ホーム > アーカイブ > 2013-03-11
2013-03-11
兵庫県森林動物研究センター主催シンポジウム <野生動物の保全と管理の最前線>拡大する被害にどう立ち向かうか」に参加して
2月16日、兵庫県立美術館で、今年も、7種(クマ・サル・シカ・イノシシ・アライグマ・ヌートリア・ハクビシン)の野生動物の保護管理(=ワイルドライフマネジメント)に携わる兵庫県立大学の先生方や森林動物研究センターの専門員(県庁職員)のみなさんによるシンポジウムがありました。
みなさん、大きな声で、しっかりと発表されており、立派だと思いました。
また、今年は、動画が多用され、よりわかりやすく臨場感のあるものとなっていました。
さらに、少しだけではありましたが、戦後の開発や拡大造林政策が野生動物たちに及ぼした負の影響や、シカによる下層植生の消失問題なども取り上げられ、内容が年々レベルアップしていると感じました。
わたしたちが特に興味深かった発表について、まとめてみました。
●「野生動物はなぜ出没するようになったのか 」
藤木大介氏(兵庫県立大学)
野生動物たちが人里に出て来る大きな要因は、①個体数増加、②分布の拡大、③里山環境の変化、④行動の変化なのだそうです。(熊森が発表するなら、①奥山環境の変化としたと思います。)
60年間の植生変化
我 が国の国土の植生記録で最も古いのは、戦後のアメリカ軍(進駐軍)の空撮なのだそうです。そのため、1950年より古い資料はありません。写真を見なが ら、植生に合わせて地図上に色塗りをしていくのだそうですが、本当に緻密で根気のいる作業だったと思います。兵庫県では、広大に存在していたアカマツ林 (赤色)が、60年後の今、ほとんどがコナラ林(落葉広葉樹・黄色)に遷移したのだそうです。
(熊森からの注:クマの食料は、春夏秋と刻々と変化していきます。それらの全てが揃っているかどうかは、コナラ林であっても、内部を調べないとわかりません。「コナラ林≠クマが生息できる森」なのです。)
ちなみに、以下の植生図中、青色は草地や荒れ地で、黒色は針葉樹の人工林で す。
この60年間の森林の変化のうち、野生動物の生息環境としてマイナスに働いたのは、下の左地図で、針葉樹の人工林の増加(黒色)と、開発による森林消滅(赤色)だそうです。また、プラスに働いたのは、下の右地図で、アカマツ林のコナラ化(緑色)と、草地や荒れ地が森林になったり(青色)、植林されたり(黒色)したことなのだそうです。
兵庫県のシカは、拡大造林が盛んだった1970年(昭和45年)代は県内1000頭以下で、絶滅が心配されるほど減っていたのだそうです。それが、現在14万頭ぐらいに激増しているのだそうです。
クマは、1970年代は、氷ノ山・扇ノ山山系のごく狭い範囲に数頭程度、床尾山系に数頭程度で、絶滅寸前だったと推測されるそうです。1992年ごろのクマは数十頭で、絶滅が危惧されていたのが、現在は、数百頭に激増しているのだそうです。
以下は、長野県が推定した、長野県内シカ生息推定数の変化だそうです。
(熊森より1)うーん。藤木氏の主張はわかったけれど、実際はどうだったのか。私たちも刺激されて、いろいろな方法で調べて、熊森説を打ち出していけるようになりたいと思いました。
以下、参考資料のひとつ。昭和28年から平成24年までの兵庫県ツキノワグマ捕殺数の推移です。青色が狩猟数、赤色が有害捕殺数を示しています。
平成になるまでは、クマたちは山奥にいて、奥地の人たちとうまく共存していたことが、下のグラフからも、これまで熊森が聞き取りをしてきた地元の高齢者のみなさんの証言からもわかります。兵庫では、クマ狩猟数も毎年ごくわずかで、クマに狩猟圧がかかっていたとは思えません。
