くまもりNews
人間にはわからないクマ推定生息数 わからなくてもいいではないか ヘアートラップ法の欺瞞
野生鳥獣の保護管理(ワイルドライフマネジメント)に取り組む研究者や業者にとって、保護管理をおこなう地域内に対象となる野生鳥獣が何頭存在するのかを、できるだけ正確に把握しておくことが、まず最初に必要なことです。
し かし、一般の方は意外に思われるでしょうが、これだけ科学技術が進歩した21世紀においても、広大な森の中にひそんで生活している野生鳥獣の生息数を推定 することは不可能なのです。そこで、時には対象野生動物の命を奪うことさえいとわない、科学の名を借りた暴力的な調査方法すら考案されます。しか し、そこまでしても、はっきりした推定生息数は出せません。
生息数などわからなくても、人間の所に出て来なければいいではないかと、私たちは考えます。他方、保護管理を仕事としたい人にとっては、そうはいきません。それでは、仕事が無くなってしまうからです。
クマの推定生息数を出すために最近よく使われる調査方法のひとつにに、ヘアートラップ法があります。DNA鑑定まで取り入れた科学的な調査方法として脚光を浴び、いくつもの行政で予算が組まれて、専門家なる人たちがその予算を使い、実施しています。
山 の中で、数メートル四方を有刺鉄線で囲み、真ん中の高い所に、ハチミツやリンゴなどクマの好物をぶら下げておきます。それを狙ってやってきたクマが、有刺 鉄線をくぐり抜けるときに、有刺鉄線にそのクマの毛をひっかけます。その毛を採集して、DNA鑑定を行い、何種類のクマがそこにやってきたのか割り出しま す。そこまではよいとして、これで得られたクマの頭数に、クマが生息すると思われる山林の面積を、掛けるのです。しかし、ちょっと考えてみるだけで、こんな方法で生息数など出せるはずがな いと思われます。
山の状態や動物の生息状況など、自然界は均一ではないからです。
しかもクマの好物をぶら下げて、クマたちを呼びこんでおりますから、集めておいて面積をかけたら、実際より大変多くクマがいることになってしまうのではないでしょうか。
今 年の夏持たれた日本奥山学会の研究発表会で、こんなわたしたちの疑問に、ヘアートラップ法に取り組まれた大学の先生が、みごと答えてくださいました。発表主旨は、「ヘアートラップ法では、クマの推定生息数など絶対に出ない」というものです。この発表を聞いて、DNA鑑定などという、一見神の宣託のような、 一般人が見ることもコメントすることも不可能な世界が、私たちの想像以上にあいまいなものだということがわかりました。
日本で初めてヘアートラップ法を採用し、予算化した行政に、1年後お邪魔したことがあります。「県内に、クマが何頭いたかわかりましたか」とたずねると、「あんな方法でわかりっこないよ。だまされた」と、吐き捨てるように言われたのを覚えています。
行政のみなさんは、大学教授とか専門家とかの肩書きに、本当に弱いんだなあという印象を、ヘアートラップ法だけではなく、あらゆることで、ふだんから感じま す。こんなことになるのは、日本の行政は大変優秀ですが、なぜか3年ごとにコロコロと部署替えをするシステムを採用している為、いつも担当者が素人だから だと思います。言葉は悪いですが、仕事をしたい人お金を欲しい人に、簡単にだまされてしまうのです。
私たちのように、利権 などとは全く無関係に、長年活動を続けている市民団体の声を行政が聞いて、参考にしてくだされば、もっといい世の中になるのではないかと思われます。第 一、私たちの税金を無駄遣いしなくてすみます。ヘアートラップ法を採用されている行政のみなさんに、今年の日本奥山学会での発表DVDをお送りして見ていただければ、こんなことに予算を組むのはやめようと思われると、予測されます。いかがでしょうか。
推定生息数が出たとして、 次に、保護管理派の人たちがすることは、「その地域に対象動物が何頭生息しているのが適正か」という数字をはじき出すことです。ここまで来ると、人間には絶対にわからない領域のはずです。「空が真っ黒になるほどリョコウバトが飛んでいても、大地かと見間違うほどバイソンが地平線まで広がっていても、それは豊かなアメリカの自然だった」という例から 考えてみてもわかることです。
最後に、保護管理派の人たちがおこなうことは、現状は、「多すぎると殺し、少なすぎると増やし、一定数に保つ研究であり、仕事」です。野生鳥獣をなぜ一定数に保たねばならないのか。目的からして疑問です。何度も言いますが、人間の所に出て来なければよいだ けではないのでしょうか。1999年に、当時の環境庁が、保護管理派の言いなりになって、信じて、野生鳥獣の保護管理を我が国に取り入れたところから、全てが変になっていったと感じます。人間に出来もしないことを、しかも、大量の野生鳥獣殺しを伴うことを、始め出したからです。