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NHKスペシャル 『ヒグマ・運命の旅』 圧倒される知床の大自然と、ナレーターの断定表現への不安

8月7日の再放送を見ました。さすが、NHK。知床半島の自然の空撮はすばらしく、映像に圧倒され続けました。まるで目の前で知床の森や海を見ているような気分を味わうことができました。

 

知床・ルシャの渚は知床の世界遺産の中でも特別保護地域に指定された、日本で唯一のヒグマの楽園です。ここで暮らしていた30頭のヒグマたちのなかから、母子グマと老齢のオスグマに焦点が当てられ、4年間にわたり記録され続けた膨大な映像をまとめた番組だそうです。

 

番組の途中から、非常に気になりだしたのは、ナレーターのヒグマたちに対する決めつけ言葉の数々です。ヒグマたちの世界のことは4年間と言っても、ずっと見ていたわけではないのに、また、ヒグマたちがインタビューでそう答えたわけでもなく、想像の域を出ない事柄だらけのはずなのに、ナレーターは次々と断定表現をされていきます。これは危険だと感じました。

わたしたちの経験からしても、自然界は、調べても調べてもわからないことだらけであり、ヒグマたちの行動についても、できることならクマに直接インタビューしてみたいと思うほどわからないことだらけのはずです。

どうしてあのように断定できるのでしょうか。

これではまるで、ドキュメンタリーではなく、作られた物語になってしまっていると感じました。

 

知床にヒグマを見に行き、番屋の人たちと語り合った経験からすると、感性の違いでしょうか、どうもナレーターの方の言葉に同意できない箇所がいくつも出て来るのです。知床やヒグマを全く知らない人は、ナレーターの言葉を真実だと錯覚して、知床観やヒグマ観が形成されていくでしょう。どうしてそんなことが決めつけられるのか、人間による全くの誤解かもしれないのに、大変怖いと思いました。

 

以前、NHKテレビに出していただいた時、現地に行ってインタビューを受けようとすると、すでに台本が全部出来上がっており、台本と違うことを答えると、何回もやり直しをさせられて、泣きそうになったことがあります。その時のことを思い出しました。ふと、この番組も、初めから、全部台本が出来上がっていたのではないかと感じました。

 

最後、人馴れして集落近くの海岸などに何度も出て来るようになったからとして、子グマ達は、あっけなく、有害獣として人間に撃ち殺されて終わります。

熊森本部に来たメールの中には、意外な顛末に驚いて、ひとり号泣してしまったという男性もおられました。

NHKが、過酷な運命の旅と気取って言ってみても、これは人為的に造られた結末であり、クマ射殺は運命でも何でもありません。

海岸で射殺されたクマには、人を襲ってやろうというような悪意は全くなかったと思われます。

あのクマたちが、どうしてあそこまで人馴れして、特別保護区から集落に近い所まで出て来たかというと、NHKのスタッフたちが4年間もこのクマたちを愛情を持って撮り続けたからだろうという声もありました。もしそうなら、このヒグマたちが殺される原因を作ったのはヒグマたちに近づきすぎたNHKということになります。

 

感動的ないい番組を作りたいというNHKのスタッフのみなさんの気持ちもわかるし、このような大自然の中に生きる動物たちを追った番組を見たいという視聴者の皆さんの気持ちもわかります。しかし、その結末が、ヒグマ射殺では・・・人間は何をしているかです。この番組を見ていろいろな声が熊森本部に届きました。

 

・後半は見るに堪えず、 番組終了後、何とも後味の悪い耐えがたいおぞましさに襲われました。

・ あのような安易なヒグマ殺傷は 、将来の子供達にも、決して良い影響は与えないと思った。

・いかに安易にヒグマ駆除の許可を出しているか、良く分かりました。

・2頭の子熊・シロとクロが成長し た後、厳しい自然の中で食べ物を求めて人里に下りてきた後、『駆除』(殺処分) されてしまった画面になんとも言えない怒りと悲しみを覚えました。ものう少し動物愛護の視点が欲しかったと思います。

 

 

4年間成長を見続けてきたシロとクロが 、人馴れしたからと殺されるのを知った時、冷静にその場をカメラで撮影できる人もいますが、何分間かシロとクロの映像に親しんだだけで、まず、シロとクロの命を助けてやりたいと思うようになる人たちもいます。人間いろいろです。

 

視聴後、知床財団の方に電話でいろいろお話を聞かせていただいたり、北海道庁の方に、資料をFAXしていただいたりしました。熊森はこれからも、北海道のヒグマたちにも、可能な限り目を向け続けていきます。

 

●NHKのこの番組作成責任者に、質問と意見を送りました。

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