2025/12/05
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今年、クマのニュースを見ない日はないと言っていいほど、全国各地で出没や被害が報じられました。 「クマが増えた」「人を恐れなくなった」「一気に数を減らして管理すべきだ」 テレビやネットには、そんな見出しやコメントがあふれています。
しかし、本当にそれが「事実」なのでしょうか。
当協会は、いま必要なのは“数合わせの議論”ではなく、本当に山で何が起きているのかを直視することだと考えています。 そのため12月7日現地神戸開催とオンラインで、森と野生動物の現場を長年見つめてきた専門家3名を迎え、講演・パネルディスカッションを開催します。
開催に先立って、登壇予定メンバーと当協会室谷会長で意見交換会を行いました。 語られた内容は、メディアの「通説」とはまるで違う、驚くほどリアルで、しかし希望の見えるものでした。
その意見交換会の一部をご紹介しながら、当日のパネルディスカッションのみどころをお伝えします。
■金井塚 務 氏(広島フィールドミュージアム/森林生態)
森を「一本の木」や「一種類の動物」ではなく、多種多様な生き物が複雑に絡み合った生態系のまとまりとして見続けてきた研究者です。戦後から続く森林政策の変遷、林業・農業の構造変化、里山から奥山に至るまでの土地利用の変化など、長い時間軸のなかでクマ問題を位置づける視点を持っておられます。
意見交換会の中で、金井塚先生は、次のような点を強調されました。
・ 「九州ではクマが絶滅したが人は生きている」という言い方は一面的であること
・ クマがいなくなっても、森の多様性が失われた地域では、人間の暮らしの質も確実に落ちていること
・ 「クマが増えたから町に出ている」「人を恐れなくなった」などの言説には、現場の実感と合わない部分が多いこと
「クマの数の増減だけで語るのではなく、森林生態系そのものの劣化と、社会環境の変化との相互作用を見なければならない」
特に、戦後の拡大造林による人工林化が、どのようにドングリ・ブナなどの餌資源を減らし、生態系全体を単純化させてきたのか。イベント当日は、「なぜ今、クマが町に出るのか」を、数年・数十年ではなく“戦後の歴史全体”から読み解く話が聞けます。
■泉山 茂之 氏(長野県/クマ保護管理・現場実務)
泉山先生は、約30年前からクマの保護管理に携わり、「殺さずに人と共存させる」ための具体的な仕組みを、現場で作ってこられた方です。
・ 当時まだ「特定計画」がない時代に、長野県が先駆けてクマの保護管理計画を作成
・ できる限りクマを殺さず、山へ帰せる個体は帰す方向で運用
単なる「放して終わり」ではなく、その地域でこれ以上問題が起きないようにどう環境を整えるかを軸に、考え方が進化してきたことがわかります。
泉山先生が長年の現場から掴んだ実感は、一般的なイメージと大きく違います。
・ クマ社会の“弱者”(たとえば若いクマ)は、強いクマの少ない「人のそば」のほうが安全だと学ぶ
・ 遊歩道や温泉街に出てくるクマの中には、「人は危険ではない」と学習した無害な個体も多く、人の側が危険とわかれば行動が変わる
・「人のそばに出る=危険なクマ」と一律に見なしてしまうと、本当は危険性の低い個体まで排除してしまう危うさがあります。
意見交換会では、こんな話も出ました。
・ 捕獲上限の目的は「取り過ぎ防止」であり、クマを減らすこと自体が目的ではない
・ 「戻ってくる可能性」を前提に、その間に電気柵などの対策を整えるべきだという考えで運用している
・ また、1993年に管理計画を作ったことで、初めて錯誤捕獲の多さが見えてきたこと。その状況がいまも続き、動物福祉上の大きな課題になっていること。 さらに、イノシシを半減させるという国策が、結果的にクマにもダメージを与えていることなど、政策レベルの話も具体的なデータと共に語られました。
泉山先生からのメッセージの根幹は、「放獣は“クマを増やすため”ではなく、人身事故を減らすための合理的な手段なのだ」ということです。
■藤沼 弘文氏(岩手県/猟師・現場実務)
藤沼さんの話は、岩手が直面している現実の重さをそのまま持ち込むものでした。
・ 岩手では「1000頭捕獲計画」が進行中で、「今月中に1000頭は獲るだろう」という状況
・ 「山の中に食べ物が一切ない」ため、本来奥山にいるべきクマが町へ出てくる
