外来種問題に対する日本熊森協会の見解

<くまもり哲学からみた、外来種根絶作戦・前編>

2003.11.30 (くまもり通信38号より)

根本原因をただす勇気も強さもなくて、弱いものいじめに走っているだけの対症療法

外来種根絶作戦は正しいか

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■国内に氾濫する外来種
規制緩和の名の元に、最近、外国から野生動植物がどっと国内に輸入されてくるようになりました。ペットショップに行けば、今まで見かけることもなかった珍しい外国産の動物が、狭い檻に入れられて所狭しと売り場に展示されているのを目撃された方も多いことでしょう。
これらの野生動物は、国外の生息地で暴力的に業者に拉致され、日本に輸入されて売買され、その後、捨てられたり逃げ出したりして、日本の野にどんどんと 今、出ています。日本の気候風土に合わないものは死に絶えますが、そうでないものはなんとか生き残ろうと必死でがんばり、適応して繁殖し始めます。生き物 だから当然です。
一方すでに国内では、日本固有種や長い期間かけて帰化した帰化種などの在来種たちによる生態系のバランスが成立しています。そこへ外来種が入って来れば、 一時的にせよバランスが崩れるのは当然です。かつて一時的に爆発的な増加をみせた外来種が、いくつかありましたし、今もあります。
これらの外来種は、それでなくてもどんどん膨張し続ける人間によって生息地を奪われ絶滅に追い込まれている多くの在来種に、さらなるダメージを与えるかも しれません。在来種と生息地を競合することになるかもしれません。しかしそのうちに在来種とうまく共生して新たな帰化動物になって行くかも知れません。
実のところ、個々の外来種がどのようなことになっていくのか、結末はわたしたち人間には誰も予測などできない世界です。
どちらにしても、生態系保全に取り組んでいる私たちには、外来種を日本の野に放つことは認められないことです。
私たち自然保護団体から言わせてもらえば、安易に外国の生き物を輸入した業者、輸入を許した国、買った人、捨てた人、みなさん、何ということをしてくれたんですかの一言につきます。

■環境省へ輸入禁止を訴える
わたしたちは、すぐ環境省に、日本の生態系のバランスがくずれないよう、外来種の輸入を即禁止することを訴えました。しかし、いまだに輸入禁止どころか輸 入制限さえ加えられていません。環境省側の言い分として、輸入業者の生活がかかっている、環境省だけで解決できる問題ではないなどの理由で、この問題はい たずらに放置されています。その間にも、どんどん外来種が国内に入り続けているのです。その輸入数は、年間、動物400万頭、昆虫まで入れると8億匹にも のぼるそうです。
東京でペット業を営んでいるというある業者は公の場で、「日本の税関は、フリーパス。密輸であろうと輸入禁止生物であろうと、ぼくらは売れるものは何でも輸入するし、できる」と、証言しています。これが事実ならとんでもないことです。
国が乗り出して、実態を早急に調べ、各省庁と連携をとり実効性のある対策を取ってもらわねばなりません。外来種が入ってこないよう一刻も早く水際規制を行って欲しいと思います。根本原因を押さえずにして、問題解決などありえないからです。
やっと環境省も重い腰を上げ、外来種輸入規制の検討を始めたようですが、今の案では規制がゆるすぎて、実効性などほとんどないというのがもっぱらの声です。

■2002年環境省「外来種根絶宣言」
去年、環境省は突然、移入生物(外来種のこと)の「根絶」(=皆殺し)を宣言しました。マスコミも一斉に「移入種を根絶せよ」の、論調一色になりました。
現在、国内に拡散してしまった大量の外来種、アライグマ、マングース、ハクビシン、タイワンリス、アメリカザリガニ、ブラックバスなど何千種にもわたる大 量の外来種を、皆殺しにしようという新思想が、博物館など公共の場やマスコミを使って、どんどん世に広められるようになりました。
すでに北海道、神奈川県、和歌山県などでは、多額の税金を投入し、どうやって外来種を最後の一匹まで殺し尽くせるか、血眼になっています。毎日、おびただ しい野生動物がわなにかかり、薬殺されています。「外来種全頭殺害」、しばしば、常軌を逸した恐ろしい思想ほど、人々を熱狂させるものです。
この構図は、わたしたちが今、異を唱えて本当の解決法を実践活動で示している有害鳥獣駆除問題(人間の環境破壊によって生きられなくなって森から出て来たクマたち動物を、皆殺しにする)と全く同じです。
人間に大きなものに立ち向かう勇気や力がないと、一番やりやすい、野生動物という弱者を皆殺しにするという残酷で非人間的な対症療法しか思いつかず、本質を見誤ってしまうのです。

