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コロラド州における人とクマの共存のあり方  ~徹底した防除対策~

日本でクマの大量捕殺が続く一方で、アメリカでは「クマをできる限り殺さない」共存政策が採られています。日本のクマの大量捕殺に胸を痛め、コロラド州におけるクマとの共存政策について知らせてくれたのは、会員の伊藤純子さん。アメリカコロラド州に住む方からクマの人的被害の件数や共存のあり方を聞いて、情報を寄せてくださいました。
コロラド州のクマの生息数は17000~20000頭と推測されています。2019年(4/1~12/31)、クマとの接触情報は5369件寄せられました。このクマとの接触情報(ベア・コールBear Call)は、よっぽど緊急の場合は911(警察への緊急通報)ですが、CPW(コロラド・パークス・アンド・ワイルドライフColorado Parks and Wildlife)という機関へ通報されるのが通常です。

CPWはコロラド州における自然保護や野外活動、野生動物管理を指導する国および州が定めた機関であり、州の全野生動物を取り扱い、41ヶ所の州立公園や350ヶ所以上の野生動物生息地域の管理をしています。

CPWのホームページ トップページのスライドショーで「(クマ対策のため)ゴミ箱に錠を」と呼びかけている

 

CPWに寄せられた情報は
・外にあるごみ箱を荒らされたケースが1728件
・庭の鳥の餌箱が壊されたケースが397件
・庭の果実をつける木やハチの巣、鶏斜などが狙われたケースが1171件
・車の中に食べ物を置いておいて車に侵入されたケースが303件
・ガレージや家への侵入のケースが517件
・その他1253件
驚くべきは、計5000件以上の被害情報の中で2019年安楽死させられたクマは92頭(被害の1.7%)だということです。また、2018年の安楽死数は63頭にとどまっています。もちろん殺すことへの是非はありますが、コロラド州での「安楽死」は文字通り薬を使い、銃殺はしません。さらには、また母グマを安楽死させることはほとんどなく、仮に母親を安楽死させることがあれば、その子グマは野生に戻ることができるまで保護施設に送られるということです。
クマによる人の死亡事故は1934年から2019年までで5人となっており、一番最近の死亡者は2009年で、それ以降死亡事故は起きていません。さらに、たとえゴミなどの誘因物に引き寄せられて町中におりてきても、人が怪我をする人身事故の事例も極めて少ないです。
これは行政による住民、観光客への告知、教育、指導によるものだと考えられます。ポイントは「人間がクマの棲む場所に入ってきていることを自覚すること」その上で、クマとの接触をできるだけ回避するために
・クマがコロラド州の主にどこに生息しているか
・どの時期にどんな活動をしているか
・どの時間帯に活動しているか
をHPや配布物、看板、宣伝カーの巡回などで常にアナウンスしているということです。

「クマはとても頭がいいので、私たちも頭がよくならなければならない」と注意を促す

また、クマは嗅覚が鋭いため、ごみの処理方法についても厳しく指導し取り締まりを行なっています。
・外に設置してあるごみ箱はクマが容易に開けられないようベアプルーフと呼ばれるタイプのごみ箱を設置していること
・BBQの後、食べ残しは絶対に置いていかないよう告知が徹底されていること
・家で料理をするときはキッチンの窓を開けないよう告知していること
・家の玄関ドアノブ(外側)はレバーではなく丸いタイプにしてクマがドアを開けられないようにするよう建築基準法で定めていること
などがあります。

クマがごみをあさらないように、ベアプルーフタイプのごみ箱が置かれている

クマが開けられないように、外側には丸いタイプのドアノブが

「窓やドアにしっかりと鍵をかけるように」

 

CPWのSNSにはクマとの接触情報や対策などがアップされています。CPW南東部のツイッターによると

これは「排水溝に入り込んで出られずにいるクマがいる」との通報があり、駆け付けたCPWの職員が「排水溝と繋がったマンホールのフタを開けておけば、自力で脱出するのではないか」と試し、無事にマンホールから出てきたものです。その後、職員たちによってゴム弾で退散させられ、森に帰ったそうです。これは何度も捕獲されたり市民の安全を脅かしたりすると安楽死処分となるため、市街地に近寄らせないために脅しているのです。「安易に殺さずに解決する」という姿勢が見られます。

無事にマンホールから脱出!

森に帰るように職員によってゴム弾で脅され、掛けていくクマ

コロラド州の事例はクマとの共存のあり方として必ずしも完璧なわけではありません。生息推定数2万頭のなか、2019年は約1200頭が狩猟されている事実もあり(日本では2019年の狩猟数は数百頭)、CPWの組織自体も、狩猟や釣魚の免許の発行をしているなど、ハンティングを容認しています。しかし、日本のように、山にいる野生動物まで追いかけ回し、子グマや親子グマまで殺処分するような、非人道的な例はほとんどなく、あったとしてもCPWによって調査され、対処を受けます。違法な狩猟に対して、罰金が科せられたり、免許を剥奪されることもあります。その上、推定生息数がほぼ同じにもかかわらず、コロラド州での安楽死数(2019年92頭)と日本での捕殺数(2019年6039頭)には大きな差があります。さらに、日本では捕殺数がこれだけ多いにも関わらず、人身事故や死亡事故も毎年起きているのです。クマと人の共存や人身事故・死亡事故を防ぐということにおいて大切なのは、クマを捕殺することではなく、被害防除など人への教育と情報共有がいかに有効であるかということはコロラド州のデータから顕著です。クマの絶滅を防ぐため、日本においても、クマの大量捕殺の流れを食い止め、クマの生命を尊重した共存政策へと転換することが急務です。

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