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2022-04-13

自然?クリーン?再生可能?どこが ②

長周新聞
アフリカの熱帯林を破壊
星槎大学共生科学部特任教授 西原智昭氏

バイデン米大統領と菅首相がともに「温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする」といい始め、太陽光発電や風力発電、電気自動車を増やす「脱炭素」「グリーン」を新たな成長戦略に位置づけている。しかし、風力も太陽光も電気自動車も、それをつくるためには大量の希少金属が必要であり、その希少金属を手に入れるために多国籍企業が「地球の肺」と呼ばれるアフリカの熱帯林を地域によっては根こそぎ伐採し、先住民の生活を奪っているという事実がある。アフリカで30年間生活し、熱帯林と生物多様性保全の仕事に従事してきた西原智昭氏(現在、星槎大学共生科学部特任教授)にインタビューをおこない、現地でいったいなにが起こっているのか聞いてみた。

 

30年間アフリカで生活 熱帯林保全に従事

 

――アフリカに行くきっかけはどんなことでしたか?

 

西原 もともと京都大学で人類学を専攻していた。京大は歴史的にアフリカでの調査研究の伝統がある。私は人類とはなにかを純粋に知りたいという希望があって、人類の起源と進化を探る人類学研究室をしばしば訪ね、大学院もその研究室を選んだ。
その研究室は、当時は次の三本柱を掲げていた。第一に、人類はアフリカから進化してきたわけだから、太古の時代を生きたアフリカの人骨、遺跡、遺物から検証する。第二に、進化の過程でわれわれにもっとも近い現生の動物、アフリカに住むゴリラやチンパンジーの生態や社会、行動を研究する。第三に、今でも人類の初源的な生活のあり方を続けている先住民族を調査する。

 

私自身ははじめ、第一の柱の骨の研究をやっていたが、幸運にも1989年に京都大学調査隊の一員としてはじめてコンゴ共和国に行く機会を得た。そこで最初に研究対象に選んだのがゴリラだった。

 

アフリカのど真ん中に広大な熱帯林地帯がある【地図参照】。コンゴ盆地といわれている場所だ。中央部西側に位置するのがコンゴ共和国で、フランスが宗主国で公用語はフランス語。国の人口は400万人弱で、国土の面積は日本とほぼ同じだ。東隣にはコンゴ民主共和国(旧ザイール)がある。もともと同じ民族だったが、植民地政策で二つに分かれた。私はその後、西隣のガボンにも行った。

 

初めはゴリラの調査研究で入ったが、ゴリラが生きていけるのも森林という環境があってこそだということから、森林全体のこと、他の動物のことを調べ始め、そうした一連の研究を10年やった。その後、ニューヨークに本部がある国際野生生物保全協会(WCS)の自然環境保全研究員となり、20年間、熱帯林・生物多様性保全活動に携わった。日本に戻って大学の研究者になる道もあったが、現場で保全活動に貢献できる道を選んだ。

 

協会に属してからは、調査研究もやるが、森林破壊によって野生動物にどのような影響が出ており、それをどのように解決していくかを、現地政府と協力する形で、政策提言したりその根拠となる科学的データを提供したりしてきた。

 

コンゴに広がるのは長い歴史のなかで人の手から免れてきた原生の熱帯林で、そこは湿度が高くて(100%近い)ジメジメしており、ときには寒さを感じるほど気温が下がる、しかも見通しの悪い鬱蒼(うっそう)とした場所だ。しかし雨季はあるものの、雨量は年間1500㍉と日本よりも少ない。だからアフリカの熱帯林は「熱帯雨林」とは呼ばない。

 

直径1㍍以上もある大木をなぎ倒す激しい雷雨もあるし、足を踏み外せば沈んでいく沼地の連続だ。森にはゴリラだけでなく、チンパンジー、幾種類ものサル、マルミミゾウ、アカスイギュウ、カワイノシシ、ダイカー(レイヨウ類。ウシ科の小型動物)、ヒョウ、そして猛毒の蛇もいるし、凶暴でうっとうしいと感じざるをえないあまたの虫の猛襲もある。私は森をよく知っている先住民の経験と知識を頼りに、彼らとそうした動物たちを追って森の中を歩いた。

 

湿地帯草原にいるゴリラの家族。左側にいるのが家族の長で、他はそのメスと子どもたち(西原氏撮影)

