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カテゴリー「_クマ保全」の記事一覧

2020年の東北地方クマ大駆除の嵐の中で 

東北地方のクマ生息地に住む方と、電話でお話ができました。以下は概要です。

 

去年の秋はとてもつらかったです。たくさんのクマたちが次々と山から出てきました。よほど山に餌がなかったんだと思います。あっちでもこっちでもクマを撃つ銃声が身近に聞こえて、胸騒ぎし通しでした。おなかがすいてたまらなくなって出てきているだけなのに、行政の人は何も感じていないようで、罠を仕掛けてはクマを獲り続けていました。何回クマを撃ち殺す鉄砲の音を聞いたかわかりません。報告しているよりずっと多くのクマを殺していると思います。

 

11月、我が家から50メートルぐらい離れたところにあるカキの木の枝がボキボキに折られて柿の実が食べられていました。クマかもしれない、撃たれるといけないと思って、証拠隠滅のためにすぐ枝を片付けに行ったら、根元に大きな糞がありました。クマだと確信しました。こんな家のそばまでクマが来たことはこれまでありません。よほど餌に困っているんだなと思いました。見回してみるも、明日からの食料になるようなものはもう何もありません。かわいそうになって、米ぬかを運んでやったらどうかと思いつきました。

 

もっと奥に雑草が生い茂っている空き地があるので、そこの地面に一輪車いっぱいの米ぬかを運んでやりました。次の日見に行ったら、ぬかがなくなっており、よくぞここまでと思うくらい地面がなめ尽くされていました。かわいそうに、飢えて冬眠できないんだと思って何度もぬかを運んでやりました。東京の友達にこの話をしたら、ドングリをあげたらいいと言って、すぐに段ボール2箱のドングリを送ってくれました。中を開けたら、3分の1はマテバシイのドングリであとはクヌギのドングリでした。マテバシイは食べないだろうと思ったけれどぬかの跡に運んでやりました。次の日見に行ったら、一粒の殻もなくきれいになくなっていました。マテバシイでも食べるんだとわかりました。今年のクマは飢えすぎて、殻も食べてしまったんだろうと思いました。

 

ドングリがなくなったので、また米ぬかにもどしました。米ぬかばかりだとかわいそうなので、米ぬかの中にカキの実を3つぐらい忍ばせてやりました。12月になって、やがて雪が降りだしました。ある日見に行くと、与えたエサがそのままになっていました。無事冬ごもりに入れたんだと思いました。私は去年1頭だけだったけどクマの命を助けたと実感しています。集落の人たちは、私がクマに餌を運んでいることを感づいていると思いますが、誰も役場に届けないでいてくれました。地元の人たちは、かわいそうに、クマは餌がないんだという感情を持っていますから。

 

しかし、行政の人たちは違います。行政は、クマが出たときくと、罠かけて殺すことしか考えていません。。早くことを片付けて終わりたいだけです。行政で、クマは餌がない、山に実のなる木を植えて餌場を作ってやろうというようなことを考える人は一人もいません。柿の木を伐れ、実をもいで捨てろ。行政が言うのはこれだけ。クマの絶滅を止めようと思えば、この行政を何とかしなければならないと思います。

 

2年前からイノシシが出だしました。みんな、田畑に電気柵を張ったり、いろいろと防除し始めています。大変です。サルは前から多い。シカはまだだけど、これでシカが登場したらどうなるのかと思います。過疎化高齢化した集落に子供たちが帰ってくることはありません。私たちの集落はこれからどうなっていくんでしょうか。

 

1年間に生息推定数の1割以上を殺すと、絶滅に向かうと言われています。

この2年間に殺されたクマ数を、wクリックして見てください。

実際はもっと多く殺されていると思われます。

小泉大臣にすぐ動いてもらわないとだめですね。

推定生息数の真偽は不明です。

熊森から

東北の人たちが、いくら何でもここまでクマを殺したらクマが絶滅するのではないかと感じていることが伝わってきました。生きとし生けるものへの畏敬の念こそ、日本人の自然観であり、保水力抜群の豊かな水源の森を残すことに成功した奇跡の日本文明なのです。

 

それが今、行政付き研究者や行政が、生き物の命をものとしてしか見ない西洋の自然観を地域に持ち込んで、日本を変えてしまおうとしていると感じます。熊森は、危機感でいっぱいです。このような人間中心主義は種の大量絶滅をもたらし、人類をも滅ぼします。

 

日本でクマの大駆除が可能になったのは、1999年に当時の環境庁が、西洋手法のワイルドライフマネジメント(個体数調整捕殺)を導入したからです。行政から予算を付けてもらった研究者が、クマが増えていると言えば、何の被害も出していないクマでもどんどん殺せるようになるのです。

 

当時、熊森は、こんなものを導入したらクマが滅びるとして、この「鳥獣保護法改正案」を廃案にするために国会に一番乗りして国会議員に何度もレクチャーし、命を懸けても阻止しようと闘いました。日本野鳥の会、日本自然保護協会、WWFジャパン、アライブなど、日本中の自然保護団体、動物愛護団体が一致団結してみんなで個体数調整捕殺の導入に猛反対しました。賛成したのは、日本ツキノワグマ研究所所長の米田一彦氏らです。

 

西洋のクママネジメントというのは、東ヨーロッパでは狭い自然界にクマを高密度で放し、給餌して増やし、ハンターに高額料金でハンティングさせてやってもうけ、その収益でクマの餌を買うやり方です。西ヨーロッパはわずかな孤立個体群しかもういない。

(参照「世界のシカ・クマ保護管理の現状と北海道の将来方向」1990年野生動物情報センター発行)

現在、日本は、この西洋型共存を最良として真似しようとしています。しかし、このような共存より、祖先の棲み分け共存の方がずっと優れています。残念ながら、政治的な圧力が働き、この法案は成立してしまい、今日に至っています。熊森は、個体数調整捕殺の導入の撤回をめざし、とりあえず、狩猟と有害駆除以外はクマを殺せないというところまで制度を戻そうと考えています。

 

クマが滅びる前に、何度でも言う。環境省は、個体数調整捕殺の導入を撤回せよ。

 

熊森はこれまで都道府県の鳥獣行政担当者に会報を送り続けてきましたが、熊森をもっと大きくして、1000以上ある市町村の鳥獣行政担当者にも会報を送ることができるようになりたいです。戦後わたしたち人間が破壊した奥山自然林を早急に再生させて、大型野生動物たちとの棲み分け復活をめざすよう、行政担当者のみなさんに伝えて歩かねばならないと思いました。

 

みなさん、ぜひ熊森会員を増やして、熊森をもっと大きくしてください!行政はクマが増えているという行政付き研究者たちの言うことばかり信じていますが、山の餌がなくなっているのに、増えられる要素など何もありません。クマの絶滅を止められなくなってきたと熊森は感じてあせっています。

 

現在、熊森のHPが故障しており、回復のめどが立っていません。

当面の簡易版ホームページを作りました。しばらくはこちらをご利用ください。

https://www.kumamoriweb.org/

 

東北猟友会員の訴え 大駆除現場は違法だらけ クマが絶滅する 山にすぐ餌になる物を植えよ

クマ猟期最終日の2月15日、ネットでクマの保護団体を探して熊森協会を見つけたという猟歴25年の東北地方の猟友会員から、2時間に及ぶ長い告発電話が熊森本部にありました。以下に、彼の話をまとめます。

 

現場では皆殺し

自分は駆除隊の隊員だが、熊森に電話したのは、もうこれ以上、クマを駆除するのが嫌になったから。いくらなんでもひどすぎる。うちも農家だが、農作物を守るというのだったら、追い払うとか電気柵を張るとか、殺す前にまず人間としてしなければならないことがあるはず。そういうことは一切せず、クマが山から出てきたら、みんなで大騒ぎして即、箱罠やドラム缶檻をかける。クマはすぐかかる。去年は、殺しても殺してもクマが出て来た。だからといって、いくらなんでも殺し過ぎだ。日本人のしていること、おかしくないか。もう、クマが絶滅するぞ。