・ ここ数日、緊急要請がほとんどゼロ 「ほとんど獲りつくしてしまったのではないか」という、強い懸念。
・ 罠にかかったシカをクマが食べることで、一部の個体が肉食化しているのではないか、という現場の肌感覚
本来、捕殺すべきなのはこうした「明確に危険な個体」ですが、クマであれば何でも捕殺という現場に、クマとの共存の危機を強く感じておられました。
・ 「柿の木を切ればクマは来ない」という声があるが、エサがない年に柿まで切るのは逆効果
・ 藤沼さんが反対しているのは、「人身事故が起きた、だから片っ端から柿を切る」という乱暴な議論
・ 現場では「どうしても危険なものだけ切る」など、丁寧な判断で対応していること
同時に、「山を再生しよう」という動きが芽生えていることも、現場の大きな希望です。
◆ 室谷会長(日本熊森協会)
最後に、日本熊森協会・室谷会長からは、国レベルの「クマ対策」の問題点が語られました。
国は補正予算も含め、秋田・岩手のように「クマの数を減らす」方向の緊急対策を打ち出しています。 その背景には、「クマの数が増えたから事故が増えた」という前提があります。
しかし会長は、「獲れば出なくなる、数を減らせば事故が減る―そんな単純な話ではない」とはっきり指摘します。
実際、2023年には全国でかなりの頭数が捕獲されましたが、それで人身事故が劇的に減ったとは言えません。 「数」をいじるだけでは、山の荒廃や餌資源の欠乏という根本原因には一切触れていないからです。
会長が強調したのは、「費用対効果」の視点です。
・ 有害捕獲に多額の予算をつぎ込んでも、長期的な被害軽減にはつながりにくい
・ 限られた予算を、バッファーゾーンの整備、追い払い犬の活用、家屋侵入など個別ケースへの継続的な支援、山の再生・餌資源の回復といった施策に振り向けるべき
「人命がかかっているから駆除なんです」と政治家は言いますが、それが本当に人命を守る最善の方法なのか、一度立ち止まって考えなければならない、というメッセージでした。
■ 4人の話が交差して見えてきた「全体像」
意見交換会の中で気づかされたのは、立場も地域も違う4名が、次の点で驚くほど一致していたことです。
当日のパネルディスカッションでは、こうした論点をさらに掘り下げながら、「それなら、これから何をすべきか」を、登壇者と会場のみなさんと一緒に考えていきます。
■ こんな方にこそ、参加してほしい
・ クマのニュースを見るたび、胸が締めつけられるような思いをしている方
・ 「結局、クマは増えているの? 山はどうなっているの?」と疑問を感じている方
・ 地域で出没に悩んでいる自治体・住民・関係者の方
・ 森林や生物多様性に関心があり、将来の日本の山の姿を真剣に考えたい方
・ 流れてくる情報に振り回されず、「現場の声」を直接聞きたい方
専門的な知識は必要ありません。登壇者のみなさんは、難しい用語を避け、できるだけ具体的なエピソードを交えながら、どなたにも伝わる言葉で話してくださいます。
「正しく知ること」が、いちばん最初の対策です
クマの出没・被害が続く中で、社会には「恐怖」と「怒り」だけが増え、その一方で、「山で何が起きているのか」「私たちはどう変わるべきか」という肝心な問いは、置き去りにされがちです。
・ 人の命を守るには、何が本当に有効なのか
・ クマを含む野生動物と、これからどう付き合っていくのか
・ 壊れてしまった山や森を、どうやって回復させていくのか
その答えを、現場を知る人たちと一緒に探るための時間です。
クマのニュースに心を痛めてきた方にこそ、ぜひ参加していただきたい。 孤立して不安を抱えていた方に、事実に基づいた視点と、具体的な希望を持ち帰ってもらえる場になるはずです。
■ シンポジウム概要
日時:2025年12月7日13:30〜17:00
会場:神戸商工貿易センター第8会議室(オンライン同時開催)
登壇者:
・ 金井塚 務(広島フィールドミュージアム)
・ 泉山 茂之(長野県・クマ保護管理 実務)
・ 藤沼 弘文(岩手県・猟師/実務者)
・ 室谷 悠子(日本熊森協会 会長)
形式:講演・パネルディスカッション+質疑応答
参加費:無料
主催:一般財団法人 日本熊森協会
※現地参加枠が満席となりました。オンラインは上限なくご参加受け付けております。ぜひお申し込みください。
※お申し込み〆切は12月6日(土)18時まで※延長しました。
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