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2020-09-15

今年のナラ枯れ状況とクマ生存の危機

今年もブナ、ミズナラ、コナラなど、山のドングリの豊凶が発表される季節になりました。

 

しかし、ドングリの豊凶を論じる前に、ドングリの木そのものが大量に枯死してしまっていたとしたら、豊凶発表にどれほどの意味があるでしょうか。

 

全国で発生する深刻なナラ枯れ被害

以下の写真は9月9日産経新聞に掲載された今年の夏の鳥取県大山です。森が消えるのではと思うほどの壊滅的なナラ枯れです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳥取県大山  赤色部分が今年枯死したミズナラやコナラなどのドングリ類(産経新聞2020.9.9)

 

ナラ枯れというのは、2000年代に出現した奇妙な木の枯れです。奥山にわずかに残された貴重な自然林のドングリの木が、夏に葉を赤くして一気に枯死してしまうことから始まりました。

 

熊森本部は、全国クマ生息都府県の今年のナラ枯れ状況を行政担当部署に電話で聞き取り、下のマップにまとめました。

 

 

日本熊森協会作成

 

北海道を除く全国で、山奥のクマの食料になるドングリ(ミズナラ・コナラ等)から、地域によっては、島、海沿い、平地の暖地性のドングリ類(シイ・カシ)まで枯れています。

 

秋の食糧を失った山の動物たち

人間は、食べ物を田畑で生産しますが、野生鳥獣たちは木の実や昆虫など、自然界にあるものを採食するだけですから、このナラ枯れ状況は致命的です。

 

クマなどの冷温帯にすむ野生動物が秋に一番好むのは、ブナです。アクがなくて、人間が生で食べてもおいしい実です。しかし、ブナは、豊凶が激しい上、数年に1回しか豊作にならず、凶作年となるともう全く実を付けません。ブナだけに頼っていては、野生動物たちは生き残れません。

 

そこでクマたちが、冬ごもりのための食い込み用食料として頼りにしてきたのが、秋に大きなドングリをどっさりつけるミズナラです。ミズナラにも豊凶はありますが、ブナほど極端ではありません。そのミズナラを筆頭にドングリ類が、大量枯死しているのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

林野庁発表:ナラ枯れ被害量の推移 クリックすると大きくなります。

 

山の実り凶作年の昨年度、クマたちが里にある食料を求めて山からどんどん出てきました。そこには、人間の銃や罠が待ち構えており、片っ端からクマたちは殺され、ツキノワグマの捕殺数は過去最多5283頭にものぼりました。過疎化高齢化した地元は、農作物を荒らされたり人身事故が発生したりで悲鳴を上げました。

 

今年もすでに大量のクマが捕殺されています。いくつかの県で、2年連続山の実り大凶作が発表されています。これまで大凶作が連続して続いたことはありません。自然界で大異変が起きているのです。

 

生息地の状況がわからない鳥獣保護行政

今回、野生鳥獣担当の行政官にナラ枯れの程度を尋ねると、自分たちは調べていないのでわからない。森林担当部署に聞いてほしいといいます。

 

森林担当の行政官にナラ枯れの状況を尋ねると、なぜそのようなことを尋ねて来るのかと聞かれました。ある東北地方の担当官は、真っ赤になった山を見て、あれはいったい何なのかと県民からの問い合わせが相次いでいるということでした。ナラ類カシ類はクマをはじめとする森の動物たちの命を支えてきた貴重な木であったことを話すと、野生動物のことは担当外でわからないと言われました。

 

自然生態系を守るには総合的な知見が必要です。この縦割り行政の弊害を何とかしなければなりません。

 

この20年間ほどの間に、日本の山から実のなる木が大量に枯死して消えてしまったのです。

日本の山の緑の中身がすっかり変わってしまっているのです。マスコミは全国民にこの事実を伝える責任があります。どうか伝えてください。

 

熊森から

本来の生息地の惨状を踏まえた共存策を

9月1日の熊森フェイスブックにナラ枯れの惨状を訴えたところ、7万件という過去最大のアクセスがありました。多くのみなさんが関心を持ってくださったことを、心強くうれしく思います。

 

ナラ枯れ被害や2年連続の山の実りの凶作などの影響で、今年も秋にクマが出てくる地域が増えそうで、私たちも、秋へ向けた注意喚起や対策の準備を始めていますが、特効薬のような解決策は無く、頭を抱えています。

ナラ枯れでどんぐりの木を枯らす直接の原因はカシノナガキクイムシという外来昆虫ですが、ナラ枯れの大発生には異常気象や酸性雨(酸性雪)などにより森の木々が弱っていることが影響していると言われています。いずれにせよ、人間の環境破壊の影響です。

 

野生動物たちの窮状に見て見ぬふりをし、今年もクマの大量捕殺を認めるのか、同じくこの大地に生きとし生けるものとして食料を分かち合うか、どちらかだと思います。

 

肥沃な平地である里のクリや柿は今年も豊作です。生き残るため、夜、命がけでそっと出てくるクマたちに可能な限り与えてやってほしいです。すべての生き物と共存してきた日本人の祖先なら、きっとそうしたと思います。クマたちはエサを求めて里に下りてきているだけで、人身事故を起こしたいと思っているわけではありません。突発的な至近距離での遭遇がないように注意し、彼らをパニックにさせなければ事故は防げます。

 

私たちの保水力豊かな水源の森を守るには、絶滅しない程度にわずかに野生動物が残っていたらいいのではありません。野生動物たちが豊かに残っていなければならないのです。(完)

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