原生熱帯林の中のゾウの道(西原氏撮影)

 

 

森林や鉱物資源の開発 欧米や中国の企業進出

 

――そこで見た森林破壊の実際と、その原因について教えてください。

 

西原 コンゴやガボンの森林を30年間見続けてきたが、森林が急激に消失し始めたのはここ20年ほどの話だ。そして、森林破壊の主要な原因もわかってきた。

 

コンゴ盆地の住民の主食はキャッサバで、キャッサバは森林伐採した後に火入れをした地に植える。だから森林破壊の原因はそれだとよくいわれる。だが、そうではない。森林が大規模に破壊されている主要な原因は、自然資源採取を目的とした、先進国を中心とした国々に由来する開発企業の進出にある。

 

自然資源のうち第一の問題は、熱帯林の木材としての輸出だ。ほとんどの日本人には知られていないと思うが、日本は世界の中でもアフリカ熱帯材輸出先のトップクラスに位置している。

 

高度経済成長期、日本の企業は東南アジアに進出してマホガニーとかラワン材を大量に輸入した。しかし今、東南アジアではそうした木材がとれなくなり、新たな供給先として同じ熱帯のアフリカが注目されている。

 

多国籍企業による無秩序な有用材の伐採が進んでいるが、植林が成功していない現状では、樹木の切り出しはアフリカの「原生の森」由来となっている。すでに各国政府によって設立された国立公園や保護区は、森林伐採地域に囲まれた「陸の孤島」のような状態だ。

 

そして、森林の中につくられた木材搬出道路は、ブッシュミート(野生動物の肉)目的の過剰な狩猟を促進している。この森林の急激な減少によって、これまでコウモリを宿主としていたエボラウイルスなどのウイルスが、それに耐性を持たない人間や動物に触れる機会を増やし、新たな感染症拡大の原因となっている。

 

もう一つの問題は、先進国による鉱物資源開発だ。鉱物資源は世界各地で開発が進んでおり、アフリカのコンゴ盆地は地球上でも有数の、あるいは最後の宝庫の一つになっている。鉄、ダイヤモンド、金だけでなく、希少金属の多くがここに偏在している。

 

そのうえほとんどが森林地帯の地下にある地下資源であるため、それをとるためには、森林を根こそぎ伐採してから掘り起こさなければならない。いわゆる露天掘りというやり方だ。それで大々的に森林が破壊されている。

 

ジャーナリストの谷口正次氏によると、アフリカ大陸の未開発の資源をめぐって、BHPビリトン、リオ・ティント、アングロ・アメリカン、デビアス、ニューモント・マイニング、セヴェルスタールといった欧米資源メジャーが争奪をくり広げてきたが、最近では中国が資源確保で影響力を強めているという(『教養としての資源問題』)。コンゴ盆地では、かつて宗主国であったヨーロッパの企業が多いが、ここ10年ぐらいは中国などアジア系の企業がたくさん入っている。これまで日本の企業はこの開発に直接には携わってこなかったが、開発に必要な資金供与として三大メガバンクがかかわったり、商社が自然資源の買い付けにきたりしている。

 

生産に必須な希少金属 電気自動車の場合

 

――電気自動車にはどんな希少金属が使われていますか?

 

西原 排気ガスを出さない電気自動車の大きな問題は、バッテリーとしてリチウム電池を搭載していることだ。パソコンやスマホに入っているものの大型といえる。確かにリチウム電池は、これまでの電池に比べて蓄電量も多く長持ちする、最新技術の賜だ。ただリチウム電池をつくるには三つの希少金属--リチウム、コバルト、ニッケル――が不可欠だ。

 

そのうちリチウムはかなり埋蔵量があり、森林破壊をせずに採掘できる。しかしコバルトはコンゴ民主共和国に偏在しており、コバルトを手に入れるためにコンゴ盆地の森林が破壊されている。ニッケルは、同じ熱帯のフィリピンやニューカレドニアの森林を破壊して調達している【グラフ①参照】。今自動車の年間総生産台数は約9000万台といわれるが、今後電気自動車を生産すればするほど森林破壊が進むことになる。

 

そうした金属はリサイクルすればいいじゃないか、と考える人もいると思う。そういう努力をしている企業はもちろんある。ただ、電気自動車をつくる業界全体をまかなうほどの量をリサイクルするためには莫大なコストがかかり、まだ課題が残っている。

