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2021-06-06

主原憲司先生と歩く 石川県クマ生息地白山調査レポート1 本部・石川県支部

5月23日24日、白山調査。参加者たちは白山市一里野で主原先生と落ち合いました。

北陸はまだ梅雨に入っておらず、快晴。さわやかなお天気です。

一番心配なことをまず聞きました。

 

参加者:白山にヤマビルはいますか。

主原先生:いません。

参:マダニはいますか。

主:この時期は大丈夫です。

やったー、これで安心して調査に参加できます。

 

先生に車に同乗していただき出発です。

さっそく、サルが道路を横切ります。

アブナイ!

主:この辺りは標高700m、よくサルが車に轢かれています。

(慎重運転)(白山国立公園の看板あり)

主:このゲートが白山登山口です。3時間歩いてもらいます。あれえ、ゲートに鍵がかかっている。入れないので、谷を見に行きましょう。

(車を降りる)

参加者第一声:わあ、何?この虫。(いきなり、顔の前を黒くて足をだらんと下げた小さな虫が、避けても避けてもうっとおしいくらい何匹も飛び交う。谷川の音がうるさい)

主:自然界は虫でいっぱいなのです。花バチの一種です。ハチの種類はものすごく多いのですが、ハチの図鑑はありません。ハチを見ると刺されないかとすぐに怖がる人が多いのですが、実は、刺すハチの種類はとても少ないのです。このハチも大丈夫です。(やれやれ)

 

主原先生による対岸の山の説明

 

雪崩とクマ

ここでまず見ていただきたいのは、対岸にある雪崩地形の草付きです。5月の連休ごろに来ると、何頭かのクマたちがあそこで草を食べているのが見れますよ。

 

                  ブナオ山の草付き

 

この山がなぜツキノワグマをはぐくめるのか。一つは、豪雪地帯で山が急峻なため、毎年春に雪崩が起きて樹木が育たない草場ができるからです。あそこの草場には、ユリ科とキク科のいろいろな草が生えています。セリ科の草は生えていません。クマたちは春に冬ごもりから覚めて、あそこで草を食べ続けるのです。あの場所に行くと、生まれたばかりのさまざまな種類の小さな昆虫たちが恐ろしいほどうじゃうじゃいますよ。夏になって昆虫が大きくなってきたら、クマはこれらの昆虫を食べます。

 

生態系の多様性・種の多様性が保たれた白山

クマが生きるためには、森だけではだめで、草場や湿地、池や川、いろいろな地形、つまり、生態系の多様性が必要なのです。

東北の山と違って、白山は樹木の種類がとても多いのです。その点は、まるで、熱帯雨林と同じです。

            種の多様性を誇る白山の樹木

 

上の方の緑はブナです。この山にどんな木が生えているのか、早春に来るとよくわかります。木の種類によって芽吹きの時期や芽の色が微妙に少しづつ違うからです。(白山通い60年の主原先生には、どこに何の木が生えているのか、頭にインプットされているのでしょう。)

 

15年前のナラ枯れ

この山は、2005年の夏、全山、真っ赤になりました。

       北國新聞2005年8月白山ナラ枯れ

 

地球温暖化によって暖温帯から上がってきたカシノナガキクイムシが、この虫に抵抗力を持たない冷温帯のミズナラを一夏で一気に枯らしてしまったのです。ナラ枯れです。直径20cm以上のミズナラは枯死しました。(細いミズナラが枯れなかった仕組みは複雑なので、ここでは説明を省略)

枯死木は4~5年間立っていましたが、やがて次々と根返りを起こして倒れていきました。

白山のクマはほかの地域のクマと比べると、春や夏の食料は格段に恵まれていますが、冬ごもり前の食い込み用食料である大切なドングリを失ってしまったのです。当時、9割のミズナラが枯れました。あれから16年、若木だったミズナラが実をつけるようになってきましたが、ミズナラは元来陽樹なので、これだけ木々で埋まってしまった森の中では暗すぎてドングリが落ちても稚樹が育たないのではないかと思います。

 

幹だけになったミズナラの枯死木が谷に何本か見える

 

川に倒れこんだミズナラの枯死木

 

 

熊森から

過去を学ばなければ、過去を教わらなければ、山中の枯死木、谷の丸太、川中の枯れ木を見ても、人々は何の危機感も持たないでしょう。人間活動によって白山の森の中身が一気に変化してしまったのです。

クマにとっては、ミズナラの巨木を失ったことは致命的でした。

 

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