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2020-09-21

クマ空前の食料飢饉 兵庫県現地調査結果 

鳥取県大山の今夏の壊滅的なナラ枯れ写真を見て、兵庫県は大丈夫だろうかと不安になり、熊森本部は9月15日、兵庫県の主要なクマ生息地である宍粟市(人工林率73%)の山の実り調査に入りました。

 

道中の風景です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道中の風景

 

人間の住む平地は、米もカキもクリもよく実っています。途中にあるスーパーも、食料であふれかえっていました。

一方、山は実りのない針葉樹一辺倒の人工林で覆われているため、残された広葉樹林の様子がつかめません。

 

自然林が残っているところに来たので、とりあえず遠景を見てみようと思い、対面する旧道谷小学校がある山に車で登り、向かい側から自然林の全容を見てみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対面する山から、赤谷山自然林を臨む 中央草地が戸倉スキー場

 

戸倉スキー場の上に、赤谷山のブナ・ミズナラ林が見えます。望遠レンズで見てみましたが、兵庫の山は緑に覆われています。ほっとしました。

山を下りて、戸倉スキー場に隣接する山に入りました。

この地点の標高は600メートルで、植生はコナラです。

 

山のふもとで、20本のコナラの実りをチエックしました。なんと、実がついているのは1本だけで、その実の数も少しです。

残念ながら、コナラ、凶作。こんな程度では、クマのおやつにもなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し実がついていたコナラ

 

一本のコナラの根元に粉状の木くずを発見し、近づいてみました。カシノナガキクイムシがあけた穴があり、よく見ると一部の枝が枯れていました。

カシナガが入っている!

周り数本にも、同様の状況が見られました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コナラの根元に粉状の木くず

 

いったんこうなると、来年、このコナラ林でナラ枯れが爆発的に進むことが予測されます。ナラ枯れの効果的な対策はありません。来年が、恐ろしくなりました。

 

山の上層部を調査するために、車で戸倉峠まで行き、鳥取県側の林道に車を置いて赤谷山に登ることにしました。

 

赤谷山登山

 

標高800メートルの赤谷山登山口から尾根道を登っていきます。この尾根は20年前ごろまでは、人間の背丈を超えるチシマザサで覆われており、人間の進入は無理と言われていた場所です。しかし、今は、県民のハイキングコースになっており、宍粟市によって尾根のササが頂上まで刈り取られています。

 

シカの食害とササの刈り取りで下層植生が失われた尾根は、表土が流出し続け、木々の根があらわになっています。少し見ないうちにますますひどい状況になっていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤谷山登山道

 

 

あと何年かしたら、尾根の木々が全部倒れると思います。尾根を破壊してまで、県民のレクレーションを進める必要があるのでしょうか。他生物や次世代のことを考えるなら、わずかに残されたこのような奥山自然林は、祖先がかつてしていたように「入らずの山」にすべきです。(今年も宍粟市に電話で提案します)

 

登山中、ハイイロチョッキリが落としたミズナラの小枝が足元に落ちていました。ミズナラのドングリには、ハイイロチョッキリがあけた穴がついています。

ミズナラのドングリ発見!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイイロチョッキリが落としたミズナラの実付き小枝

 

この山の木々は樹高が高くて、見渡しましたが、それらしきミズナラの木が発見できません。とりあえず、ミズナラが実っていたことに元気を得て、急な尾根道を汗だくで登っていきます。1時間半ほど歩いたところで、貴重なブナ・ミズナラ林に到達しました。

 

ミズナラの木が消えている!

 

なんと、ブナ・ミズナラ林がブナだけの森になっていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にかブナ林に変化していた元ブナ・ミズナラ林

 

みんなで、ミズナラの木を探し回りました。

枯れて墓標のように幹だけになっていたり、かろうじて生きていても何本もの枝が枯れて弱弱しくなっていたりで、風前の灯火でした。すでに多くはナラ枯れで枯れて倒れ、消えてしまったのだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

幹だけになっていたミズナラの枯れ木

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

枝枯れや梢枯れが痛々しいミズナラの巨木

 

わずかに生き残っていたミズナラの木を何本か探し出して実りを調べてみましたが、ドングリの実は一粒も発見できませんでした。ゼロではないのでしょうが、凶作です。といってもほとんどのミズナラの木が消えているのですから、豊凶など論じても意味がないと思いました。

 

ブナ林になってしまったブナの木を調べてみました。ブナの実りは全てゼロでした。クマの痕跡も完全にゼロで、この山にはもはや野生動物の痕跡がありません。

 

やっとのことで、頂上に登りきりました。

頂上から見回せる景色は絶景で、兵庫県最高峰氷ノ山(1510メートル)をはじめ、兵庫県、岡山県、鳥取県の山々が遠く青々と見わたせます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤谷山から見渡した山々

 

赤谷山に登った人たちのどれくらいが、この眼下に見渡せる青々とした山の危機的な内部変化に気づかれるでしょうか。

 

一見、青々とはしていても、大部分が動物たちが棲めない人工林にされてしまっていること、残された自然林の中で、クマの命を支えてきたミズナラが枯れて消えていること、ブナの木が残っているのはいいが、実りがゼロであること。