 

届け出があっただけでも、2年間にこれだけ膨大な数のクマが殺された。海外では考えられない。

(グラフは熊森資料:作成熊森協会)

 

ツキノワグマ捕殺数、5位まで  (ダブルクリックで拡大してご覧になってください。)

1、福島県 2、秋田県 3、新潟県 4、山形県 5、群馬県

 

 

山にクマの餌がない

どうしてこんなに多くのクマが山から出てくるようになったのかというと、山に餌がないの一言に尽きる。東北はどんぐりの種類も少なく、昨年はブナ大凶作、ミズナラはナラ枯れで大量に枯れてしまっているから、豊凶発表など意味がない。実がなっていたのはクリだけだった。冬ごもり前の食い込み用の食料が山にないのだ。生き残るためには、クマは里に出てきて集落のカキやクリを食べるしかなかった。ハチも減っているから、虫媒花も実らない。

 

本当はもっと殺している

環境省に届けられた自分の県の有害駆除数を見て、本当はもっと多いのにと思った。届け出ない駆除が結構あるから。駆除したクマは土に埋めることになっているが、誰もそんなことはしない。解体してみんなで肉を分け合って持ち帰り、食べている。

 

違法だらけの現場

最近は山にシカやイノシシを獲るためのくくり罠が無数にかけられている。一番多くかかるのはイノシシ。罠に掛かったイノシシは逃げようとして大暴れする。そのうち、罠のワイヤーが関節にはまって、そこを強力ばねで締め上げるから、足先が壊死する。足先のないイノシシがいっぱい誕生している。

クマが誤捕獲されないよう、くくり罠12センチ規制は守っているが、真円12センチではない。横にはいくら長くてもいいとして緩和されているので、子グマはもちろん、成獣グマも結構かかってしまう。

法律では誤捕獲された野生動物は放獣するとなっているが、くくり罠に掛かった動物には、麻酔をかけない限り危なくて近寄れない。

クマを放獣できる人など県内に誰もいないから、誤捕獲されたらみんな黙って撃ち殺している。県内で1頭だって放獣された誤捕獲グマはいない。

キツネやタヌキも誤捕獲される。めんどくさいから、みんな撃ち殺している。誤捕獲放獣の法律なんか誰も守っていない。日本には監視人がいないし、行政も何も注意しないから、現場は違法だらけ。これが日本の実態だ。

(環境省や小泉大臣は、この現実を知らない。地元では野生動物を守ってやろうという声がだしづらい)

 

クマの餌場づくりを(山中編)

戦後、山にスギばかり植えた、あれ失敗だった。クマの餌が山にもうない。ブナは近年実を付けないし、ミズナラはナラ枯れで枯れている。山奥にクマのえさ場を造ってミズナラにかわる木を植えてやるべき。しかし、木の実は実るまでに何年もかかるので、去年クリを食べて生き残ったクマが今年もう殺されないようにするには、木だけでは間に合わない。今年、すぐ食料になる物を植えることが必要だ。

 

クマの餌場づくりを(山裾編)

山裾と集落の間には、クリやカキをびっしり植えて、クマが山から出て来ないようにすべき。人とクマの棲み分け境界をはっきりさせることが必要。

 

亡くなった父親の言葉

これまで猟で40頭ぐらいのクマを獲ってきた。でも、もう今年からはクマは獲らないと決めた。最近、亡くなった親父の言葉がやけに思い出される。親父は自分が猟をしていることを嫌がっていた。「せっかく山で喜んで遊んでいるクマやヤマドリをなぜ撃つのか」と、いつも言っていた。最近なんだか、親父の言っていたことが分かるようになってきた。

 

クマは怖い動物ではない

自分は元々山歩きが好きだった。ある時、猟をしないかと人に誘われて、猟師になった。ヤマドリでも撃ってやろうかと初めて山に入ったら、クマの足跡を見つけた。跡をつけて行ったら、穴の中にクマがいた。無抵抗のクマを撃ち殺した。子グマが穴の中にいたので、これも撃ち殺した。あの後、何頭もクマを撃ってきたけど、一番最初に撃ったあの親子グマのことが今もなぜか目に浮かぶ。

みんなはクマが出たら怖い怖いという。しかし、クマは、本当は怖い生き物ではない。すごく臆病。いくらクマが力が強いと言っても、人間の銃の前には勝ち目なんかない。完全に人間の勝ち。これまで何回も山の中でクマに会ってきた。自分はいつでもクマを撃つわけではない。1年に1~2頭。その年は、それでやめる。クマは、人間に会った時、撃たれるか撃たれないかとっさに運命がわかるようだ。今日はクマは撃たんと決めていると、自分に会っても何もしない。

キツネやタヌキは撃ったことがない。近くに稲荷神社があって、ここらではキツネは神様だから。

 

国民が力を合わせる

駆除現場は違法だらけだけど、行政は絶対動かん。みんな自分の保身しか考えてないからね。あの人たちはそういう人たち。誰がこの国を変えていくのか。自分たち国民しかない。国民みんなが力を合わせないとだめだ。でも、日本人は動かん。オリンピックの会長の問題のように、海外からバッシングしてもらわないと、日本人て自分たちでは何も変えていけないのかな。「クマを駆除するなんてなんと野蛮な、恥を知れ」と外国から言ってもらわないとだめなのかな。保護の声が全くあがらない国、日本。遅れ過ぎ。日本人は自然を守ろうと思わんのかな。

 

熊森から

 

個体数調整捕殺の導入を白紙撤回すべき

クマの駆除は、今や、例外県以外は大虐殺になっています。こんなことになったのは、学生たちの就職口を確保したかった当時の大学の動物学教授たちの主張を信じて、1999年に環境庁が鳥獣保護法を改訂して<個体数調整捕殺>を導入したからです。これによって被害が出ていなくても、<個体数調整>という名で、簡単に野生動物が殺せるようになりました。これを白紙撤回して、狩猟と有害駆除以外に野生動物は殺せないというところまでまず戻さなければ、絶滅は止められません。

 

くくり罠の使用禁止を!

トラばさみ同様、くくり罠はこの上もなく残虐な猟具です。最近、3回くくり罠に掛かったらしく、足が一本になってしまったニホンカモシカを見たという情報が入りました。(見てしまったら、くまもりは余りの哀れさに号泣してしまいそうです)

熊森はこれまで、くくり罠の使用禁止を求めて運動してきました。くくり罠が廃止されるまで、訴え続けていきます。このような残虐な殺し方を認めていたら、人間がダメになってしまうと思うのです。

 

増えたり減ったりが自然

毎年、研究者が行政から多額の予算を取って野生動物の生息数を推定計算しています。目撃数や捕獲数などを行政が伝えれば、研究者たちは一回も山に入らなくても生息推定数が計算できるそうです。群れで動くサル以外は、こうやって出された生息数が、どこまで信頼できる数なのか誰にもわかりません。増えているか減っているか、数ばかりが議論の対象になっています。研究者が増加傾向にあるというので、今、どこでもクマ駆除を促進しているのです。研究者の責任は誠に大きいです。野生動物の捕殺がゲームになっています。奥山生息地を人間に破壊されたため、生きるために仕方なく人前に出てきただけで、増加傾向にあるように見えるが実は絶滅寸前だったということも十分考えられます。

野生鳥獣の数は、増えたり減ったりするのが自然で、山から出て来なければ、増減など実はどうでもいいのです。(個体数調整のための捕殺利権に群がっている人達にとっては、増減が大事です)

 

奥山再生国家プロジェクトを

戦後、人間が動物が棲めないまでに荒らしてしまった山を、もう一度人間が再生する義務があります。林野庁は至急、このための国家プロジェクトを提示すべきです。奥山の道路を閉鎖して人間が一歩下がり、野生動物たちに生息地を返す。祖先がやってきたことを復活すればいいだけのことです。

 

