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2011-03-24

このマンガのクマ観をどう思われますか

2月27日の兵庫県主催シンポジウムで配られた資料に載せられていたマンガを見て、行政・業者・研究者と、わたしたち一般市民との動物観の違いに多大なる違和感を感じました。このマンガのクマは、ほおに大きな傷がありヤクザの様な顔をしています。タバコの煙?を出しながら、

「人里ばんざい、ずっとここにいついてやるぜ!」

といって、人間たちを震え上がらせています。熊森は、これだけは自信を持って言えます。今までたくさんの実物のクマやクマの写真を見てきましたが、こんな傲慢で怖いクマなどどこにもいません。こんな人間なら、見たことはありますが。動物観というか、何かが根本的に間違っているような気がします。私たちの税金でこのような真実ではないことを県民に伝えるのはやめていただきたいです。

(兵庫県が配布したパンフレットに載せられていたマンガより)

2/27  熊森見解と全く正反対だった兵庫県立大学の研究者たちの発表

2月27日、兵庫県森林動物研究センター主催の「-野生動物の保全と管理の最前線―ツキノワグマの大量出没の要因と対策を考える」シンポジウムが、兵庫県立美術館ミュージアムホールで開かれ、230名が会場を埋めました。野生動物保護管理派すなわち人間が管理(=殺す)して、野生動物の生息数を適正頭数に落とすべきと考える行政や研究者たちが勢ぞろいしました。4人の研究者全員が、兵庫県森林動物研究センターと兵庫県立大学に所属されており、パネルディスカッションも、この人たちだけで(!)なされました。

全員の発表内容をまとめると、兵庫県の山の自然環境は大変良く、クマも増え過ぎて、個体数調整に乗り出さないといけない時期に来ているということでした。

(発表内容の要約)

●兵庫県の山は戦後、どんどんとアカマツなどが消え、クマの棲めるコナラなどの自然の森が増え、動物たちにとって大変好環境なものに変化した。(論拠はカラーの植生図)

●最近、クマは年平均22%ずつ増えており、1994年に60頭だった生息推定数が16年後の2010年には、313頭~1651頭と予測される。中央値は649頭で、もはや保護対象動物ではなく普通獣にすべき。(クマ生息推定数の論拠は、因子分析法による。主な因子は2つで、クマの目撃数と捕獲数の増加)

●昨年2010年のような山の実り大凶作年でも、駆除したクマを解剖すると、栄養状況もよく太っており、雌グマの93%に黄体または胎盤痕が確認され、兵庫県の雌グマは良好な繁殖状況である。(論拠は有害駆除された多数のクマの解剖)

●昨年秋は、クマたちが柿の木を自分のものとして行動がエスカレートし、味をしめて人里に大量出没した。クマはブナ・ミズナラ・コナラの実りが全くなくても、ウワミズザクラやオニグルミを食べて十分生き残れるから、去年の様な大凶作年でも人里に出て来たクマはお仕置きをして山に返し、2回目出てきたら学習能力のないクマとみなして殺処分すべし。(兵庫県は2010年度、この考えに基づいて、7頭のこぐまも含め70頭のクマを有害捕殺した。ちなみに、隣接する岡山県では、同じ状況下であったが、人里に出て来たクマは全て奥地放獣し、クマの捕殺数はゼロであった)

(感想)この発表を兵庫県のクマたちが聞いたら、殺されていくクマたちの苦しみがかくもわからぬのかと、号泣するだろうと感じました。研究者たちの発表は、わたしたち熊森が奥山を歩き続けて感じている動物たちの生息環境が大荒廃して生き残れないという危機的な状況と180度反対で、ミステリーそのものでした。発表者たちが具体的にどういう手法でこのような結論を出されたのか、質問したいことが山のようにいっぱい出ましたが、質問は質問用紙に書かれたものから当局が選択したものだけに限られていたので挙手する場がありませんでした。

兵庫県の野生動物保護管理の研究や現場の実態はこれまでも今もわたしたちに非公開であり、私たち県民や市民団体には情報がほとんどありません。結論だけ発表されても理解できませんでした。是非、全てを公開していただきたいものです。

「熊森が、質問できないようにうまく終われた」と、主催者たちが後ろで笑いながら私語していましたよと、ある参加者が教えてくれました。しかし、熊森はこれで終わるつもりはありません。機会を見つけて、わたしたちと結論が正反対になっているわけを、納得するまで質問していきたいと思います。わたしたちは、かれらの発表したことをテープ起こししてとりあえず保存しました。以下が、当日の発表者たちです。

