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2018-08
猛暑のせい?兵庫県ミズナラのドングリに大きな生育の遅れ
2018年夏、兵庫県の奥山を調べたところ、なぜかドングリの実りがかなり遅れていることが分かりました。
若杉原生林やその近辺のミズナラの木も、例年と違いこの時期としては実がまだ小さく、殻斗に埋まったままです、数も少ないように感じました。
冬ごもりに備えてのクマの食い込みが、7月下旬から8月上旬にかけてもう始まっています。(飼育グマ「とよ」も、7月からの食欲がすごいです)
クマの命を支えてきたミズナラは、ナラ枯れによってすでに大量枯死してしまっています。残されたミズナラの実りがこのような状態では、クマたちは今年いっそう山で生きていけなくなるのではと心配です。
兵庫県と岡山県は今年もまた11月15日から1ケ月間、クマ狩猟を行うと発表しています。
兵庫県は人里での目撃数の増加や捕獲数の増加から、県内のクマが爆発増加したとして、熊森の大反対を押し切って、2016年から20年ぶりにクマ狩猟を再開しました。
その時、山奥でクマ狩猟を再開することで、山奥から人里に出てくるクマを山奥に追い返す効果を期待していると発表していました。山中でクマを追いかけまわすことがどうして、クマが人里に出て来ることを抑えることになるのか熊森には理解できません。
クマの生息奥地はブナ・ミズナラを伐採後植林したスギ・ヒノキの人工林で覆われており、内部も大荒廃。
残された天然林内でも近年ナラ枯れや下層植生の衰退が進み、クマが食料を得られる状態にはありません。
この状態を放置したまま、クマに山から出てきたら殺すぞというのは、あまりにも人間としての反省が足りず、他生物という弱者への配慮のなさ過ぎではないでしょうか。狩猟ではなく、奥山放置人工林の天然林化こそを進めてほしいです。
まだまだ暑い日が続きますが、両県の担当者は、クマ生息地の山を見に行ってほしいと思います。
県庁職員のみなさんは当協会の原生林ツアーにご参加いただき、本来のクマの生息であった奥山に食料がない現状を体で感じてとっていただきたいものです。
クマ狩猟再開を行政に提案されたクマ研究者は、研究対象物に愛情がないのか、クマの生態がよくわかっておられないのか、一体何なのだろうと思います。
7月26日 オリックス株式会社による徳島県天神丸風力発電事業計画の予定地を初視察
2018年7月26日、室谷会長と本部職員2名は、早朝、西宮市を出発し、徳島に向かいました。
天神丸風力発電事業の計画地は徳島県随一のブナを中心とする豊かな森が残っている地域で、絶滅寸前の四国ツキノワグマの大切な大切な生息地でもあります。
このような場所をオリックス株式会社が開発しようとしています。熊森としては絶対に認められません。
天神丸風力発電事業は、徳島県の那賀町、美馬市、神山町にまたがる標高1500m級の険しい山々の尾根に計画されています。総延長約30kmの尾根筋に、高さ178mもの風車を42基設置する巨大な開発計画です。
この日は途中で、徳島新聞の記者さんや熊森徳島県会員らと合流し、現地の山を詳しく知る地元の方の案内で、剣山スーパー林道を4駆で進みました。
以下は、当日の視察を3分半の動画にまとめたものです。
熊森から
四国の山々は、スギやヒノキの人工林でふもとから頂上まで埋まっている所が多いのですが、この開発計画地は、頂上一帯がブナの巨木の森で、こんこんと清らかな水が湧き出していました。
この水は最終的に四国最大といわれる吉野川に流れ、愛媛県、香川県、高知県、徳島県に住む64万人もの人々の生活を支えていきます。
同行してくださった徳島県会員が、「自然の森は、こんな高標高のわずかな地域にしか残っていないんですね」と、驚いておられました。
案内してくださった地元の方も、「こんな場所を開発するなんて、絶対にだめだよ」と言われていました。
以下は、翌日の7月27日徳島新聞朝刊
環境省、経済産業省、徳島県知事、各首長、県民、国民、多くの人々が白紙撤回していただくことに言及しているのに、オリックス株式会社は、まだあきらめていないようです。