日本の野生動物たちは泣いている

こんな子供でもわかることをしないで、残虐な駆除を大暴走させている日本。国民の無関心さに、日本の野生動物たちはみんな泣いていることでしょう。

 

水源の森は野生動物たちが造っている

自然界からすっかり離れて暮らすようになってしまった現代人は、近い将来、山からの湧き水が消えたとき、はじめて慌てふためくのだと思います。その時初めて、他生物に畏敬の念を持ち、かれらと共存しなければ人間も生き残れないという自然界のしくみに気が付くのでしょうか。あまりにも愚か過ぎます。

 

猟師と熊森の共通点

熊森協会の初代副会長は兵庫県の猟師でした。熊森と話が合う猟師が意外と多くいます。共通点は、どちらも、現場を見ていることです。狩猟の狩とは、獣へんに守ると書きます。本当の猟師は、熊森の奥山えさ場復元に協力していただけるものと信じます。優しい文明が一番優れており、持続可能なのです。(完)

 

オンライン全国クマ部会 環境省のガイドラインを、捕殺を抑止してクマと共存できるものに

1月30日に開催された、本部主催2021年度第1回オンライン全国クマ部会に、全国から50名が参加しました。

 

2019年、2020年と全国のクマ駆除数は6000頭を超え、過去最多を更新しています。狩猟による捕殺以外に、この2年間で、1468頭のヒグマ、1万1078頭のツキノワグマが許可捕獲により殺処分されたのです。このような捕殺を続けていたら、クマが絶滅する地域が出てくるのは時間の問題です。

 

熊森は、2020年11月、全国の皆さまからいただいたクマの捕殺に規制をかける署名約27000筆を、環境大臣政務官と農水大臣政務官に提出し、放置人工林を早急に広葉樹を主体とする水源の森に復元し、大型野生動物との共存・棲み分けを復活してほしいと要望しました。

 

環境省は、2021年前半に、全国のクマ生息都道府県に策定させている特定計画のうち、クマ保護計画及びクマ管理計画についてのガイドラインの改定を予定しています。熊森は、この2年間の大量捕殺でクマ絶滅の引き金が引かれたと危機感でいっぱいになっています。今回のガイドライン改訂を、クマ大量捕殺に歯止めをかけるガイドラインにしてもらうため、環境省や国会にさらに大きく働きかけていこうと思います。

 

今回のオンライン会議は、環境省に何を訴えていくべきかを会員のみなさんに伝え、ご意見を求めるために開催しました。ガイドラインができて、パブコメが募集されてから変更してもらうことは難しいため、今のうちに早めに環境省に声を届けてください。

環境省〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎5号館 TEL 03-3581-3351(代表)小泉進次郎環境大臣

 

 

【以下、学習会の内容要旨です】

 

第1部「クマと共存するため、2021年熊森はこれをする!」

日本熊森協会 会長 室谷 悠子

制度をつくるのは環境省、クマの捕獲権限を持っているのは都道府県で、都道府県が権限を市町村に降ろしている場合は、市町村です。

制度を変えるには時間がかかりますし、それだけでは解決しません。都道府県や市町村に、できる限りクマを捕殺をしないように訴えることが重要です。

地元が捕殺をしなくてもクマ問題を解決できるよう、本部・支部をあげて、地元を回り、地元の皆さんと力を合わせて、クマと棲み分け、共存できるように自分たちでもできることを次々と進め、それを全国に広げていきましょう。

 

第2部「クマを絶滅から救うために環境省に提言したいこと」

日本熊森協会 野生動物保全担当 水見 竜哉

 

去年、一昨年と、日本のツキノワグマは前代未聞の年5000頭を超える駆除が続き、地域絶滅が起こりうる危機的な状況です。現行のクマガイドラインの内容では、クマ生息数の調整ばかりで、生息地が荒廃し、クマたちの食料が激減している最大の問題にふれていません。(奥山を調査している人はほとんどいないので、このような現実が国民に知られていません。)冷温帯である生息地がクマを養える環境でなければ、いくら捕殺を繰り返してもクマは里に出て来ます。

 

【奥山がクマを養えなくなっていることを前提に、

 できる限り捕殺を抑えるガイドラインに】

1 クマの個体数調整捕殺は行わない。実際の農作物被害や人身事故の恐れを前提とし、限定的にしか捕獲許可を出さない

2 出没被害のため、出没しただけでは、捕獲許可を出さない

3 具体的な被害がない中での、長期かつ大量のクマ捕獲罠の設置は認めない

4 誘因物の除去、被害防除、追い払いをまず行う

  ここに十分な予算をつけること!

5 親子グマ、子グマは原則捕獲禁止

6 捕獲後は、できる限り放獣をする
 すべての都道府県でクマの放獣体制を整備する

7 シカやイノシシ罠に錯誤捕獲されたクマが、法に反して大量に殺処分されているが、放獣を徹底させること

錯誤捕獲が生じた場合、有害捕獲へ切り替えてクマを殺処分するのは違法であることを明記

8 錯誤捕獲が生じないように、クマがいる都道府県では、シカ・イノシシ捕獲用檻を、囲いわなかクマスルー檻にする。くくりわなは真円12㎝以下のものしか認めない

9 山の実りが凶作で大量出没した年は、過剰捕獲にならないように特に注意する

10 生息環境の復元、山菜・昆虫・木の実などの食料激減問題の解決が必要なことを明記し、解決策を具体的に進めていく

11 集落の被害防除、棲み分け対策に十分な予算をつけ、徹底すること

 

 

 

各都道府県が定める捕獲上限を超えた捕殺が多くの地域で起こっている。→行政の捕殺の抑制ができておらず、過剰捕獲が起こっている。

 

第3部「推定生息数の出し方とその問題点について」

日本福祉大学 教授 山上 俊彦 氏(統計学)

 

クマが何頭いるのか、正確な数を出すことは不可能ですし、どんなやり方でも誤差は必ずあります。全国の自治体のクマの生息数推定の計算方法を検証していますが、計算過程を非公開としている科学的検証にたえないものや、目撃や捕獲数が増えれば数が増える数理モデルとなって生息数が過剰に推定されていると考えられるものが多くあります。

生息推定数は、それを使う人がどう使うかが大切で、あくまでも推定で、真実はわからないことを前提に使うべきです。どのような指標をもとにどのようなモデルで計算しているのかの外部検証が不可欠です。生息数推定に用いたデータ・モデル式・プログラミングを全て公表すべきです。

 

 

【参加者の感想より】

●水源の森確保の提案も: 殺生禁止令が出ていた1200年間の間、日本にはオオカミも棲んでいました。棲み分けは重要ですが、四国では山が荒れて、特に餌のない冬場に谷の水が枯れています。その昔は水があったのでそこに魚や植物資源も少なからずあり、餌場になっていたとも考えられますが、餌場復元と同時に、水源の森確保も同時に提案してください(徳島県Iさん)。

 

●日本はクマをすぐ捕殺しすぎ: 私は、昨年夏に自宅近くの山の中でクマとばったり遭遇し、引っかかれたり噛まれたりして軽傷を負いました。直近でその近くでコグマを見ましたので、恐らく母グマがコグマを守るために行った行為だったのだと思います。私は、事故当時、クマ鈴などを持たずにいましたので、原因は自分にあるのだと反省しました。役所に報告をしたところ、すぐにクマを捕獲すると言って罠を現場に設置しました。私は、今回の事故の責任はクマではなく自分だから、捕獲しても殺処分しないでほしいと伝えました。しかし、役所はクマを捕まえて殺処分してしまいました。

私は20年前にアメリカから日本に移住してきた者ですが、母国ではこんな簡単にクマを捕獲して殺処分することなんてなかったです。捕まえても山に返していました。日本は、クマなど動物を簡単に駆除しすぎです(群馬県Cさん)。

 

●絵本などで子どもたちにも伝えたい: 野生動物との共存を子供にも伝えるものとして、絵本や説明文を作家や著作家とタイアップして作るのはどうでしょうか。教科書に載ることがあれば、かなり多くの子供たちに何年にもわたって読まれるので、これからの世代へ考え方のもとになっていくと思います。

 

●都市に住む人へのアピールを:自分は関係ないと思っている都市住民に、水源の森を守ることを意識してもらえるようなアピールを考えていきたいものです。「水源の森を訪ねる、守る、造る、美しくする、楽しむ」というような方向に発展させていくような活動はどうでしょう。地方の重要な河川、関東なら多摩川上流や丹沢、利根川などの源流にたどり着くような、楽しい企画にするのです。支部は独自にいろいろなことができますが、活動づくりのひとつとして例示したり、他支部のおもしろい源流ツアーを紹介したりするのも、いいかもしれませんね(兵庫県Mさん)。

今回のズーム会議を運営した本部スタッフ 於:熊森本部事務所

 

くまもりの会員数が増えればもっと多くのクマが守れます!