司会者 林 良博 兵庫県森林動物研究センター所長

発表者 兵庫県森林動物研究センターより

「出没及び被害の発生状況と対応」 稲葉一明 森林動物専門員(県庁職員)

「生息環境と堅果の豊凶」 藤木大介 研究員 兵庫県立大学

「保革個体の栄養状態と繁殖状況」 中村幸子 協力研究員 兵庫県立大学

「生息動向の推移と個体数推定」 坂田宏志 主任研究員 兵庫県立大学

「行動特性と出没との関係」 横山真弓 主任研究員 兵庫県立大学

配付されたプログラム

動物の棲める森を復元し続けているクマ生息地の幸福さん


2004年から日本熊森協会と強力にタイアップして奥山保全・復元活動に取り組んでおられる兵庫県宍粟市のクマ生息地にある兵庫一大きい原観光リンゴ園の専務理事である幸福重信さんを、3月20日、熊森本部スタッフ4名で訪問しました。(写真は幸福さん)

幸福さんは、かつて営林署の職員として、国有林の広葉樹林を伐採してスギ・ヒノキに植え替えていかれました。その後、過疎化高齢化が進むふるさとを活性化させようと兵庫県で初めてのリンゴ園作りに取り組まれます。そのリンゴ園を平成16年に台風16号が直撃し、7割以上のリンゴが落ちてしまいました。さらに、その年は奥山もかつてない大凶作で、空腹に耐えかねたツキノワグマが毎夜5、6頭やってきて、残りのリンゴを全て食べ尽くしてしまいました。

ふるさとのために地域の組合員と一緒に開園したリンゴ園が、窮地に追い込まれたのです。クマが憎い、けれども周りの山を見てみると7割以上がスギの人工林でした。天然の広葉樹林を針葉樹林に変えてしまったことを後悔されました。クマも被害者だったと、この時気づかれたそうです。

それ以降、大凶作年でクマがリンゴ園にやって来る年には、幸福さんは日本熊森協会などと協力して、おなかをすかせた森の動物たちのために、リンゴ園の外にどんぐりや落ちリンゴなどを置いてやっています。そうすることで、クマだけでなく鳥や蜂に商品用のリンゴが食べられることも防げるようになったと喜んでおられました。

幸福さんはかつて赤坂御所にて天皇・皇后両陛下に面会し、「全ての生物が共生できる豊かな森づくりに生涯を捧げます」と宣言されたそうです。現在、針葉樹林での間伐や広葉樹の植樹を積極的に行ない、森の復元に全力を注いでおられます。

先日、県庁主催の会議の席で、兵庫県内のある町長が、「農業のことをもっと考えて、動物をもっと殺してください。」と県に訴えておられたことを話すと、「農業を守っていくということは、動物を殺すということではない。農・林・漁業は結びつけて考えないといけないよ。人間が森林を針葉樹の単一林に変えてしまったから動物が住めなくなったんだよ。だから、多様な動物が住めるように人間がもう一度手を入れないと」と、おっしゃいました。

「昔は農と林は結びついていた。水は田んぼから生まれないんだよ。水は森からだ。森がつくったきれいな水を川が海に運んでいく。これが自然界の循環だ。これを守ることが、持続可能な生き方だよ。」「人間だけが生きていける環境なんかないんだ。動物たちが食べられる物を山に植えて、動物たちが安心して暮らせる場所を作ってあげる。そうすることで動物たちが人里に出てこなくなる。人と動物がいがみ合う時代はもう終わったんだよ。」と言われる幸福さんは、昨年だけでも50回ほどメディアに取り上げられました。全国からたくさんの応援の声が届いたそうです。ほとんどの日本国民は、幸福さんと同じ気持ちだと思います。

人間が犯した過去の失敗をバネにして、自然との共生に熱心に取り組む幸福さんの一言一言には、どんな論文よりも強い説得力がありました。全国各地でこのような野生鳥獣との共存、森の復元再生の実践活動に取り組んでおられる方、ぜひ日本熊森協会までご一報ください。動物たちや自然のために何かしたいと考えておられる全国の方がたに、あなたのお話を紹介させてほしいのです。

(原リンゴ園に隣接する地区共有のスギ人工林を強度間伐した場所。植樹したミズナラやコナラなどのどんぐりの木が立派に育っている。クモもやってきて、巣を作りだした。)

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