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2012-11-24
11月24日 八幡平クマ牧場、ヒグマのひとみちゃん死亡 残り20頭に
秋田県在住の熊森研究員の報告によると、今朝、八幡平クマ牧場に残された21頭のヒグマのうち、衰弱が目立っていたひとみちゃんが死亡したということです。
今 年春に、雪山を伝って脱走したヒグマ6頭が射殺された時、23頭のヒグマと6頭のツキノワグマ計29頭のクマたちが牧場に残されていました。あれから7か 月後の今、ヒグマ20頭(現在八幡平クマ牧場)ツキノワグマ4頭(現在阿仁熊牧場)となっています。現在の所、死亡率17%。クマは強そうですが、意外と 弱い動物なのかもしれません。
先日の阿仁に移送されたツキノワグマ2頭の死因はストレス死ということになっていますが、全 身麻酔が影響したのではないかという声も当協会には、入ってきています。真実は神のみぞ知るで誰にもわかりませんが、疑わしきは次回から取り除くべきで す。来年のヒグマ移送は、マイクロチップなど入れる必要はないので、麻酔なしでやって頂けたらと願っています。(本州には野生のヒグマはいませんから、 わざわざマイクロチップを使ってまで個体識別する必要性はありません)
積雪4メートル、気温マイナス20度、八幡平の厳しい自然環境の中で、春までに死亡するクマが まだ出るのではないか。生存を危ぶむ声も聞こえてきます。これまで、このようなクマたちの世界は公表されることなく、私たち国民にとってはカヤの外でした が、今回の事故を契機に、当協会のような自然保護団体など市民の目がクマ牧場の中に入るようになり、情報が世に出てくるようになってきました。こういう風 通しの良い社会こそ、私たちが望む社会です。良きにつけ悪しきにつけ、真実を公表することは、多くの人々の理解を得るための第一歩として欠かせません。
残 されたクマたちを取り巻く秋田県庁をはじめとする職員の方々は、本来の業務外に、大変な業務を背負わされ、わからないことだらけのなかで、なんとか残され たクマたちを生かそうとみなさん必死になっておられるということです。春の事故以来、職員は、休日返上、時間外勤務の連続で、過労死するのではないかと、 上司として心配の連続だったと、ある管理職の方が語っておられました。そうだろうと思います。クマたちの命に直接かかわってくださっている方々に、全国民 は感謝と励ましを送り続けるべきだと思います。
2004年、ドングリ運びを指導して下さった研究者の家を訪問 <植物編>
2004年、ドングリ運びを指導して下さった研究者のおひとりの家を久しぶりに訪れました。
<熊森はなぜ、ブナやミズナラなどのドングリは運ばなかったのか>
先生は、全国各地のブナを栽培
階段の所に、全国各地のブナが栽培されており、先生はその違いを熟知されています。「これはどこどこのブナ。ここが違うでしょう・・・」花、芽吹き時期、実・・・等いろいろ違うのですが、黄色に色づいたブナの葉だけでも、よく見ると違いが少しずつあるといわれます。説明を聞いていると、だんだん疲れてきました。そんなわずかな違いを教わっても、わたしたちには覚えられません。要するに、ブナは地域によってDNAが違うのです。
ブナは、年平均気温が6度~12.5度の範囲で生育可能です。
先生は各地のミズナラを栽培
ミズナラはブナと違って、生育するための年平均気温の幅が大きく、ブナが育たないような暖かさや寒冷地であっても生育できます。垂直分布で見て行くと、ミズナラ、ブナ、ミズナラとなっていくそうです。このブナの上に位置する寒冷地型ミズナラは、秋になると何と葉が茶色ではなく赤に色づくのです。(写真)
このため、ブナより下で育つミズナラか、上で育つミズナラかは簡単に見分けられます。
<熊森はなぜ、クヌギやマテバシイなどのドングリを運んだのか>
先生は全国のドングリ類をすべて栽培し研究
熊森スタッフは、さすがに21種のドングリの名前ぐらいは覚えていますが、よく似たのもあり、ドングリの実だけ見せられても、葉や樹皮がないと、未だに判断に迷うドングリもあります。もちろん先生は、即判定されます。こんなことが出来る人は、他におられるのでしょうか。
