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2024-03-10
クマ問題の解決にクマ生息推定数の精査追究事業は不要
- 2024-03-10 (日)
- _クマ保全
クマは以前、奥山から出て来ることがなく、会いたくても会えない動物でした。
しかし、最近は、里や、時には市街地にまで出て来るようになり、農作物被害を出したり、時には人身事故も起こします。
被害にあわれた方、被害にあう恐れがある方にとっては、耐え難い事態だと思います。
この問題を解決するために、環境省はクマ指定管理鳥獣化を検討する会を3回実施。
この会の委員に任命された研究者たちが、クマ指定管理鳥獣化で国から交付金が出るようになれば、まずすることとして、毎年のクマの個体数推定事業を実施し、クマが各都道府県に何頭生息しているのか、これまで以上により正確性を高めたいと言われていました。
すばらしい肩書を持つ研究者のみなさんがそう言うと、国会議員も含め、一般の国民は、クマ問題の解決のためには、まずクマが何頭いるのかより正確な生息数確定が必要なんだと思ってしまうでしょう。
しかし、クマ問題に取り組んで32年の私たちに言わせると、四国のようにあと十数頭などと絶滅を迎えた場合は別ですが、一般的に、そのような事業は研究者の仕事づくりや論文発表のために必要なだけで、クマ問題の解決のためには、全く不要です。そんなことに私たちの税金を使わないでいただきたいのです。
理由1 今問題なのはクマの数ではなく、クマがどこにいるかなのです。
食料が豊富な奥山にのみクマが暮らしているとします。このような以前の状態に戻せば、クマが何頭いても誰も困る人はいません。クマも人も、我が国では長い間、棲み分けを守っていました。戦後、棲み分けラインを超えてどっと奥山に入り、皆伐や開発を行い、うまくいっていた棲み分けを壊したのは私たち人間です。
図①参照。
クマ数は多いが、クマ被害は起きない。
クマがハチミツに目がないことを利用して、現在日本では、ハチミツを入れた罠でクマを誘引し、捕殺し続けています。しかし、クマ数を極限まで減らしたとしても、クマが集落のそばにいる限り、被害はなくなりません。
図2参照
クマ数は少ないが、被害が起きる。
問題は、クマの数ではなく、クマがどこにいるかなのです。
熊森の説明を聞けば、小学生でもわかってくれると思います。
環境省やマスコミさん、熊森にも発言の機会を与えてください!
理由2 クマ数を正確に数える方法がない
専門外の人には意外でしょうが、実は、クマの生息数を正確に数える方法がないのです。
アフリカの草原の動物なら、上から写真を撮れば何頭いるかすぐ数えられるのですが、クマは普段深い森の中にいて木々に隠れているし、人が山に入ると人を察知してそっと逃げてしまう。木々の葉が落ちる冬には冬ごもりしています。何頭いるのか数えようがないのです。
そこで多くのクマの研究者たちがクマの生息数を推定しようとして、悪戦苦闘。膨大な予算を獲得し、クマに不自然なことを次々として、論文発表をしてきました。発信機装着、ヘア-トラップ、カメラトラップなどなど。いずれもクマの生活をかき乱すものばかりです。
下の写真は、捕獲されて首に発信機をつけられていたヒグマです。首が締め付けられ、首の周りの毛が擦り切れています。この写真を撮られた北海道のカメラマンによると、山で偶然出会ったヒグマを見ていたら、頭を下にも上にも動かしづらくしていて、クマは耐え難い苦しみを味わっているようだったとのことです。
本来、研究というのは、対象動物に負担をかけずにするのが生物倫理というものです。ダーウィンは、木の陰に隠れてそっと野生動物の生態を研究していたと言われています。
発信機を付けられたヒグマ 稗田一俊氏撮影
このヒグマには、両耳にもタグが付けられていたそうです。
兵庫県では、子グマに発信機を付けた研究者がいて、大きくなる時に首が絞められて山で死んでいました。猟師が研究者に向かって、「かわいそうなことをするな!」と、目をむいて怒っていたのを覚えています。
ちなみに、現在、クマの生息数推定はどこまで進んでいるのでしょうか。最新発表となる2020年度分が以下です。
●北海道のヒグマの場合
95%信頼区間:6,600頭~19,300頭。中央値:11,700頭。
●秋田県のツキノワグマの場合
95%信頼区間 :2,800~6,000 頭。中央値 :4,400 頭。
他府県も同様につき、省略。
95%信頼区間の幅が大きすぎますね。最先端の科学技術をもってしても、クマの生息数の推定がどんなに難しいかお判りいただけたかと思います。
秋田県は昨年度、生息数中央値の50%以上にあたる2,300頭のクマを捕殺しました。捕殺数の方は、正確に近いと思われます。秋田県は、さらに捕殺を進めるそうです。みなさんはどう思われますか。環境省指導では、クマが多くいる県でも、絶滅させないように15%以上は捕殺しないこととなっています。
私たちは、より正確な生息推定数の把握やさらなる捕殺に税金を使うのではなく、食料豊富な山を再生したり、当面の被害を防ぐために電気柵を張ったりして被害防除に励む方が、クマ問題の解決に効果があると思います。
水源の森を造り守ってきてくれたクマたちに、畏敬の念を失ってはならないと思います。(完)