くまもりNews
殺さないクマ対応2 棲み分けの復活
- 2023-07-06 (木)
- くまもりNEWS
人間の生活圏にクマが入ってくると、クマが増加した、クマが人間を恐れなくなったなどの研究者たちの見解、それを受けての報道が目立ちます。実際のところはどうなんでしょうか。当会は、昨今のクマと人の軋轢に関する報道を見て、クマ問題はクマに原因があるので駆除しなければならないという人間中心の結論が先行しているように感じます。
2018年環境省統計(発表されている一番新しいものです)
狩猟や駆除で人が殺した主な野生動物の数
イノシシ46万2千頭、シカ42万9千頭、サル2万3千頭、
クマ3千6百頭、カモシカ500頭、
日本では、年間を通して多くの野生動物が殺処分されている状況が続いております。
以下、クマ(ヒグマ、ツキノワグマ)について考えてみたいと思います。
近年、クマが人間の生活圏に入ってくるようになったのは、クマだけの原因でしょうか。
当会はクマによる人身事故があったり、予期せぬ場所(平野部、市街地、住宅街など人の生活圏の中心地)にクマが出てきたりしたら、仕事として駆け付けて現場での聞き取り調査や痕跡調査を行い、クマが再び来ないような対策を施します。しかし、被害を100%防ぐことはなかなか難しいです。
なぜなら、クマ問題が深刻となっている地域には、以下のような共通点があるのです。
1、空き家が増え、空き家の敷地内に柿や栗などの家庭栽培されていた果樹が放置されたままになっている場所がある。
2、過疎化高齢化が進み、昼夜問わず人の移動(活動)が少なくなってきている。
3、放棄された田畑が年々広がっている。
4、河川敷など、草刈りがされず草が生い繁っている場所が何キロにもわたって下流まで続いている。
5、駆除された動物の死骸や生ごみが放置されている場所がある。
<昨年10月に京都府で発生した人身事故の場合>
集落の真ん中にあるご自宅の庭の柿の木に、早朝、親子のクマが登って実を食べていたそうです。
なぜ集落の真ん中にまでクマが出てきたのかと思うかもしれませんが、実は、その付近の家には空き家が点在しており、空き家にある放置された柿の木についた実が、クマを少しずつ呼び寄せていたのです。
また、空き家から付近の山までは、耕作放棄地がひろがり、その中を獣道がいくつか形成されていました。獣道を調べると、柿を食べたクマの糞があり、クマが移動経路として背丈の高い草がうっそうと生い茂る耕作放棄地を使っていることがわかりました。
<新潟県で平野の真ん中にクマが出てきた場合>
どのような経路を伝って平野の真ん中まで出て来たのか、現地の聞き取りと調査から、経路を探ってみました。
なんと、高速道路ののり面や河川敷の茂み・林を利用して移動していたことが分かりました。
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最近のクマのニュースで、「人が近くにいてもクマが逃げない」という話をよくききます。
逃げない時のクマの状況をきくと、クマは何かを食べていたというのが多いようです。これは、クマが食事に夢中になっており、人に気づいていないことが考えられます。
現地での被害対策を行う中で、人が里山を利用しなくなったり、耕作放棄地が増えたり、銃を持った狩猟者が山に出入りすることが減ったことから、クマは山ではなく里や里周辺で生活するようになってきているように思います。平地は肥沃な大地ですから、植物の生育も良く、実りも多く、移動も楽。もしこの国に人間がいなければ、かれらは本当は平地で暮らしたいのです。
里に移動してきたクマたちは、ふだんから人をよく見かけることになり、当然ながら人間にあまり恐怖心を抱かなくなります。クマが目撃されると、今にも人身事故が起きるかのように各地で大騒ぎとなります。しかし、完全に人慣れしたクマは基本的に人身事故を起こさないと思われます。クマによる人身事故は、クマが人間にやられるという恐怖心から人間から逃げようとして起こすものだからです。
このように、人の生活の変化に合わせて、クマも土地利用を変えてきているように思います。これは、クマだけではなくシカやイノシシ等他の野生動物も同じで、日本だけの状況ではないと思います。もちろん、人間と大型野生動物はうっかりぶつかるだけでも人間側は転んだりしてケガをしますから、大型野生動物と人が共存するには祖先がしていたように棲み分けることが必要です。
近年、人とクマの軋轢が大きくなっているのは、本来の生息地であった奥山を、拡大造林政策による人工林化や道路開発、再エネ発電事業開発などにより人間が破壊しただけではなく、里での人間社会の産業構造の変化など、人間側にも原因があります。たとえば、かつて食糧自給率100%だった日本ですが、今や38%と言われるまでに第一次産業が衰退しています。
クマを殺さないでこの国で人とクマが共存するには、
1,奥山に放置された人工林は国策として自然林に戻すこと。
2,山奥にまで張り巡らせた道路を閉鎖して、奥山には原則、人が入らないようにすること。
3,山の尾根筋に巨大な風力発電施設を造ったり、森林を伐採して切土盛り土を行い太陽光パネルを張るなど、もっての他です。
4,国内の激減した食料自給率を見て、放棄された農地をどうしていくのか(活用か自然草原にするか)、地域、国民、行政、国、早急にみんなで考えることが必要だと思います。