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兵庫県のツキノワグマ推定生息数の算出方法に問題あり 過大推定の恐れ 専門家が論文で指摘

兵庫県のツキノワグマ推定生息数の算出方法は、条件設定を少し変えることによって、自由自在に好きな頭数が出せるものであることがわかりました。

また、標識再捕獲については、全く機能していないことがほぼ判明しました。

 

 

以下は、統計学の専門家である日本福祉大学経済学部教授山上俊彦教授の文です。

 

「階層ベイズ法」のどこに問題があるのか

 

近年、各府県のツキノワグマ(保護)管理計画において、「階層ベイズ法」を用いた生息数推定値が用いられることが多くなっている。その結果に共通しているのは年率15~20%という自然増加率とそれに伴う爆発的な生息数の増加である。

なぜ、このような大型野生鳥獣においてあり得ない数値がコンピュータのシミュレーションで計測されるのか、検証が必要である。そのためには、シミュレーションに用いたプログラミングを用いて推定を再現してみなければならない。

ところが、(保護)管理計画という公文書に生息数が記載されているにも関わらず、プログラミングの著作権は府県に帰属していない場合が多く、府県は情報開示に応じていない。

しかし、情報開示に応じて下さった自治体があり、開示されたプログラミングを基に、兵庫県の推定内容を検証してみた。

「階層ベイズ法」は、「状態・空間モデル」を援用したものである。「状態・空間モデル」は観察された時系列データの真の値との誤差を分析するための重要なモデルである。このモデルのパラメータを正しく推定するためにはモデルの背後にある生態系の構造を正しく特定化した上で、一定量のデータと事前情報を必要とする。つまり、求めようとするパラメータの値を構造パラメータが規定する自律度が高く、構造の識別が可能であることが、パラメータ推定値が真の値の不偏推定量であることにつながる。「状態・空間モデル」では、パラメータ推定が煩雑であるため、MCMCを用いたベイズ法で推定される。

「階層ベイズ法」によるツキノワグマ生息数推定は、モデル構造が不明確であり、事前の情報に乏しく、データは捕獲数しかない。しかも捕獲数は捕獲努力による修正がなされていない。モデルの自律度が低く、構造の識別が不可能であるため、パラメータ推定値の信頼度は低くなる。さらに生物には、個体数が増加すると自然増加率が抑制されるという密度依存性がある。通常、モデルにこのような装置を組み込み解の発散を防ぐものであるが、そのような工夫はなされていない。

構造が不明確なモデルに、バイアスのかかった捕獲数のみを用いてパラメータを推定すると、様々な解が提出され、いずれが正しいか判断することができなくなるのである。さらに推定の度に値が変動し、その理由を説明できない。

このような問題点があるにも関わらず、情報が不十分なままでも曖昧な推定を行うことが可能なベイズ法により解が求められることになる。その結果について解釈不可能であるため、ツキノワグマを捕獲すればするほど生息数の推定値が増加するといった結果が受容されるという懸念が示されていた。

今回、兵庫県の推定を再現したところ、初期個体数の設定値により、自然増加率と生息数推定値は大きく変わることが判明した。初期個体数の設定値を倍にすれば個体数推定値は倍になり、逆に自然増加率は低下する。つまり当初は生息数が少なく異常な増加率で生息数は爆発的に増加するか、増加率は抑制されても個体数は従前から多いといういずれかの結果となってしまうのである。

さらに、捕獲数以外のデータは表面的な装飾に過ぎず、解に影響を与えていない可能性が高いことが判明した。つまり、目撃数や標識再捕獲数は個体数推定に殆ど影響は与えていない装飾的変数である可能性が高い。

また、錯誤捕獲して放獣したツキノワグマも捕獲数に加えると見かけ上、著しく自然増加率と生息数推定値が膨らむことが判明した。特に近年、イノシシ罠での錯誤捕獲が目立っている。兵庫県において、錯誤捕獲したツキノワグマを放獣することは法律に従ったものであり評価されるべきものであるが、これは通常の捕獲ではない。

「階層ベイズ法」は、状態・空間モデルの本来の趣旨を逸脱したものである。推定値については、その生態学的解釈ができないため、妥当性の判断ができない。逆説的に言えば、解釈不能であるから、その結果が「科学的」手法によるとされて批判されずに受容されてしまっているのである。

 

 

熊森から

尚、専門的にお知りになりたい方は、山上先生が2018年7月に発表された 次の論文をお読みください。

「階層ベイズ法」によるツキノワグマ生息数推定の批判的検討」―状態空間モデルとの関連からの再考―

 

 

熊森がこれまで兵庫県にお願いしてきたのは、以下の2つです。

 

1つ目は、兵庫県の研究者がシミュレーションに用いたプログラミングの情報公開です。情報公開は民主主義の第一歩ですが、兵庫県に情報公開請求をしても出していただけないことが多く、これも、非公開とされたままです。

第3者が検証できないものは、科学的ではないはずです。

 

2つ目は、兵庫県のツキノワグマの推定生息数を算出された兵庫県立大学の若い先生と、算出法に問題があると言われている統計学の専門家である山上俊彦先生が会って、意見交換をする場を作って欲しいということです。山上先生は穏やかな方です。山上先生はいつでもお会いしたいと言われていますが、兵庫県がそのような場を未だ1回も作ってくださいません。統計学の専門家でなければ分からない内容であり、真理追求には多くの議論が必要なはずです。このような兵庫県の姿勢を大変残念に思います。

 

このような状態で、兵庫県のツキノワグマ推定生息数は爆発増加している、もう絶滅の恐れはないから狩猟や有害駆除を促進しようと言われても、広大な奥山生息地が破壊されたままになっていることを知っている私たちには、受け入れられません。

 

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