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兵庫県クマ生息地の氷ノ山調査

2022年11月4日(金)、熊森の若い職員らが、主原顧問と共に氷ノ山(ヒョウノセン)の調査を行いました。

氷ノ山は兵庫県と鳥取県の県境にあり、標高1510メートル、兵庫県の最高峰で、兵庫県のクマ生息地の中心です。現在山の状態がどうなっているのか調べて、今後の熊森活動に反映していくのが目的です。

 

氷ノ山の植生

1、原生林

天然スギ、ブナ、ミズナラなどの巨木の森です。

この時期、葉が落ちてしまっているのはブナ、葉が赤くなっているのがミズナラです。緑色は天然スギです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原生林

 

クマの痕跡を探してみましたが、古いクマ棚が一つ見つかっただけです。主原先生によると、クマは古い巨木よりも、登りやすいもう少し新しい木に登るとのことでした。

 

2、伐採跡の人工林と2次林

入らずの森だった氷ノ山ですが、戦後、人間がどっと入り込んでパルプ材を作るために大量の樹木を皆伐しました。その結果、頂上付近は、ササ原になってしまいました。自然界では、親木が倒れた空間に、親木の下で長年待っていた稚樹が突然成長し始めて、元の森に戻ります。しかし、皆伐されると、ササが優勢になってしまい、樹木が戻らない場所が生まれるのです。皆伐跡地にスギが植えられた場所は、人工林として今に至っています。伐採後、植林されなかった場所にはコナラなどが入って落葉広葉樹林が形成され、下の写真の姿になったところもあります。人手が入った山と原生林の見分け方がわかりました。

コナラは薪炭材として古くから利用され、炭の原料となりました。東北ではコナラを使って白炭を作るそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

濃い緑色はスギの人工林、他は紅葉が鮮やかなミズナラやコナラの2次林

 

氷ノ山の中間温帯はケヤキ、シラカシが多く、ミツマタは和紙の原料として利用されます。

そこから標高が高くなって冷温帯に入るとウラジロガシ、ミズナラ、ブナに変わっていきます。中間温帯とは暖温帯と冷温帯の間に位置する気候帯の事です。

ブナの落葉は早いので、この時期は他の木と見分けやすくなります。氷ノ山のミズナラは、ナラ枯れと言って、カシノナガキクイムシという小さな虫が持ち来むタフリナ菌で多くが枯死してしまいました。

カエデ類の種類をみることによって標高帯を分けることができます。カエデの種類によって生育できる場所が違うからです。冷温帯では山の下の方からヤマモミジ→ハウチワカエデ→イタヤメイゲツと変わっていきます。

 

3、ドングリについて

①ミズナラ(落葉)

このドングリはタンニンが多く含まれているので、動物の中でもそれを分解できるツキノワグマしか食べることができない。ネズミなどのげっ歯類は食べるとタンニンを分解できずに死んでしまう。

②ウラジロガシ(常緑:葉の裏が白い)

隔年成熟なので、1年ごとにドングリが実る年と実らない年を繰り返す。

③シラカシ(常緑)

今年ハイイロチョッキリというゾウムシによって実が落とされている。

ウラジロガシとシラカシのドングリの違いは、ドングリの先端の細いのがウラジロガシで太いのがシラカシ。

 

 

 

 

 

 

 

 

左がウラジロガシ、右がシラカシ

 

 

4、ショックだったササ枯れの発生

氷ノ山はまだ林床にチシマザサが生い茂っており、良かったと安心したのですが、よく見るとあちこちでササが枯れて茶色の葉になっていました。春、チシマザサのタケノコであるスズコはクマの貴重な食糧で、スズコのあるところ必ずクマが食べに来ていると言われるぐらいです。ササが失われることは、クマには致命的です。

ササが部分的に枯れるなど今までなかったそうで、原因は地球温暖化のようです。

ササが消えると土壌が水分を維持できなくなってしまいます。そうなると、乾燥に弱いブナが枯れだすことも考えられます。

ミズナラも枯れていますから、この上ブナ林までが消えると、秋のクマの食料が不足し、大変なことになります。冬、ササは雪に埋まり、―15℃で休眠状態に入ります。春先に休眠状態が解除されたあと、再び突然気温が下がるとあっけなく枯れてしまうそうです。昼夜の大きな温度差についていくことができずに枯れてしまう凍害も併せて起きているようです。ササはわずかな気温の変化によって、枯れるというダメージを受けることがわかりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

黄色い部分がササの枯死

 

5、シカ

兵庫県はシカの生息数が多いため、多くの地域でササをはじめとする森林の下層植生がシカに食べ尽くされています。

しかし、全てシカが悪いわけではないと思います。山の自然林を伐採して一面スギ・ヒノキの人工林に変え、野生動物たちの食べ物を奪ってしまった人間に大きな責任があるのではないでしょうか。

シカが多く生息する地域ではせっかく広葉樹の苗木を植樹しても、すぐシカに食べられてしまい、苗木が育たないケースがほとんどです。

 

 

 

 

 

 

 

 

ササがシカに食べられた痕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シカが多い所では、下層植生がほとんど消えている

 

6、兵庫県のクマ対策である柿もぎ

兵庫県はクマとの人身事故を防ぐために、地元の人たちに柿の実を早く収穫するか、柿の木を伐るように指導してきました。みごとに山裾から柿の木が消えましたが、、集落の柿の木が残っていると、クマは集落に入っていきます。山里の人たちの中には、「クマが柿を食べに来るのは昔から当たり前で、クマが来ている時は家から出ないようにする。昔からそうして共存してきたから、クマが来ても問題ない。」と言って、柿を残しておく方もたくさんおられたそうです。

 

 

7、今回、進む山の劣化に危機感

氷ノ山はクマが棲んでいるだけあって豊かな森です。しかし、確実に山の衰退は始まっていました。クマをはじめとする野生動物たちが生息地や食べ物に困って、山から出て来ることは避けられないと思いました。戦後、原生林を大規模伐採したことや、奥山にまで人が入り込んで道路を造り続けたこと、原因は皆人間が作っています。これ以上山が劣化すると、野生動物と人間の共存はより難しくなってしまうかもしれません。

何とか野生動物の生息地を復元し、山の劣化を防いでいきたい。熊森はがんばります。(羽田)

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