山がコナラ林に遷移して、コナラが実をつけ出したのは、何十年も前からで、わたしたちが活動を開始した1992年頃には、すでに、里山のコナラ林は放置され、巨木になっていました。しかし、クマたち山の動物たちが大量に人里に出て来たのは、2004年2006年2010年です。このずれは、どう説明できるのか。自然界のことは、本当にわらないことだらけなのです。できるものなら、森の動物たちに、一体最近山に何があったのか、インタビューしたい気持ちに、しばしば襲われます。
(熊森より2)もう一つ興味深かったのは、最後に森林動物研究センターの林良博所長が、野生動物への餌やりについて話されたことです。所長によると、世界中どこへ行っても、人間という動物は、何人であっても、野生動物を見たら餌をやろうとする傾向があるのだそうです。所長は、もっと人間は理知的になって、餌やりを止めよと訴えられていました。他人や他生物を見たら、何か食べ物をあげたいと思うのは、人間の共生本能なのでしょう。
平野虎丸顧問、大分県の環境林と生産林をきちんと分けた「次世代の大分森林づくり」の取り組みを絶賛(くまもり本部も絶賛しています)
<以下、平野虎丸顧問ブログより抜粋>
昨年、豪雨による激甚災害があった大分県で、沢の両岸の植林スギを伐採する事業が始まるという話を聞きました。てっきり、民間団体が始めるのかと思っていたら、実施するのが大分県!であることがわかりました。素晴らしい話なので、その日に、日田市で面識のある大きな林業会社を経営されている方に電話をさしあげましたところ、「知らないけれども、たまたま明日、大分の森林審議監が日田市のパトレア日田に来られるから紹介しましょう。」ということになりました。
大分県での取り組みについて話が聞ければと思い、2月19日、パトレア日田に出かけたところ、なんと、偶然というか幸運というか、大分県の林業のトップである足立紀彦森林審議監の講演会が15時から16時まであり、私が知りたかった「次世代の大分森林づくり」の講演会でした。
話を聞いてびっくりです。災害に弱い林業への反省と共に、今後の展望もかなりしっかりと描かれていました。
昨年の九州北部豪雨では、農地や漁港などにスギ流木被害が多発。人工林からのスギの流木が凶器になった。河川沿いのスギが多く流失して川幅が広くなった。最近では、台風による風倒木被害、林地崩壊、流木被害に加えて、尾根や急傾斜地において手入れ不足の木材生産地や、再造林放棄地が増えている。などの現状を踏まえ、「今後は、木材生産に向かない尾根や河川沿いは『環境林』として、自然回復に任せる、植えない」などという話には心底、感動しました。
低コスト林業に向けての取り組みについても、これまで1ヘクタール3000本植林していたところを、半分の1500本にすることや、下刈り作業も、芝刈りのようにきれいにする必要はなく、スギが雑草や雑木に負けない程度に適当にすればよい。そうすることで、木材生産コストも50%削減出来るなどと、話されていました。この低コスト林業の話にも、感動しました。1へクタール1500本植林とすることで、急斜面や沢に無理やり植林する必要もなくなります。下刈りをきれいにしないことで、シカが植林地に入りにくくなり、シカ食害と言われるものも減るとおもわれます。よいことばかりです。
私は、森林と林業をきちんと分けて対策を立てましょう、と常々言ってきましたが、大分県の新しい構想では「環境林」と「生産林」とにきちんと分けてありました。
昨年の大災害での反省をきちんと踏まえた未来林業への取り組みを早々に始められた大分県に、心から敬意を表したいと思います。
河川沿いのスギを現実に伐採するとなると、難しい問題が多々あってスムーズには行かないと思いますが、これまでどれだけ多くの人が亡くなっても反省のなかった林業から、流木被害のない林業に代わっていく取り組みが始まるとは、歴史的な転換です。私が思っていたことが少しづ動き始めてとても喜んでいます。
九州において大分は林業の先進地であり、この大分から林業が変わっていけば、他の県にも波及していくものと確信しています。
大分県の次世代林業への取り組みに、私にも出来ることがあれば微力ながらお手伝いさせていただきたいと思っています。