ぜひ、会員に!

http://kumamori.org/membertypes/

 

<祝>石川県小松市のクマ止め林づくりクラウド・ファンディング、早々と目標額500万円達成

石川県小松市×かが森林組合プロジェクト

ふるさと納税で応援(ガバメントクラウドファンディング)

・・
クマを森に帰そう!
豊かなドングリの森づくりで、
・・
人と野生動物の共生を
目標額、達成!
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<以下、中日新聞12月2日記事より>

森林再生のために植栽するかが森林組合の組合員=小松市内で(かが森林組合提供)

森林再生のために植栽するかが森林組合の組合員=小松市内で(かが森林組合提供)

 

食べ物を求めて人里に現れるクマの出没を減らそうと、小松市とかが森林組合(同市)は、豊かな餌場をつくる森林整備のため、ふるさと納税を活用したクラウドファンディングで寄付を募っている。クヌギやコナラなどドングリの実をつける広葉樹を植栽する。目標金額は500万円。

 市には今年、例年の約5倍の225件のクマの目撃情報が寄せられ、人身事故が2件起きている。冬眠前のクマの餌のドングリが凶作で、餌を求めて住宅密集地まで出没するクマが後を絶たない。森林の手入れが行き届かず、里山が荒廃し、人里との境目があいまいになったことも出没の要因とされる。
 寄付金は放置林の除去、森林の間伐や植栽、苗木の生産などに活用する。ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス ガバメントクラウドファンディング」で受け付けている。募集は来年2月24日まで。
 開会中の市議会一般質問で8日、岡山晃宏議員=会派自民=がクマの餌不足対策を質問した。市産業未来部の林活歩部長は「伐期を迎えた森林の再造林を進め、クマがすみやすい環境づくりに必要な森林を整備したい」と話した。
(問)市財政課ふるさと納税推進チーム0761(24)8068 (長屋文太)

 

小松市岡山晃宏市議の質問

1.有害鳥獣対策について

今年も集中豪雨により、球磨川の氾濫など天候による災害はありましたが、それ以外に新型コロナウィルス、感染症、クマの出没と、生き物が絡む災害ともいうべき被害で日本中が大混乱した年になりました。

本市においてもクマによる人身被害が出てしまったことは残念ではありますが、消防署や消防団、警察、市の職員や関係者の皆様には、昼夜を問わず、監視の強化や、薮払いなど今できる最大限の対策をとっていただいたことに、心より感謝申し上げます。

 

 ・緩衝帯の整備について

クマが人里に降りて来る原因もいろいろあるようですが、長い目で見るとクマ対策、有害鳥獣対策は、野生獣と人との棲み分けをめざす里山の整備が必要だと考えます。一昔前は里山では、畑で多くの人が仕事をし、薪炭材として木が伐採され、移動しやすいように道が造られることにより、自然と緩衝帯ができ、里山には実のなる広葉樹が多くあり、野生獣との棲み分け・共生が成り立っていたこと、それが、過疎化や林業の後継者不足などで管理ができず、耕作放棄地や里山が荒れて行ったことを聞いたことがあります。これまで野生獣の出没抑制の緩衝帯整備は、県の石川森林環境税を使って整備され、昨年から交付が始まった国の森林環境譲与税は、本市では県の事業と重複しないよう、森林管理者や境界の調査、森林管理に必要な人材育成、木材利用の普及の促進、森林状況調査などに使われてきました。根本的な鳥獣対策は、里山の再生につながります。そのような意味で里山の再生をめざす国の森林環境譲与税の使途を、人工林の伐採や緩衝帯整備に迄広げることはできないでしょうか。本市の見解をお聞かせください。

 

・エサ不足への対応について

次に餌の確保についてでございます。熊が人里に降りて来る原因の一つが山林のえさ不足と言われています。えさとなる木の実の豊作凶作だけでなく、気候変動や酸性雨により木が枯れていることも懸念されています。今年捕獲されたクマは、胃の中が空っぽでやせ細っていたとお聞きしました。クマは本来、落ちた木の実は食べないと言われていますが、ドングリを集めて獣道に置いたら、夜食べに来たり、糞の中に普段は絶対に食べないギンナンが確認されたりと、クマも生きるために必死で食料を探していたと思われます。そのような意味で実のなる木を里山に植樹することが必要と考えます。樹種としてクヌギ、アベマキ、ナラガシワ、クリ、サルナシ、コバノガマズミや春から初夏にかけて実がなるサクラなどがよいと聞きました。これらの実のなる木は広葉樹であり、人工林を広葉樹林化することは森林環境譲与税の目的のひとつでもあります。森林環境譲与税で植樹を行うようにすることはできないのでしょうか。本市の見解をお聞かせください。

<以下、石川県かほく市塚本佐和子市議のブログより>

 

小松市でのクマの出没 人身事故は深刻

今年は例年の5倍を超えるクマの出没

人身事故も多発

市民の方は 不安を抱える日々を送られてこられたと思う

・・

クマは本来

人目を避けて暮らす動物でありますが

主食であるドングリの実が不作で

食べ物を求めて人里に下りてきたものと考えられておりますが

 

この度 小松市では

長いスパンを見て(おそらく持続可能にするために)

豊かな森の生活者クマが棲みやすい

環境づくりと循環型の森林づくりを進めるため

人の野生動物の共存をテーマにしたプロジェクトとして

ふるさと納税で応援していただこうと募集を開始しました

 

プロジェクトは

ドングリの実を付ける広葉樹(クヌギ、コナラなど)を植栽し

クマの餌場と豊かな森をつくることで

クマが人里に降りてこなくても冬を越せるよう取り組みです

 

小松市!すばらしい

 

本市としては

今年はクマの出没はございましたが

人身事故はございません

 

しかしながら

森林が荒れていることや

人と野生動物のすみわけがわかる境界線がなくなっている現状もあり

今後のことも踏まえ

クマ対策についてお考えいただく必要はございます

(ということで 12月8日の一般質問ではクマ対策について質問いたします)

 

自然

森林の復興まで長い時間がかかりますが

何もしないよりまし

時間をかけて 森を取り戻そうとする動き

参考にさせていただきます

 

熊森より
・・
人間活動によって昆虫、サケ科渓流魚、木々の実り、山中の全ての食べ物が消え、冬ごもり前の食い込みができず、生きられなくなり、おなかをすかせて山から出てきたクマたちを、全部撃ち殺してしまう。今、日本中でしていることは、恥ずべきことで、人が狂ってしまっています。人間のすることではないと思います。
小松市が、今年もクマが山から続々と出てきたのは、山の実りが消えて、クマが餌不足に陥っているからと、原因を正しく特定してくださったことに、心から拍手を送りたいです。
・・
では、どうしたらいいのか。
・・
えさ場復元しか、共存への道はありません。
・・
このクラファン、もし集まらなかったら、熊森が補填しなければならないだろうと考えていましたが、それにしても500万円は大きなお金です。
どうしたものかと思っていたところ、うれしいことに早々と目標達成がなされたもよう。やれやれ。
2月24日締切の予定が、現在すでに、624万円になっています。
熊森は、日本初、小松市の英断に拍手です。
森林環境譲与税を使うという手もあります。
他の都道府県市町村も、小松市に続いてください。

