2025/10/11
くまもりNews
(背景)
我が国のツキノワグマ生息最北地である青森県のクマは他県より生息数も少なく、冬眠期間も11月から翌年4月までの5~6か月間と長期にわたる上、クマの繁殖力は他の大型鳥獣と比べて弱いためか、これまで青森県では他県より人身事故や被害が少なかった。
そのため、青森県としては平成11年(1999年)に鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の一部改正により、シカのように地域的に著しく増加、またはクマのように著しく減少している個体群に対し、科学的、計画的に保護管理する特定鳥獣保護管理計画が当時の環境庁によって創設された後も、クマを特別視して保護または管理(管理=駆除)しようという発想はなく、これまで特定鳥獣保護計画も特定鳥獣管理計画も作成して来なかった。
なお、下北半島のクマは、2002年から現在もなお、環境省のレッドリストで絶滅の恐れのある地域個体群に指定されている。
2023年の東北地方の山の実りはあり得ない大凶作年となったことなどから、クマが餌を求めて山から大量出没するという大異変が起きた。青森県では前代未聞の625頭のクマが大量捕殺され、10件11人の人身事故が発生した。(2006年8人、2017年9人の人身事故が過去最多であった)
また、2024年に環境省がクマを指定管理鳥獣に指定し、管理計画を作れば国からの交付金が出ることになったこともあって、今回、一気に管理計画を作成することになったと思われる。
青森県にはクマの専門家と呼ばれる権威者はおらず、今回の管理計画を検討したのは県外からの若手研究者3名のようである。
熊森パブリックコメントの見出し
1.まず初めに、青森県の自然生態系に於けるクマの重要な位置づけが必要
2.生息推定数があまりにも過大推定となっていることの問題
3.適正頭数算出の根拠を明らかにすべきである
4.捕殺上限割合があまりにも高すぎてクマを絶滅させる恐れがある
5.ゾーニングは無意味どころか有害である
6.放獣しないと決めているが、放獣体制は必要
7.検討会や協議会に自然保護団体を入れること
以下は詳細です。
青森県第二種特定鳥獣管理計画(第一次ツキノワグマ)(案)について
1.<まず初めに、青森県の自然生態系に於けるクマの重要な位置づけが必要>
・自然生態系の中でクマが果している重要な役割が管理計画に抜けているので、冒頭に入れるべきである。
2.<生息推定数があまりにも過大推定となっていることの問題>
熊森は、「令和6年度青森県ツキノワグマ個体数推定調査委託業務報告書」を情報公開請求により取り寄せ、専門家と共に精査した。
下北半島、白神山地、北奥羽内に設けられた一定地区内にて、ハチミツのにおいがするクマ誘引物を使用して誘引されてきたクマの写真を撮り、撮影されたデータから、最尤(さいゆう)法に基づくベイズ空間明示型標識再捕獲法を用いるカメラトラップ法で生息数が推定されていた。

令和6年度調査実施地区(赤点線枠内)
・クマの身体に負担を掛けない方法で生息数を推定している点は評価できるが、誘引物で誘引していることから、どこまでが実際の生息数とみなしていいのか疑問である。ハチミツのにおいだけで誘引していることによるクマへの精神的な負担が考えられる。
推定数結果

