英国の大手紙「The Guardian(ガーディアン)」が8月27日、日本で進むクマの大量捕殺について特集記事を掲載しました。
日本熊森協会の室谷悠子会長も取材を受け、「捕殺を続けるだけでは被害はなくならない」「集落へ近づけないための対策が必要」との見解を伝えています。現在、国が進めている「クマの数を減らすことを中心とした対策」に対して、国内外の研究者や保護関係者から疑問が出ていることが詳しく紹介されています。
クマの被害を止めようと思えば、捕殺より、誘引物の除去、藪刈り、被害防除等のクマを寄せ付けない環境整備や集落付近からの追い払いが何より重要で、同時にクマの生息地である奥山の乱開発を止め、自然林を再生する必要があると、10年近く前から、私たちが問題提起をしてきました。私たちは、今、クマ出没に悩む地域を支援し被害予防、被害防除こそ有効な対策であることを実感してもらい、捕殺中心の政策の方向転換を、改めて国に求めたいと考えています。
ガーディアン紙の記事は、日本の対策を見直すきっかけをつくるたくさんの知見が含まれており、英語ではありますが多くの方に読んでいただきたいです。
●10カ月で1万4,000頭を超えるクマが捕殺
2025年、日本では230人以上がクマに襲われ、13人が死亡しました。とくに秋田県や岩手県など東北地方で被害が集中しました。
ガーディアンはその背景として、クマ増加説ではなく、熊森が主張する記録的な暑さによるブナやドングリ類の不作、人口減少が進む農山村で放置された果樹園や森林が増えたことなどを挙げています。
こうした状況を受け捕獲が強化され、2025年4月から2026年1月までのわずか10カ月間で、1万4,000頭を超えるクマが捕殺されました。うち約1万2,000頭がツキノワグマ、約2,000頭がヒグマです。
●本当に日本には「4万2,000頭」もクマがいるのか
ツキノワグマは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「Vulnerable(危急種)」に分類され、世界全体でも6万頭未満と推定されています。
一方、日本国内では約4万2,000頭が生息するとする推定値が使われていますが、ガーディアンは、この数字自体にも大きな不確実性があると指摘しています。
全国規模でツキノワグマの個体数が推定されたのは2011年で、当時は約1万3,000~2万1,000頭でした。その後使われるようになった約4万2,000頭という数字を裏付ける新たな全国調査は行われていません。
IUCNクマ専門家グループ共同議長のデイブ・ガーシェリス氏は、個体数推定が大きく間違っていれば、「4分の1を減らしているつもりが、実際には半数を失っていた」という事態も起こり得ると警告しています。環境省は今年、新たな全国統一手法によるクマ生息数推定調査を始めましたが、結果が出るまで約3年かかる見込みです。
●大量捕殺をしても人身被害は続いている
ガーディアンが問いかけているのは、これほど多くのクマを捕殺して、本当に人身被害は減ったのかということです。
今年4月以降も、少なくとも9都県で35人以上がクマに襲われ、6人が死亡しています。
それにもかかわらず、政府は今年度さらに8,800頭を捕殺する目標を掲げています。
室谷会長はガーディアンに、クマの数を減らすことだけに重点を置く政策では、クマそのものがいなくなるまで問題は解決しないとの懸念を伝えました。記者が熊森の懸念を理解されたもようです。
●「クマは増えている」とする研究者の見解も
記事では、当協会と異なる見解も紹介されています。
日本クマネットワーク代表の小池伸介氏は、中央日本のある調査地域では、2023年にツキノワグマが年間11~12%増加したとの研究結果を紹介しています。
ガーディアンはこうした見解も示したうえで、そもそもの個体数が正確に分からないまま、大量捕殺を続けることの危険性についても取り上げています。
●クマが暮らす森で何が起きているのか
記事の後半では、当協会研究者が現地で調査してきた「森の異変」を詳しく紹介されました。
ミズナラなどの広範囲な枯死、ゾウムシ類によるドングリへの被害、ブナの実りの悪化、花粉を運ぶ昆虫の減少による液果類の実りの低下などです。
クマが山から出てきたとき、「クマが増えたから」とだけ考えるのではなく、その前に、クマが暮らしている森で何が起きているのかを見る必要があります。
これは、当協会が長年訴え続けてきたことです。
●軽井沢では30年以上「殺さない対策」を実践
ガーディアンは、長野県軽井沢町で活動するピッキオの取り組みも大きく紹介しています。
軽井沢では、訓練されたカレリア犬による追い払いや、必要に応じて麻酔で捕獲して山へ戻すなど、「現れたクマを殺す」のではなく、人里へ近づかないことを学習させる対策を続けています。
ピッキオによれば、軽井沢周辺の農村・集落地域では2015年以降、人がクマに襲われる事故は起きていないとされています。
●海外でも「無差別な捕殺」の効果に疑問
さらに記事では、カナダや米国の研究も紹介されています。
広範囲にクマを捕殺する方法は、問題を起こした特定個体への対応などと比べ、長期的には人とクマとの軋轢を減らす効果が乏しい場合があるとされています。
放置果樹や耕作放棄地を管理し、人里をクマにとって魅力の少ない場所にするなど、捕殺以外の対策も提案されています。
●私たちが求めるのは「人とクマのすみ分け」
当協会が求めているのは、クマを人里に放置することではありません。
人の生活圏へクマを寄せつけない対策を徹底すると同時に、クマが本来暮らせる奥山を再生し、人とクマの「すみ分け」を取り戻すことです。
1万4,000頭ものクマを殺しても、人身事故は続いています。
さらに8,800頭を殺すことで、本当に問題は解決するのでしょうか。
人の安全とクマの命、その両方を守るために、捕殺一辺倒ではないクマ対策へと転換するときです。
熊森の保護飼育グマである「とよ」の写真も大きく掲載されています。
日本のマスコミが熊森を一切取材しない中、イギリスの新聞社が日本のクマ研究者の意見と共に民間の自然保護団体である熊森の主張も大きく載せて両論併記しているのは、日本より民主主義が根付いている証拠で、すばらしいと感じました。