 

頂上に弱弱しいナナカマドの木があって、一応、実が付いていましたが、それ以外、この山には、全く実りというものが見当たりませんでした。

兵庫県森林動物研究センターの横山博士がいつも言っている言葉が耳にむなしく聞こえてきました。井戸知事も、彼女の言葉を信じておられます。

 

「今や兵庫の山は、歴史始まって以来の豊かさです。山の中に野生動物たちの食料はいっぱいあります。クマが山から出て来るのは、クマの数が増え過ぎたからです。(爆発増加説)クマが生息地を拡大しようとしているからです。(生息地拡大説)クマが人間を恐れなくなったからです。(人なめ説)クマが里のものの方がおいしいと味をしめたからです。(味しめ説)」

 

帰宅後、グーグルアースで宍粟市の山々を調べてみました。ミズナラの巨木が枯れた痕が白い枯れ木となって、山中に点在しているのが分かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵庫県宍粟市の山2018年グーグルアースより

 

 

熊森から

大切なことは、本当に見えにくいのです。私たち熊森に、日本の水源の森の危機を知らせてくれた恩人は、里に出てくるようになったクマたちです。この国に、クマが残っていてくれて本当に良かったし、これからも残っていてくれねばなりません。

 

この恩人を今、日本人は片っ端から殺し尽くしているのです。

 

行政や、一般のマスコミは、熊森の調査結果や見解を全く取り上げようとしません。もう水源の森保全は手遅れかもしれませんが、他生物のために、次世代のために、どこかにこの真実を取り上げてくれるところを必死で探しています。

 

お心当たりのある方は、週刊誌、雑誌、何でもいので熊森を取材するようにお勧めいただけないでしょうか。(完)

 

 

 

 

ナラ枯れの原因は虫ではない

どんな問題にも原因があります。

その原因特定に誤りがあれば、打つ手は全て外れます。

 

ナラ枯れは2000年代になって、日本海側の豪雪地帯の冷温帯から始まりました。

熊森は当初、地球温暖化によってこの暖温帯の虫が、まだこの虫に抵抗力を持たない冷温帯の木々に上がって行って(地球温暖化)、中国起源の酸性雪で弱ったミズナラの木を(土壌酸性化)、虫が片付けに入ったことが原因ではないかと考えました。

 

しかし、現在、日本海側だけではなく太平洋側も、奥山だけではなく里山も、ナラ枯れが蔓延してしまいました。

 

今年のナラ枯れの猛威には今年の酷暑ともいえる異常な猛暑も加わって、全国の実のなる木が弱ってきたからではないでしょうか。

 

一方、国は、ナラ枯れの原因を、カシノナガキクイムシという長さ5ミリほどの甲虫であるとしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

その結果、各地の山に大量の殺虫用化学物質を運び込んでいます。これで死ぬのは、カシノナガキクイムシだけではなく、全ての虫です。弊害の大きさは計り知れません。国の大量の薬剤散布にもかかわらず、ナラ枯れは北海道を除く全国に広がる一方です。人間にはこの虫をコントロールすることなどできなかったのです。

 

この虫は外来種ではなく、昔から日本の暖温帯にいた虫です。この虫でドングリの木が枯れるのなら、とっくの昔に、この国からドングリの木が消えていたはずです。

 

虫原因説から脱皮すべきでしょう。

 

当協会顧問の故宮下正次先生の研究によると、佐渡島では虫侵入の形跡が全くないのにミズナラが総枯れしていたそうです。こうなるともう完全に、ナラ枯れの原因は、虫ではなくなります。

土壌の酸性度を緩和すべく根元に炭をまいたところ、枯れそうになっていたミズナラが何本も生き返ったということです。

 

ナラ枯れの原因は、直接的には虫であったとしても、地球温暖化、酸性雪雨、大気汚染などの人間活動の総合作用によって、木々が弱っただけではなく、土壌内の共生菌である微生物たちが変化したり衰えたりしていることではないでしょうか。

 

この目に見えないミクロの世界で行われている多種多様な微生物たちの働きは、永遠に人間がはかり知ることができない世界であり、まして、人間がコントロールすることなど不可能です。人間はもっともっと謙虚にならねばなりません。

 

一時の楽さや便利さを享受するため、たった一つの母なる地球環境を壊し続けていくのでは、人間は余りにも愚かであまりにも無慈悲な動物です。

「人間は発展するために生まれてきたのではなく、幸せになるために生まれてきたのです。」

ウルグアイ 元ムヒカ大統領

リニア新幹線を筆頭に、水源の森を壊してまでこれ以上の便利さを求めることは、不要なばかりか人類の自殺行為です。

 

流れを変えるには大きな声が必要です。熊森は心ある皆さんの声をひとまとまりにして、他生物のために、次世代のために、奥山水源の森を聖域化する力を持ちたいのです。ぜひ多くの方に熊森協会の会員になっていただきたいです。会費は、毎年の会員数を正確に把握するための年千円でいいです。年千円の会費で年4回の会報を送付させていただきます。(完)

 

 

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