これは、育てておられる17年目のミズナラに、今年付いた約3000個のドングリです。先生はこうやって、実にいろいろなデータをとっておられます。
2004年に熊森が、「クマたちの捕殺を止めるため、どこよりも自然生態系を守りたい団体として、どうやってドングリを運べばいいですか」と、ドングリ運びの相談を持ちかけた時、ドングリ種の分布図や、全てのドングリの発芽温度と生育温度の一覧表などを先生は見せてくださいました。運んでも生態系が攪乱される心配がないドングリ種と、どんなところに運べば大丈夫かなど、こまごまと先生が指導して下さり、一緒に運んでくださったことを思い出しました。
あの時の、全てのドングリの発芽温度と生育温度の一覧表はどこで入手されたのか、思いだすと懐かしくなり、たずねてみました。なんと、全て、先生の気の遠くなるような実験データだったとわかりました。先生は、膨大なデータを持ちながら、どこにも発表されません。発表することに等、関心はないのです。自分が知りたいから調べておられるのであって、人に認められたいから調べておられるのではありません。
こんな研究者は、他におられるでしょうか。ドングリの話だけでも、無限に続きます。これまで私たちはドングリについても、実にいろいろ教わり自分達でも学んできました。
その後、地球温暖化が進んだためか、特別暖かい冬があり、熊森がここでは発芽しないと思って運んだドングリ種が一部発芽したことがありました。生育はしませんでしたが。そのたびに先生に相談しに行きました。自然界のことは元々人間にははかりしえない部分がほとんどです。しかも今、急速に自然界が人間活動により変化しており、予測できないことが次々と起こっています。
今や人間は、奥山の生態系まで、スギだけにしたり、果樹だけにしたり、韓国産のドングリ苗を植えたり、生態系の攪乱どころか、生態系を確実に完全破壊していっています。やりたい放題です。林道の横の崖に吹き付けた草は外来種のオンパレード。融雪剤などの化学物質もどんどん山に持ち込みます。せめて、奥山の生態系だけは手つかずにしておいていただきたいのですが、人々は無批判です。
鳥取県のクマが生息する山でドングリ運び
クマに厳しい鳥取・兵庫
鳥取県・兵庫県は、クマを守ろうとがんばっている京都府・滋賀県・岡山県などと違って、クマがどんどん増えているとして、今年から、有害捕獲→原則殺処分に方向転換し、足並みをそろえて、クマに厳しい対応を進めています。(以前、兵庫県は、「全国一のクマ保護先進県」として、全国に名をはせた時期がありました。担当部署が変わると、すっかり対応が変わってしまいました。他生物にも優しい文明が一番優れているというのに、残念です。)10月初めの聞き取りでは、今年、両県とも15頭ものクマを有害捕殺し、誤捕獲グマは、兵庫が24頭、鳥取が14頭で、これについては両県共、全頭放獣したということです。
熊森と見解が正反対
各地の奥山のクマ生息地を長年歩き続けている熊森は、これらの県の見解と正反対の見解をとっています。森の劣化が急速に進み、動植物の姿が消えて、クマの痕跡も見られなくなってきていることにより、本来の生息地でクマたちが棲めなくなり、人間のいる所にクマたちがしかたなく出てきているとみています。目撃数が増えたと言っても、ドーナツ現象に過ぎないので、喜ばしいことではありません。絶滅に向かう一過程であるという見方をとっています。
生息場所の公表を
これらの県は、クマたちに付けられた発信機やGPSにより、クマたちが本来の生息地に棲んでいると主張されますが、詳しいデータを公表して頂けないので確かめようがありません。知り得たデータを、公表して頂きたいです。
鳥取県のクマが殺されないように、ドングリ運び
鳥取のクマたちが、食料を求めて人里に下りて行って殺されるのを、なんとか防ぎたい。11月18日、地元の方の呼びかけで、鳥取県支部と本部は、鳥取県で今年最後のドングリ運びをしました。この日、山の林道は24センチの積雪だったそうですが、除雪車が出て道路の雪を除雪して下さっていました。ありがたかったです。
鳥取というと人工林率54%。人工林だらけというイメージがありますが、今回行った所は、さすが、クマが残っているだけあって、広葉樹の自然林もそれなりに残っており、紅葉がとても美しかったです。