 

また、深海底の鉱物資源から希少金属がとれることがわかっており、そのための技術力も日本の企業は持っているが、しかしそれにはもっと莫大な資金が必要で、今の段階では実現性がない。そのうえ深海のことはまだほとんどわかっておらず、鉱物資源を採掘することで海の生態系がどう変化するかは未知の世界だ。

 

菅首相は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、そのために新車販売を電気自動車などの電動車にするといっているが、今の状態で電気自動車を大量生産すれば、日本ではCO2の排出量が少なくなっても、地球の裏側ではCO2を吸収する森林が消失していくことになる。

 

子どもたちも従事しているアフリカの鉱山の採掘現場

 

太陽光や風力発電は? 原料採掘で森林消失

 

――太陽光や風力にはどんな希少金属が使われていますか?

 

西原 太陽光発電について、「ソーラーパネルは国産だ」といわれる。しかしパネルという板をつくるのは日本の工場でできるが、それに必要な資材のほとんどは輸入だ。ソーラーパネルの外枠のアルミニウムも海外の資源開発によって輸入している。

 

また、電気を流す電線には銅が必要だが、世界中で使用しているために、いまや銅が希少金属になってしまった。これから再エネを新たにたくさんつくり、そのためにさらに銅線をつくって電力会社とつなげるということになると、はたして銅が足りるのかという問題がある。

 

今日本で主流のシリコン系ソーラーパネルには、希少金属はあまり使われていない。ただ次世代型ソーラーパネルといわれるCIGS系は、集光力が大きいといわれるが、これには銅、インジウム、ガリウム、セレンという四種類の希少金属が使われている。

 

このうちインジウムは、粉状にしてパネルの裏面に吹きつけて集光力を上げる。インジウムは、希少金属である亜鉛の精錬のときに出てくる副産物だ。そしてインジウムは毒性物質で、発がん性物質が含まれている。すでに人体に対する健康被害が懸念されている。

 

問題は、今の技術ではソーラーパネルの耐久性は20年ぐらいで、20年後には産業廃棄物になることだ。産業廃棄物になった場合、すべての金属を区分けしてリサイクルに回すという技術があればいいが、大変なコストがかかるためにリサイクルはまだ産業化されていない。その場にそのまま放置された場合、インジウムという毒性物質が環境中にどのように拡散され、人間に影響を与えていくかはわかっていない。

 

環境省の資料では、今の勢いでインジウムを採掘すれば、あと約20年で枯渇してしまうという【グラフ②参照】。今、「ソーラー、ソーラー」と騒いでいるが、20年後にはそれをつくるのに必要なインジウムが地球上からなくなってしまう。それまでにリサイクル技術は完成するのだろうか。そういうことが検討されないまま進んでいると思う。

 

風力については、風車の柱となるのは巨大な鉄のかたまりで、日本でそれをつくるには鉄鉱石をさらに輸入しなければならない。日本の鉄鋼業界は日本の中で二酸化炭素をもっとも排出している産業であり、鉄をさらにつくると、風力のためにもっと二酸化炭素が出る。コンゴの森林地帯でも鉄が出る場所があり、森林を破壊して鉄をとっている。鉄も使えば使うほど、掘れば掘るほど森林がなくなっていく。

 

また、風車にはモリブデンという希少金属が使われている。モリブデンはアフリカにはなく、中国や南米のチリにあり、日本はチリから輸入している。これも希少金属である亜鉛とか他の鉱物資源を精錬することでできる副産物だが、このモリブデンもあと数十年で枯渇してしまうという。

 

モリブデンは風車のブレード(羽)を回転させるときの、内部のモーターの潤滑油に使われている。摩耗を防止するための添加剤だ。モリブデンのような添加剤がないと、ブレードが回るときに摩擦が生じて故障の原因になる。モリブデンは風力発電にとって必須な希少金属だ。

 

さらに、太陽光や風力は自然界の気象条件に左右される不安定な電源なので、それを解決するために大型蓄電池をつくるという話がある。だが、蓄電池をつくるということは希少金属を使用する巨大なリチウム電池などをつくるということで、希少金属の採掘がもたらす同じ問題が生じることになる。このようなことが議論されないままきている。問題が隠蔽されていると思う。

 

森林は元には戻らない 鉱物資源採掘の問題

 

――このような希少金属を手に入れるために森林を破壊した結果、自然や人間にどのような影響が出ていますか?

