くまもりNews
3月10日 JBN主催シンポジウム ~紀伊半島・絶滅危惧個体群のツキノワグマの行く末を考える~(於:奈良教育大学)に参加して
前日のポカポカ陽気を思い、薄着で出かけたところ、この日は一転、冬に逆戻りかと思うほど寒くて震え上がる一日でした。
わたしたちは、紀伊半島のクマを守るため命を懸けられた、当協会顧問故東山省三先生のことを、忘れたことがありません。
熊森こそ、このようなシンポジウムを紀伊半島で持たねばならないのに、まだ力不足で、持てていません。JBNがこのようなシンポジウムを持ってくださったことに感謝します。
紀伊半島のツキノワグマは完全な孤立個体群で、その推定生息数は残り約200頭とされ、種の保全には危機的な数です。胸が痛みます。
ツキノワグマたちをここまで追い込んだのは、紀伊半島の人工林です。(黄土色の部分が、人間によるスギ・ヒノキの人工林)
研究者の中には、純血を守ることよりも、種の存続に重きを置いて、今後、コリドー(=動物たちが移動できる回廊)を造って、京都や滋賀などの近隣府県のクマたちとの交流を可能にしようと提案される方もおられ、とても現実的な提案に、うれしくなりました。その研究者は、紀伊半島のクマを、四国に放すことも考えておられました。紀伊半島と四国のクマは、遺伝的には同種で似通っているということですから、残り十数頭と予測される四国のクマが消える前に、早く取り組むべきだと思いました。
現在、多くの研究者たちは、なぜか、遺伝子の攪乱を何よりも恐れておられ、地域個体群間の交雑を絶対に認めようとしません。しかし、以前、京都府で有害捕殺されたクマが、石川県のタグをつけていたことを思うと、もっと人間が少なかった頃、動物たちは今より自由に移動していたと思われます。長いコリドーを造ることは大変で、すぐには無理でしょうが、近隣府県で有害捕獲され、殺処分されるクマがいたら、紀伊半島のクマ生息地に運んで放してやれば、コリドー効果と同じ効果があります。
しかし、問題は、紀伊半島には、もはやクマたちが生き残れる自然環境がほとんど残されていないことです。生息環境を復元してやらねば、いくら他地域からクマを入れても、餓死するだけです。研究者によると、紀伊半島で餓死グマを3頭も発見したそうです。解剖すると、胃の中は空っぽだったそうです。こんなことは他地域ではありえないと言われていました。
和歌山県でこの前、人里に出て来て有害捕殺されたクマの場合、痩せてガリガリで餓死寸前だったのに、全くエサのない奥山に3回放獣して、また出て来たので3回目だからと殺処分したということでした。このような場合、保護して、春まで飼育し、元気にしてから放してやればいいのではという提案に対して、好意的な研究者もあれば、予算がないなどとと反論する研究者もありました。当協会は無料でやらせてもらいます。
自然林がほとんど残されていないという厳しい環境の紀伊半島で、下の照葉樹林と山の上の落葉広葉樹林をうまく使って生き延びているけなげな三重県のクマたちの撮影に成功された地元林業家の映像が上映されました。すばらしい映像でした。
ただし、紀伊半島のクマは、スギのかわはぎを行うので、林業家から、害獣としての駆除要望がとても強いのです。
この方のブログは、すばらしいので、ぜひ紀伊半島のクマに思いを寄せる方は、ご覧になってください。
(熊森から)
以前、紀伊半島の林業家のみなさんが多くおられる会で講演させていただいたとき、紀伊半島では、クマの捕殺が毎年ゼロですと話すと、みなさんが、「そんなはずはないだろう。うちもだけど、みんな獲ってるよ。クマは林業の敵だ」と教えてくれました。ただし、誰も行政には届けないと言われていました。行政のみなさんは、きちんと見回りをして、違法捕獲を厳しく取り締まっていただきたいです。
シンポジウムに出られた行政の方が、当県の林業を守るために、クマの被害を何とかしないとという話を強調されたため、奈良県の山の中を歩き回ったり、動物の棲める森を復元したりされている熊森会員が、会場から発言を求め、「林業が成り立っている所は守ってもらいたいが、当県では多くの人工林が放置されて、荒れ放題。林業なんかやっていない場所がほとんど。そういう所は、動物たちが棲めるように広葉樹林に戻してほしい」と、人々の胸に響くように、しっかりと落ち着いて訴えられました。すばらしかったです。