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2017-07-13

昨年度50頭のクマが捕殺された鳥取県八頭町の山を、熊森が調査

昨年、鳥取県で捕殺されたクマは71頭で、そのうちの50頭が柿の果樹園が多くある八頭町内での有害捕殺でした。

地元八頭町の方にたずねると、昨年秋はあっちでもこっちでも山からクマが出て来て、とにかく異常事態だったということです。

7月7日、熊森本部と鳥取県支部計6名は、八頭町の奥山調査に入りました。

主に調査した場所は、標高400mの山の稜線上です。

一番近い集落からは2.3kmほど離れており、まさにクマたちの生息地です。

 

現地の下層植生の豊かさに、熊森本部は驚きました。

隣接県なのに、この違いはどこからくるのでしょうか!

 

鳥取県八頭町

鳥取県八頭町の山、標高400m、2017年7月撮影

 

兵庫県宍粟市

兵庫県宍粟市の山 標高940m、2017年7月撮影

 

八頭町のクマ生息地

背丈を超える林床のササをかき分け、コナラの幹にクマの爪痕を探す鳥取県支部員。(2017年7月、八頭町)

 

森の中は人の背丈以上のササで覆われ、動物の痕跡を探すことも難しい状況でした。

ここでは自動撮影カメラをかけても、クマは撮影されにくいのではないでしょうか。

ササ藪の中にトンネル状の野生動物たちの獣道がいくつか形成されていました。

林道沿いには、種子をたくさん含んだ糞が落ちていました。

種子がたくさん入った糞。

 

山の実り凶作年でない限り、八頭町の山はクマ50頭を養う力があるということでしょうか。

しかし、山や自然に詳しい鳥取県会員は、この山には下層植生があっても、クマの秋の食料源であるドングリ類の木が少なすぎる。また、山の中腹まで、カキの果樹園が入り込んでいるため、クマが、凶作年の秋、簡単に人里へ降りて来てしまうと危惧されていました。昨年、捕殺された50頭のクマのなかには、荒廃した兵庫の山からやってきたクマがかなり含まれていたのではないかという見方をされていました。鳥取県庁に八頭町で捕殺されたクマのマイクロチップを分析されたかたずねてみようと思います。

 

八頭町の人工林率は51%でこのような山奥にも、スギやヒノキの人工林が広大に広がっている場所がありました。ここは以前、コナラやシバクリなどの実のなる樹が多くあった場所だそうです。また、10年くらい前からナラ枯れが発生し、標高400m以下では、ナラ類がかなり枯れてしまっていました。

 

兵庫県と比べると、一見うらやましいような鳥取県のクマ生息地の山ですが、昔と比べるとかなり劣化してしまっていることがわかりました。

 

この地域で、山の実りの凶作年がまた巡ってきても、クマの大量補殺が起きないようにするには、私たちが今、何をなすべきか、もう少し調査を続けて、本部と鳥取県支部で協議し、実行に移していきたいと思います。

殺しても鹿害は減らない 予算は防除柵強化に!奈良市D地区訪問

今年7月から、奈良公園等を除く旧奈良市D地区で、農作物被害を軽減させるためとして、シカ駆除が開始されることになりました。

 

<今年7月から鹿捕殺が予定されている奈良市D地区>

A・B・C地区(奈良公園、春日大社境内・春日山原始林)の鹿はこれまで通り保護。D地区の東半分は山間地域で、そこに鹿が生息しており、今回、管理(=駆除)対象となる。

 

このようなことを決めたのは、「奈良のシカ保護管理 計画検討委員会」の答申を受けた奈良県です。

担当部署は、奈良県奈良公園室です。

いったいどれくらいの「鹿殺せ」の声が届いた結果なのか、電話で問い合わせてみました。

その結果、

1、平成26年に、5つほどの自治会からなる自治会連合から、天然記念物であるシカを駆除してほしいとの要望書が提出された。

2、平成29年に、C地区の自治体から、シカの被害に悩んでいるのでD地区(駆除地域)に入れてほしいという要望書が提出された。

ということです。

奈良県奈良公園室にはシカを殺すのはやめてほしいという声もいくつか入っているが、シカ駆除を進めてほしいという声の方が多いということです。

 

奈良の神鹿(しんろく)文化は、日本が世界に誇れる大型野生動物とのすばらしい共存文化です。これまでいろいろと人々が工夫し対策を練って、旧奈良市のシカは、戦後1頭も駆除されることなく今日に至っています。何とか今後も、このすばらしい伝統を守り通していただけないものでしょうか。これこそ自然保護の原点だと思うのです。

 

熊森は、D地区を訪れて現地を調査し、奈良市鹿害阻止農家組合の方を含む住民の方々の声も聴いてみました。

今回訪れた場所は、奈良市東部にある笠置山地の山間地域です。地元の方にシカの被害状況についてお話を伺いました。

 

