お知らせ

2025/06/20

くまもりNews
クマ危険鳥獣と定義、緊急銃猟の導入、環境省が法成立後にパブコメ、6月19日〆切

(環境省のクマに関する最近の法改正)

2024年4月 クマ指定管理鳥獣

環境省は絶滅寸前の四国のツキノワグマ個体群以外のクマ・ヒグマを、シカ・イノシシに次いで指定管理鳥獣に指定し、クマの捕殺を推進する制度を創設しました。

2024年5月 鳥獣保護管理法 第38条の改正に対するパブコメ

環境省は矢継ぎ早に、次は、住宅集合地域に出て来たクマの銃猟を規制緩和するため、鳥獣保護管理法 第38条の改正に着手。「鳥獣保護管理法第38条の改正に関する対応方針 (案)」という表題で、パブコメを取りました。
住宅集合地域に出てきたクマは、警察官の発砲許可を待たなくても市町村の許可でクマ銃猟ができるようにするという内容です。
熊森は、住宅集合地域に出て来たクマであっても、人身事故を起こさせずに山に返すことが可能な場合が多いので、本当にやむおえない場合以外は、原則非捕殺対応とすると明記の上での法改正となるよう環境省に申し入れました。

2025年2月21日 クマ危険鳥獣、緊急銃猟

閣議決定が終わって出て来た環境省案を見て、熊森は目を疑いました。改正案は38条だけだと思っていたら、(注:閣議決定されるまで、国民は法文を見ることができない)第2条に新たに「危険鳥獣」という名称の定義が追加されており、危険鳥獣とは、 熊その他の人の日常生活圏に出現した場合に人の生命又は身体に危害を及ぼす恐れがあるとして政令で定める鳥獣のことで、クマとイノシシを想定しているとのことです!!!私たちにとって寝耳に水でした。

人であれ、動物であれ、レッテル張りほど恐ろしいものはありません。レッテル張りによって、人々は思考停止してしまいます。ただでさえ、昨今わが国のマスコミはクマへの恐怖を煽る過剰報道にあふれており、クマ=危険という間違ったイメージが国民に植え付けられてしまっているのに、さらに法律で、「クマ危険鳥獣」と定義されてしまうと、クマ=危険鳥獣→捕殺するしかないとなり、ますますクマの殺処分が加速されて、豊かな水源の森を造ってきた平和的なクマが絶滅させられてしまう恐れがあります。

熊森は、クマの絶滅を心配する猟友会の方々にも入ってもらって、本部・支部をあげて、クマ危険鳥獣の定義付けを止めようと記者会見をしたり、環境省、衆参国会環境委員会議員に訴えて回るなど、総力を挙げてクマ危険鳥獣の法定義を止めようとがんばりました。

2025年4月17日 改正法案成立(浅尾 慶一郎 環境大臣)

あと一歩のところで力及ばず、残念ながら、改正法案は環境省の原案通り通ってしまいました。

2025年5月21日~6月19日 パブリックコメント

環境省はすでに国会で成立した​
・ 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行令の一部改正
・ 鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則の一部改正
に対して、パブリックコメントを国民に求めました。すでに上の法律はもう国会の衆参本会議を通ってしまっていますから、今回のパブコメで国民が何を書いても、内容が変更されることはありません。
提出された意見の「量」ではなく「内容」を考慮するので、 同一内容の意見が多数提出されたからとして考慮の対象とはならないとの注意書きも書かれていました。

しかし、国民がどのような意見を持ったかは記録に残りますので、以下に熊森の見解を示します。

熊森の見解

今回の改正の趣旨を読むと、大型野生鳥獣による人身被害や生活圏侵入の深刻化を受けて、「危険鳥獣」の政令指定および「緊急銃猟」の制度導入などが示されているが、その背景分析や地域差の考慮がなく、制度設計として一番大切な部分が抜け落ちていると感じる。

まず、「大型獣の生活圏侵入が相次いでいる」の原因分析が見当たらない。出没を減らすための制度改正でなければならないにもかかわらず、なぜ彼らが人の生活圏にまで出てきてしまうのか、という根本的な問いに答えないまま制度的対応を進めても、問題の本質的な解決には至らない。

