いなべ市で捕獲されたツキノワグマを県職員が滋賀県内に連絡せずに放した問題は、17日で1カ月が経った。クマは、いなべ市と岐阜県大垣市、海津市、養老町にまたがる山中を行ったり来たりしている。

 

三重県鈴木知事、捕獲許可延長へ

クマは5月17日、いなべ市北勢町の民家から約250メートルの山中で捕獲された。三重県職員は発信器をつけ、14キロ西の滋賀県多賀町の山中に滋賀県の許可を得ないままクマを放した。その6キロ南西の同町で5月27日、女性(88)がクマに襲われて大けがをした。同じクマかどうかは不明だ。

三重県獣害対策課が発信器の電波を追ったところ、捕獲されたクマは5月28日、多賀町の現場から19キロ離れた地点にいた。それ以降も南北約15キロ、東西約5キロの範囲内にとどまり、滋賀県内に移ったことはない。自然保護団体の日本熊森協会は「クマが1日で20キロ動くのは難しい。女性を襲ったのは別のクマだ」として、「冤罪(えんざい)」の可能性を強く指摘している。

クマは17日午後5時現在、大垣市上石津町の山中にいる。海津市の猟友会長が15日、山中でチラッと目視しただけで、人里に降りて来てはいない。最も民家に近づいたのは直線距離で500メートルほどだった。

三重県は、多賀町の現場にあった動物の体毛と、捕獲したクマの血液のDNA鑑定を依頼し、近く結果が出る見通しだ。しかし、同一でなくても、県は捕殺の方針を変えていない。鈴木英敬知事は6月15日、「関係市町でよく協議してもらい、それを踏まえて対応する」と述べた。いなべ市に出した1カ月の捕獲許可期間を延長する考えを示した。

 

三重県伊賀市岡本栄市長、知事に捕殺反対の手紙

三重県伊賀市岡本栄市長は6月17日、クマを捕殺する三重県の方針に反対する手紙を鈴木英敬知事に宛てて送ったと明らかにした。会見で「命に慈しみを持つことは行政を進める上で大事なこと」と話した。捕獲して飼育するか、人に危害を与えない場所に放つべきだとの考えを示した。

手紙は「絶滅危惧種とされる小さな命への思いやりを示すことも知事への信頼と共感を呼ぶものと思います」「より柔軟な幅広い選択肢を考えるのが大事では」としている。

 

熊森から

一般的に言えることですが、わたしたちは、たとえ人身事故を起こしたクマであったとしても、簡単に命を奪うべきではないと考えます。

なぜなら、彼らの生息地を戦後大破壊して、彼らが人里に出て来ざる得ない状況を作ったのは、他ならぬ私たち人間だからです。

人間を襲おうと思って襲うクマなど、まずいないでしょう。

クマという動物は見かけと正反対であまりにも臆病な性格ゆえ、人間と出会った時、人間への恐怖心から、人間を前足ではたいてそのすきに逃げようとします。これが人身事故の真相です。人身事故はふつうほとんどがひっかき傷ですが、ときには大事故となり、痛ましい限りです。当協会も常に、クマによる人身事故が起きないようにということを第一に考えており、そのためには、人間側も、クマの習性を知らねばなりません。

クマ生息地の会員たちによると、大声であいさつしてから山に入れば、クマから逃げてくれるので、クマに会うことはないということです。

今回のように、被害者に何の落ち度もない事故もありますが、私たちの被害者調査では、人間が対応を誤っていなければ避けられた事故がとても多いのです。

 

人間が仕掛けた罠の中にあった糠の発酵臭に誘引されて出て行ったばかりに、全身麻酔をかけられ、首に一生取れない苦しくて重い発信機を取り付けられ、連日人に追われて、逃げ惑っている哀れな三重県クマ。

おそらく本来の生息地に、恐怖のあまり逃げ帰ったのでしょう。もう人里に出ていくのはこりごりのはずです。

人道上からも自然生態系保全上からも、そっとしておくべきです。

三重県がこれまでやってきたように、山奥にひそんでいるクマを追い掛け回わすと、人間に対して恐怖でいっぱいのクマをかえって人里に近づけてしまい、人にもクマにも得策ではないと思います