 

西原 まず、野生動物への影響は甚大なものがある。生物多様性保全といっているわりに、多国籍企業の大々的な開発によって森林がどんどん破壊されている現状がある。

 

また、森林の中に住んでいた先住民族が迫害され、住処を追い出されている。これに対して多国籍企業は、お金による解決を試みる。しかしお金だけでは森林は元には戻らないし、先住民ももともとの生活をとり戻せない。

 

よく聞くのが、「元に戻すために植林をすればいいじゃないか」という意見だ。しかし、アフリカの熱帯林では、特定の数種の樹種を除いて植林の成功例はごくわずかしかない。30年間現地で見てきて、木材目的の林業企業が植林を進めようとしてきたが、ほとんど成功していない。

 

熱帯の森林にくわしい日本の植物学者にその理由を聞いてみた。日本のような温帯の森林は生態系がそれほど複雑ではないので、人間の手で植林しても再生することができる。しかし熱帯林は数百種の動物、何千種類の植物、数万種類の昆虫、そして多様な菌類など複雑な生態系があってこそ、樹木の安定した発芽と成長が可能になる。したがって伐採後の荒れ地など、こうした生態系がセットで残っていない場所での植林は難しいという。とくに外生菌根で植物の成長に必須なものが多いので、うまく菌類のネットワークが育つ環境をつくるのが難しいのではないかと考えられている。

 

ただ、木材目的の森林伐採であって、皆伐方式でなく限定された区画のみの伐採なら、そして動物も残っているなら、自然界の再生力が発揮される余地がある。たとえばアフリカの熱帯林に生息するマルミミゾウは、果実の種子の散布を通じて次世代の植物を育む重要な存在だ。

 

ところが鉱物資源を採掘する場合は、熱帯林を根こそぎとり尽くしてしまう。地下資源の場合は地下何十㍍と掘ってとるので、その地域全体の森林を切らないと大々的に掘れないからだ。すると森林の生態系は壊滅状態になる。森林が全部なくなるので動物も残りようがなく、誰も種をまいてくれない。その場所はおそらく元には戻らない。それが鉱物資源開発の深刻な問題だ。

 

森林が元に戻らないかぎり、先住民族の生活も元には戻らない。コンゴ盆地にはピグミー族がいるが、彼らは食べ物だけでなく、住居や衣料、道具、薬剤に至るまで、多くを森林の産物に依存し、森林での遊動生活を営んできた。その彼らが森林を追われている。

 

さらに多国籍企業は、開発した森林の近くに住んでいる部族にだけ、補償金としてお金を渡す。だが、同じ先住民族であってもたくさんの部族があり、分散して生活している。元々先住民族の社会は、「森はみんなのもの。資源はみんなでわかちあう」という平等な社会だった。ところが一部の部族にだけお金が落ちることによって、それまで彼らの社会になかった格差が生まれ、それは部族対立につながっていく。

 

コンゴ盆地では歴史的に、鉱物資源の高額な収益が軍事費となって内戦が加速し、それは地域住民への強制労働や幼い子どもの児童労働、少年兵の育成となったうえ、内戦激化にともなうその地域からの避難民を生み出してきた。

 

このような現実を、鉱物資源を手に入れようとする先進国がつくり出している。アフリカでは部族間の対立が絶えず、そのことを「政治が不安定なのは発展途上のアフリカ人のせい」と見がちだが、実はその原因を先進国や発展著しい新興国がつくっているという事実を、多くの人に知ってほしいと思う。

 

熊森から

どんな問題も全体を見ないとだめだと思いました。

出来上がった製品だけ見ていたら、科学技術の負の面が見えてきませんね。

長周新聞さん、いつもありがとうございます。

勉強になります。

自然?クリーン?再生可能?どこが①

長周新聞の再生可能エネルギーに関する記事から、学ばせていただくことが非常に多いこの頃です。
以下、長周新聞2021年1月19日より
映画『プラネット・オブ・ザ・ヒューマンズ
(Planet of the Humans、人類の惑星)』

ユーチューブが削除し逆に注目高まる

 

