くまもりNews
滋賀県北西部の奥山調査 ふもとから頂上まで下層植生が完全に消滅 クマの最近の痕跡なし
- 2015-05-12 (火)
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滋賀県のクマ生息地というと、一番に思い出すのは北西部のこの大きな町です。十数年前に訪れた時は、ササでびっしりとおおわれた山中のいたるところに鉄格子でできたクマ捕獲罠がかけられており、次々とクマが捕獲されて殺されていました。役場の方に歯止めをかけてほしいとお願いしましたが、聞き入れられませんでした。
しかし、地元の研究者は、今やもうこの町にクマはいないと言われます。なぜいなくなったのかたずねると、みんなで獲り尽くしたからということです。悲しいです。
5月6日、熊森本部は、滋賀県支部のメンバーと、この町の広大な山を調査しました。
ふもとの山に到着。新緑の美しい山です。つい、この中にはいろんな生き物たちが暮らしているように思ってしまうのですが・・・
登山開始。
滋賀県の人工林のスギは、雪国対応の裏スギでした。ふもとから頂上まで、全てのスギにクマ剥ぎ防止テープが巻かれていました。
本部のある兵庫県のクマは、スギの皮ハギをしない文化を持つので、この様な光景は見たことがありません。クマ剥ぎ防止テープが異様で、ギョッとしました。
それにしても、もうこの町のクマは殺し尽くされたのですから、クマ剥ぎ防止テープを巻く必要などないのです。巻いた訳は、補助金がもらえるからです。
私たちの税金が無駄に使われています。
左半分が自然林、下草はシカの食べないアセビ。右半分はビニールテープを巻いた人工林のスギ
急な山道を登っていきます。この山のミズナラは枯れているのもありましたが、まだ残っているのもありました。良かった。しかし、下層植生はゼロです。
かなり急峻な山
それにしても、滋賀県の奥山の広大なこと。360度、見渡す限りの深い山々です。
どこまでも、山また山
今立っている山も対岸の山も、戦後の国策であったスギの分収造林地です。
しかし、手入れが行き届かなかったところは、本来の潜在植生である広葉樹に自然に戻って行って、まるで、針広混交林のようになってきています。
根の浅いスギだけが崩れ落ちたところが何か所かありました。
自然界が、スギに対して、ノーと言っているのが見えるようでした。スギに向かない所に植えられたスギもかわいそうです。
針広混交林化したスギの分収造林地
800メートルを超える福井県境の尾根まで上がってきました。ブナの木がたくさん残っていましたが、まるでこの山は、公園状態です。姿を隠すものがなければこわくておれない臆病なクマは、とても棲めません。動物に出会うことはありませんでしたが、頂上まで、いたるところにシカの糞が落ちていました。シカ以外の糞は見つけられませんでした。シカが下層植生を食べ尽くしたことによって、クマは餌場も生息地を失ってしまいました。
京都府や兵庫県と同じ事態が起きていることがよくわかりました。
頂上近くの尾根。尾根の向こうは福井県。
クマの棲む最高に豊かな森を残したい熊森としては、複雑な気持ちでした。下層植生を消したのはシカだとされていますが、わたしたちはシカのバランスを崩したのは人間活動だと思います。
対岸コースを歩いたグループは、クマの古い痕跡を少し見つけたそうですが、新しい痕跡はゼロでした。
滋賀県支部のメンバーによると、滋賀の別の地域には、まだクマが残っているところがあるということです。
今日1日見てきた滋賀の広大な山々は、野生生物の保全だけではなく、水源の森保全の観点からも危機的な事態です。