お知らせ

2025/12/05

要望・提案
冬眠期および春グマ駆除の拡大に強く反対し、 調査研究に5億もの予算を割くのではなく喫緊の被害防除への予算重点化を求めます
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  • はじめに

政府は、この度、2025年度の補正予算案にクマ対策として過去最高の34億円を計上し、クマの捕獲やガバメントハンターの養成、クマ生息数推定調査の実施や広域的データ収集に予算を配分する方向性を示しました。

政府が公表したクマ被害対策パッケージの中には、冬眠中や冬眠明けのクマを狙って狩猟する春グマ猟の実施も入っています。


日本では現在、クマは狩猟対象獣でヒグマの狩猟期間は101日から131日までの4ケ月間、ツキノワグマの狩猟期間は11月15日から2月15日までの3か月間、(ただし、場合によっては、11月1日から2月末までの4か月間も可能)となっています。

この期間以外に、以前、北海道ではヒグマの足跡を追いやすい残雪期である2月から5月に、冬眠中や冬眠明けのクマを捕獲する春グマ猟が実施されていました。クマが冬眠から覚めて穴から出てくる3月中旬頃はまだ木々の葉が芽吹いておらず、地面は残雪で覆われているため、クマを見つけやすくて1年で一番狩猟しやすい時期です。以前行われていたこの時期の猟により、1980年代後半になるとヒグマの生息数が各地で大きく減少し、地域的には絶滅も危惧される状態になったため、春グマ猟はヒグマ絶滅政策と批判されるようになり、1990年にいったん廃止されました。2023年から北海道では春季管理捕獲の名で、穴グマ猟や春グマ狩りが再導入されています。

今回の政府クマ被害対策パッケージには、この春グマ猟が、北海道以外の地域でも導入されることになっており、日本熊森協会は、これに深い懸念を持つとともに、明確に反対を表明します。

 

  • 命と安全を守るために効果的な方法とはいえない

冬眠期および冬眠明けのクマを狙う春グマ猟は、人里に出てきた問題を起こした個体と無関係に冬眠中のクマを捕殺するという方法で、人命を守るという目的に対して効果的ではなく、科学的根拠も欠いており、かつて、北海道で乱獲が問題となったとおり、むしろクマ絶滅のリスクを高める重大な問題を抱えていると考えます。

 

  • 冬眠中のクマを殺すことは、社会が越えてはならない一線です

山の中やクマたちの生息地となっている広大な平地の森の中にいるクマの生存は保障されねばならず、そうでなければクマとの共存は不可能です。

冬眠期のクマは極度に体力を消耗しており、母グマであれば巣穴で授乳中、仔グマは自力では生存できません。この段階での捕殺は、巣穴に残された仔グマの確実な餓死につながります。これは単なる生物管理の議論を超え、母子の保護や弱者の保護という、文明社会の倫理基盤に関わる問題です。しかも、捕殺されるクマは何も問題を起こしていないクマです。

かつての我が国の狩猟文化に存在した「冬眠中は撃たない」「子連れは殺さない」という最低限の規範を、国が率先して踏み破ることは、私たちの社会の価値基準を大きく揺るがすもので認めることはできません。

 

  • 春グマ猟は被害抑制に寄与しない

春グマ猟が人身被害の減少に寄与するという根拠はありません。集落から離れた山や森の中で暮らして、人間との折り合いの付け方を母グマから教えられている成獣を除去すると、経験不足の若年個体が人の生活圏に出没しやすくなると言われています。現在の我が国のクマ出没増は、自然現象である木の実の豊凶だけによるものではなく、戦後の森林政策やさまざまな開発、温暖化や再生可能エネルギーによる森林伐採などにより、森の中や川の中の餌資源が崩壊していること、捕獲用の誘引物入り箱罠や調査のためのトラップなど人為的誘引要因によって生じていると考えられます。世界の研究では致死的管理より予防的管理の方が最も効果的であることが示されています。目的(人命保護)に対して手段(春グマ猟)が適合していないことは明白です。

 

  • 生息推定数調査と研究偏重に対する強い懸念

政府はより正確なクマの生息数推定と研究の強化を示していますが、現状には都道府県によって調査手法が統一されていないこと、ヘアトラップやカメラトラップなど最先端の科学技術を用いても生息推定数の信頼区間幅があまりにも大きすぎること、痕跡調査などは誤差が大きくて個体数推定の根拠として精度に乏しいこと、広域統計を得るには膨大な時間・人材・費用が必要であること、そして調査が整備される前に被害と社会不安が進行するという問題があります。

そのため当協会は、研究や統計の精緻化に多額の予算と時間を費やすよりも、まず現場で進行しているクマ被害を確実に減らすことに予算や政策の重点を置くべきだと考えています。今まさに必要とされているのは、人の生活圏にクマを寄せ付けないための防除体制の整備であり、放置果樹や残渣、放任竹林といった誘引要因を取り除く取り組みであり、対応に当たる現場の人々への支援であり、そして住民が安心して暮らせる環境を確保することです。こうした即効性のある対策こそが、人命保護という目的にもっとも直結するものであり、国が最優先で取り組むべき施策だと私たちは強く主張します。

市町村等の住民の声を直接受ける自治体も、予算がもっとあれば、クマを集落に寄せ付けない被害防除にもっと取り組みたいと考えています。

 

  • 被害の背景は「環境構造」にあり、捕殺では解決しない

被害の根底には、里山管理放棄、緩衝帯の消失、ナラ枯れによる餌資源の広域崩壊、温暖化による昆虫の大量絶滅、放置果樹や残渣などの誘引要因、再エネの乱開発、そして人口減少による管理主体不在といった構造的問題があります。これらを放置したまま捕殺依存を進めれば、被害は長期的に続行し悪化します。効果が出ないことから、さらに捕殺を進めれば、クマは絶滅するでしょう。

 

  • 人命を守るための実効性ある代替策

当協会は、理想論ではなく、人命保護と自然保全を両立できる現実的な道筋として、生活圏側の防除体制の強化、誘引物除去と収穫管理、電気柵の適正設置と維持、緩衝帯整備と里山強度間伐、ナラ枯れ対策と奥山奥地の広葉樹資源回復、住民指導と遭遇回避、通報と初動のネットワーク、犬による追い払いなど、致死に依らない選択肢の導入を推進するための専門員の徹底配置を求めます。

 

冬眠期および春グマ駆除の拡大は、人命を守らず、科学的根拠を欠き、倫理に反し、社会と自然に長期的悪影響を及ぼし、子供の精神衛生や教育にも悪影響を与え、さらに予算配分の優先順位を誤らせます。日本熊森協会は、殺処分依存ではなく、被害を未然に防ぐクマ被害防除政策への抜本的な転換を強く求めます。

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