2025/12/01
くまもりNews
1950年代当時は、今よりも猟師が多かった時代です。しかし、銃でクマを獲るのは本来とても難しく、昭和の頃は10人を超える規模の規模の巻き狩りをして“やっと1頭捕れる”程度でした。
現在は 箱罠に米ぬかなどの誘引物を入れて捕獲する方法が主流になり、クマの嗅覚の鋭さも相まって、効率的に多く捕れるようになりました。
“たくさん捕れた=クマが増えた”ではありません。
捕獲手法の変化は、捕獲数を大きく押し上げていることが推測されます。
それでも一部メディアやネットでは、裏付けのない“爆発的増加”が語られ続けています。今年、当協会は東北地方の山小屋や山岳ガイドに広く聞き取り調査を行いましたが、「山中がクマで過密になっている」という回答は皆無でした。
秋田県では1984年から、猟師による目視調査で生息数の傾向を追い続けてきました。方法上、過小評価になりがちですが、同じ手法を長年続けてきたという点に価値があり、傾向は読み取れます。

また、秋田県は2020年に、カメラトラップとベイズ推定を組み合わせて 2,800~6,000頭(中央値4,400頭)という推計を発表しています。しかし、この方法を複数年続けたデータセットがない、推定値の精度検証もまだ十分ではない、という理由から、増減のトレンドを語れる段階ではありません。
2005年はブナの大豊作、翌2006年は大凶作という極端な年でしたが、2023年・2024年・2025年のような異常出没は起きていません。(下図)
秋田県で、クマの出没が問題になり始め、捕殺数に顕著な増加傾向が見えてくるのは9年前ほどからです。

つまり、単なる凶作だけでは説明できない新しい問題が加わっています。
近年顕著なのは自然林の劣化です。
・ナラ枯れの急拡大(温暖化などが影響)
・昆虫類の激減
・広域的な人工林の荒廃の深刻化
秋田県の人工林率は約50%に達しており、こうした人工林では木の実や昆虫が少なく、野生動物が利用できる餌資源が著しく不足している状態と言えます。
それでも、森林面積が広いため西日本と比べると広大な豊かな自然林が残っていたといえますが、残った自然林も開発や地球温暖化等で劣化が顕著になり、、クマが餌を求めて里へ押し出されていると考える方が、捕殺数の増加と現象の一致を説明できます。
奥山の劣化とともにクマを里周辺に近づける大きな要因は、中山間地域の過疎化と高齢化です。里山を人が利用しなくなり、空き家や耕作放棄地が至る所にある環境は、人とクマとの境界線を不明確にし、集落にクマが入り込みやすい環境ができていしまっています。
「秋田や岩手のクマ密度は限界だから、思い切って大幅に数を減らし“低密度管理”にすべきだ」という意見があります。しかし、これは森林生態系の基本構造を踏まえていない危険な考え方です。
山の生産力が低下している状態でクマだけを減らしても、根本的な解決にはつながりません。
むしろ、山の餌環境を改善し、クマが自然に山にとどまれる条件を整えることが必要です。
また、人が生活している周辺については、クマを寄せ付けないための防除や環境整備に力を入れる必要もあります。
秋田スギの原生林のように、ブナやミズナラが混在する天然林には大きな問題はありません。秋田など日本海側の地域では、天然スギと混交して、ヒノキアスナロ(ヒバ)、クロベ(ネズコ)、キタゴヨウ、ブナ、ミズナラ、イタヤカエデ類、トチノキなどの樹種が生育しています。

一方で、広大に広がるスギ・ヒノキ人工林では、実や昆虫が乏しく生態系が脆弱なうえ、管理不足による過密化で土砂災害のリスクも高まっています。
こうした問題の背景には、保育や間伐が追いつかず、担い手不足が深刻化している現在の林業構造があります。
このままでは広域の森林を持続的に維持していくことは困難です。
そのため、国として天然林化への転換を進め、管理コストを軽減しながら森林の長期的な安定性を確保する方向へ舵を切る必要があります。
天然林化への移行期に必要となる伐採・植生回復・保全管理などの業務は、奥地で新たな雇用を生み、地域の林業・森林保全産業の基盤強化にもつながります。
「ドングリさえ増やせばクマの出没は減る」という単純化も現実には成り立ちません。
「ドングリ」といっても樹種ごとに栄養価・成熟時期・結実周期が異なり、個体差や虫害の影響も大きいため、量を一律に扱えないからです。
また、温暖化によってブナ・ミズナラ帯が将来的に縮小する可能性を考えると、クヌギ、アベマキ、クリなど、より暖かい地域に強い広葉樹の導入も選択肢として検討すべきです。
1992年、兵庫県のツキノワグマは“残り60頭で絶滅寸前”と言われていました。しかし後年、その数字に科学的根拠が乏しかったことが判明しています。
その後25年で突然“爆発増加”したのではなく、当時から実際には数百頭は存在していたと見る方が合理的です。
数字に科学的根拠があるかどうか。これは現在の東北の議論にもまったく同じことが言えます。どんなときも必要なのは冷静な見極めです。
日本の山の複雑な地形・植生・行動圏を考えれば、クマの正確な頭数を把握することは今後も不可能です。
本来必要なのは“頭数管理”ではなく、昔のようにクマが山から降りてこない環境を取り戻すこと。
クマは森林更新・種子散布・生態系維持に重要な役割を持つ動物で、少しだけいればいいという存在ではありません。
地方行政には、明確に「鳥獣行政を担当する専門官」が必要です。
目の前の出没対応だけでなく、被害防除やクマを寄せ付けない環境整備、奥山の豊かさの再生という長期的課題を扱える専門性が欠かせません。
私たちが今考えるべきは、「どうクマ数を減らすか」ではなく、「どうすればクマが山にとどまり、人も安全に暮らせるか」です。
【参考資料】
参考:秋田県のツキノワグマ生息数推定についての検討|山上俊彦氏
出典:東北森林管理局|ブナ開花・結実調査
https://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/sidou/buna.html
出典:林野庁|都道府県別森林率・人工林率(令和4年3月31日現在)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/genkyou/r4/1.html
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