何度でも訴えたい 石川の山からクマたちの命の糧、ミズナラの木が消えてしまっているのです

2005年時の石川県白山のミズナラ巨木の総枯れ写真です。当時、車で2時間ほど白山の周りを走りましたが、延々と山が真っ赤でした。この世の終わりを感じました。

 

北国新聞2005年8月トップ面

 

次は、石川県白山の2年後の写真です。

枯れたミズナラ巨木群が白骨死体のように見えます。主原憲司先生提供

 

現在の白山の写真

ミズナラの巨木が倒れた空間は、何事もなかったように、他の広葉樹が枝を伸ばして埋めています。

 

白山の山は今も、一見、素晴らしい自然林です。

しかし、何度でも言いたい。クマが冬ごもり前の命の糧にしてきた大きなドングリの実を大量にもたらすミズナラ、野生動物たちの命を支えてきたミズナラの木が消えているのです。

 

環境省も地方自治体も、担当者は3年ごとに新しい人に変わるため、新しい担当者は15年前にほとんどミズナラの木が消滅したことを知らないことが多いのです。

 

これでブナまで大凶作のゼロとなると、クマはもう生きていけません。この歴史を知らないと、クマがえさを求めてどんどん山から出て来るという現象を見て、クマが増えて山からあふれ出してきたという見解になってしまうのです。

 

ナラ枯れの原因は解明されていませんが、200年も300年も生きてきたであろうミズナラの巨木が一気に枯れてしまったことを思うと、ナラ枯れは、昨今の人間活動の結果である地球温暖化や大気汚染が原因であると思われます。

 

国は、ナラ枯れの原因を5ミリほどのカシノナガキクイムシのせいにしていますが、責任転嫁している間は、問題は解決しないと思います。

 

かつて大量の実りをもたらしていた、大きな実が大量に付くミズナラの木

 

1本のミズナラの巨木が100キロのドングリを落とすとすると、4本あるだけで、秋のクマ1頭の食料を賄えるのではないかと思われます。(以前15年生のクヌギを調査した時、1本の木で、10キロのドングリを落とすことが分かりました)祖先が残してきた奥山は、人間の予想以上に、数多くのクマたちを養っていたのではないかと推察されます。

それが、今や、ああ・・・絶望的です。

 

ナラ枯れの跡地にミズナラの稚樹を見かけた場所もありますが、まだまだ実をもたらすまでには至っていません。

とよ君、今年は早々と冬ごもり

12月15日、大阪府豊能町高代寺山の山頂に初雪が降りました。(すぐにとけてしまったようです)

15日のお世話日誌(ラインで毎日本部に送られてくる)によると、この日は飲み水に氷が張っていたということです。

とよは、寝室にこもったままで、入れてもらった藁を、好みの形に整えていたそうです。

冬ごもりに入るんじゃないかなと、思わせました。

本部は、2020年のとよの冬ごもり開始は12月15日と記録しました。(やはり、とよは初雪が降ったら寝る)

 

12月20日に、藁を足しに行ったところ、とよはなかなか寝室から出ようとしなかったため、ブドウなどでおびきだしました。ゆっくりした動作で運動場に出てきて、食べ終わるとすぐに寝室に戻ろうとしました。(冬ごもり中を起こした感じ)

冬ごもりを確認するために、寝室から運動場に出る引き戸を10センチだけ開けて帰りました。

 

12月22日最終確認に行きました。

引き戸は10センチ開いたままです。

運動場に出た形跡はありません。(出たければ、とよは自分で引き戸を開けて出ます。閉めることはできません。)

運動場に置いていたリンゴもブドウも食べていません。(ドングリしか食べない時期は、もう終わっている)

引き戸10センチ開いたまま、運動場のリンゴもブドウも手付かず。

 

寝室の餌箱に入れたボールの水を飲んでいるかどうか調べました。

餌箱に、少しだけ糞がしてありました。

今年最後の糞です。間違いなく冬ごもりに入っていることがわかりました。

触ってみましたが、無臭で、いつもの糞と変わった点はありません。

水入りボールの水替えをして、餌箱に戻しました。

 

とよが冬ごもりに入ったことを示すポスターを張りました。

とよ、来年3月にまた会いましょう。

私たち人間は、今年もとよにどれだけ癒されたことか。

とよ、ありがとう。

今頃は、野山を駆け巡る夢でも見ているかな。

ゆっくり冬ごもりしてね。

お世話隊を見つめるとよ

 

副住職さんがやって来られて、コロナのため、今年の除夜の鐘はお寺関係者だけでつくことにしましたと言われ、そのことを伝えるチラシを張られました。

 

殺処分されそうになっていたとよを助けてくださった、優しい住職さんのお寺です。

お寺の御朱印が、とよになっていて、びっくりしました。

住職さんがデザインされたそうです。

この御朱印にはご利益があるかもしれないと思いました。

今、参拝記念に御朱印を集めるのがブームだそうです。

高代寺の御朱印はいかがですか。

 

 

来年は、獣舎のペンキを塗りなおした方がいいな。

とよのとなりの部屋が空いたままなので、冬ごもりが明けたらとよに両方の部屋を使わせてあげるといいな。

いろいろ思いながら、帰途につきました。

今後は、近くに住む会員たちが、時々そっと冬ごもり中のとよの安否確認に行ってくださいます。

この1年、とよのお世話をしてくださった皆さん、とよに会いに来てくださったみなさん、遠くからとよに声援を送ってくださっていたみなさん、ありがとうございました。

とよは、まだ完全回復とまでは言えませんが、昨年の原因不明の両後肢マヒから見事に立ち直って、夏からは、また再びプールにも入れるようになっています。来年もあたたかく見守ってやってください。

 

 

山から出て来るクマの緊急避難対策 どんぐりを運ぶと、クマが山の中にとどまります その2 

去年に引き続き、今年もまた日本は、5000頭以上のツキノワグマを大量殺処分しました。熊森は、兵庫県本部から上京して環境省を訪れ、殺さない対応策をとるよう都道府県を指導してほしいと頼みに行ったのですが、クマ対応はもう都道府県におろしてあるとして、全く取り合ってもらえませんでした。

 

これまでも環境省鳥獣保護管理室のクマ担当者たちに、かつてクマが生息してきた山がどうなっているのか、一度でいいから案内させてほしいとお願いしてきましたが、現地を見に行くのは自分たちの仕事ではないとして、応じていただけていません。現場を見ないと、山で何が起きているのか、絶対にわからないと思うのですが。

 

クマの殺処分を伝える今年のテレビニュースは、「これで安心ですね」という言葉で終わります。

 

こうして多くの国民が、子供たちに至るまで、これで安心なんだとクマ殺処分を肯定的にとらえるようになっていきます。

 

なぜ、次々とクマが山から出て来るようになったんだろうか、なぜ、市街地にまで出て来るようになったんだろうかと、以前の私たちのように疑問に思って調べてみる人はいないんでしょうか。

 

2020年は、私たち日本人がツキノワグマ絶滅の引き金を引いた年として、この国の歴史に残る年になることでしょう。

 

市街地にまで出て来たクマ(石川テレビより)

 

 

 

以下は、支部からの報告です。

 

今年も、山の実りが大凶作でした。

クマが連日山から出てくるようになり、人身事故が多発しました。

クマは見つかり次第、県の方針で殺されていきました。

人身事故が起きないように、また、クマが山から出てきて殺されないように、私たちは、山にドングリを運びました。

山に重いドングリをトンレベルで運び上げるのは過酷な重労働で、女性陣の中には腰を痛める人も出ました。

しかし、ドングリを一生懸命集めて送料まで負担して送ってくださった人たちのことも思い、支部員一同、確実にクマに届けるという使命感に燃えて、猟期が始まる11月15日まで続行しました。