・大鰐(おおわに)町はクマの生息密度が高い場所であり、その中に設けられた調査実施地区内の測定値を用いて全地域のクマ生息数を推定しているため、白神山地地域の生息推定数がかなり過大推定になっていると思われる。
・調査実施地区内で得られた生息推定数に、植林地も含む青森県の全森林面積を掛けて生息数を推定しているが、クマが恒常的に生息できるのは広葉樹林であり、全面積を掛けたことにより、実際よりかなり過大推定になっていると思われる。(青森県の針葉樹人工林率は43%)
・クマの行動特性により、何をもってしても自然界に生息するクマの正確な生息数をカウントすることは不可能である。よって、業者が算出した生息推定数にとらわれ過ぎないようにすべきである。
・常識的に考えて、青森県は2020年~2023年の4年間に計1064頭も捕殺しているのに、2024年に生息数が1.37倍に増加しているなど考えられない。
・前回と比較するには、あらゆる点で条件規制がなされていることが必要であり、調査地域や時期、その他が変わると比較できない。
結論として、実際の生息数は今回の公表値の半分程度であると思われる。
・行政の仕事は、クマ数を減らすことではなく、クマが山から出て来ないようにして人身事故や農作物被害を減らすことである。クマが多くいても山から出て来なければ良いのであり、数が極端に少なくても集落に出て来たのでは困るのである。山からの出没数と生息数の多寡は基本的には関係しない。
・野生動物の行動を左右するのは、餌が全てである。
森林内にこれまで通りクマたちの餌が十分あれば、クマは山から出て来ない。昨今のクマ大量出没現象に関しては、山中の餌量に劇的な減少が起きているのではないだろうか。森林面積が多ければよいのではなく、森の中の餌量こそ調べるべきである。
・国土総合開発や拡大造林、観光開発、リゾート開発などにより、我が国が戦後行った奥地森林破壊にはすさまじいものがある。今、人工林の放置やナラ枯れによる森林荒廃、酸性雨による菌類の消滅などが原因かもしれないが森の保水力低下、地球温暖化による昆虫の激減、再生可能エネルギー事業のための森林伐採など、クマたち奥山に生息していた野生動物たちは従来の餌場を失い大打撃を受けている。
反対に、以前、過剰利用でハゲ山になっていた里山は、1970年代のエネルギー革命により使われなくなり、うっそうとした森にもどっている。これをもって、日本の森は昔より豊かになったと言われている人たちがいるが、奥山と里山の違いや、歴史的な日本列島の森の変遷を、今一度勉強していただく必要がある。
クマたちの生息地であった奥山水源の森の荒廃は、山からの湧水の年々の激減をもたらしており、やがて近い将来、私たち人間の生存を脅かすものになると思われる。
行政は山からの出没数と関係しないクマ生息数推定などに予算を使うのではなく、奥山水源の森の再生とクマたちとの棲み分け復活政策実施などによる被害防除である。
日本列島で人間が存続するためには、奥山から私たちが一歩下がらねばならない。
・森の生態系の頂点に位置するクマは、山の実りが凶作で冬ごもり用の脂肪分が体内に十分に蓄えられなかった年は、受精卵を着床させず一斉に出産しない。これによって、自ら生息数を調整していると言われており、この点では人間より高度な動物である。
3.<適正頭数算出の根拠を明らかにすべきである>
・各管理ユニットにおける目標個体数(適正頭数)など、人間が勝手に決めていいのか。適正頭数算出の根拠を教えてほしい。
・自然界の生物数は一定ではなく増減を繰り返すのが生態学の基礎であるから、幅なく適正頭数を一つに固定するのはおかしい。

4.<捕獲上限割合があまりにも高すぎてクマを絶滅させる恐れがある>
・捕獲上限は、環境省のガイドラインに沿うべきである。

環境省ガイドライン
・津軽半島のクマは過去に一度絶滅しているから、生息密度をゼロにするとしているが、過去に絶滅させた反省はないのか。津軽の自然にクマは必要ないと、人間が決めてよいのか。
・目撃数の増加が必ずしも個体数の増加にはつながらない。以前はクマを見かけても通報しない人が多かった。
・出没数の増加が必ずしも生息域の拡大や生息数の増加にはつながらない。(山の中に餌がなければ山から出て来るが、その場合、ドーナツ化現象が起きているだけで、生息域の拡大ではなく生息域の移動である)
・頭数調整捕殺に予算や力を掛け過ぎるべきではない。

5.<ゾーニングは無意味どころか有害である>
・地図上でゾーニングしても、クマにも人にも境界線がわからないので、意味がない。
集落200m以内はゾーニング上、クマ排除地域だからと、米糠などの誘引物を入れたクマ捕獲罠を年中常設している県もあるが、山中のクマを誘引して捕殺し続けているだけであり、集落にもクマにも有害な行為である。
6.<放獣しないと決めているが、放獣体制は必要>
・放獣回帰例はあるが、必ずしも回帰するとは限らない。青森でも実施してみるべきだ。殺さなくてもいい命は殺さないというのは、人間として当然守るべき生物倫理である。

7.<検討会や協議会に自然保護団体を入れること>
青森でも検討会や審議会に、狩猟団体はもちろん、自然保護団体や教育関係者、動物愛護団体など、幅広い分野の人間を入れることで、バランスの取れたクマ政策となる。とりあえず、まず、自然保護団体を入れる所から取り組んでほしい。
青森県がパブリックコメントを募集中
計画案は、以下を閲覧のことhttps://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kankyo/shizen/kumakanri_iken.html
応募期間:令和9月16日(火)~令和7年10月15日(水)
応募方法:住所氏名を明記
形式なし
〒030-8570 青森市長島1丁目1番1号 青森県環境エネルギー部自然保護課
または(電子メール)shizen@pref.aomori.lg.jp まで10月15日必着のこと。
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