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2022-12-24
石川県白山調査
- 2022-12-24 (土)
- くまもりNEWS
2022年10月29日(土)、熊森本部職員、石川県支部のみなさん、奥山保全トラスト職員で白山トラスト地とその近くの釈迦新道の森を訪れ、熊森顧問の主原憲司先生にいろいろ教えていただきました。
白山トラスト地について
主原先生は小学生の時から白山に魅せられ、もう60年以上も白山に通い続けておられます。
先生は、日本で最後にツキノワグマが残るのは白山だと断言されます。白山は、それほどクマが棲むのにいい山なのです。
当時、NPO法人奥山保全トラストが白山の一角を購入することになり、主原先生に購入場所の地図をお見せすると、先生は目を丸くしてしばらく声も出ないほど驚かれていたそうです。
なぜなら、白山の豊かな森の中でも、特に豊かな場所があり、先生はいつもその場所に行くのを楽しんでおられました。購入予定場所が、まさにその森だったからです。
現(公財)奥山保全トラストが所有するその森の広さは22.3ヘクタール、白山トラスト地です。
教わったことの一部を以下にご紹介します。
白山トラスト地
この時期は紅葉真っ盛りで、周辺の山々も美しく色づいていました。ここは白山国立公園の一部であり、手取川をはじめ多数の河川を育む自然豊かな場所です。
赤い葉:光合成で作られた養分が気温の低下によって葉に溜まるようになり、やがてアントシアンに変わって葉が赤くなる。
黄色い葉:葉の葉緑素が分解されてキサントフィルという色素が浮かび上がることで、葉が黄色くなる。
赤い葉と黄色の葉が美しい石川県白峰の白山トラスト地
マムシグサ
この時期、真っ赤な実がまとまってひときわ鮮やか。茎が毒蛇のマムシの模様に似ているのでこの名が付いた。赤い実や葉、球根に毒があり、人が食べると死に至る恐れがある。受粉はキノコバエという小さな昆虫。雌雄異株。
実が赤いのは鳥を呼ぶため。ヤマドリをはじめ鳥類の中にはこの実を食べるものがいるが、人間とは解毒の方法が異なるため、消化することが可能。
マムシグサ
マユミ
春に白い花を咲かせ、秋にはピンク色の実をつける。弓はかつて主要な武器で、マユミは弾力性に長けていて弓に適していたので、「真弓」と名がついた。孟宗竹が入ってきたのは江戸時代になってから。
マユミの木
釈迦新道へ
トラスト地を出て北へ少し行くと、釈迦新道と呼ばれる道があります。この道は古いブナ林へと繋がっています。
この辺りは火山噴火による溶岩の影響を受けており、大きな岩があちこちに見られます。岩からコケ類をはじめとする植物が生えており、趣のある景色が楽しめました。
大きな岩の上に植物が
クマハギ
この地域のクマは5月から6月ごろ、クマ剥ぎをします。樹皮を剥ぎ取って、樹液を舐めたり軟らかい部分を食べたりします。剥ぎ取った木の幹に背中を擦りつけて、匂いで他のクマとやり取りすることもあるとのことです。
マツの幹に残されたクマ剥ぎの痕跡
タマアジサイ
アジサイといえば紫色の花が特徴的だが、寒さが厳しくなっていくと葉にも紫色の色素が表れる。花はガクアジサイに似ている。
黄緑色の葉も同じタマアジサイの葉
非常に豊かな下層植生
ササ、ハイイヌガヤ、シダ類と、下層植生が豊か。
草本、低木、高木が揃う豊かな階層構造
ハイイヌガヤ
シカの大好物。シカが多い所では食べ尽くされてなくなる。白山にハイイヌガヤがあるということは、まだシカが定着していないということ。秋には赤い実がつき、林床が鮮やかになる。
我が国では、野生動物が安心して暮らせる豊かな森は人間活動によってすでに大半が失われてしまっています。
国立公園や国定公園だからといって永久に自然が守られる保証もありません。私たち一人一人が自然の素晴らしさを体感し、森の重要性や野生動物との共存について考えることが必要だと思いました。(羽田)
2021年度北海道ヒグマ捕殺数1030頭!来春から親子狩りと穴狩りも解禁に
- 2022-12-24 (土)
- くまもりNEWS
以下、北海道新聞2022.11.23より