Aさん

この地域では、10年くらい前からシカがよく見られるようになった。畑をノリ網などのネットで囲うようにしているが、ネットの隙間を見つけて柵の中にシカが入ってくることもある。シカを駆除できるならしてほしい。シカが棲んでいた周囲の山は、2~3年前よりナラ枯れが深刻。シカも山に食べるものがなくて、集落の田畑にやってくるようになったんだと思う。

周囲の山は、猛烈なナラ枯れ。大量のコナラが枯れていた。

 

Bさん

2~3年前からシカがよく出てくるようになった。でも、奈良の鹿愛護会が集落の周りにネットで囲いをつくってくれたから、集落内の小さな畑は、シカから守られている。

 

Cさん

シカの被害が深刻な場所は、ノリ網などで田畑を囲っている場所です。ノリ網のようなネットは、シカがかみちぎって穴をあけて中に侵入してしまうし、地面との固定が弱かったらネットの下をくぐって中にシカが侵入してしまいます。一方で、金網やワイヤーメッシュで田畑を囲っている場所は、シカもなかなか侵入できません。組合に加入している農家さんは、市からの補助金をうまく活用して複数の田畑をまとめて金網で囲い、各々の田畑は電気柵で囲って2重の柵をつくっておられるところもあります。さすがにそうしたところにはシカが入りません。

シカが増えているのならある程度減らさなくてはならないと感じています。しかし、金網の防鹿柵をもっと普及できれば、もっと被害を防ぐことができますし、天然記念物のシカも殺さずに共存できると思います。そのためには、他府県のように奈良県も国からの防鹿柵への補助金をとってほしいです。

ノリ網の防鹿柵。高さは2m近くあるが、シカに破られてしまうことがある

金網で囲われた水田。この防鹿柵で囲えばシカの被害はかなり少ないとのこと

 

(熊森から)

回の奈良県の計画にあるように、旧奈良市D地区でシカを120頭殺してみたところで、隣接する京都府などから新たな鹿が入ってきて、元の木阿弥となるはずです。このやり方では毎年鹿を殺し続けねばならず、倫理的にも費用対効果の面からも問題です。

今回現地を調査してみて、農作物被害を減らすためには、予算はシカ捕殺ではなく、防鹿柵強化に使うべきだと確信を持ちました。

地元の方の中には、1時間も時間をとってお話をしてくださった方もおられます。地元ではシカを見かけると「シカさん」と言われる方もおられるそうで、シカに対する住民の深い愛情が伝わってきました。

 

 

<熊森解説>

今回、捕殺対象となるシカはD地区のシカだけですが、これを認めてしまえば、いずれ、CBAへと捕殺対象が発展していくと思われます。

なぜなら、現在、同じ地球の仲間である野生動物の命を奪うことに何の心の痛みも感じない西洋思考の研究者たちが我が国に増え、その権威ある肩書で行政の諮問機関である検討会や審議会の委員や座長となり、専門知識のない行政に答申を出して、野生動物たちを殺さないできた祖先のすばらしい共存文化を破壊し、科学的計画的と称する西洋型管理文化に変えようとしているからです。

彼らの論理的根拠は、野生動物は放置しておくと数が増え過ぎるから人間が野生動物たちのために管理(=殺害)してやらねばならないというものです。

しかし、自然界は本来、どの生き物も増減を繰り返しながら長期的には絶妙のバランスをもって一定数に保たれるものです。彼らの主張は、この自然界の法則を無視した、いやらしいまでに傲慢な人間中心の自然観です。この自然観を広めれば、研究者たちには多くの仕事がもたらされるという利得があります。

 

彼らは見事に、日本の行政を野生鳥獣管理に転換させましたが、最後まで残った唯一の目の上のたんこぶが、天然記念物である奈良のシカだったのです。奈良公園の野生ジカに関しては(飼育鹿は省く)、一般財団法人奈良の鹿愛護会が長年にわたって毎年正確な頭数調査を続けてきました。その結果、1100頭前後をずっと推移しているだけです。しかも、旧奈良市の天然記念物奈良のシカは、戦後1頭も殺処分されずにここまできました。1985年以降は、地域によっては、地元から有害捕殺申請が出れば、シカの捕殺が可能になったにもかかわらず、1件の有害捕殺申請も出ずに今日まで来たのです。一切殺さずに鹿と共存されたのでは、管理派研究者たちの沽券にかかわります。何とかして、自分たちの主張を正当化させるために、神鹿のワイルドライフマネジメント導入に成功すべく、行政に圧力をかけたのではないでしょうか。わたしたちは、今回の天然記念物奈良のシカの頭数調整捕殺開始を、このようにみています。

 

奈良の皆さんには、権威や肩書のある人の主張に惑わされず、自分の目と頭でしっかりと何が正しい対応か判断していただきたいです。

 

農家の人達の鹿害被害軽減や精神衛生のためにも、熊森は、無用の殺生となるだけのD地区シカ捕殺の中止を奈良県に要望します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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