■私たちにできること
外来種の輸入を止める。違反者には麻薬並の厳しい罰則を課す。これをせずして外来種対策などありえないのではないでしょうか。問題の大きさに気が遠くなります。
当協会顧問に相談すると、私たち一般国民が、外来種を、「買わない」「飼わない」ことだと、教えてくださいました。なるほど、売れなければ、業者は輸入を止めます。私たちは、実は、解決への大きな力をもっていたのです。

さて、蛇口を止めたあかつきに、わたしたちが本気で検討しなければならない問題は、すでに国内に拡散してしまった外来種をどうするのかということです

 

 

<くまもり哲学からみた、外来種根絶作戦・後編>

2004.5.8 (くまもり通信40号より)

 すでに日本の野に出てしまっている外来動物を、どうするのか

生命尊重思想を貫いた対処を

  ある保護団体が、日本の生態系からアメリカザリガニを排除しようと2万匹捕まえて殺した写真を、神奈川県立博物館の「侵略と攪乱の果てに」という外来種問題の特別展示で見ました。これだけ殺しても、まだ生態系から排除できなかったというコメントがついていました。悲しいのを通り越してこっけいでさえありました。
トラやシロクマが、国内を歩き回るのは、誰でも困ります。私たちも、つかまえて保護してもらいたいと思います。しかし、既に何十年もかかって日本の生態系の中に入り込んでしまっている外来種の撲滅など、いまさら、本当に必要なのでしょうか。また、そんなことに多額の税金をつぎ込んで血眼になったところで、いまさら根絶などできるのでしょうか。一体、だれが、こんなことをしようと言いだしたのでしょうか。この問題には、どう対処したらいいのでしょうか。

■熊森と外来種問題との出会い
1950年ごろ和歌山県の動物園にいた台湾ザルが、閉園にともない野に捨てられ、台湾ザル・混血ザルとなって生息しているのが1990年に発覚し、2001年に、200頭全頭捕獲殺害計画が持ち上がりました。
私たちは、外来種を日本の野に放つことを認めません。しかし、人間の欲望で台湾の野から強制的に連れて来られたサルを、人間の都合で野に捨て、今度はニホンザルと交雑したからと言って混血種も含め全頭殺すというのは、いくら相手がサルだからといっても、倫理上許されることではありません。しかも、もうすっかり和歌山の生態系の中に入り込んでしまっています。その上、すでに三重県などにも拡散しており、もはや生態系からの完全排除は不可能ではないでしょうか。どうしても生態系から排除しようと捕獲するのであれば、人間のためにも、殺さない解決法を!と、熊森は訴えました。
こういう問題を引き起こした人間側には何の責任も取らせず、被害者である外来動物たちを殺して終わろうとする。こんなことが許されるなら、この社会に正義もなにもなくなってしまうのではないか。何の責任もとらされなかった人間たちは、今後も懲りずに、何度でも同じようなことをするでしょう。これではいつまでたっても、この種の問題は終わらない。私たちはこのように考えました。


