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2017-09-15
9月8日熊森本部、岡山県の山を調査 森林破壊により、クマが山から出て行ってしまっていた
はじめに
岡山県の山を知っている人は、岡山県にクマが残っていると聞くと驚かれるのではないでしょうか。
なぜなら、山が観光やレクレーションのために開発され尽くしており、人間がどこまでも山に入り込んでいるからです。
クマがいる地域は岡山県東部の兵庫県に接する西粟倉村と旧東粟倉村(現:美作市に合併)あたりで、面積にすれば岡山県のほんの一部だけです。
少し前までは、岡山県にクマが残っていても、10頭程度だろうと言われていました。
クマの分布 JBN作成
水色は環境省2004年確認地点、赤色は2014年の分布拡大地点
大量捕獲
ところが、山の実りゼロの異常年だった2010年には、何と岡山県で60頭のクマが捕獲され、全頭放獣されたのです。
兵庫県から大量に入ってきたのではないかという説もありましたが、真相は不明です。
その後は落ち着いていましたが、平成28年度は、目撃数が237件、有害捕殺が12頭(西粟倉村、美作市、津山市)、錯誤捕獲が28頭という大量捕獲となりました。
しかも、最近は、岡山県の西方面にも目撃が広がりだしました。
目撃数が増えたのは、この年、秋田県でクマによる人身事故死4名があったので、人々がクマに神経質になって、犬やイノシシをクマと見間違って報告したり、それまで見かけても気にせず届けなかった人達が行政に届け出たことも考えられます。しかし、40頭もの捕獲は、どう説明すればいいのでしょうか。
岡山県今年からクマ狩猟再開
岡山県は、兵庫県でMCMC法によるベイズ推定でクマの生息数を推定した研究者に岡山県のクマ数を推定してもらい、中央値205頭という数字を得たため、クマが激増しているとして、兵庫県にならって今年からクマ狩猟を再開することにしました。
熊森本部が後山連山調査に
9月8日、くまもり本部調査研究員3名は、岡山県にそんなに多くのクマがいるのだろうかと、兵庫県から西粟倉村に入り、兵庫県境にある岡山県の最高峰後山(うしろやま旧東粟倉村)標高1345m(「西大峯山」とも呼ばれ、かつては修験道の中心地)あたりを調査してみようと出かけました。
この日の移動ルートを以下の図に示します。人工林の部分がわかるように、早春のグーグルアースに重ねてみました。
濃い緑色の部分がスギやヒノキからなる常緑針葉樹の人工林、ベージュ色の部分は落葉広葉樹の自然林です。白色は残雪です。
赤線が車で移動した部分 黄色い線が歩いた部分(クリックすると拡大します)
毎回、このあたりに来ると、左右の山のほとんどが人工林であることに驚かされます。
人工林率は西粟倉村が85%、旧東粟倉村が73%、植えられるだけスギやヒノキを植えたという感じです。
クマの棲める広大な自然林など残っていません。
すばらしいながめ
ダルガ峰(なる)林道の展望台で昼食をとりました。
ここから、後山連山である駒の尾山(1280m)、後山方面への見晴らしは、抜群でした。さわやかな風に吹かれて、快適度100%です。
ここから見える範囲に205頭のクマが生息しているのでしょうか。
昼食後、車を置いて、ダルガ峰(なる)標高1163mに向かいました。
不思議なことに、こんな標高の高い山のてっぺんに、約80ヘクタールの平地が広がっています。
ダルガ峰(なる)の入り口
「クマ注意」の看板を見て、私たちはクマに会わないように、鈴を鳴らしたり手をたたいたり大声を出したりしながら進みました。
皆伐された人工林の木の切り株がずらっとならんでおり、跡地はススキが原になっていました。
ところどころに生えている木は、ほとんどすべてシカの食べないウリハダカエデです。
道は平らで、中国自然歩道として立派に整備されており、最初のうちはとても楽しかったです。
しかし、良く考えてみると、ここは元々、クマたちの国だった場所です。
人間がこんなことをしてもいいのだろうかと思いました。
クマの餌も痕跡もなし
そのうち人工林地帯に入りました。
標高1000メートルを超えてまだ人間がスギを植えるなら、もうクマの居場所はありません。
祖先がしていたようにせめて標高800メートルより上は野生動物たちに返してやらないと、もうひとつの国民である野生動物たちとの共存などできません。
広葉樹林地帯もありました。しかしここのミズナラやブナにはなぜか実がなっていない木が多いのです。
私たちは約1時間半、クマの痕跡とエサを探して注意深く歩き続けましたが、何もありませんでした。何という山だ!