ドングリを集めて送ってくださったみなさん、本当にありがとうございました。

 

実際のドングリ運びについて書きます。

まず、クマの目撃情報や現地の地理情報などを多く集め、分析して、クマが間違いなくいるあたりの山を慎重に探し出します。

ドングリを運ぶ山は、人間によって完全に自然生態系が破壊された人工林内か、すでに人間によって自然生態系の撹乱が終わった二次林です。自然生態系が残された原生林に運ぶことは絶対にしませんので、ご安心ください。

 

 

山に入ると案の定、クマの糞でいっぱいでした。

どれも、ギンナンを食べた糞ばかりでした。

口の中がかぶれないのだろうか。

肝心のおいしい種の中は、全く消化されていないが、少しでも養分は吸収できたのだろうか。

本部が以前、山の実りなしという大凶作年、兵庫県でもギンナンの糞がいっぱい見られたといっていたので、この糞も、空腹で苦し紛れに食べたのだろうか。

 

ギンナンの黄色い糞

 

 

人間の与えたドングリなんて、人間のにおいがついているから、絶対にクマは食べないと、実験もせずに言う方がおられますが、きれいに食べて殻だけになっていきます。

ドングリを運び続けているうち、あたり一面にあったクマのギンナン糞がドングリの糞に次々と置き換わっていくようになりました。

 

ドングリを食べたクマの糞

 

本部によると、飼育中の元野生グマ10歳オスは、秋の食い込み期になると、一日中ドングリを食べ続ける王になり、大きな塊の糞を一日約10個するそうです。

 

何カ所かに自動撮影カメラをかけて、チェックしてみました。映っていたクマたちに、次々と名前を付けていきました。

焼け石に水かもしれませんが、この近辺ではクマが山から出て来なくなりました。こうして、捕殺されるクマも、人身事故も、減らすことができました。

 

 

元版は動画です。(ドングリを食べに来たクマ)

みんなとても素直な顔をしています。

 

 

熊森本部から

 

どんぐり運びは餌付けだからやめろという人がいます。

餌付けって何だろう?

辞書で調べてみました。

餌付け=野生動物をならして、人の与えるえさを食べるようにすること。

 

熊森が大々的にどんぐり運びをしたのは、山の実り全てゼロというありえない異変が起き、冬ごもり前の食い込み用木の実を求めて山から出て来たクマたちに前代未聞の大量殺処分がなされた2004年です。

ところが、次の年は、なぜか山の実りは大豊作でした。

すると、クマは一斉に山から出てこなくなり、目撃数も激減しました。

熊森のどんぐり運びが、餌付けになどならないことが確認されました。

第一、クマにドングリを与えて、クマがドングリを食べるようになることに、問題があるとは思えません。

 

大量捕殺年にドングリを運ぶ一方で、熊森は本来の仕事であるクマ止め林づくりや奥山広葉樹林化に励んでいます。

ツキノワグマ海外事情 ~台湾の場合~

日本のクマが次々と捕殺されることに胸を痛めた台湾出身の熊森会員さんから、以下、台湾のクマ情報をご提供いただきました。

 

台湾出身会員から

ツキノワグマを取り巻く環境は、台湾も日本と似たようなもので、かなり厳しいです。ただ、台湾の人々、メディア、政府含めて、まだ台湾の方が『普通の感覚』を持っていて、現状に心を痛め、問題を感じる人が多いような気がします。日本にも、より多くの人々に現状を知ってもらい、声をあげてもらわないといけないと思います。

 

記事紹介日本語訳① けがをしたツキノワグマ、台湾はこうする

https://e-info.org.tw/node/227399 (10月15日の記事)

 

 

 

 

 

 

 

 

10月1日 一頭のツキノワグマが台中の果樹園畑でイノシシ罠に誤捕獲されました。農家はすぐ役所に通報し、その後、固有種野生動物保護センター(政府関連機構)の専門家及び獣医5名が現場に駆け付けました。

現場では、ツキノワグマの左の前足が罠に引っ掛かり、けがをしたことが確認できました。
ツキノワグマを救出した後、早速固有種野生動物保護センターに搬送し、傷口に対し、骨の切断や薬塗りなど緊急処置を施しました。

獣医によりますと、傷口が順調に回復しつつあるが、完全回復するまであと 2~3週間かかる見込みです。その後、ツキノワグマを放獣する予定です。

 

記事紹介日本語訳② けがをするツキノワグマを減らすために、台湾が検討していること

https://e-info.org.tw/node/228045 (11月16日の記事)

 

 

 

 

 

 

 

 

11月15日 行政院長 蘇貞昌氏(日本でいう総理大臣)は固有種野生動物保護センターを訪問し、けがをしたツキノワグマ(あだ名:七ちゃん)を見舞いました。

 

蘇貞昌氏は専門家や固有種野生動物保護センターのスタッフに対し、今まで野生動物保護の尽力に対し、感謝の意を表します。

 

また、政府は野生動物保護をより力強く推進すべきと述べ、具体的にくくり罠の禁止、違法罠設置の取り締まり強化や罰則の引き上げなどを検討するとのことです。

 

また、野生動物による農家の被害に関して、政府は電気柵の設置に補助金を出すなどの施策を検討し、地形の制限で電気柵を設置できない場合、クマがかからないくくり罠を農家に普及させます。

 

台湾出身会員から

日本は、ツキノワグマを殺すのが当たり前の異常な国

海外では、ツキノワグマのような絶滅危惧種動物を守るのは当たり前で、しかも、政府が先頭に立って対策立案、実行するのは普通です。
世論も政府がそうするように、プレッシャーをかけています。

一方、日本では逆にツキノワグマを殺すのが当たり前になっていて、熊森のように、一生懸命ツキノワグマを救出する事例がどちらかというとレア ケース。

そろそろこの異常さに気づいてほしいです。

今年、高速道路沿いでけがをしたクマが殺処分された話や、北海道で電車と接触したヒグマが弱って亡くなってしまった話がありましたが、いずれも救出してやろうという日本人の動きはありませんでした。

 

熊森から

会員からの海外の情報、本当にありがたいです。日本が遅れている部分を知り、国民に訴えていけます!

徳島県支部設立記念シンポジウム、会場50人、ウェブ参加35人、盛大に開催

11月14日、熊森徳島県支部は、「くまともりとひと~わたしたちのこれから」をテーマに、設立記念シンポジウムを徳島市の市立図書館に併設されたシビックセンターで開きました。

 

シンポジウムには、四国4県から熊森会員だけでなく新聞報道などで開催を知った非会員を含め計約50人が会場で参加したほか、会場の様子はインターネット中継され、約30人がウェブ参加、入場時の体温チェックや着席の間隔を確保する新型コロナウイルス感染防止対策を取り入れながら、盛大に開催することができました。

 

大西さちえ支部長は開会のあいさつで、今年6月には人工林の皮むき間伐のため、今回のシンポジウム直前の11月12日には初の実のなる木の植樹のため、急峻な山道を2時間かけて、絶滅寸前といわれる四国のツキノワグマの生息地でもある徳島・高知県境の熊森四国石立山トラスト地に登り切って作業したことを報告。「会場には徳島、高知、愛媛会員の他、香川県で熊森の支部をつくりたいという人も来られています。四国のみんなで力を合わせて、くまもりの輪を大きくしていきましょう」と笑顔で呼びかけました。

 

続いて、滋賀県知事を2期8年務められ現在は参議員議員の嘉田由紀子熊森顧問と、徳島県旧木頭村の元村長の藤田恵熊森顧問が記念講演をしてくださいました。

 

記念講演要旨

 

●嘉田由紀子顧問

「奥山からの総合的な流域治水こそが多くの命を守る」

 伐採寸前の滋賀県のトチノキ巨木群を裁判までして守ってくださったのが熊森協会です。弁護士の室谷会長です。本当にありがたい。
今年7月の九州豪雨で熊本県球磨川が氾濫し、死者50名。これによってダム必要論が再浮上、中止された川辺川ダム計画の復活の動きも出てきました。ダムに頼らない治水を訴えてきた私としては、ダムがあれば50名の死が防げていたかを現場を訪れ徹底的に調査しました。結論として、川辺川ダムがあれば救えていた命は3名です。