マイケル・ムーア

アメリカの映画監督マイケル・ムーアが総指揮し、ジェフ・ギブスが監督したドキュメンタリー映画『プラネット・オブ・ザ・ヒューマンズ(Planet of the Humans、人類の惑星)』が注目を集めている。この映画は、「CO2による地球温暖化、気候変動によってわれわれの未来が脅かされている」「石炭や石油などの化石燃料に頼ることをやめ、クリーンエネルギーへの転換を」と声高に叫ぶ環境保護運動のリーダーたちが、実はウォール街の投資家や億万長者にとり込まれて、再エネ・ビジネス推進の道を掃き清めている事実を描き、真剣な論議を呼びかけたものだ。ところがこの映画がユーチューブで公開されて900万人が視聴するなど大きな反響を呼び始めると、わずか1カ月で「著作権侵害」を理由に削除された。この映画を観ていた記者たちで、映画はどんな内容だったのか、なにを問題提起しているのか論議してみた(写真は映画の一場面)。

 

 映画がユーチューブで公開されたのが昨年4月で、ちょうど全国で海でも陸でも風力発電の建設が目白押しになっていたので注目して観た。風力や太陽光など再生可能エネルギーは「原発と違ってクリーンなエネルギー」というイメージを持っている人も多いと思うが、映画を観るとそれを覆す事実が次々と出てきた。

 

ジェフ・ギブス監督

監督のジェフ・ギブス自身、小さい頃から環境保護主義者であり、絶滅危惧種、生態系の破壊、持続可能な社会について多くの文章を書いてきたジャーナリストでもある。社会が化石燃料に頼っているのに疑問を持ち、クリーン・エネルギーの運動に身を投じてきた。その監督自身がカメラを担いで再エネの現場を取材するなかで、これはなにかおかしいぞと気づいていく。映画は彼の受けた衝撃や葛藤をはさみつつ進行する。

 

バーモント州での環境保護団体の「太陽祭」。照明もバンド演奏も100%太陽エネルギー使用とうたったが、そこに雨が降り出した。舞台裏に回ってみると、バックアップのために電力会社の電気を引き込んでいた。

 

ミシガン州では、ゼネラルモーターズがCO2を排出しない電気自動車シボレーボルトを製作した。その製作発表会。「電気自動車のバッテリーを充電している電気はどこから?」と聞くと、女性の担当者は「え?建物からよ。市が提供しているからわからない」。別の担当者は「残念ながらほとんどが石炭。太陽光や風力ではない。夜に充電できると宣伝しているが、夜は太陽はありません」としぶしぶ認めた。

 

ミシガン州北部には森林を伐採してつくった風力発電所がある。同州最大で高さ150㍍の巨大風車には、コンクリートが521㌧、銅が140㌧も使われている。巨大なブレード(羽根)はグラスファイバーとバルサ(木材)でできており、重さは16㌧。化石燃料を使ってつくられたこの巨大な機械が、わずか20年で捨てられ、風車群の残骸となる。

 

錆び付いて動かなくなり放置されている風車群(米国)

太陽光発電も同じだ。バークレー大学の研究者はいう。再エネ事業者は「ソーラーパネルの主成分はシリコン、つまり砂です」と宣伝しているが、砂は不純物が多すぎて使えず、高純度の石英が必要だ。そして鉱石から石英をとり出すためには、石炭を使って大型の電気オーブンで1800度まで熱しなければならない。するとシリコンと大量のCO2が得られる。

 

カリフォルニア州の砂漠に世界最大の太陽光プラント(37万7000㌔㍗)「イヴァンパ」が完成した。しかしこの太陽光発電所は、毎朝およそ数時間も天然ガスを燃焼させて起動する。また施設全体はコンクリートからスチールミラーまで化石燃料を使ってつくられている。「太陽は再生可能だが、太陽光発電所は再生可能ではない」「化石燃料をこれらの“幻想”をつくるために使うのではなく、燃料として燃やした方がよかったのに」とは研究者の意見だ。

 

次に米国で最初に建設された太陽光発電所に行ってみると、そこは大量の壊れたソーラーパネルがそのまま放置され、墓場のようになっていた。ソーラーパネルを販売する業者は「一部のソーラーパネルは寿命が10年程度に設計されています」といってはばからない。

 

