「化石燃料からの離脱を」と訴えるマッキベンと「350.org」はどこから資金を得ているのか? アメリカ証券取引委員会のファイルを調べると、世界の食肉消費を促進する主要企業の一つ・マクドナルド、プラスチック汚染の主な生産者であるコカコーラ、地球上の森林破壊の主な投資家であるブラックロック…などの名前が浮かび上がる。
別の番組では女性キャスターがマッキベンに「資金はどこから?」と聞く。彼は少し口ごもり、ごまかそうとし、「ロックフェラー?」といわれると「ロックフェラーは一番最初からの同志だ」と答えた。
アマゾンの先住民が多国籍企業に抗議する映像が浮かび上がる。自動車や航空機を動かす、石油の代替としてのバイオ燃料をつくるために、アマゾンの森林は破壊され、先住民は田畑を奪われて力ずくで追い出されている。先住民の女性が「私たちはただ人間として生きたいだけだ」と涙を流して抗議している。
原子力発電所を建設してきた世界最大の総合電機メーカーGEは、今風力発電の建設に力を入れている。そのGEの研究所では、海中の海藻を大規模にとってバイオ燃料にする研究が進んでいる。画面に映し出された豊かな海藻群は、しばらく後には根こそぎとられてなくなっていたという。彼らの強欲はとどまるところを知らない。
映画の最後の場面で、すべては覚えていないが、「資本主義による環境運動のハイジャックは終わった。環境保護主義と資本主義は融合した」「本来の環境運動をわれわれの手にとり戻し、億万長者が盗んだ私たちの未来をとり戻せ」というメッセージは鮮烈だった。
私益のために情報統制 現代版のファシズム
B この映画を観て印象に強く残るのは、再生可能エネルギー・ビジネスのインチキだ。そもそも風力にしろ太陽光にしろバイオマスにしろ、化石燃料を使わなければつくることも稼働することもできないし、そうした再エネをつくればつくるほど、地球の裏側ではアフリカの熱帯雨林やアマゾンの森林をますます破壊し、自然の生態系も破壊し、そこで暮らす人々を生きていけなくしている。なにが「再生可能」か、なにが「地球に優しい」かだ。この強欲さが、日本全国で風力発電をつくるやり方にもあらわれていると思う。
もう一つはウォール街と環境保護運動のリーダーとの癒着、一体化を遠慮会釈なく暴露していることだ。環境保護運動といえば、今の体制に反対する革新側と見られがちだが、実はそのなかに権力側と裏で手を握り合っている者がいる。そして「CO2削減」とか「気候変動」とかいって再エネがクリーンであり進歩のようにいいつつ、もっと大事な問題から目をそらせ、その働きで利益を得ている。これまでも原発や捕鯨問題などで指摘されてきたが、映画でここまであからさまに描いたのははじめてではないか。
C だから、「著作権侵害」を理由にユーチューブから削除されるということも起こった。事実経過を見ると、米国の映画監督で環境活動家のジョシュ・フォックスが「映画を削除すべし」と呼びかけるメールを、環境保護運動のリーダーでこの映画で何度も登場するビル・マッキベンに送り、それに呼応して環境写真家トビー・スミスが「自分の作品が映画のなかで四秒間流れた」ことを理由に訴訟を起こしたことがきっかけのようだ。つまり、再エネ推進側から見るとそれだけ一番痛いところを突かれた、図星だった、ということだろう。だから大慌てで削除したのだ。
マイケル・ムーアは「おかげでさらに多くの人が観るようになったよ」といっている。日本でももう少し翻訳に手を入れて、多くの人が観られるようにできないかと思う。
D そもそも「CO2(温室効果ガス)による地球温暖化」という評価は、アル・ゴアが『不都合な真実』で衝撃的に打ち出し、国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)がそれを支える形をとって、各国のメディアがくり返し報じてきたものだが、それ自体が科学的な評価ではないと世界の科学者がいっている。
米国のジャーナリストであるマーク・モラノ氏は、多くの科学者の学説やデータをもとに「地球温暖化」論のウソをあばいている(『地球温暖化の不都合な真実』)。IPCCは「温暖化で北極の氷が解け、シロクマが絶滅する。南極の氷も解けて、海面上昇によって2000年までに多くの国の沿岸の主要都市が水没する」といってきた。だが、現在シロクマは20年前の20倍になっているし、NASAの衛星観測によれば南極の氷も増え続けて年ごとに最高記録を更新しているし、加速度的な海面上昇は起こらず、ツバルなどミクロネシアの島々は面積を広げている。
2009年には、IPCCの科学部門を統括する「公正な権威ある機関」の中枢にいる科学者が、地球温暖化を印象づけるために、データをねつ造したり都合の悪いデータの公表を抑えるためにやりとりしたメールが大量に流出して、そのウソがばれた(クライメートゲート事件)。
IPCCの第一次報告書(1990年8月)は、今後もCO2の規制がなければ地球の平均気温は2025年までに約1度C、21世紀末までに3度Cの上昇が予測されるとし、IPCC初代委員長は「2020年にはロンドンもニューヨークも水没し、北極圏のツンドラ帯は牧場になる」といった。この第一次報告書作成の作業部会にかかわった西岡秀三氏(国立環境研究所)は、「ここでは科学の論理は通用しない。出席者は政府を背負う外交官であり、ロビイストであり、NGOである。部会に参加した多くの研究者が、嫌気がさして二度とIPCCには出ていかないと宣言している」とのべている。
A 結局、再エネを推進する側の目的は、CO2を減らして地球を救うことではなく、再エネ・ビジネスでもうけることだ。大量生産・大量消費・大量廃棄という今のシステムを転換するものではなく、逆にもっとやりたい放題にすることだ。
今米国ではバイデンが新大統領に就任し、温暖化防止の国際的枠組みであるパリ協定への復帰、2050年までのカーボン・ニュートラル(CO2の排出と吸収が相殺される状態)、4年間で2兆㌦の環境投資を打ち出した。これに呼応して菅政府も、2050年までに「カーボン・ニュートラル」を実現し、再エネを電力の50~60%に引き上げる方針を表明している。脱炭素革命というけれど、実体は風力や太陽光やバイオマスの発電所を増やすことであり、石油の替わりに電気やバイオ燃料で車を動かすことだ。このカーボン・ニュートラルを2050年までに米国、EU、日本、中国で実現しようとすると、この4地域だけで8500兆円の投資が必要、といった予測が出され、各国の投資家が色めき立っている。