かくなる上は、この場所での風力発電はダメの声を、全国からオリックス株式会社に届けていきましょう。
8月5日(日)好天の第23回くまもり原生林ツアー無事終了 今年も大好評
クマたちが棲む奥山水源の森を、都市に住む多くの方々に親子で見ていただこうと毎年熊森本部が夏休みに企画している「くまもり原生林ツアー」、今年で22年目です。今回は37名の方がご参加くださいました。
朝7時40分に兵庫県西宮市を出発。バスの中では、熊森本部スタッフによる子供から大人まで楽しめるミニ奥山生態学講座や楽しいリクリエーションが実施され、なごやかな中、岡山県との県境に向かいます。
今回は、先日の台風により何ケ所かで山が崩れ道路が閉鎖されていたり、若杉天然林の駐車場のトイレの取水装置が土砂に埋まりトイレが使えなくなっていたりで、回り道を余儀なくされました。
やっと若杉天然林に到着です。
駐車場には、他にも大型バスが1台来ており、乗用車も結構多かったです。ここは穴場だったのに、みんなに知られることになってしまったのでしょうか。今年の人の多さには驚きました。
83ヘクタールの面積に、ブナ、カエデ、ミズナラ、トチノキなどの巨木をはじめとした199種類の樹木が立ち並ぶ中国地方でも有数の天然樹林で、氷の山後山那岐山国定公園の特別保護地区に指定されています。吉野川の源流であり、谷のせせらぎ、木々が風に揺れる音や、野鳥や虫の声・・・別世界となっています。
いよいよ入山です。
健脚コースが2班、ゆっくりコースが3班と、班に分かれて山に入っていただきました。
当日の地元岡山県西粟倉村の気温予想は、なんと37℃。しかし、標高950~1100mにある若杉天然林内は25℃で、涼しく感じました。(ふもとはやはり、猛暑でした)
今回、10名の子供たちが親子で参加してくれました。大人も子供も、森の中に入ると目を輝かせて、いろいろな植物や生き物たちを見ておられました。
頂上付近の湿地では、トンボが乱舞していました。下界が暑すぎるので、避暑に来ているのでしょうか。
哺乳類が全く見られないのが残念です。20年前にはクマも2頭いましたが、なぜか今はもう痕跡がありません。せめてウサギやシカだけでも見れたらなあといつも思うのですが、訪れる人が多い上。国を挙げて狩猟や野生動物の大量駆除を推進している平成では無理でしょう。(やはり、入山制限も必要です。)
今年も、若杉天然林の沢の水温をみんなで測ってみました。
沢の水は磨かれたガラスのように透明で冷たく、暑い夏を忘れさせてくれました。
なんと、計測結果は18℃から場所によっては19℃と、例年の16℃と比較すると水温が2-3度も高くなっていました。
湧き水の温度は年中一定のはずなのですが、この殺人的な猛暑では、、、。
〈参加者の皆さんからいただいた、今回のツアーの感想〉
Nさん「人工林と天然林の違いがよく分かりました。若杉天然林の中は涼しくて気持ちよかったです。参加してよかったです。」
Fさん「まわりの人工林地帯に囲われるような形で残った若杉天然林は、非常に貴重であるとともに、後世に残していかなければならないと感じました。秋も行きたいですね。」
Kさん「若杉天然林に、今はクマが見られなくなってしまったと聞き、天然林を守ることはもちろん、まわりの人工林を天然林へ戻すことも必要なんだと思いました。クイズなどもあって楽しみながらツアーに参加できました。」
暑い中、参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました。子供たちは、夏休みの自由研究として、この日のことをぜひまとめてみてください。期待しています。
つくられた有害鳥獣 反省なき大量駆除
神奈川県会員が、以下の埼玉新聞記事を紹介してくださいました。
(熊森から)
人間が野生鳥獣を有害鳥獣にしているのであり、その原因の半分が、小島望氏の記事によってズバリ指摘されています。原因の残りの半分は、拡大造林など人間による森破壊で、こちらの方は熊森が発足当時から指摘し続けてきたことです。