クマやシカ、イノシシなどの出没が年々増加しているが、(イノシシは、トンコレラで大量死した地域がある)要因は多岐にわたる。具体的には、広大な放置人工林やナラ枯れによる奥山の荒廃、メガソーラーや巨大風車などの再生可能エネルギー事業の拡大による広大な自然林の伐採、かつての農村地帯の過疎化により草が生い茂る耕作放棄地が増加していること、米ぬかなどの誘引物を用いたシカ・イノシシ用捕獲罠の大量設置が野生動物の行動圏を人間の生活圏に近づけていることなどが挙げられる。さらに、人の生活のリズムや行動パターンの変化も影響していると考える。

また、改正案では「危険鳥獣」として、ツキノワグマやヒグマ、イノシシなどが政令で定められているが、これらを一律に「危険」と断じることには疑問がある。確かに状況によっては人身被害も起こりうるが、クマ類については、本来は争いを自ら避ける平和的な動物であり、人間側の適切な対応により回避・追い払いが可能であることも事実である。特にツキノワグマは、音や光、適切な威嚇行動で山へ戻している事例も多く、箱罠やドラム缶檻を用いていったん捕獲してから安全に山へ返している自治体もある。人間側の行動や土地利用の変化、餌資源の枯渇等によって出没が助長されている点を見落とし、「危険」とのラベリングによって過度な殺処分や恐怖感情を社会に流布させることは、動物との共生という理念から逸脱しかねない。長期的には、正しい知識と適切な対応法の普及こそが、人身事故の減少と共存社会の構築につながる。

緊急銃猟制度の導入についても、極めて慎重であるべきと考える。特に市街地での発砲は、第三者への誤射・流れ弾など深刻な事故を招きかねない。今回の制度では、市町村長が銃猟を許可し、実行部隊として地元の猟友会等が対応することが想定されているが、多くの市町村長は銃器に関する専門知識を持たず、市街地銃猟のリスク評価能力に乏しい。また、現場の猟友会メンバーも、熟練するまでには長い年月と経験が必要にもかかわらず、市街地での発砲や緊急対応の経験がないケースが多く、制度として非常に危険である。発砲責任の所在や訓練体制の明確化、地域住民への事前説明・避難体制整備など、付随的な整備が不十分なまま緊急銃猟を制度化することは、行政としての責任放棄に等しい。むしろ、罠で捕獲して山に放獣したり、誘引物排除、電気柵の強化など、非致死的かつ管理可能な手段の拡充にまず注力すべきである。

さらに、制度設計全体として、人と野生動物の「共存」という視点が欠落しているように思われる。人間の都合のみに基づく対応では、持続可能な野生動物管理は不可能である。地域によっては、動物を観光資源と捉え、調査・モニタリング体制を整えつつ、人間と棲み分けるためのルールづくりや啓発活動を進めている事例もある。そうした多様なアプローチこそ、全国的に共有・拡大されるべきである。制度が一方的に「クマ排除」に偏っていることは否めない。

この改正案はすでに国会を通過しており、制度としての方向性を変更する余地はないのかもしれない。しかし、「どのような視点が欠けていたか」「現場は何を懸念しているか」を残すことは、次なる政策形成への足がかりになる。「危険鳥獣」の定義や「緊急銃猟」の制度化が盛り込まれているが、これらは単なる行政手段の整備にとどまらず、私たち社会全体の「野生動物観」を方向づける重大なメッセージを持っている。だからこそ、慎重かつ多角的な検討が必要であると考えます。人と動物が安全に共存できる社会の実現に向けて、制度的対応はより丁寧で、原因に根ざした、地域に即した設計であるべきと考える。

教育現場では、子どもたちに「自然の摂理」や「他者と共に生きる感覚」を伝えることが重要視されているが、今回の制度が「先に危険を定義し、排除を正当化する枠組み」として認識されると、その教育的土壌が損なわれる懸念がある。制度は法律であっても、社会文化に大きく影響する。今回の法改正は「この動物は危険だ」「見たら排除するべきだ」という認識を強化する可能性が高く、とくに子どもたちにとっては、動物への偏見や恐怖心を助長しかねない。今後の運用や次の制度改正に向けて、「排除と管理」ではなく「理解と共存」の方向へと軸足を移すべきである。

上記政令省令の施行日は令和7年9月1日を予定。

パブコメ用改正政令文・改正省令文

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