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2014-02-09

岐阜県には本当に豊かな自然が残されているのか  「岐阜県ツキノワグマ保護管理計画第2期案」パブリックコメント募集中② 

<「岐阜県には豊かな自然が残されている」に対する熊森の疑問>

野生鳥獣をはじめ無数の野生動植物・菌類の存在によって、水源の森が維持形成され、人間はその恩恵を受けて生きている動物である。

しかし、このことを忘れ、近年、人間はかれらの生息地である自然を、開発や人工林で全国的に破壊し続け、かれらを追い詰めてきた。

そして、自分たちのしてきたことを棚に上げ、「人身被害」「農作物被害」「林業被害」等と、鳥獣が存在することへの感謝を忘れ、被害ばかりを強調して騒いでいる。

人間のことしか考えないという、この日本人の倫理観の低下には、嘆かわしいものがある。

 

被害を受けたくなければ、生息地の復元や被害防除など、人間側も努力しなければならない。それをせずに、環境省を筆頭に、国を挙げて野生鳥獣を殺すことだけに躍起になっている。その様は、もはや狂気であり、今こそ、日本人の冷静さが求められる。

 

今回の、「岐阜県ツキノワグマ保護管理計画第2期案」を読んで感じたのは、クマの生息地環境に関するどの資料も、岐阜県の自然環境の悪化がわかりにくいように意図的に工夫して提示されているということである。(図4の岐阜県の広葉樹林面積の推移グラフ、図5の岐阜県における林地開発許可の推移、図6の岐阜県のナラ枯れ被害量の推移)

 

岐阜県には豊かな自然環境が残されているとあるが、本当だろうか。岐阜県の人工林率は県平均44%にも上っており、残された自然林もナラ枯れのすさまじい脅威に見舞われたばかりで、クマたちの命を支えてきたミズナラの巨木群の復活には、何百年かかるか見通しも立たない。奥地まで観光地開発が進んでいる。このような現実がわかるように、正々堂々と現状を提示すべきである。

 

平成5年に岐阜新聞社から出版された「滅びゆく森の王者ツキノワグマ」岐阜県哺乳動物調査研究会編という本がある。

キャプチャ

この本は、岐阜県の主に教師たちが集まって、地道な調査研究を続けた結果をまとめたものである。この本には、岐阜県のツキノワグマが絶滅への道をたどっているのではないかという視点からの記述が、各所にある。

「恵那山の原始林といわれていた御料林を1本残らず伐ってしまったところ、クマの餌になる木はなくなり、山は崩れ、クマのねぐらもなくなってしまった」など、クマの数が急減している所もあるなどの証言がたくさん載せられている。

 

民間と行政の現状認識の差には愕然とする。

 

最も、もっと自然破壊が進んでいる都府県も多くあるので、そこと比べるとまだ自然が残っている方だということは言えるが、だからこそ本来の自然生態系を真剣に取り戻してもらいたいと思う。

 

 

 

岐阜県ツキノワグマが2.7倍に増加?! 「岐阜県ツキノワグマ保護管理計画第2期案」パブリックコメント募集中① 2月14日締め切り 

岐阜県庁パブリックコメント資料は、以下をクリックください。

「岐阜県特定鳥獣保護管理計画(ツキノワグマ)第2期(案)」
に対する県民意見募集(パブリック・コメント)

(熊森から)

平成26年3月作成の岐阜県ツキノワグマ保護管理計画第2期案の1ページ目に書かれた「背景」文は、ツキノワグマについて述べられた文としては、ツキノワグマを害獣視しない、大変すばらしいものです。

 

しかし、その後に続く岐阜県の第2期案は、ひたすら岐阜県のツキノワグマが増えていると書き続け、保護対策を必要としない安定存続個体群であるという記述になっています。残念であると同時に、とても認められない内容です。

 

<生息推定数増加説へのくまもり反論>

岐阜県のツキノワグマは、本当に増えているのでしょうか。増えたか減ったかというのは、いつと比べてかで、答えは変わります。計画案にある以下の昭和44年~平成24年までの岐阜県ツキノワグマ捕獲数推移グラフを見ると、ツキノワグマの捕獲総数は、平成以降、かなりごそっと減っています。

 

 

 

銃猟狩猟者が減っていることを考慮しても、罠猟狩猟者はかなり増加しており、また、有害捕獲技術(クマに罠使用可)もどんどん向上しています。この点を考えると、ツキノワグマの生息数が増えているとはとても考えられません。