再エネ企業の女性エンジニアにインタビューしてみる。すると彼女は、「太陽光や風力は不安定な電源だ。雲がかかると発電量は下がるし…。それに応じて火力発電をオンにしたりオフにしたりするたびに大きなロスが生まれる。車を始動するときのように」という。だからバックアップの火力発電を休止できない。

 

映画はこうした再エネ・ビジネスが、オバマ大統領が登場してグリーン・ニューディールという景気刺激策をうち出したことで一気に花開いたことを、当時のニュース映像とともに振り返っている。

 

オバマはグリーン・エネルギー事業のための1000億㌦を含む1兆㌦の「環境保護」予算を組んだ。このときオバマは環境活動家のヴァン・ジョーンズを抜擢し、数万基の風力発電所の設置、何百万台のソーラーパネルの設置を計画した。その後、次々と投資家があらわれた。

 

億万長者で航空会社のオーナーであるリチャード・ブランソンは、オバマに「地球温暖化とたたかうために30億㌦を投資する」と約束した。元副大統領のアル・ゴアは『不都合な真実』という映画をつくって地球温暖化の恐怖を煽ったが、それはみずから再エネの投資会社を立ち上げて投資を呼び込むためだった。そのゴアとブランソンの2人がテレビ番組に出演し、もうかってたまらないといわんばかりに下品に大笑いするシーンは、「そういうことか!」という憤りなしには見られない。

 

そして、このとき登場するのが、米国でもっとも有名な環境保護活動家の一人、ビル・マッキベンだ。彼は「350.org」という環境保護団体をつくり、世界的なCO2削減運動の旗振り役となった。

 

環境保護運動のリーダー、ビル・マッキベン(左)

熱帯雨林根こそぎ伐採 ギガプラント作る為

 

 この映画の中で、ソーラーパネルやウインドタービン、電気自動車はどのようにしてつくられるかと問うて、それを映像で初めから終わりまでをたどる場面が印象的だった。

 

電気自動車テスラの創設者であるイーロン・マスクは、自身のギガファクトリーは太陽光と風力と地熱発電で100%まかなっているといった。しかし、電気自動車、風力タービン、ソーラーパネルをつくるには、リチウムやグラファイトなどの希少金属が不可欠だ。それはアフリカなどの鉱山から採掘されるが、採掘は子どもたちを含む現地の人々の奴隷的な労働で成り立っている。希少金属を得るために熱帯雨林を根こそぎ伐採し、山を爆破し、地中深く掘り進む多国籍企業。しかも希少金属を抽出するとき、放射性物質のウランを環境にまき散らしている。

 

コンクリートや銅やニッケルもそうだが、こうして米国の工場でテスラが組み立てられるまで、風車やソーラーパネルができるまでにいかに地球の裏側の自然を破壊し、先住民や動物たちを住めなくしているかを目に焼き付ける。大量生産・大量消費という資本主義の犯罪だし、そのことを映画のなかで幾人もの科学者が指摘している。

 

バイオマスもそうだった。バーモント州のバイオマス発電所では、地域の森林を大量に伐採して、それを化石燃料である天然ガスで燃やしている。大量の木を伐採したり運搬したりするためにも多くの化石燃料が必要だ。環境保護団体は「CO2を出さない」というが、実際には年間40万㌧以上のCO2を排出しているという。

 

バイオマス発電所の木材は大規模な森林伐採によって集められている(米国)

ミシガン州のバイオマス発電所は、木材チップを燃やすだけではなかった。地元の女性が訴えている。「保育園や小学校、高齢者のための施設にとても近く、小学校には雪が降り、幼稚園は黒い煤(すす)で覆われている。調べてもらうとタイヤの粒子だった。タイヤを加工した燃料を加えて燃焼温度を上げているのだ。緑や湿った木はあまり燃えないから」。にもかかわらず事業者は、「再生可能」というラベルを貼ることで1150万㌦もの助成金を受けとっている。

 

投資家と活動家の癒着 注がれる投機マネー

 

 映画の後半では、環境保護活動家とウォール街の癒着というタブーを正面から描き出している。ミシガン州立大学の学生たちが「350.org」に触発されて気候変動問題を考える集会を組織した。「未来のクリーンエネルギーを支持します」と訴える彼らは純粋だが、この運動はバーモント州のミドルベリー大学から始まっている。そして、この大学には新しいバイオマスガス化システムができていた。大学で講演するのは、有名な環境保護活動家ビル・マッキベン。

