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2026/03/13

要望・提案
クマ生息推定数について、環境省ガイドラインの問題点(山上俊彦 統計学専門 元日本福祉大学経済学部教授)

環境省は、「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ編)令和7年度版(案)」についてのパブリックコメントを募集している。
当該案は、全クマ類の生息数が増加、生息域が拡大したという前提で構築されている。そのため駆除一辺倒の偏った内容となっており、生態系の維持等への配慮の欠け、生物多様性条約の趣旨に反するものとなっている。
筆者は情報公開等を受けて、クマが生息する都道府県の統計学を用いた生息推定数について、検証をしてきた。以下では、生息推定数の科学的根拠という観点から、ガイドラインの問題点を指摘する。

1 可能性を科学的事実と解釈していること
ガイドライン案では生息状況として、分布域の拡大図と各道府県別の個体数推定結果の経年比較を提示し、そこから、「四国を除き全国的にクマの分布が拡大した」、「過去と比較して個体数は増加傾向であると考えられる。」と記述している。
しかし、これらのデータから読み取れることを正確に述べると、分布域が拡大した可能性がある、個体数は増加した可能性があるということに過ぎない。
クマの個体数が増加したから分布域の拡大につながったという一つの可能性は事実として受け入れられやすいが、この説明には重大な欠陥がある。
環境省は、当該案の後段でいきなり、「個体数の増加」したと断定している。つまり「可能性」から「事実」へと論理すり替えを行っている。そして、「保護管理施策」を増加要因とし、さらに、「人の生活圏周辺がクマの生息に適した環境に変化しつつあり、集落周辺への個体の定着が進んでいること」を生息域の拡大要因としている。
しかしながら、この説明は捕獲上限を大きく上回る闇雲な駆除が行われている実態に合わない。過剰な捕殺は個体数の減少要因である。さらに仮に捕獲数を抑えたとしても餌と住処がなければ個体数増加につながる保証はない。人里周辺の定着は生息域の拡大ではなく生活圏が外縁部にシフトしたものである可能性が高い。
環境省は、検証が不十分な推定を科学的に検証できた事実のように扱っているといえる。

2 奥山での生息調査で「生息密度が減少する傾向は示されていない」との記述の問題点
ガイドライン案では、「多くの道府県では特定計画の改定にあわせて、個体数推定のための生息調査が実施されている。ヘアトラップ法やカメラトラップ法を用いた生息調査では、クマの生息地である奥山等で調査が実施されているが、それらの調査地において生息密度が減少する傾向は示されていない。」としている。これは個体数が増加したという環境省の主張を補強するために挿入したと考えられる。この箇所についてもう少し深く検討してみる。
環境省の提示する分布域は目撃情報を基に作成されている。餌を求めてクマの移動距離が長くな
れば必然的に分布域は見かけ上拡大する。
ガイドライン案で提示された道府県別個体数推定値は、奥山の生息密度に森林面積を乗じて個体数とするという外挿の危険を冒したことが行われている。
たとえば、奥山であっても健全な自然林と放置人工林やナラ枯れによってほとんどのミズナラが枯死してしまった場所では生息密度は大きく変わるこのことが十分に考慮されていない。
さらに問題を難しくしているのは、調査の制度設計とベイズ法の使用法である。
個体数調査を秋に実施した場合、あるいは堅果類が豊作の年度に実施するとクマは山奥に移動するので、生息密度は高くなる。ただし、この場合、周辺地域の生息密度は低下する。
調査の中では、ドングリを求めて移動するクマの移動経路に当たる地点で移動時期に調査しているものもあった。クマが集まる時期に奥山で調査をすると、生息密度が0.8/㎢前後というあり得ない値になってしまう。
調査毎に調査地点を変更していることも問題となる。このような調査ででてきた生息密度に県全体の森林面積を乗じると、とんでもない個体数となる。
奥山での生息調査で「生息密度が減少する傾向は示されていない」とのガイドライン案の記載は、どのような場所、どのような時期のどのような調査でそのような結果となったのか、科学的根拠を明らかに示すべきである。
現状の都道府県の生息推定数は過剰推定になっている可能性が高いというのが、生息推定の過程を検証した筆者の結論である。

3 「ベイズ法」という統計学上の手法を用いる問題点
生息数の推定のさらに大きな問題はベイズ法の使用方法である。
ベイズ法自体は統計学では、よく用いられる手法で、「R」という無料ソフトに「WinBUGS」や「SPACECAP」を接続すると誰でも簡単に生息数推定のためにPCを作動させることができる。
ただし、難しいのは生物学的にパラメータ(モデルで確率変数として扱う未知の数値)の値が妥当となるまで設定のやり直しが必要であるということである。ベイズ法はパラメータの設定で無数に解が存在する。現状は、個体数が大きくなるような結果を選んでいるように思われる。そのために、各道府県の調査でも、生物学的にあり得ない高い値を出している場合がある。
推定の技法的な問題については、私のレポートが日本奥山学会HPに掲載されているので参照いただければ幸いである。
「クマの生息数が増えたから出没が増えたのか?生息数推定の問題点」
https://x.gd/xhtZu

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