埼玉県の川口短期大学に、鳥獣被害増大の原因が人間にあることを見通しておられる教授がいらっしゃることを知って、うれしくなりました。
全国の研究者、行政マンに、読んでいただきたい記事ですね。
それにしても、「日本政府の現状認識能力の欠落と先送り体質が如実に表れている」は、至言です。
優秀なはずの官僚のみなさんが、どうしてほとんど誰もかれもが物言えぬ野生鳥獣に罪を背負わせ、彼らを殺すことしか考えない人間になっていくのでしょうか。どうして生命の尊厳がわからなくなっていくのでしょうか。
公務員になった時は、みんな正義感に燃えていたはずです。
日本の行政システムに、重大な欠陥があるとしか思えません。
行政は、人間が原因を作っているのに全く反省することなく、野生動物を殺害することを猟友会や業者に指示することで目の前をごまかそうとしています。
誰だって殺生は嫌ですから、行政は自分の手は汚しません。部屋の中にいるだけです。
野生鳥獣から見たら、今の人間は悪魔でしょう。
熊森は訴えます。人間は悪魔であってはならない。
人間本来のやさしさを取り戻すためにも、熊森は野生鳥獣の保護運動を続けます。
映画「おだやかな革命」確固たる希望を持って現場で活動している人々の多さに衝撃を受ける
- 2018-08-06 (月)
- くまもりNEWS
以下のようなメールが、熊森本部に入りました。
映画「おだやかな革命」は、原発事故後に福島県の酒蔵の当主が立ち上げた会津電力、居住制限区域となった飯館村で畜産農家が立ち上げた飯館電力、岐阜県石徹白(いとしろ)で集落存続のために100世帯全戸が出資した小水力発電など、エネルギー自治をめざす各地の取り組みから、これからの時代の真の豊かさ、持続可能な社会の在り方を問いかける作品です。
未来の私たちへのヒントがたくさん詰まったこの作品ですが、私たちは宣伝にかける予算を持っておりません。何とか広報していただけないでしょうか。
熊森は自然保護団体として、奥山の尾根筋に建てられる風力発電、山林を大規模伐採して設置されるメガソーラーなど、新たに貴重な自然を大規模に破壊することによって推進拡大していく自然エネルギーに危機感を持っています。といって、いったん事故れば大地が永久に使えなくなってしまう原発は、絶対に容認できません。
この映画がどんな映画か知らないので、まず見てみようと思いました。
さっそく8月5日、上映中の神戸市にある元町映画館を訪れました。驚いたことに、座席はびっしり人で埋まっていました。この日は上映後、上の階で渡辺智史監督のトークがあるので参加しようと思ったら、もう定員オーバーで無理と断られました。こんなに人々が押し掛ける映画は久しぶりなので驚きました。
人でいっぱいの映画館
映画には、自分の頭で前向きに考えることのできるしっかりとした市民たちが次々と登場してきます。現場に根差して石油に頼らない暮らしに挑戦するこれらの人々の知性の高さと確固たる希望に圧倒されました。(日々のニュースに接していると、人間不信に陥ってしまいますが、日本には、こんなにまじめで未来に責任を持とうとする人たちが、こんなにいっぱいいたのか。もう、うれしくなってきました)
「地方が疲弊し過疎化高齢化していくのは、地方が生み出している農林産物やエネルギーを、都市が安く買いたたくからだ」という言葉には、都市市民としてギョッとさせられましたが、まさにその通りです。
財力から見ると都市が上ですから、都市は地方を低く見ていますが、実際には都市は、水、食料、エネルギー、全てを農村や地方に依存しており自分だけでは生きられない弱い存在です。この関係をまず認識することから始まり、都市住民と地方住民が対立するのではなくつながる試みが、全国各地で今展開されていることを、この映画で初めて知りました。そして、そういう所には若者がたくさん詰めかけているのです。
日本だけではなく全世界が今、利益追求のためにどこまでも速さや効率を追求し、過剰労働や自然破壊をもたらす現代文明に行き詰まっています。