吉野川の河口堰もいつ復活するかわからない。水を流すための河川掘削や浸水する恐れのある地域に建物を建てないなど、奥山からの総合的な流域治水こそが多くの命を守ります。

 

●藤田恵顧問

「日本は森再生に取り組むべき」

 全国各地で連日クマが山から出てきました。あれは山に餌がないからですよ。昔は木頭村でも奥山に行けば、大きなブナの木があり、クマは大木の洞などに寝て暮らしていました。森にはいろんな種類の木がありましたが、今は全くありません。国は拡大造林政策で1950年代から広葉樹を次々と伐り、スギなど針葉樹を密植したまま放置してきました。山の保水力は失われ、近年、豪雨時、山崩れなどの災害が頻発するようになりました。学者は御用学者ばっかりで、拡大造林の「カ」の字も言わない。マスコミも忖度して一切書かない。そんな中、拡大造林政策の弊害を熊森協会は一貫して指摘してきた。本当にすごい団体だ。
(森が豊かだった頃の徳島の森のイメージ写真を何枚も映し出しながら)今の徳島の山を自然だと錯覚しないでほしい。昔の豊かだった時の山の姿を知ってほしい。今後は、スギと広葉樹を交互に植えて針広混交林を造ったり、広葉樹林を再生したりしていかねばならない。砂漠緑化に成功したすごい人がいる。砂漠緑化に比べたら、日本の森再生はもっと容易なはず。熊森が進めようとしている森再生は、きっと日本で成功する。日本熊森協会の実践活動に大いに期待しています。

 

後半プログラム

 

●本部クマ保全担当、水見竜哉研究員

「自然保護団体として、今回初めて四国のツキノワグマのために実のなる木を植えた」

 水見竜哉研究員が、四国のツキノワグマをめぐる現状や四国の山々で放置人工林が広範囲に及んでいる様子をスライドを使って基調報告。「自然保護団体として、今回初めて四国のツキノワグマのために実際に実のなる木を植えることができました」と喜び一杯に報告。今後も、50メートル四方の群状間伐と広葉樹の植樹を継続していきたいと意欲を語りました。

 

●森山まり子名誉会長

「自然保護団体を大きくして、地球環境破壊に歯止めを」

最後に森山まり子名誉会長が、戦後の林野庁の「拡大造林政策」と、1999年に導入された環境省の「ワイルドライフ・マネジメント政策」、この2つの誤った政策により、日本の森や動物、地元の人たちが、悲鳴を上げています。

今年も、何の罪もないどころか人間活動の被害者であるクマが害獣のレッテルを貼られ、連日、大量に捕殺されていきました。私たちは毎日胸のつぶれる思いでした。クマが山から出て来るのは、生息地であった奥山の自然環境が破壊されたからで、この問題を解決しなければ、私たち人間もやがて生きられなくなります。

他生物や次世代に責任を持つ大人として、熊森がもっと大きくならなければならない。会員をもっともっと増やして、私たちが声を上げていかなければならないと、熱っぽく語ると、会場は大きな拍手に包まれました。

みなさん、ありがとうございました。

森の劣化によるクマ個体群の衰退 ー捕殺より 森の生産力の回復をー 金井塚務氏に聞く

メディアは「クマが出て騒動になっている」という事象しか伝えません。今森の中で何が起こっていて、今後どうしていかなければならないのか。宮島や西中国山地で野生生物の研究を進める環境NGO広島フィールドミュージアム代表 金井塚務氏にお話しいただきました。

金井塚先生にズームでインタビュー

生息地を移す「ドーナツ化」
広島県では1975年に初めてクマの有害鳥獣駆除の事例がでて、それ以降年々有害鳥獣駆除が増えています。西中国山地ではクマが絶滅の恐れがあるという指定を環境省より受けています。1994年に狩猟禁止の措置がとられたが、そこから急に有害鳥獣駆除が増えました。2000年以降は隔年ごとに大量出没が見られ、広島県では2002年、2004年と大量捕殺されました。隔年で出てくる傾向が3回くらい続いた後、それが3年、5年と間遠になってきて、それもクマが集落にそれほど多く出てこなくなっています。個体群が縮んできているという恐れがあります。

1994年度以降狩猟による呼格禁止措置がとられるが、有害鳥獣による捕獲数が激増している。1975年以降に有害鳥獣による捕獲が顕著に増えていることに注意。

西中国山地では、5年毎に再捕獲調査という形で個体群推定の調査をしています。信頼度としては疑わしく絶対数が推定できるわけではありませんが、繰り返して調査をすると、一定の傾向は見て取れます。中核地域の生息数に一定の係数を掛けて、ランク分けされ地域の面積を掛けて、全体の頭数を推定します。ところが目撃された外周を生息域と呼んでいるので、生息域というのは年々広がっています。面積が広がると、広がった分だけ数が増え、過大に見積もってしまう可能性があります。しかし、中核地域、本来の生息域では、生息密度が低下している可能性が高い。例えば細見谷地域でビデオカメラを設置して調査を続けていますが、クマの痕跡やビデオカメラに写る頻度が年々低下しています。クマが本来の生息地で生活しきれなくなり、生息場所を移す「ドーナツ化」が起こっている可能性があります。「生息域が広がる」というのは、クマの数が増え人口爆発が起こって広がっているのではなくて、クマが生産力の落ちた奥山から分散して人間の生産物に依存する生活に適応しながら、里へ広がってきているということなんです。

細見谷渓畔林。群を抜く生物多様性と西中国山地の原生的自然を保持し、絶滅の恐れのあるツキノワグマ個体群の中核的生息地ではあるが、近年ここですらクマの痕跡の低下がみられる。

 

深刻な森の劣化
一方で森はというと、1960年代に広葉樹林帯を大面積皆伐し、そこにスギ・ヒノキの造林地を増やしていきました。川にはダムがどんどんできて、支流には砂防ダムができて、「森の生産物が川を伝って海へ流れて、干潟を養ってまた戻ってくる」という循環が切られていきました。川を遡上してくるサケ科の魚などが森に帰っていけなくなる。私たちは調査をして、クマはサケ科の魚、渓流魚を冬眠前の秋にかなり集中的に食べていたのではないかと考えています。それが断ち切られてしまったのが、1970年前後。サケ科の魚が豊かな地域の人に聞くと、「今でもクマは魚を捕っているよ」と。環境があれば食べるんです。そういう環境が失われてしまったことが問題なんです。魚は毎年上がってくるので、安定的に捕れ、栄養価が非常に高い上に消化率も高い。ドングリが重要でないとは言わないが、栄養的にも消化の面でも動物質に比べてあまり優秀ではありません。さらに、クマは春から夏にかけてのハチ、アリ、アブを食べ、昆虫など動物質のものに頼ります。今山では、集中豪雨などで表土層が流され、そうした昆虫類が減少してしまってあまりいません。そのことがクマをはじめとする野生動物にかなり深刻な状況を生んでいます。

サケ科魚類のゴギ(左)とアマゴ(右) サケ科の渓流魚は水温上昇に弱い。人工林化による保水力の低下や渓畔林の衰退は、水温上昇をもたらす要因となる。

西中国山地の裾野はずっとクリ林が広がっていました。1950~1960年代、戦後復興の枕木としてどんどん切り出され、クリがなくなる。さらにはクリタマバチでクリがやられる。ミズナラ、コナラくらいしかなくなって、ごくごく限られたものに頼らざるを得なくなったクマたちが、高密度に生活できるわけがない。一方で人は二次林の利用をやめて、都会へ出て行き、過疎化していきます。残るのは利用されない二次林。そこにコナラ、クリが残る。そこがクマや野生動物の利用の場になるのは当たり前のことです。森は冷温帯落葉林が外観としてはあるが、その内容はかなり劣化していて、大型野生動物を養うだけの生産力がなくなっている、それが原因なんです。クマが増えているというが、集落周辺が増えているだけで、奥山には全く増えている傾向はありません。