■外来動物根絶作戦の意外な仕掛け人たち―研究者・捕獲業者。
わたしたちは度々、兵庫の地から和歌山県を訪れ、和歌山県庁、近隣市役所、サル被害に悩む農業者、地元住民、いろんな人たちと対話するなかで、『台湾ザル・混血ザル全頭殺害を望んでいる県民など誰もいない!』という意外な事実を発見しました。(地元農家は、ただ単に、サルが田畑や集落に出て来ないようにと望んでいただけです。)
では一体、だれがこの計画を推し進めようとしているのでしょうか。ニホンザルの遺伝子が汚染されるのを研究上いやがっているサルの研究者たち(日本霊長類学会、日本生態学会、日本哺乳類学会の強硬な申し入れ)、そして彼らにつながり、捕獲殺害業務を請け負って利益を上げようとしている駆除業者たち、この二者が、外来種根絶作戦の仕掛け人であることがわかってきました。
研究者とこれら業者は、「全頭捕獲して終生飼育」、又は「避妊手術後、野に返そう」と、人間的な解決法をあれこれ考えていた県行政を転換させ「全頭捕獲殺害」に、持っていってしまいました。
私たちはこの時、研究者の権威や、仕事を作ってもうけようと行政に通い詰める業者の力が、結局、行政を動かしてしまう仕組みを知りました。(ちなみに、和歌山県では平成14年度初めに、駆除業者に640万円のお金が前払いされ、15頭の混血ザルが捕獲殺害されました。(1頭で40万のもうけ)

■学者や業者を盲信する行政の危うさ
研究者の専門的視野は時として小さな穴に落ち込んでおり、全体が見渡せていない。長期的視野に欠ける。研究に夢中になる余り、生命に対する畏敬の念が全く失われ、生き物が「もの」としか見えなくなってしまっている。このようなことを、私たちはこれまでも何度も感じてきました。混血ザルがこの世に存在することすら認めたくないと行政に皆殺しにさせるなら、大陸や南洋の人間と混血し続けた結果であるわたしたち日本人も存在してはいけないことになってしまいます。どんな研究も、研究者の特殊な欲望を満たすためのものであってはならないと考えます。
行政がこのような学者や業者の言いなりになってしまう現状は、大変危険です。行政をはじめ、ひとりひとりの国民が学者や業者への盲信を捨て、生まれながらにして持っている自らの感性に自信を持って判断すべきです。日本の自然を守ってきたのは、学者や業者ではなく、自然と共存する本能をもった一般国民の人間らしい心なのです。

 

輸入の蛇口をしめた後、すでに野に出ている
外来動物をどうするか。熊森の主張。

どこまでも、生命尊重思想を貫いて対処すべきです。
A <原則として放置>  新しい生態系のバランス形成を認めるしかないもの。
ア、すでに帰化生物になっているもの
例)セイヨウタンポポ、セイタカアワダチソウ、アメリカザリガニ、マングース、ハクビシン、タイワンリスなど
イ、まだ帰化生物にまでなっていないが、野で繁殖し、生態系から取り除くことが不可能なもの
例)ブラックバス、アカミミガメ、アライグマ

ただし、小さな島で、外来種が在来絶滅危惧種を絶滅させる恐れがある場合は放置せず、棲み分けが実行できるよう人為的な囲いを設置するなど、殺さない方法で対処する。例)ヤンバルクイナなど

B <捕獲して飼育>  生態系から取り除くことが可能なもの
例)ワニ、トラ

研究者の論理。

①生態系から取り除くことが不可能なものの場合でも、殺し続けることによって頭数を一定レベルにおさえることができる。永遠に殺し続ければよい。
→熊森の見解:人間が手を入れ続けなければ維持できない自然など、もはや自然ではない。

②在来生態系に害を与える侵略的外来種は、根絶しなければならない。
→熊森の見解:在来生態系に害か益かの判断は、人間ができるものではありません。ある側面から見れば害に思えても、別の側面から見れば益です。第一、100%生態系に害となっている生き物などいません。神ではない不完全な人間が判断しようとすることに無理があります。

③外来種を排除しないと、在来種が絶滅する。
→熊森の見解:外来種が必ずしも在来種を絶滅するまで追い込むかというと、すぐには決めつけられないものも多くあります。私たちが子供のころ、一時期外来種のセイタカアワダチソウが、まるで国内の野原を席巻してしまうかのように爆発的に増え繁殖していましたが、今は国内の片隅に落ち着いています。外国産のメダカの場合もそうでした。真冬のわずかな水温の差によって、在来種と外来種はこの国でうまく棲み分けているのが報告されています。
国内のメダカが絶滅しかけているのは、外来種が原因などではなく、人間による環境破壊によるものであることは、今や子供でも知っています。外来種が帰化生物となって新しいバランスを生み出すことも多いのです。