今の経済の仕組みを続ければ、人類は近い将来破滅するしかありません。このことに気づいた人たちが、人類に絶望するのではなく、目を輝かせて真剣におだやかに、新たな取り組みを始めている。登場人物は、みんな見事にしっかりと自己の考えを述べておられました。日本には、社会を変えていく力を持った人たちがこんなにたくさんおられたのかと、希望でいっぱいになりました。
延々と続く放置人工林。材を搬出すると搬出費で赤字になります。ならば、搬出せずに、村内で石油の代わりにボイラーで燃やし、石油代を浮かそう。なんとしなやかな試みでしょうか。
嘘やごまかしでいっぱいの横暴な国や行政などに頼らずに、この映画に出て来るような人たちみんながつながれば、日本はすごい国になっていくだろうなと思いました。
結論:ネルギー問題の解決法がわからなければ、自然保護ができない時代です。熊森会員はもちろん全国民に見ていただきたい映画です。大きな力、元気、そして希望をもらえます。
こんな映画を30代の若い監督が作ったのかと思うと、信じられない驚きです。
ただし、この映画には、熊森の視点はまだ入っていません。監督に、熊森小冊子「クマともりとひと」を、お渡ししてきました。読んでくださるといいな。
これはおかしい マタギ文化のない兵庫県がスポーツやレジャーとしてのクマ狩猟推奨に躍起
2018年7月30日、兵庫県農業共済会館で開催された兵庫県環境審議会鳥獣部会で、今年からクマ狩猟ひとり1頭までの制限枠が撤廃されました。
審議会では、議論らしい議論はほとんど何もありませんでした。
審議会のようす2017年度撮影分
議論したい熊森は、審議会に委員入りしたいと申し出ているのですが、兵庫県からずっと排除され続けています。
現在行われている兵庫県のツキノワグマ対応は、第3者が検証できない算出法で算出したクマの推定生息数(不確かな数字)を元に、数字に従って、クマを殺していくという、大変非科学的で残虐な対応法だと思います。(どうして井戸知事がこんな無茶を許しているのか、理解できません)
1991年の兵庫県のツキノワグマの推定数は60頭でした。(奥山生息地が荒廃して棲めなくなっていくにしたがって、クマ数は増えに増え続けたということで、)人里での目撃数の増加と人里での捕獲数の増加を2大因子としてコンピューターで算出したところ、2017年には、なんと347頭~1486頭、中央値918頭にまで増加したと兵庫県森林動物研究センターは発表しています。
熊森は、自動撮影カメラを用いて奥山や里山で自分たちが撮影してきた結果も踏まえて、クマにドーナツ化現象が起きている、奥山でのクマ数の激減も生息数推定に加味してほしいとお願いし続けてきましたが、いまだなされていません。
中央値が800頭を超えると狩猟することになっているとして、兵庫県は2016年から20年ぶりにクマ狩猟を再開しました。
捕獲上限頭数は、有害捕殺数と合わせて、生息推定数の中央値の15%となっています。
その結果、
2016年の兵庫県の捕獲上限頭数140頭 クマ狩猟登録者140名
ひとり人1頭までの狩猟制限あり
クマ狩猟実績4頭+有害捕殺数29頭=33頭
(この狩猟数ではクマ数は減らないなあ)
兵庫県では、民家のすぐ後ろが山になっているところも多く、クマは人に見つからないようにそっと遠慮して利用してきました。(これまでは、山中には捕獲罠を仕掛けてはいけないことになっていたのでつかまらなかった。)
2017年から兵庫県は、ゾーニングと称してクマには何も知らせず、集落から200メートル内にいるものは山中であっても捕獲罠を仕掛けて有害捕殺できるよう、いきなり、捕獲基準を変更しました。
その結果、
2017年の兵庫県の捕獲上限頭数134頭 クマ狩猟登録者154名
ひとり人1頭までの狩猟制限あり
クマ狩猟実績1頭+有害捕殺数34頭=35頭
(だめだ、こんなに積極的に有害捕殺やクマ狩猟を推進しても、クマ狩猟実績が1頭では、クマ数は減らない)
そこで、今年は、
2018年の兵庫県の捕獲上限頭数137頭
(今年は5月6月の2か月間だけで、すでに20頭ものクマを有害捕殺しています)
(どうしたら、もっと殺せるだろうか。)
そうだ、ひとり人1頭までの狩猟制限を撤廃しよう!