 

対処療法ではなく、根本解決を
【熊森】現象だけ見ていると「激増」となって、有害捕獲を前提として生息推定数を出して、大量に捕殺しています。それを繰り返してしまうと、新潟、石川のような生息数が安定していただろうという地域においてすら、絶滅の危険が出てくるのではないでしょうか。
なります。むしろその方が危険。実際にはドーナツ化が起こっているのに、事故を起こす率が高まって、それを全部除去してしまうと、個体群が衰退してしまいます。歴史的に森林の状況や河川の状況を見て、生物層がどれだけ劣化しているのかを考えると、増える要素がない。東北にしても中部山岳地帯にしても森林の生産力、樹木だけでなくて川の生産力が劣化しています。これは自然の問題というよりは人間の社会政策の失敗です。

ツキノワグマ分布の経年変化。「生息地の拡大」と言われるが、実際には「ドーナツ化」

里に出たクマは何度でも奥へ持って行って放獣するということを繰り返す必要があります。行政は「住民の反対がある」と放獣をしようとしないが、こういう危機的な状況だからと対策をとらねばならなりません。
環境省はガイドを出し800頭を超えたら、超えた分は捕殺してよいと言っているが、その根拠はありません。有害鳥獣駆除をベースにした個体数推定をすると簡単に800頭を超えてしまいます。それは捕殺するための数字であって、本来の個体群維持になっていません。目撃数や、有害鳥獣の捕獲数をベースにして調査をする個体数推定数というのは無理がある。もっと条件を厳しく吟味しなければなりません。環境省にしても林野庁にしてもシカやイノシシの個体数が増える政策ばかりしています。うっそうとした森林にしていけばそんなにシカやカモシカは増えません。だいたいクマが増えるとシカの個体数を抑えることができます。林道を通したり、斜面を切って風力発電やメガソーラーを設置すると森林を傷つける、それでイノシシやシカが爆発的に増えて被害が出る。解決策としてジビエなどが出てくる。そんなマッチポンプ的な政策ではなくて、本来の森林の生産力を復活させる予算を組むべきです。

【熊森】捕殺抑制をしながら、生息地を回復すべきと自然保護団体としては訴えていて、クマの研究をしている人こそ言ってほしいのですが。
大学に籍を置くと、政策に反するようなことはなかなか言えない。例えば県立だと県の方針を下支えする役割を負わされたりするので、そういう立場でしかものを言えないのではないでしょうか。

 

森林・河川の生産力の復活
【熊森】私たちも奥山の生産力を高める活動はしていますが、森林の劣化の方が勢いが強く、転換をしていくことは容易ではありません。その間、絶滅に至る地域が出てきてしまいます。奥山の回復をしながら、どのように中山間地域の人は、そして私たち自然保護団体はクマと付き合っていけばいいでしょうか。
今はある意味で「耐える時期」です。奥山の生産力を回復するには時間がかかります。人間の生産物でクマの命をつなぐのは最低限にしておかないと、野生本来のところでの生活が難しくなるので、兼ね合いは難しいですが、10~20年は人間がエサを媒介して接触しないようにしつつ、なんとか奥へ戻ってもらう。戻ってもらう先も、例えば河川上流の一定の地域での釣りを禁止にして、あまり勧められたことではないが養殖的な工夫をなどしてそこにいた在来魚を増やす努力をする、沢沿いの森を優先的に復活させるといったことを続けていれば20~30年でかなり回復すると思います。しかし、行政は手を打つことをなかなかしません。西中国山地の保護計画のなかでも「クマが生活できる自然を回復させる」という項目を入れたが、予算措置がとられていません。本来はそこに予算を投下して、生息地の環境を整備視することを通じて事故防止のための予算執行へと変えていく努力をしないといけません。今林野庁が目指している皆伐政策は間違いです。間伐でも複層林化を目指す間伐で、まず沢筋を復活させれば、部分的でも復活の兆しが見えていくだろうと思います。

自動撮影カメラ(左)と沢を利用するクマ(右) かつては川面が盛り上がるほど渓流魚がいたという。川の生産力が衰退しており、沢沿いの森を復活させるのは急務。

 

【熊森】使っていない林道は閉じたらいいのではないか。森を回復させる提案としてはあり得るのかなと思うのですが。
あり得ます。林道を潰すと森が復活する。それと同時にいらない砂防ダムを撤去すべきです。ほとんど土石流は皆伐後の人工林や林道の路肩から起こっている。林道の開発と皆伐が原因です。それを止めれば砂防ダムも撤去できる。物質循環の「血管」の役割をしている河川を復活させる努力をしないといけません。それが日本全体の生産力を高めることにもなります。河川の三面張り護岸工事で伏流水が遮断されたりしているが、流水が海を養うということ、自然があらゆる面で我々の生活維持のベースになっているということを政治や社会政策に携わる人が持たなければなりません。また、森林についても、今までは材としてしか見なかったが、森林の持つ生産力が我々の暮らしにどういう意味を持っているか、評価に入れなければなりません

 

人身事故を防ぐには
基本的にはクマがパニックに陥らないように心掛ける。住宅街などクマにとってあまり馴染みのないところだと、どうしても緊張状態になるので、そうしたところでは事故が起こりがちです。不安でいる動物の前に突然人が出てきたりするとパニックになってしまいます。そこで正面突破を図るクマに小突かれたり噛まれたりして事故が起こります。逆に人里離れたところでは、人もクマもある程度慣れているので、穏やかな接触で、避けることができます。要するに人も動物も「落ち着いた出会い」をすれば、まず事故は起こりません。犬をけしかけるとか、大騒ぎするとか、クラクションをならすとか、追い立てる、追い詰めるというのは効果としてはマイナス。茂みのなかで近距離でばったり出くわす、子グマが好奇心でなんだろうと人間に寄ってくるといった避けようがない事故はいくつかありますが、避けることができるのは、ばったり出くわすことを止める、緊張を強いるような行動を避けるということです。例えば夕方散歩をするときも一人では行かず、複数で話しながら行くと、相手にも気付いてもらえます。
クマも不安になると暗いところや狭いところに逃げ込もうとする、それが家の中だったりします。そしてわーっと追い立てるとますますパニックになって大暴れする。それをしばらく放っておくと、クマもあきらめて寝てしまったり、ゆっくり休んだりするので、それから処置すればそんなにひどいことにはならないわけで、もう少し寛容になる必要があります。それからメディアの責任は大きいと思います。追いかけ回して、大したことはなくても、リポーターも大声を上げてわめきながらリポートしている。

 

寛容さの必要性
【熊森】この山の状況だと、オニグルミやクリとか食べているのであればそっと見守って山に戻るのを待つくらいの寛容さが必要ではないでしょうか。
食べたら帰るんです。帰れる状況を作ってやるのが重要です。それから集落周辺の柿もぎをやっているのもあるが、これもケースバイケースだと思うのは、柿を目当てにやってきたクマがそこに柿がないとなるとさらに里に来てしまう。飢えているということには変わりないので、さらにエスカレートしていきます。だから一番は出てこないようにするのが大事だが、それができなければ、当面柿の数を減らしつつ、ある程度はそこで柿を食べてしまってもいいくらいの余裕はあっていいと思います。それと家には入られない工夫は必要です。
【熊森】うちの会はこういった山の状況なのでカキを食べに来るのは許してほしい。ただそうは言っても人身事故が起こる可能性があるところには、カキをもいでクマの通り道におくということをしている。
何でもクマにエサをやればいいという発想ではいけないが、緊急避難的にはそれも必要だろうと思います。ただ出口戦略をよく考えて対応しないといけません。
【熊森】あくまでも奥山の回復をする間の、絶滅回避の緊急対策として、検証しながらしています。

 

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