④外来種根絶作戦は在来種を守るためだ。
→熊森の見解:わなには、外来種だけがかかるとは限りません。タヌキやキツネなどの在来種もどんどんかかっているとのことです。外来種根絶の口実に在来種保護が叫ばれているのを知れば、在来種たちはその嘘に苦笑することでしょう。
日本の哺乳類の50%に絶滅の赤信号がついているということです。かれらを絶滅に追いやっているのは人間です。本当に在来種を守りたいなら、人間の自然破壊や不必要な奥地の道路建設の方こそ問題にすべきです。

⑤外来種の根絶は日本の自然を守るために絶対必要だ。
→熊森の見解:本当に外来種の皆殺しが何がなんでも必要と思われるなら、私たちが自分のお金を使ってまで森の復元に乗り出しているように、なぜ、外来動物根絶論者たちも自主的に動かないのでしょうか。なぜ、行政の予算がつくまで何もしないのでしょうか。


■地球生態系のゆくえ
今後も交通は一層発達して、海外との行き来はますますさかんになって行くことでしょう。私たちが好む好まないにかかわらず、また意図的非意図的にかかわらず、人間も動物もどんどん交ざりあっていく方向に地球文明は進化しています。珍しい生き物を、彼らの苦痛など顧みもせず、飼いたいという人間の欲望も、とどまる所を知りません。こちらの方は、欲望を抑える教育が必要です。

■外来動物問題は、子供達に誠実さを教えるまたとない良い機会
外来種を保護して本国に返還、それが無理なら避妊して終生飼育など、原因を作った人間に痛みがかかる責任ある解決法を大人たちがとれば、青少年たちはどんなにまっすぐ育ち始めることでしょう。子供達に、こういう大人の責任あるまじめな姿勢を何としても見せてやってほしいと願います。犯罪率を下げるのは、警察官の増員ではなくこちらです。

■いい悪いにかかわらず、新生態系を、認めるしかない
自然というものは、刻々と遷移していきます。長いスパンでみると、これまで、氷河期もあれば、間氷期もありました。日本列島にはマンモスや象が棲んでいた時期もあったのです。今も地球温暖化により、次々と新たな生態系のバランスが作り変えられていっています。外来種を組み込んでしまったとき、新たな自然界のバランスに任せるしかもうないのではないでしょうか。新生態系を認めることは、予算も人員もいらない、一番安上がりな方法です。

■他生物に敬意とやさしさをもつ文明へ
私たち日本人は、食事の前に両手を合わせ「(命を)いただきます」と、感謝し、許しを得てから食べてきました。そして、「無用の殺生」は、厳しく禁じて来たはずです。だからこそ、今日まで文明が存続できてきたのです。他生物への敬意とやさしさを持った文明に戻さなければ、この文明は自然破壊を繰り返し、崩壊するでしょう。

■最後に
将来日本の生態系がどうなるのか、誰も予測などできません。どうなっても、欲望のまま、外来種を輸入した人、買って捨てたり逃がしたりした人が、責任を負わねばならないのです。被害者である哀れな外来動物たちの皆殺しに正当性など何もないことを、熊森は世に訴えたいと思います。もちろん、外来種が在来種を絶滅させる恐れもあるわけで、私たちはリスクを考え、外来種が日本の野に出ないようにすることを厳しく求めます。といって、いったん野に出てしまったのは皆殺しにせよと言うのは暴論です。そういうことを考える人達は、命や生き物が何であるかが、全く分からなくなっている人です。無念にも殺されて行く動物たちの恐怖、引き裂かれる動物親子の悲しみなどへの想像力が、あまりにも欠如しています。そこにあるのは恐ろしいまでの生命軽視思想です。外来種根絶作戦実行による人間の人間性喪失、心の荒廃は深刻な問題です。
どうしても生態系から排除しなければならない場合でも、可能な限り殺さない方法を採るべきです。全頭殺害ではなく、生かせるものだけでも助けるべきです。八丈島のヤギをはじめ、そういう努力をしている人達や行政もあるのです。外来種問題について、マスコミの報道があまりにも研究者の意見に偏り過ぎています。マスコミは国民にもっと多様な考えを提示する任務があると思います。