兵庫県森林動物研究センターの研究者たちと兵庫県鳥獣対策課の担当者たちの間で、以上のような経緯があったのではないでしょうか。
元々、兵庫県にマタギ文化はありません。
兵庫県が2016年にクマ狩猟を再開しようとしたとき、当時の審議会で、兵庫県の猟友会の代表の方が驚いて、(県からの相談は何もなかったようです)、「私は(クマ生息地)で40年間も狩猟してきたが、クマを獲りたい者なんてひとりもいないですよ」と、発言されました。
私たちには、兵庫県行政が狩猟者に無理やりクマ狩猟を強要しているようにしか見えませんでした。
私たちは、このような兵庫県のクマ対応を、全く理解できません。
コンピューターではじき出した仮想数字をもとに、クマの命を、どんどん奪っていっていいものでしょうか。
数字を使えば科学的だと勘違いされているのではないでしょうか。
人里でのクマの目撃数が増えたのは、確かに問題です。
しかし、戦後造林した広大な人工林が成長して内部が砂漠化しており、2000年以降は、かろうじてクマたちの生息を支えていた自然林の下層植生までもが広範囲にわたって消えていきました。今や兵庫県の多くの自然林の内部は野生動物たちがいない公園のような状態になってしまっています。身を隠していたい臆病者のクマにとっては、隠れるところがありません。
また、夏のクマの食料である昆虫が、地球温暖化のせいか激減しています。クマたち野生動物が、生きるために過疎化高齢化した食料豊富な人里に出て来るようになったのは当然です。そして、人や車に慣れていくのです。
すべて人間がこのような状況を作ってしまったのです。
人里でのイノシシ罠やシカ罠へのクマの誤捕獲数が増えたのも、問題です。
しかし、クマが大好きな米糠を入れた罠をどんどん人間が人里に設置していっているのですから、何キロも先からクマたちが糠の発酵臭を察知して里に集まって来るのは当然です。
森の中を動き回るクマの正確な生息数なんて、人間には絶対にわかりません。
何頭いたっていいじゃないですか。
今、大事なことは、クマたちがどうしたら昔のように山の中に戻ってくれるかだと思います。
熊森は、いろいろな提案をし続けてきましたが、今の兵庫県にはほとんど耳を貸していただけません。
熊森が止めれば止めるほど、兵庫県はますますむきになり感情的になって、クマ狩猟を推進しようとしているように見えます。
そもそも、我が国にとって、1999年の環境省のワイルドライフマネジメントの導入が、失敗でした。
殺すことによって野生動物の生息数を人間が思うような数にできるという錯覚は、自然とは何か、生命尊厳とは何かが全く分からない人たちが考えた机上の空論だと思います。自然界は無数の生物による絶妙のバランスの上に成り立っており、人間が管理できるような単純なものではありません。
日本の野生動物対応は、奥山生息地の再生に重点を置き、あとは自然界に任せるものに変えていくべきです。
一般市民は多くの研究者や行政マンと違い、まだ他生物への共感や共存本能を失っていません。
市民が声を挙げる時です。
兵庫県のツキノワグマ推定生息数の算出方法に問題あり 過大推定の恐れ 専門家が論文で指摘
兵庫県のツキノワグマ推定生息数の算出方法は、条件設定を少し変えることによって、自由自在に好きな頭数が出せるものであることがわかりました。
また、標識再捕獲については、全く機能していないことがほぼ判明しました。
以下は、統計学の専門家である日本福祉大学経済学部教授山上俊彦教授の文です。
「階層ベイズ法」のどこに問題があるのか
近年、各府県のツキノワグマ(保護)管理計画において、「階層ベイズ法」を用いた生息数推定値が用いられることが多くなっている。その結果に共通しているのは年率15~20%という自然増加率とそれに伴う爆発的な生息数の増加である。
なぜ、このような大型野生鳥獣においてあり得ない数値がコンピュータのシミュレーションで計測されるのか、検証が必要である。そのためには、シミュレーションに用いたプログラミングを用いて推定を再現してみなければならない。
ところが、(保護)管理計画という公文書に生息数が記載されているにも関わらず、プログラミングの著作権は府県に帰属していない場合が多く、府県は情報開示に応じていない。
しかし、情報開示に応じて下さった自治体があり、開示されたプログラミングを基に、兵庫県の推定内容を検証してみた。