 

ビル・マッキベンや環境保護団体が支持する法案は、ミシガン州の電力の25%を2025年までにバイオマスでまかなうというものだった。このバイオマスプラントを米国中に、さらには世界中に広げるのが彼らの役割だ。ところが、環境保護集会に参加した人にインタビューすると、ほとんどの参加者が森林伐採に反対し、バイオマスに疑問を呈していた。ただ、リーダーである環境保護活動家のなかにはまともに答える人がいない。

 

再エネに巨額の資金を投資する億万長者、銀行家、大企業のCEOが次々と画面に登場する。そのなかにコーク兄弟がいる。ソーラーパネルの製造やソーラー発電所の建設に必要な資材の多くを、米国最大のコングロマリットの一つであるコーク・インダストリーズがつくっているのだ。ところがこのコーク兄弟は、石油や石炭、天然ガスなどのエネルギー産業を操り、環境保護運動が「悪魔」と呼ぶ人物だ。

 

ブラジルでは多国籍企業がアマゾンの広大な森林を破壊してサトウキビ畑をつくり、サトウキビからバイオエタノールを生産している。ゴールドマン・サックスの元CEOデビッド・ブラッドはいう。「森林を利益に変えるというアイディアに夢中になりました」。そのためには何十兆㌦もの投資が必要だ。テレビ番組の司会者が「その金を調達するのを手伝ってくれたのは誰ですか?」と彼に質問する。「それは環境保護活動家ビル・マッキベン」。映像はウソをつかない。

 

多国籍企業の土地接収に抗議するアマゾン先住民。そこはバイオ燃料を生産するトウモロコシ畑に変えられる(ブラジル)

「化石燃料からの離脱を」と訴えるマッキベンと「350.org」はどこから資金を得ているのか? アメリカ証券取引委員会のファイルを調べると、世界の食肉消費を促進する主要企業の一つ・マクドナルド、プラスチック汚染の主な生産者であるコカコーラ、地球上の森林破壊の主な投資家であるブラックロック…などの名前が浮かび上がる。

 

別の番組では女性キャスターがマッキベンに「資金はどこから?」と聞く。彼は少し口ごもり、ごまかそうとし、「ロックフェラー?」といわれると「ロックフェラーは一番最初からの同志だ」と答えた。

 

アマゾンの先住民が多国籍企業に抗議する映像が浮かび上がる。自動車や航空機を動かす、石油の代替としてのバイオ燃料をつくるために、アマゾンの森林は破壊され、先住民は田畑を奪われて力ずくで追い出されている。先住民の女性が「私たちはただ人間として生きたいだけだ」と涙を流して抗議している。

 

原子力発電所を建設してきた世界最大の総合電機メーカーGEは、今風力発電の建設に力を入れている。そのGEの研究所では、海中の海藻を大規模にとってバイオ燃料にする研究が進んでいる。画面に映し出された豊かな海藻群は、しばらく後には根こそぎとられてなくなっていたという。彼らの強欲はとどまるところを知らない。

 

映画の最後の場面で、すべては覚えていないが、「資本主義による環境運動のハイジャックは終わった。環境保護主義と資本主義は融合した」「本来の環境運動をわれわれの手にとり戻し、億万長者が盗んだ私たちの未来をとり戻せ」というメッセージは鮮烈だった。

 

私益のために情報統制 現代版のファシズム

 

 この映画を観て印象に強く残るのは、再生可能エネルギー・ビジネスのインチキだ。そもそも風力にしろ太陽光にしろバイオマスにしろ、化石燃料を使わなければつくることも稼働することもできないし、そうした再エネをつくればつくるほど、地球の裏側ではアフリカの熱帯雨林やアマゾンの森林をますます破壊し、自然の生態系も破壊し、そこで暮らす人々を生きていけなくしている。なにが「再生可能」か、なにが「地球に優しい」かだ。この強欲さが、日本全国で風力発電をつくるやり方にもあらわれていると思う。

 

もう一つはウォール街と環境保護運動のリーダーとの癒着、一体化を遠慮会釈なく暴露していることだ。環境保護運動といえば、今の体制に反対する革新側と見られがちだが、実はそのなかに権力側と裏で手を握り合っている者がいる。そして「CO2削減」とか「気候変動」とかいって再エネがクリーンであり進歩のようにいいつつ、もっと大事な問題から目をそらせ、その働きで利益を得ている。これまでも原発や捕鯨問題などで指摘されてきたが、映画でここまであからさまに描いたのははじめてではないか。

