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2025-03-20

環境省鳥獣法改正その2 国は軋轢をなくすためクマを大量に捕殺する方針!? クマ類検討会傍聴より

2月26日、環境省 自然環境局 野生生物課 鳥獣保護管理室は墨田区にある環境省の外郭団体である自然環境研究センターで、令和6年度クマ類保護及び管理に関する検討会を持ち、熊森本部もオンラインで傍聴しました。

 

検討委員は、研究者と行政の担当者のみ。熊森は検討会に、実際のクマや現場がよくわかっている猟友会や熊森協会を入るべきだとずっと主張し続けていますが、未だに実現されていません。

 

【検討委員】

大井 徹  (石川県立大学)

小池 伸介 (東京農工大学)

近藤 麻実 (秋田県生活環境部)

佐藤 喜和 (酪農学園大学)

澤田 誠吾 (島根県西部農林水産振興センター)

山﨑 晃司 (東京農業大学)

横山 真弓 (兵庫県立大学)

 

 

傍聴してみて、今後、国はクマを大量に捕殺することによって、クマと人の軋轢を解消しようとしていることがわかりました。

 

<検討会の主な内容>

これまでの環境省のガイドラインでは、クマの生息数の少ない都府県ではクマを駆除できない。広域管理に切り替えることによって、駆除できるようになる。

 

クマ類の個体数水準(環境省現ガイドライン)

 

個体数水準1:危機的地域個体群:個体数100 頭以下、または分布域が極めて狭く孤立
(狩猟禁止、総捕獲数は生息数の3%以下に抑えること)
個体数水準2:絶滅危惧地域個体群:個体数が100 頭~400 頭程度、分布域は狭く、他の個体群との連続性が少ない(狩猟禁止、総捕獲数は生息数の5%以下に抑えること)
個体数水準3:危急地域個体群:個体数が400 頭~800 頭程度、分布域は他の個体群との連続性が制限
(狩猟可、総捕獲数は生息数の8%以下に抑えること)
個体数水準4:安定存続地域個体群:個体数が800 頭以上で、分布域は広く連続的
(狩猟可、総捕獲数は生息数の12%以下に抑えること)

 

クマの生息環境がほとんど残されていない東京都では、奥多摩などに数十頭のクマが残されているだけで、クマは東京都のレッドリストに掲載されている。
昨年、東京都が15頭のクマを殺処分したところ、残り僅かなのになぜ獲るのかと、いろんなところから強い反対意見が出た。
そこで、今後は東京都の奥多摩と関東山地のどこかでユニットを組んで、800頭以上の個体群にして、広域管理を進めるようにすると、東京都でのクマ駆除がしやすくなる。
(熊森:そんなことをすれば、首都にクマの棲む森が残っているというのが我が国の誇りだったのに、早晩、東京都のクマは絶滅します。)

 

熊森から

●水源の森=植物+動物+微生物

野生動物たちの大量捕殺によって人との軋轢をなくそうという発想は、非常に短絡的で目の前のことしか見ていません。
自然界は、無数の多様な生物が密接にかかわり合い、彼らの活動による絶妙のバランスの上に豊かな森が成り立っています。
大量捕殺政策を進めると、自然界はバランスを失い、多様性を喪失、水源の豊かな森が失われるという悲劇的な結末がもたらされます。稲作ができなくなり、川や海の生き物たちも激減します。日本文明の終焉であり、かつて滅びた文明がたどった道です。

 

 

 

 

 

 

森林生態系の食物連鎖簡略図

 

 

 

 

 

 

 

最高の保水力を誇るクマの棲む森(石川県白山)

 

●奥山再生と被害防除により、人とクマの軋轢を解消して棲み分け共存が可能 

一方、熊森の被害防除対策は、会設立から一貫して

①生息地の再生・復元による祖先の棲み分け共存の復活、

 

 

 

 

 

 

 

 

中国山地の棲み分けラインは標高800m

 

②ひそみ場の草刈りや柵設置などによる被害防除です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人工林伐採

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実のなる木の植樹

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひそみ場の草刈り

 

 

 

 

 

 

 

 

集落にある誘引物の除去

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金網+電気柵 兵庫県のリンゴ園

 

熊森は長年このような取り組みを、地元の方々や地元の自治体と共に実際に行ってきました。
これらは、とても有効で、効果的な手段です。

 

 

近畿中国四国農業研究センターに属しておられる鳥獣害研究チーム農作物野生鳥獣被害対策アドバイザーの井上雅央氏は、野生動物を殺さずに被害をなくす具体的な実践例を何種類もの著書にまとめておられます。とても読みやすい本なので、ご関心のある方は是非お読みください。

 

 

熊森は、祖先がしていたような野生鳥獣を捕殺しない野生鳥獣対策が広がるよう、実践活動の場をさらに全国に広げていきたいと考えています。

 

私たちの現地での取り組みはまだマスコミにほとんど取り上げてもらえていませんが、そのうち、大量捕殺より生息地再生+被害防除の方が野生鳥獣との軋轢解消に効果があることを、国民の皆さんや政治家、行政が気づく時が来ると信じています。

とにかく当面、今回の鳥獣保護法改正案に対して、クマを危険鳥獣と定義されることがないように、熊森は全力を挙げて動きます。

環境省鳥獣法改正その1 突然、今度はクマに危険鳥獣のレッテル張り!