「階層ベイズ法」は、「状態・空間モデル」を援用したものである。「状態・空間モデル」は観察された時系列データの真の値との誤差を分析するための重要なモデルである。このモデルのパラメータを正しく推定するためにはモデルの背後にある生態系の構造を正しく特定化した上で、一定量のデータと事前情報を必要とする。つまり、求めようとするパラメータの値を構造パラメータが規定する自律度が高く、構造の識別が可能であることが、パラメータ推定値が真の値の不偏推定量であることにつながる。「状態・空間モデル」では、パラメータ推定が煩雑であるため、MCMCを用いたベイズ法で推定される。
「階層ベイズ法」によるツキノワグマ生息数推定は、モデル構造が不明確であり、事前の情報に乏しく、データは捕獲数しかない。しかも捕獲数は捕獲努力による修正がなされていない。モデルの自律度が低く、構造の識別が不可能であるため、パラメータ推定値の信頼度は低くなる。さらに生物には、個体数が増加すると自然増加率が抑制されるという密度依存性がある。通常、モデルにこのような装置を組み込み解の発散を防ぐものであるが、そのような工夫はなされていない。
構造が不明確なモデルに、バイアスのかかった捕獲数のみを用いてパラメータを推定すると、様々な解が提出され、いずれが正しいか判断することができなくなるのである。さらに推定の度に値が変動し、その理由を説明できない。
このような問題点があるにも関わらず、情報が不十分なままでも曖昧な推定を行うことが可能なベイズ法により解が求められることになる。その結果について解釈不可能であるため、ツキノワグマを捕獲すればするほど生息数の推定値が増加するといった結果が受容されるという懸念が示されていた。
今回、兵庫県の推定を再現したところ、初期個体数の設定値により、自然増加率と生息数推定値は大きく変わることが判明した。初期個体数の設定値を倍にすれば個体数推定値は倍になり、逆に自然増加率は低下する。つまり当初は生息数が少なく異常な増加率で生息数は爆発的に増加するか、増加率は抑制されても個体数は従前から多いといういずれかの結果となってしまうのである。
さらに、捕獲数以外のデータは表面的な装飾に過ぎず、解に影響を与えていない可能性が高いことが判明した。つまり、目撃数や標識再捕獲数は個体数推定に殆ど影響は与えていない装飾的変数である可能性が高い。
また、錯誤捕獲して放獣したツキノワグマも捕獲数に加えると見かけ上、著しく自然増加率と生息数推定値が膨らむことが判明した。特に近年、イノシシ罠での錯誤捕獲が目立っている。兵庫県において、錯誤捕獲したツキノワグマを放獣することは法律に従ったものであり評価されるべきものであるが、これは通常の捕獲ではない。
「階層ベイズ法」は、状態・空間モデルの本来の趣旨を逸脱したものである。推定値については、その生態学的解釈ができないため、妥当性の判断ができない。逆説的に言えば、解釈不能であるから、その結果が「科学的」手法によるとされて批判されずに受容されてしまっているのである。
熊森から
尚、専門的にお知りになりたい方は、山上先生が2018年7月に発表された 次の論文をお読みください。
「階層ベイズ法」によるツキノワグマ生息数推定の批判的検討」―状態空間モデルとの関連からの再考―
熊森がこれまで兵庫県にお願いしてきたのは、以下の2つです。
1つ目は、兵庫県の研究者がシミュレーションに用いたプログラミングの情報公開です。情報公開は民主主義の第一歩ですが、兵庫県に情報公開請求をしても出していただけないことが多く、これも、非公開とされたままです。
第3者が検証できないものは、科学的ではないはずです。
2つ目は、兵庫県のツキノワグマの推定生息数を算出された兵庫県立大学の若い先生と、算出法に問題があると言われている統計学の専門家である山上俊彦先生が会って、意見交換をする場を作って欲しいということです。山上先生は穏やかな方です。山上先生はいつでもお会いしたいと言われていますが、兵庫県がそのような場を未だ1回も作ってくださいません。統計学の専門家でなければ分からない内容であり、真理追求には多くの議論が必要なはずです。このような兵庫県の姿勢を大変残念に思います。
このような状態で、兵庫県のツキノワグマ推定生息数は爆発増加している、もう絶滅の恐れはないから狩猟や有害駆除を促進しようと言われても、広大な奥山生息地が破壊されたままになっていることを知っている私たちには、受け入れられません。
フジテレビ「奇跡体験!アンビリバボー 国内実録事件!! ヒトを襲う恐怖のクマSP!!」を見て
熊森本部は、7月19日19時から放映された上記番組に対して、フジテレビとアンビリーバボー制作責任者に対し、以下の文を送りました。
表題や番組告知にも責任を持つべき