 

今回の岐阜県の計画案で、岐阜県のツキノワグマが増えているという根拠として、岐阜県が示した資料記述は、以下です。

 

平成16年~23年までモニタリング調査を行い、兵庫県立大学准教授(=環境省中央環境審議会委員)が、科学的根拠を伴う有害捕獲数、出没情報件数などから得られたデータをもとに、ブナ科堅果類の豊凶の影響を補正し、MCMC法によるベイズ推定法を用いて、生息数を推定した。

 

その結果、平成23年度岐阜県ツキノワグマ生息推定数は、

●北アルプス地域個体群中央値が1353頭(90%信頼限界値は428~4548頭)、

●白山・奥美濃地域個体群が644頭(90%信頼限界値は231~2124頭)

となっており、

平成16年の北アルプス地域個体群の推定生息数中央値は500頭、白山・奥美濃地域個体群の推定生息数中央値は300頭で、7年間にそれぞれの地域個体群のツキノワグマは、2.7倍と、2.1倍に増加した。(注:平成16年度の推定生息数は実数が出されていないため、グラフから読み取りました)

それぞれ、年平均増加率は25.2%、23.7%である。

 

岐阜県は2010年を中心に、ナラ枯れによって、クマたちの生存を支えるミズナラの巨木を大量に失っています。しかも、動物たちが棲めないスギだけヒノキだけの人工林は山林面積の44%もあり、今もそのままです。

クマの生息数がどんどん増えていく要因など何もないと思われるのに、どうしてそんなにどんどんツキノワグマが増えていくことになるのでしょうか。

 

実は、2011年、兵庫県でも、

MCMC法によるベイズ推定計算の結果、ツキノワグマの年平均増加率が一時期22.3%と発表されたことがあります。

しかし、熊森が協議会で委員として、「あり得ない」と猛反発しただけでなく、県の審議会でも、複数の研究者から、「クマの増加率がシカより多いということなどありえない」という反論があり、増加率が、一挙に11.5%に下方修正された歴史があります。(専門家に問い合わせると、MCMC法によるベイズ推定というのは、どのようなパラメーターをどう入れるかの個々人の恣意的な判断により、いかようにも結果を変えられるもので、増加率11.5%さえ、真偽のほどはわからないとのこと。計算過程を1からすべて公表していただきたいものです)

 

MCMC法は、コンピューターを何日間も使って推定生息数を計算する方法だそうですが、だからといって正確な推定数が出るわけでもないことが、この時わかりました。

しかも今回の岐阜県の生息推定数は、下方推定数と上方推定数の間に10倍以上の差があり、これはもう推定の枠を超えているのではないでしょうか。

北アルプス地域個体群が、428頭かもしれないし、4548頭かもしれないと言われれば、どちらに合わせればいいのか、対応策などとれないのではないでしょうか。

 

生息推定数を出したのが、大学の研究者であるとしても、岐阜県の検討会や審議会の先生方や岐阜県庁の担当者の中で、こんなデータは使えないという声が出なかったのか、不思議に思います。

 

なぜなら、今回、MCMC法によるベイズ推定によって、平成16年~23年までの間の岐阜県ツキノワグマの生息数推移推定が出されていますが、この間、平成18年と平成22年に、奥山の実りゼロという異常事態が発生して、奥山で生きられなくなったクマたちが里に出てきて、それぞれ280頭とみられるほどの大量補殺がなされたのです。

にもかかわらず、生息数推移推定グラフでは、生息推定数はがくんと減っておらず、反対に増えていることになっている場合もあります。2011年の兵庫県の場合も、当初は今回の岐阜県モデルと同じでしたが、修正後は、がくんと減らされました。

 

平成16年~平成23年間の岐阜県におけるツキノワグマの捕獲数の推移
捕殺数1目盛り100頭 出典:岐阜県森林・林業統計書等

 

100歩譲って、たとえ平成16年~23年までの間に岐阜県のクマが2倍以上に増加したとしても、このような短期間だけの増加を見て、今後5年間、岐阜県のクマは、狩猟を禁止または自粛したり、有害捕殺の上限を決めるなどの保護対策をとる必要がないなどと、どうして結論付けられるのか、大いに疑問であり危険だと感じます。

 

まずは、岐阜県のツキノワグマが以前と比べて増えているのか減っているのかの判断の正当性から、検討されるべきでしょう。

 

 

 

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