この山は人間が楽しいだけで、クマは時には通るかもしれないが棲めないと確信を持ったので、引き返すことにしました。
帰りは、もう、音や声を立てず、黙って下山しました。こんな山にクマなどいるはずがないと思ったからです。
1000メートル級の山々が連なる岡山の奥山連山にクマが棲めないのなら、岡山のクマはどこで何を食べて暮らしているのでしょうか。
駐車していた所まで戻り、車でアスファルトの道路を一気に下りました。
低標高地帯にクマの痕跡
周囲は延々と続く人工林地帯ですが、低標高まで下りて来たとき、道路沿いの1本の桜の木に今年の熊棚ができているのを見つけました。
サルナシの実もなっていました。
岡山のクマたちは、山ではなく、こんな人目を忍ばねばならない道路の横で餌をとっているのかと思うと、かわいそうになりました。
町まで降りると、姿を隠せる小さな自然林がいくつかありました。ドングリの木もありました。果樹もあります。
岡山のクマたちは、むしろこのあたりに身を潜めているのではないでしょうか。
熊森本部は近年、兵庫の奥山が荒れてクマが棲めなくなっていると大問題にしてきましたが、岡山の奥山の動物の棲めなさは兵庫の比ではありませんでした。
行政担当者のみなさんは、休みの日に山を歩いてみてください
岡山県のクマが激増しているとコンピューターで計算した研究者は、西粟倉村や旧東西粟倉村の連山を最近歩かれたことがあるのかたずねてみたいです。
夕方になっていましたが、今年からクマ狩猟再開を決めた岡山県行政に会いに行って、担当者に狩猟再開にあたって山を調査されたかたずねました。答えは、行ったことがないということでした。
クマが人里に出て来るのは増えすぎたからであり、猟期にはクマを山中で狩猟して個体数低減を図るべきという、兵庫県や岡山県が進めている政策を、みなさんはどう思われますか。
自然界の事は、25年間調べ続けている私たちにもわからないことでいっぱいです。
しかし、もし本当にクマが激増しているのだとしたら、何を食べて増えているのか、クマ狩猟再開を行政に進言してきた研究者たちは明らかにすべきでしょう。
行政は県民にクマ情報を公開すべき
実は、熊森本部は昨年度、クマ情報の公開を兵庫県に求めました。その中の項目の一つに、これまでに捕殺されたクマの胃内容がありましたが、公開を拒否されました。そこで、仕方なく兵庫県情報公開審議会に訴えました。審議会の答申は、「胃内容に関しては、(森林動物研究センターの研究者が)研究に用いるデータとしての状態が記載されていない部分に限り、公開する」でした。
しかし、この答申に基づいて、兵庫県が最終的に熊森に提示した胃内容情報は、全てが白紙か黒塗りでした。
このような研究者や行政の態度を、私たちは大変残念に思います。
一体何が起こっているのか、情報を提供してくださらないと私たちは考えられません。
民主主義の第一歩は情報公開のはずです。
クマ狩猟再開だなんてとんでもない
今回の調査で、私たちは、岡山県の知事さんに会って調査報告をし、クマ狩猟を再開するなどという無茶なことをやめていただくように訴えたいと強く思いました。
もし猟期に山にクマがいたなら、ここにいたら撃たれないとクマに思わせることが、地元の人たちにとってもとても大切なことなのです。
行政担当者のみなさんは、忙しくて奥山を調査する時間などない大学の先生たちの指示を鵜呑みにしないで、どのような政策が本当に地元の人たちの為になるのか、今一度、自分の頭でじっくりと考えていただきたいです。(完)