上記番組を視聴させていただきました。当協会が番組告知を読んで、クマに対する重大なる誤解と偏見を視聴者に与える恐れがあると感じ、急遽、放映中止も含めた内容の再考を申し込みましたが、貴局は、番組の中身は告知とは違うとして、放映を強行されました。
確かに、クマを一方的に悪者に仕立て上げた番組ではなかったと思います。しかし、表題や番組告知だけを見て、視聴しなかった人たちも多くいたはずです。番組の視聴者を増やしたいのはわかりますが、このようなセンセーショナルな言葉を用いて番組を告知をすることは、クマへの誤解と偏見を生み、ひいてはクマに対する過度の恐怖を国民にいだかせることになります。
本来、クマはかしこくてがまん強く、親子の愛情が非常に深い動物です。人間が見習わねばならないすばらしさをもっています。それ故、昔からいくつもの民族が、クマに神を見出して手を合わせてきました。しかし、近年わが国ではクマが毎年大量に駆除されているにもかかわらず、クマと人の事故しか取り上げない、しかも、人間側から一方的にしか取り上げない現在の偏ったマスコミ報道のせいで、クマ守れの声が国民からほとんど起きません。祖先がしてきたように、今後もこの国で人とクマが末永く共存していけるように、番組の内容はもちろん、表題や番組告知についても、貴局は責任を持つべきです。
クマと人との悲惨な出来事は、あくまで事故であり、多くの場合、人間側に、クマを驚かせてしまったという原因があります。今後、貴局が人とクマとの事故について報道される際には、
- 人間からの視点だけではなく、クマの立場を代弁できる者にも取材をすること
- 人間側に原因があった場合でも、当然のごとくクマが殺処分されて終わっている現状の理不尽さを伝えること
- 悲惨な事故が今後起きないように、解決策を視聴者に知らせること
そして何よりも、こんなやさしいクマがいました、こんなすてきなクマがいましたなど、クマが本来もっているすばらしさを伝える報道を増やすよう、要望いたします。
クマ牧場での事故を取り上げた後半の番組内容について
当事者には取材も連絡も一切なく、一方的に個人的な私生活を詳細にわたり報道したことは人権侵害
今回の番組では、クマ牧場の元経営者や従業員の個人的な私生活にかかわることまでが詳細に報道されていました。個人名を出さないという配慮はなされていましたが、この事故は全国に大きく報道された事故であり、まだ事故から数年しか経過しておりません。知る人には簡単に個人が特定できたと思います。
今回取り上げられた問題は、事件ではなく事故です。あそこまで詳細な内容を報道するのであれば、番組報道前に、当事者を取材し、内容を確認してもらい、了承を得てから報道するのが筋です。元経営者に関しては、彼が存命中であるにもかかわらず、一度も取材することなく、彼に無断で番組を作り放映しています。明らかに人権侵害です。例えば、報道された映像の中にあった、1頭の痩せこけたヒグマは、餌が不十分だったのではなく、病気で痩せこけていたと聞いています。彼を取材していたら、このような誤った報道部分は是正されていたはずです。
この事故は、当時の関係者や家族には悪夢であり、やっと傷口も癒えかけて立ち直ろうとしていた時です。クマ牧場の元経営者が、自分は取材を受けていないし何も知らされていないとして放映中止を申し出ているのに、貴局が放映を強行されたことは、マスコミという権力の許すことのできない横暴です。彼には十分な謝罪がなされるべきです。
提案
番組制作は、人やクマの不幸な出来事を見て視聴者が楽しむものであってはならず、また、視聴率が取れたらいいだけのものでもありません。日本の動物飼育や飼育施設にはまだまだ問題点が多く、法整備も必要です。このような問題も、取り上げるべきです。
また、この経営破たんしたクマ牧場での事故の後、多くの善意の人々が動いた結果、残された全頭のクマたちが命をつなぎ殺処分を免れ、土の運動場がついた新設施設で終生保護飼育が保証されることになったというアンビリバボーな展開となりました。第2弾として、どうしてそのようなことが可能になったのかという番組も作っていただけたらと願っています。
保護された十数頭のヒグマたちは、現在、雌雄別々に飼育されており、今後、ヒグマの数が増えることはありません。最後の1頭が亡くなるまで大切に保護飼育されることになっています。彼らはまだまだこの先、長く生きていきます。その間、えさ代や飼育に携わる従業員の給料が必要です。全頭のクマたちを引き受けた町を、善意の人々が支援したくなる、そのような番組の制作を期待します。