くまもりNews
神戸市の深い3面張り川のえん堤内に閉じ込められて1年たつ1頭のイノシシのこと
12月25日の新聞報道によると、今年4月、神戸市中央区の宇治川のえん堤に、ウリ坊(イノシシの子供)が1頭迷い込み(流れ込み?)、高さ6メートルのコンクリート塀に囲まれたまま、約1年近くも抜け出せないでいるということです。50キログラムぐらいにまで、成長している感じでした。
見かねた住民たちが、餌をやるなどして、このイノシシの命をどうにかつないでいるものの、山に返してあげたいなどの市民の相談に対して、行政側が全く動いていないという記事でした。何のための行政なのか、信じられません。
近隣の他の市では、同様のことが起こると、住民の通報を受けた行政がすぐに駆けつけて、イノシシを山に逃がしてやっています。つい先日も、行政が、高い岸から川に落ちて這い上がれなくなっているイノシシを救出して、住民から拍手をもらっていました。
川を、動物が落ちたら最後、二度と這い上がれないような何メートルもの高さのある垂直3面張りの排水路に変えてしまい、町中に張り巡らせた人間の責任は、本当に重いと思います。(子供や動物など、弱者への配慮が全くない)
このイノシシを助けてやってほしいという声が、さっそく、12月25日夜から、くま森に入り始めました。行政にとって、このイノシシを救出し、山に逃がすことなど簡単なことです。1年近くもなるのに、なぜ動いてやらないのか、理解に苦しむくま森は、26日、行政に電話で、すぐに救出して山に逃がしてあげてほしいとお願いしました。その時の答えは、人間として、本当に理解に苦しむものでした。
くま森が救出しよう。クレーン車やユニック、捕獲檻、軽トラック・・・準備物が次々と浮かびます。しかし、高さ6メートルのコンクリート塀と言われても、実物を見ないと、救出計画が立てられません。インターネットのグーグルストリートビューで確認してみましたが、やはり現地に行かないと、はっきりとした河川敷の構造がわかりません。明日の朝、現地に取りあえず行ってみることにしました。
元イノシシの生息地であった神戸市の裏山は、宅地開発の歯止めがかからなくなっており、現在、人間の住宅地が山の半分くらい上まで上がっています。生息地を奪われたイノシシは住宅地内を徘徊し、あちこちに掛けられたイノシシ捕獲用くくり罠や箱罠にかかって、毎年大量に殺されています。銃猟禁止地域なので、罠にかかったイノシシは、たたき殺すか刺し殺すかされています。以前、猟友会の方が詳しく教えてくださったことを思い出しました。
この1歳の迷いイノシシにとって、山に逃がしてあげることが幸せにつながるのかどうか・・・逃がしてあげた次の日に、罠にかかってたたき殺されることも十分予測されます。どちらがこのイノシシのためになるのか。大切なのは人間の命だけではなく、全ての命だと考えている私たちにとっては、悩ましい限りです。
12月27日、朝、行政に、昨年度神戸市で捕殺されたイノシシの数を聞いてみました。640頭!でした。
現地に到着し、入念に構造を調べ、付近の人たちの聞き取りを行いました。遊水地の底から地上の道路まで、コンクリートの広い坂道がついており、坂道を上りつめたところの鉄の扉さえ開けてもらえれば、クレーンやユニックなど不要で、救出は簡単にできます。
近隣の方たちが、集まってこられました。多くの市民が、このイノシシを不憫に思い、温かく見守っておられることがわかりました。
私たちは、きれいな水は?、餌は?、嵐の日の逃げ場は?もし川が増水したら生き残れるか?危害を加える人間はいないか?いろんな観点から、生息地を調べていきました。
イノシシが迷い込んでいるところは、大雨の時、川の水が市街地にあふれださないように作られた遊水地でした。外からでは遊水地の構造がわかりにくいため、施設管理部署を訪れ、図面を見せてもらって、遊水地の構造を確認しました。
写真右の坂道が、地上への道で、イノシシはこの先端までよく来ているそうです。坂を登りつめたところにある鉄の扉を開けると、すぐに地上に出られます。
<わたしたちの出した結論>
豊かな自然の中で、親子で生きているイノシシのことを思うと、確かに哀れなイノシシではあります。しかし、予想に反して、命を永らえることができる最低限の生息環境チェックは、全て合格点でした。
人間のことしか考えなくなった環境省は、今、今後10年で、シカ生息推定数の半分である160万頭、イノシシ生息推定数の約半分である39万頭の大量捕殺を行うと宣言しています。
捕獲罠でいっぱいの山に逃がされて罠にかかりたたき殺されるより、ここで、多くの市民に愛されて生を全うした方が、このイノシシにとっては幸せではないかと思われました。
行政関係者のみなさんに、遊水地からイノシシを救出して山に逃がしてやってほしいという、昨日の申し出を取り下げることを伝えました。
近隣の神戸市民の皆さん、哀れな1頭のイノシシを、今後とも愛し育ててやってください。よろしくお願いします。このイノシシを大事に見守ることによって、人間社会にもきっとすばらしい幸せがもたらされます。ただ、このイノシシは、春からここにいるということで、今の状況で、厳しい冬の寒さが乗り切れるのかどうかの証明ができません。皆さんに見守っていただくしかないと思います。
行政にもいろんな方がおられます。親身になって私たちの思いを受け止めてくださった、人間性を失っておられないみなさんに、心から感謝申し上げます。
(完)