 

 だから、「著作権侵害」を理由にユーチューブから削除されるということも起こった。事実経過を見ると、米国の映画監督で環境活動家のジョシュ・フォックスが「映画を削除すべし」と呼びかけるメールを、環境保護運動のリーダーでこの映画で何度も登場するビル・マッキベンに送り、それに呼応して環境写真家トビー・スミスが「自分の作品が映画のなかで四秒間流れた」ことを理由に訴訟を起こしたことがきっかけのようだ。つまり、再エネ推進側から見るとそれだけ一番痛いところを突かれた、図星だった、ということだろう。だから大慌てで削除したのだ。

 

マイケル・ムーアは「おかげでさらに多くの人が観るようになったよ」といっている。日本でももう少し翻訳に手を入れて、多くの人が観られるようにできないかと思う。

 

 そもそも「CO2(温室効果ガス)による地球温暖化」という評価は、アル・ゴアが『不都合な真実』で衝撃的に打ち出し、国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)がそれを支える形をとって、各国のメディアがくり返し報じてきたものだが、それ自体が科学的な評価ではないと世界の科学者がいっている。

 

米国のジャーナリストであるマーク・モラノ氏は、多くの科学者の学説やデータをもとに「地球温暖化」論のウソをあばいている(『地球温暖化の不都合な真実』)。IPCCは「温暖化で北極の氷が解け、シロクマが絶滅する。南極の氷も解けて、海面上昇によって2000年までに多くの国の沿岸の主要都市が水没する」といってきた。だが、現在シロクマは20年前の20倍になっているし、NASAの衛星観測によれば南極の氷も増え続けて年ごとに最高記録を更新しているし、加速度的な海面上昇は起こらず、ツバルなどミクロネシアの島々は面積を広げている。

 

2009年には、IPCCの科学部門を統括する「公正な権威ある機関」の中枢にいる科学者が、地球温暖化を印象づけるために、データをねつ造したり都合の悪いデータの公表を抑えるためにやりとりしたメールが大量に流出して、そのウソがばれた(クライメートゲート事件)。

 

IPCCの第一次報告書(1990年8月)は、今後もCO2の規制がなければ地球の平均気温は2025年までに約1度C、21世紀末までに3度Cの上昇が予測されるとし、IPCC初代委員長は「2020年にはロンドンもニューヨークも水没し、北極圏のツンドラ帯は牧場になる」といった。この第一次報告書作成の作業部会にかかわった西岡秀三氏(国立環境研究所)は、「ここでは科学の論理は通用しない。出席者は政府を背負う外交官であり、ロビイストであり、NGOである。部会に参加した多くの研究者が、嫌気がさして二度とIPCCには出ていかないと宣言している」とのべている。

 

 結局、再エネを推進する側の目的は、CO2を減らして地球を救うことではなく、再エネ・ビジネスでもうけることだ。大量生産・大量消費・大量廃棄という今のシステムを転換するものではなく、逆にもっとやりたい放題にすることだ。

 

今米国ではバイデンが新大統領に就任し、温暖化防止の国際的枠組みであるパリ協定への復帰、2050年までのカーボン・ニュートラル(CO2の排出と吸収が相殺される状態)、4年間で2兆㌦の環境投資を打ち出した。これに呼応して菅政府も、2050年までに「カーボン・ニュートラル」を実現し、再エネを電力の50~60%に引き上げる方針を表明している。脱炭素革命というけれど、実体は風力や太陽光やバイオマスの発電所を増やすことであり、石油の替わりに電気やバイオ燃料で車を動かすことだ。このカーボン・ニュートラルを2050年までに米国、EU、日本、中国で実現しようとすると、この4地域だけで8500兆円の投資が必要、といった予測が出され、各国の投資家が色めき立っている。

 

熊森から

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字幕で日本語を選ぶと、日本語字幕が出てきます。自動翻訳したままのようなわかりづらい日本語ですが、映像とともに見るとだいたいの内容はつかめます。

誰の主張が真実なんだろうかと考えてみるのに、役立つ映画だと思いました。必見です。

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