専門家でつくる道の「ヒグマ捕獲のあり方検討部会」は11月22日、クマの市街地出没を減らす対策として、若手ハンターを育てるため、2~5月中旬の残雪期に特別に許可する「人材育成捕獲」を拡充し、これまで規制してきた親子連れの捕獲や冬眠中に捕獲する「穴狩り」を来年から解禁する方針をまとめた。冬眠明けのクマに人への警戒感を植え付ける狙い。
規制を設けずに奨励した残雪期の「春グマ駆除」(1966~90年)で生息数が激減したことを踏まえ、雌グマについては捕獲上限を定めてとり過ぎないよう管理する。また、穴狩りは人里周辺で行うとした。
なお、2022.12.20、上部組織の「北海道ヒグマ保護管理検討会」でも、この案が承認され、正式に決定された。(熊森)
ヒグマの親子 北海道
熊森から
クマ狩猟とは、人間に何の被害も出していないクマを、人間が銃を持ってかれらの生息地に入り込んで撃ち殺す行為です。昔はクマ狩猟で生計を立てていた人もいますが、今はまずいないでしょう。
生き物を殺すことはいつも残酷ですが、来春から解禁されることになった親子熊や冬ごもり中の穴熊狩猟は、なかでも最も残酷です。
親子熊の場合、母熊は子供を守ろうと必死になりますし、子熊は母グマに必死ですがります。かわいそうで見ておれません。
穴熊が雌だった場合は、穴には赤ちゃんグマがおり、殺された母グマのおっぱいにしがみついていたりすると思います。
これらのいたいけない子グマまで殺すのです。
ハンターでも、やりたくない人が多いのではないでしょうか。
駆除された母ツキノワグマのおっぱいに吸い付いている赤ちゃんグマ
現在、北海道では、ヒグマは年中大量に駆除されています。北海道内で2021年度に捕殺されたヒグマは、1030頭を超えました。門崎允昭先生によると、捕殺数が千頭を超えたのは1018頭だった1906年(明治39年)以来、115年ぶり。過去最高の駆除数です。(道庁ヒグマ対策課に電話すると、ヒグマ駆除の9割はシカ肉やハチミツを入れた箱罠にかけてからヒグマを撃つ。1割は銃で直接ヒグマを撃つ。シカ用くくり罠に錯誤捕獲されるヒグマは、年間数例だそうです)
捕殺数の内訳は市町村が道の許可を得て罠などをかけて行う「駆除」が9割以上を占め、ハンターが趣味で行う「狩猟」はわずか40頭台でした。
今回、北海道庁は、この狩猟数をもっと増やそうというわけです。
何のために?
冬眠明けのクマに人への警戒感を植え付ける狙いだそうです。
しかし、脅すだけならわかりますが、殺してしまうのですから、こんなやり方では人を恐れるクマなど誕生しないのではないですか。人の怖さを知ったクマは、即、この世から消されてしまうのですから。
いったいどういう人たちが、こんな対策を決めたのか。ヒグマと人との軋轢が起きているのはわかりますが、すべて、ヒグマに責任があるのでしょうか。殺さない解決法は思いつかなかったのでしょうか。委員に女性がいなかったのではないでしょうか。
委員名を調べてみました。
梶 光一(国立大学法人東京農工大学 名誉教授)
坂井 憲一(北海道猟友会千歳支部 支部長)
佐藤 喜和(酪農学園大学農食環境学群環境共生学類 教授)
釣賀 一二三(地方独立行政法人北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所自然環境部 研究主幹)
藤本 靖(NPO法人南知床・ヒグマ情報センター 理事長)
三浦 直之(七飯町環境生活課 自然環境係長)
村上 裕(北海道猟友会北見支部 指導員)
山中 正実(公益財団法人知床財団 特別研究員)
うーん、この人たちが悪いというわけではありませんが、人選が偏り過ぎです。猟友会員が入っておられることは評価しますが、道民の半分を占める女性、自然保護団体、ヒグマの心がわかる動物愛護団体などを入れなければ、道民の声を代表した対応策にならないと思います。ヒグマ問題には、多様な道民の衆知を集めることが大切です。
今年3回開かれた「ヒグマ捕獲のあり方検討部会」の議事録を読んでみました。
膨大過ぎて読み切るのに苦痛を伴いましたが、全文読み終えました。
第1回ヒグマ捕獲あり方検討部会議事録 令和4年8月1日
