかったでしょう。

 

 

 

10月8日 地元で兵庫県クマ狩猟問題を考える 於:豊岡市民プラザ 参加者12名

地元の人達にも、ぜひクマ狩猟問題を考えていただこうと、JR豊岡駅前に会場を取りました。しかし、前日までの参加申し込みがあまりにも少なかったため、予定していた金井塚先生の講演は取りやめにして、先生には広島に帰っていただき、参加者の皆さんには録画ビデオで先生の講演を見てもらうことにしました。

ところが、うれしいことに、会場には、12名の方が来てくださいました。予定通り、金井塚先生に来ていただいたら良かったと、後悔しました。

 

会場風景

昨日と同じように、会長挨拶、金井塚先生の講演ビデオ、熊森研究員からの発表を済ませ、後半はご出席くださったみなさんとの意見交換会としました。

 

 

<出された主な意見>

シカを何とかしてほしい

・クマを獲りたい猟師は、但馬にはおらん。いても一人くらいや。自分たちが困っているのはシカだ。シカは昔はおらんかった。南から来た。シカが増えたのは、戦後メスジカを保護して獲らないようにしたからだ。人間が獲らないと野生鳥獣は増えていく。

・十数年前までは、さっき見せてもらった東北の山の写真のように、但馬の山も豊かだった。それが今では、爆発増加したシカが下層植生を食べ尽くしてしまった。ゼンマイ、フキ、イタドリ・・・山菜も何もかも山から消えた。

・シカが林道を通って、妙見山から香住、浜坂と移動していく。移動原因の一つは林道だ。今、香住でシカがすごく増えている。クマもかわいそうや。山の中に食べるものがない。トチノミが落ちても、クマが来る前にシカが全部食べてしまう。クマを守りたいのなら、なぜシカを獲る話を出さないのか!山をシカから守る話が先だろう。

 

広葉樹林の再生運動に疑問

・広葉樹林を再生すると言っても、シカが苗木を食べてしまう。シカよけチューブをかぶしても、雪解け時に倒れてしまう。植樹などしても無理だ。シカがいる限り、豊かな森など戻らん。植樹地を網で囲っても、1か所破ってみんな入ってくる。集落は網だらけ柵だらけ。こんなところに若い人は帰って来てくれない。

・広葉樹林に戻して問題が解決するのか。クマやシカが増えるだけだ。クマよりまず人間を守って欲しい。

 

一方向からの話はダメ

・一方的にクマの側からの偏った物言いをされるのは、がまんならん。いろいろな動物や虫、植物、総合的に話すべき。

・山の専門家、シカの専門家、農家、林業家、猟友会…みんなが集まって討議してみてほしい。

 

納得した

・この前、近くの町中で、早朝、クマの親子が歩いていた。集落の柿にも出て来るようになった。どうしてクマが山から出て来るようになったのか、金井塚先生の話を聞いて納得した。クマの目撃は増えているが、県が言っている爆発増加というのは信じられない。

今日、三重県や静岡県では、山主の持ち出しゼロで、県が人工林を自然林に戻してくれるという話を聞いた。兵庫県も早く奥山を補助金で自然林に戻してほしいと思った。県民みどり税で花作りをするようにと言われたが、山の方を先にすべきだ。

 

 

(くまもりから)

・シカ駆除のために罠猟師になられた方も数名参加されていたようで、私たちに厳しい発言も出ました。

・貴重な声を聞かせていただいたと感謝しています。ご参加くださったみなさまに、心よりお礼申し上げます。

・戦後の諸政策や文明の発展方向が、どれもこれも結果的には人々が郡部に住みづらくなるものとなったようです。

・シカ問題は大変難しくて、今のところ私たちの手に負えませんが、ネットで読んだブータンの集落犬のように、シカを殺さずに解決できればと思います。

・専門家が一堂に会してシカ問題のシンポジウムをというご提案をいただきましたが、被害防除の専門家と、いかに効率よくシカを大量捕殺するかという専門家は誕生していますが、それ以外の事はわからないことだらけで、専門家など育っていないと思われます。

・人間が役割を知らないだけで、シカも日本の国土にとって欠かすことのできない貴重な生き物のはずです。

・シカに、草原や湿地という本来の生息地をある程度は返してやり、人とシカが共存できる道を探っていきたいです。

・クマの狩猟問題について考えていただこうと思って企画した会でしたが、地元はそれどころではなく、関心のない問題であることがわかりました。

 

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