環境省鳥獣法第2条の改正について

 

2月21日、環境省作成の鳥獣保護管理法(正式名「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」)の一部改正案が閣議決定されました。

 

今回の鳥獣法改正に関して、環境省は昨年5月、鳥獣保護管理法 第38条の改正に関する対応方針 (案)という表題でパブコメを取っていたので、私たちは、今回、環境省が法改正しようとしているのは第38条だけで、市街地に出てきたクマは、警察官の発砲命令を待たなくても市町村でクマを銃猟できるようにするのだろうということだけを想定していました。

 

そこで、人身事故を起こさせずに、クマを山に返すことが可能な場合が多いので、住宅集合地域に出て来たクマをやむおえず銃で撃ち殺さなければならない緊急の場合は仕方がないが、原則非捕殺対応と明記の上での法改正となるよう環境省に申し入れていました。

 

しかし、今回、閣議決定された改正案をみてびっくりです。
(注:閣議決定されるまで、国民は法文を見ることができないようになっています)

 

まず、第2条に新たに「危険鳥獣」という名称の定義が追加されており、危険鳥獣とは、 熊その他の人の日常生活圏に出現した場合に人の生命又は身体に危害を及ぼす恐れがあるとして政令で定める鳥獣のことで、クマとイノシシを想定しているとのことです!!!

 

クマを「危険鳥獣」とするなどというのは、私たちにとって寝耳に水です。

 

人であれ動物であれ、レッテル張りほど恐ろしいものはありません。レッテル張りによって、人々は思考停止してしまいます。ただでさえ、昨今わが国はクマへの恐怖を煽る過剰報道にあふれており、クマ=危険というイメージがつけられてしまっているのに、法律でまで、「クマ危険鳥獣」と定義をしてしまうと、
クマ=危険鳥獣→捕殺するしかない
という誤ったイメージが広がり、ますますクマの殺処分が加速されるようになると思われます。

 

鳥獣保護管理法の1条には目的が、2条には様々な定義が書かれています。

 

2条はこの法律の、非常に重要な部分です。この部分を改正するなら、中央環境審議会に諮問しているはずだと思い調べてみたところ、なんと環境省は、中央環境審議会はもちろん、自然環境部会、野生生物小委員会など、危険鳥獣という言葉を導入することについてどこにも諮問していません。
環境省がクマにこのようなレッテル張りをするなら、我が国は野生動物や生物多様性を守る部署がない国になってしまいます。

 

クマは本来、非常に賢くて平和的な動物です。有史以来、人を避けて山の中でひっそりと単独で暮らしてきました。最近は、山の針葉樹林化や開発による餌場の喪失、地球温暖化によるドングリ類の枯死や昆虫の大量絶滅、メガソーラーや風力発電による森林破壊、人里の過疎化高齢化など、すべて人間が引き起こした様々な理由によって、山の実りの凶作年を中心に、クマが餌を求めて人里に出て来るようになりました。その結果、人との軋轢が大きな問題になってきています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都府芦生原生林内も大荒廃 動物たちの餌激減

 

クマを大量に捕殺すれば、人とクマの軋轢問題が解消すると誤解している人がいますが、実は、クマが山から出て来る原因をなくさない限り、殺しても殺してもクマは最後の1頭まで山から出て来ることになり、問題解決につながりません。クマが山から出て来る原因をなくす方がずっと軋轢問題の解消には効果的なのです。
(以下の図を再掲)

 

 

 

 

 

 

 

 

クマ数は多いが、軋轢なし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クマ数は少ないが、軋轢大きい

 

本来クマに人を襲う習性はありませんが、至近距離で突然人に出会うと、人間に恐怖感を持たざるをえない経験をしたことのあるクマは、恐怖のあまり人から逃げようとして人身事故を起こすことがあります。

 

人間が長年クマを殺さないできた地域では、クマは人間に恐怖心などありませんから、人身事故は起きません。私たちはカラフトマスを獲るヒグマたちのすぐ横で写真撮影をしたことがありますが、クマは餌ではない人間には無関心でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北海道のヒグマ 熊森協会撮影

 

今回クマを危険鳥獣と定義してしまうことによって、我が国はオオカミに次いで、水源の森の森づくりに欠かせないクマを絶滅させてしまうという取り返しのつかない失敗をしでかすことになると思います。

 

昨年、環境省がクマを捕殺強化対象となる指定管理鳥獣にしようとした時は省令だったため、国会での議論はなく、くまもりはクマを指定しないようにという強い要望を、環境省に繰り返し、パブリックコメントでも指定反対の意思表示をし、必死に動き続けました。(指定を阻止することはできませんでしたが、クマに関しては、捕殺だけではなく被害防除などにも国からの交付金が使えるように、一部配慮されました)

 

しかし、今回は法改正です。法文案が4月の初めには衆参環境委員会に出てきます。

 

これから会員の皆さんの会費を使わせていただいて何度も上京し、国会議員の皆さんに、クマを危険鳥獣と定義づけるなど絶対にしてはならないと、説明して回りたいと思います。熊森の説明を聞いていただけそうな議員をお知りの方は、至急くまもり本部までお知らせください。

 

衆議院環境委員会所属議員名

 

参議院環境委員会所属議員名

 

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