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林野庁作成「森林経営管理法案」、5月25日参議院を通過し成立

(熊森解説)

今回の法案は、表向きは「林業の成長産業化」と「森林資源の適切な管理」のためとなっている。

 

しかし、林野庁の本心は、昨今の豪雨による放置人工林の山崩れの頻発化を見るにつけ、戦後の拡大造林政策の失敗を思い知らされ(林野庁は絶対に政策の失敗を認めようとしないが)何とか崩れやすい放置人工林を一気に消し去りたいという焦りではないだろうか。

 

林野庁の発表によると、戦後造林された民有林の人工林のうち、1/3は、管理できており、2/3は、放置されて大荒廃しているということである。これまでも、人工林の7割が放置され大荒廃していると林野庁が発表してきたことと整合性がとれる数字ではあるが、ゆゆしき実態と言わざるを得ない。拡大造林政策により、日本の広大な山林が大荒廃したのである。

 

この放置人工林の半分、つまり全人工林の1/3は、伐期が来ており伐り出し可能な場所にもあるので、森林環境税を使って林業会社や森林組合に間伐ではなく皆伐(主伐)してもらうことにしたのだそうだ。しかし、一気に各地で主伐をし始めれば、国会の議論でも問題視されていたが、材の価格低下や今後の人工林の林齢の偏りなど、弊害が出るのは明らかである。間伐も導入しながら、少しずつずらして主伐をしていくべきであろう。

 

問題は、放置人工林を皆伐した跡をどうするかである。また以前と同じように1ヘクタール3000本のスギ・ヒノキ・カラマツの密植針葉樹単相林を指導するなら、50年後再び同じ状況に陥らざるを得ない。

 

どのような林業をめざして再造林するつもりなのか、林野庁に電話で問い合わせたところ、市町村に任せるということであった。

 

崩れにくい林業地、環境に配慮した林業地、保育に人手がかかりすぎない林業地とするためには、1ヘクタール当たりの苗木数を減らし、針広混交林にするなどの新手法が必要であると熊森は考える。

 

また、これから人口は確実に減っていくし、3軒に1軒は空き家という時代が来る。林業が建材目的でなくてもいい訳で、パルプ用、バイオマス発電用など、海外からの木材を輸入しなくていいように、多様な林業を展開していくべき。このあたりが今回の法案でどうなるのか、さっぱり見えない。

 

さて、放置人工林の残り半分、つまり全人工林の1/3は、林業経営に適さない森林として、「林野庁法案概要」によると、自然に近い森林(複層林化等)に誘導するとある。

 

今回、奥地であったり急斜面であったりして、林業に向かない場所まで人工林にしてしまったことを、林野庁が自ら認めたわけで、熊森としては、この点を大きく評価したい。

 

林野庁に電話をして、具体的にどのような方法で自然に近い森林に誘導するのか訊ねたところ、間伐するということだった。これではだめだ。

 

地域によって違うが、例えば兵庫県で実験した結果、均等に間伐する定性間伐ではスギ・ヒノキ人工林は自然林に戻らない。広葉樹の芽生えや苗は、やがて樹齢の高いスギ・ヒノキの成長に負けてしまうため、高齢人工林が誕生するだけである。自然林化には、皆伐、列状間伐、群状間伐などが必要であることを伝えたが、これも市町村に任せるという答えだった。

 

熊森は、生物多様性保全機能の低下や水源涵養機能の低下、災害多発等を見るにつけ、奥山全域、尾根筋、急斜面、山の上1/3、沢筋の5か所を、花が咲き実がなり生き物たちが暮らせる広葉樹を主体とした自然の森にもどすべきだとかねてより訴えてきた。

今回の森林環境税の使い方によっては、一気にそのチャンスが到来することも考えられる。

複層林化という言葉からは、針葉樹だけの複層林化がイメージされる。そうではなく、自然の広葉樹林に誘導する、天然林に誘導するなど、イメージをはっきりさせて、今後、市町村に伝えるべきである。

 

熊森はこの機会に、署名を展開するなどして、森林環境税を使って林業に向かない山、林業に使ってはならない山を、自然林・天然林に戻そうという声を国中に広げていきたい。

 

今後の日本の林政は、国が東京から一律指導するのではなく、江戸時代のように諸国に任せる方向だということだ。これはいい方向だと思う。

国有林の放置人工林も、一刻も早く同様に処理していってほしいと願う。(完)

 

 

<参議院HPに掲載されている森林経営管理法案要旨>

 

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