地元の方に、クマの通り道や子育ての場所などを対岸から見せていただき、詳しい説明も受けました。とても楽しかったのですが、人間がこんなに奥地の、クマたちの最後の国にまで踏み込んで、道路を造っていることに、不安を感じました。こういう開発が、誰にも見つからずにそっと暮らしてきたクマたちを追い詰めて、絶滅に追いやっていくのではないかと思います。クマの棲む山の中を縦横に走る立派な道路を、今更、つぶすのも大変ですが、森を残し森の生き物たちと共存するには、人間が一歩も二歩も下がるべき時だと思います。
ドングリの入った重い段ボールを抱えて、急な山道を下ります。心してやらないと、両手がふさがっている為、危険です。
クマの通りそうなところにドングリを運んで、里に出て来ないようにします。
地元から参加した一人は、「クマたちが殺されるのがかわいそうで、ずっと守ってやりたいと思ってきたが、地元ではそういう声は出しづらく、つらい思いをしてきた。こうやって、よそから守ろうという人たちがやってきて、いっしょにクマを守る話ができるのが、とてもうれしい」と、喜ばれていました。
しかし、この日、こんな奥地のきれいに色づいた広葉樹林の中にかけられたイノシシ捕獲用くくりわなに、クマが誤って掛かりました。今年17頭目の誤捕獲グマだそうです。(左は捕獲された山のイメージ写真です。こんな感じの所で、くくり罠にかかっていました)
環境省は、クマが掛からないように、シカやイノシシ用のくくり罠の直径を有害捕獲であっても、狩猟であっても、12センチ以下にするように指導しています。しかし、鳥取県は、これを規制緩和して、14~15センチまで広げて良いことにしているそうです。そのため、クマ(4~5歳メス)の左手のひらにくくり罠が食い込んでいたそうです。兵庫県は、クマのいそうなところにくくり罠をかけないように指導して下さっていますが、鳥取県では、市町村に任せており、地元ではそういう指導はしていないそうです。
こんな動物の最後の生息地に、シカやイノシシであっても罠をかけるのはおかしいと思いました。ここで、罠をかけて殺されるなら、シカやイノシシだって、どこにいたらいいのかわからなくなります。しかし、今回の罠は有害駆除ではなく、猟期の狩猟として捕獲なので、生息地のど真ん中に罠をかけても合法なのだそうです。
鳥取県はクマの狩猟が禁止されていますから、誤捕獲グマは放獣しなければなりません。その場で、短時間麻酔をかけ、罠を外してすぐに放獣してやってくれたらいいのですが、研究者や放獣業者は、いろいろとクマの体を調べたり、耳にタグを付けたり、発信器を付けたりしますから、1時間以上にもわたる長時間麻酔をかけます。このような放獣作業は、他の所で、一部始終を見て、ビデオに撮ったこともありますが、本当に残酷です。クマが弱り切ってしまいます。クマは耳を大切にしており、遠くの音を聞くときは、耳をパンパンと何度もはたいて、耳の毛をそろえると言われています。タグや発信器を付けられたら、かれらは本当に困ってしまいます。業者には県から放獣費が出ますが、相場は1頭に付き20万円です。
人間は他生物の体に何をしても許されるという発想は、普通の人のものではありません。他生物の体を物としてしか見れなくなっている多くの野生動物保護管理派学者たちの発想です。
このような人間としての倫理観の喪失は、彼らの為にも許していてはならないと思います。「あなたの来世は、野生動物かもしれませんよ。そういうことを人間にされていいのですか。」私たちの祖先が、子供たちが自然や生き物を大切にし、思いやりのある人間に育つために使った民族の知恵であるこのことばを、今、ワイルドライフマネジメント派の学者たちに送りたいです。相手の身になって相手を思いやることが出来るかどうかは、人間生活を送る上でも大切な資質です。
ドングリ運びを終えてから、どうしたら鳥取や兵庫のクマが守れるか、みんなで長時間話し合いました。この日、猟友会の方が、鳥取の山には、クマもイノシシも、もうほとんどいないと言われていたそうです。動物だけ見ていては自然保護は出来ません。山をどうしていくか考えよう。今のままの動物が棲めなくなった山ではだめだ。熱い語らいが続きます。
志を同じくする者がいる。ほんとうに、出会えてうれしいです。大切にしていきたいなかまが、この日また、増えました。