第2回ヒグマ捕獲のあり方検討部会 議事録令和4年10月19日
第3回ヒグマ捕獲のあり方検討部会 議事録 令和4年11月22日
この案を正式に承認した「北海道ヒグマ保護管理検討会」のメンバーも調べてみました。
検討部会飯島 勇人(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所野生動物研究領域 主任研究員)
佐藤 喜和(酪農学園大学 農食環境群 教授)
釣賀 一二三(地方独立行政法人北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所 自然環境部 研究主幹)
浦田 剛(占冠村農林課林業振興室 野生鳥獣専門員)
宮内 泰介(北海道大学大学院文学研究院人間科学部門地域科学分野地域科学研究室 教授)
山本 幸 (公益財団法人知床財団事業部 事業部長)
横山 真弓 (兵庫県立大学自然・環境科学研究所 教授)
うーん、この人たちが悪いというわけではありませんが、人選が偏り過ぎです。
学識経験者からなる委員ということですが、このようなことは学識経験者だけで決めてはならないのです。
しかも、学識経験者にもいろいろなタイプがありますが、道庁は持論に賛成してくれそうな人ばかり集めていると感じます。
私たちは北海道に住んでいないので、わからないことも多々あると思いますが、まず人選の問題について、北海道庁に改善を求めたいと思います。このような会には、自然保護団体を入れなければならないと決まっているのに入れていません。
部会のある構成員が、「北海道庁はヒグマ絶滅政策はやめたけれど、ヒグマ保護重視に転換したことなど一度もないと思う。狩猟数に上限はないなど世界的に見て異常だし、有害駆除に関しても、駆除申請して認められないことはほとんどない」と言われています。
これは私たちがずっと感じてきたことです。狩猟だけではなく、有害駆除にも上限が必要だと思います。多くの道民はまず殺すありきの北海道ヒグマの捕獲実態を知らないから黙っているだけです。知ればこれはひどすぎると声を上げる人たちが多く出ると思います。マスコミの皆さん、生々しいヒグマ捕殺の実態を、全道民や全国民に伝えてください。先住民であるヒグマを大切にできない北海道なら、人間も大切にされないと思います。
兵庫県クマ生息地の氷ノ山調査
- 2022-12-24 (土)
- くまもりNEWS
2022年11月4日(金)、熊森の若い職員らが、主原顧問と共に氷ノ山(ヒョウノセン)の調査を行いました。
氷ノ山は兵庫県と鳥取県の県境にあり、標高1510メートル、兵庫県の最高峰で、兵庫県のクマ生息地の中心です。現在山の状態がどうなっているのか調べて、今後の熊森活動に反映していくのが目的です。
氷ノ山の植生
1、原生林
天然スギ、ブナ、ミズナラなどの巨木の森です。
この時期、葉が落ちてしまっているのはブナ、葉が赤くなっているのがミズナラです。緑色は天然スギです。
原生林
クマの痕跡を探してみましたが、古いクマ棚が一つ見つかっただけです。主原先生によると、クマは古い巨木よりも、登りやすいもう少し新しい木に登るとのことでした。
2、伐採跡の人工林と2次林
入らずの森だった氷ノ山ですが、戦後、人間がどっと入り込んでパルプ材を作るために大量の樹木を皆伐しました。その結果、頂上付近は、ササ原になってしまいました。自然界では、親木が倒れた空間に、親木の下で長年待っていた稚樹が突然成長し始めて、元の森に戻ります。しかし、皆伐されると、ササが優勢になってしまい、樹木が戻らない場所が生まれるのです。皆伐跡地にスギが植えられた場所は、人工林として今に至っています。伐採後、植林されなかった場所にはコナラなどが入って落葉広葉樹林が形成され、下の写真の姿になったところもあります。人手が入った山と原生林の見分け方がわかりました。
コナラは薪炭材として古くから利用され、炭の原料となりました。東北ではコナラを使って白炭を作るそうです。
濃い緑色はスギの人工林、他は紅葉が鮮やかなミズナラやコナラの2次林
氷ノ山の中間温帯はケヤキ、シラカシが多く、ミツマタは和紙の原料として利用されます。
そこから標高が高くなって冷温帯に入るとウラジロガシ、ミズナラ、ブナに変わっていきます。中間温帯とは暖温帯と冷温帯の間に位置する気候帯の事です。
ブナの落葉は早いので、この時期は他の木と見分けやすくなります。氷ノ山のミズナラは、ナラ枯れと言って、カシノナガキクイムシという小さな虫が持ち来むタフリナ菌で多くが枯死してしまいました。
カエデ類の種類をみることによって標高帯を分けることができます。カエデの種類によって生育できる場所が違うからです。冷温帯では山の下の方からヤマモミジ→ハウチワカエデ→イタヤメイゲツと変わっていきます。
3、ドングリについて
①ミズナラ(落葉)
このドングリはタンニンが多く含まれているので、動物の中でもそれを分解できるツキノワグマしか食べることができない。ネズミなどのげっ歯類は食べるとタンニンを分解できずに死んでしまう。
②ウラジロガシ(常緑:葉の裏が白い)
隔年成熟なので、1年ごとにドングリが実る年と実らない年を繰り返す。
③シラカシ(常緑)
今年ハイイロチョッキリというゾウムシによって実が落とされている。
ウラジロガシとシラカシのドングリの違いは、ドングリの先端の細いのがウラジロガシで太いのがシラカシ。
左がウラジロガシ、右がシラカシ
4、ショックだったササ枯れの発生
氷ノ山はまだ林床にチシマザサが生い茂っており、良かったと安心したのですが、よく見るとあちこちでササが枯れて茶色の葉になっていました。春、チシマザサのタケノコであるスズコはクマの貴重な食糧で、スズコのあるところ必ずクマが食べに来ていると言われるぐらいです。ササが失われることは、クマには致命的です。
ササが部分的に枯れるなど今までなかったそうで、原因は地球温暖化のようです。
ササが消えると土壌が水分を維持できなくなってしまいます。そうなると、乾燥に弱いブナが枯れだすことも考えられます。
ミズナラも枯れていますから、この上ブナ林までが消えると、秋のクマの食料が不足し、大変なことになります。冬、ササは雪に埋まり、―15℃で休眠状態に入ります。春先に休眠状態が解除されたあと、再び突然気温が下がるとあっけなく枯れてしまうそうです。昼夜の大きな温度差についていくことができずに枯れてしまう凍害も併せて起きているようです。ササはわずかな気温の変化によって、枯れるというダメージを受けることがわかりました。
黄色い部分がササの枯死
5、シカ
兵庫県はシカの生息数が多いため、多くの地域でササをはじめとする森林の下層植生がシカに食べ尽くされています。
しかし、全てシカが悪いわけではないと思います。山の自然林を伐採して一面スギ・ヒノキの人工林に変え、野生動物たちの食べ物を奪ってしまった人間に大きな責任があるのではないでしょうか。
シカが多く生息する地域ではせっかく広葉樹の苗木を植樹しても、すぐシカに食べられてしまい、苗木が育たないケースがほとんどです。
ササがシカに食べられた痕
シカが多い所では、下層植生がほとんど消えている
6、兵庫県のクマ対策である柿もぎ
兵庫県はクマとの人身事故を防ぐために、地元の人たちに柿の実を早く収穫するか、柿の木を伐るように指導してきました。みごとに山裾から柿の木が消えましたが、、集落の柿の木が残っていると、クマは集落に入っていきます。山里の人たちの中には、「クマが柿を食べに来るのは昔から当たり前で、クマが来ている時は家から出ないようにする。昔からそうして共存してきたから、クマが来ても問題ない。」と言って、柿を残しておく方もたくさんおられたそうです。
7、今回、進む山の劣化に危機感
氷ノ山はクマが棲んでいるだけあって豊かな森です。しかし、確実に山の衰退は始まっていました。クマをはじめとする野生動物たちが生息地や食べ物に困って、山から出て来ることは避けられないと思いました。戦後、原生林を大規模伐採したことや、奥山にまで人が入り込んで道路を造り続けたこと、原因は皆人間が作っています。これ以上山が劣化すると、野生動物と人間の共存はより難しくなってしまうかもしれません。
何とか野生動物の生息地を復元し、山の劣化を防いでいきたい。熊森はがんばります。(羽田)