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この奥山のブナ・ミズナラ林(120ha)にクマは棲めるか?熊森本部が専門家に山の調査を依頼
8月9日、熊森本部調査研究部は、専門家に来ていただき、兵庫県宍粟市にある氷ノ山山系の奥山ブナ・ミズナラ林を調査していただきました。
まず、標高600メートル地点から沢沿いを伝って登っていきました。
(1)魚影が見られない
水量の少ない谷川
小さな川魚は少しはいると思うのですが、周りの山が人工林で埋まっているせいか、谷川の水量も少なく、おそらく水温も高く、確認できるような魚影はありませんでした。(イワナの適正水温は16.8℃まで)
昔のように渓流の水が冷たく水量が多いと、川魚も豊富でクマは年中ここに棲めるそうですが、これでは無理とのことでした。
(2)酸性降下物の影響はない
夏なのに、枯れた葉が少しありました。酸性降下物の影響でしょうか?
先生のお答えは、「酸性降下物による影響であれば、下層植生のみならず同時に多くの樹木も枯れます。しかし樹木はしっかり育っていますから、違うだろう」ということでした。
(3)液果植物がほとんどない山
この山にはなぜか、液果植物であるヤマザクラやウワミズザクラが全くありません。
ミズキやヤブデマリが1本ぽつんと生えているのが見つかりましたが、クマは何本も液果植物が生えている山に来るのであって、こんな1本しかないような効率の悪い所には来ないそうです。
案の定、ヤブデマリには実がついていましたが、クマが食べに来た形跡はありませんでした。
この山には、熊の餌となるような昆虫もいないし(地球温暖化の影響か?)、クマの春夏の食料はありません。
実のついたヤブデマリは1本あったが・・・
(4)秋の食料
①ヤマブドウ
クマはトチの実を食べませんが、幹の苔のはがれ方で、トチノキにクマが登ったことがわかると教えてもらいました。
トチノキには、葉のない太いツルが巻きついていましたが、上を見上げるとヤマブドウが高い所で葉を広げていました。枯れ木のように見えたツルは、ヤマブドウの生きたツルでした。ヤマブドウは日光のあたる場所にしか葉を付けないようです。
②ブナ・ミズナラ
この山を登って行くと堅果植物であるブナ・ミズナラ林です。凶作でなければ、秋にクマが利用しにくるだろうということです。数年前、ナラ枯れが入って、ミズナラが壊滅するのではないかと心配しましたが、一部枯れただけで今のところ終息した感じです。
(5)若木・稚樹・下草がない
私たちは、この山に若木・稚樹・下草がないことを、非常に気にしていましたが、先生は、林冠が鬱閉(うっぺい)していることを考えると、それほど異常な状況ではないだろうと言われました。
鬱閉(うっぺい)した林冠
木が1本倒れてギャップが出来たら、そこにはさまざまな芽生えが生じるのでしょうか。シカが食べつくしてしまわないでしょうか。
(6)ササが消えたのは、シカではなく一斉開花
沢沿いを3時間ほど登り続け、標高1000メートルあたりで北側の尾根へ上がろうということになり、急斜面を登りました。
斜面には、背丈の低いチシマザサがぽつぽつと広がっていました。
シカがササを枯らしたのか、たずねてみました。日本中でシカが犯人にされています。
先生の判定は、一斉開花によるササ枯れであり、自然現象ではないかということでした。
その証拠に、枯死したササは背が高く、緑色のササはどれも枯れたササの根元の地下茎から出た芽でした。
徐々に下層植生が回復していくのではないかと言われていました。
ササの青い葉は地面近くだけで、先端部はどれも枯死している
下層植生がササばかりになると、他の植物が入ってこれなくなるので、これまたよくないそうです。
下層環境も多様性が必要です。
<先生のこの山の評価>
「ドングリなどの堅果類等、秋の食糧になるものはあるが、全体的に、クマの夏の食糧となる液果類の樹木が少なすぎる。たとえば、ヤマザクラやウワミズザクラの実はよくクマが食べるが、この山にはそういった液果類の樹木がほとんどない。川魚もほとんどいない。兵庫県ではクマの数が爆発的に増加していると聞くが、奥山にクマが生きていくための充分な食糧がないのに、増えられないだろう。クマがこの山に棲みつくことはできない。秋に利用するだけだろう」
(熊森から)
ブログでは主な事しか書けませんでしたが、専門家の先生に来ていただいて多くのことを学びました。内部資料には、もっと多くのことを残しておきたいです。
この山のふもとの集落のおばあさんたちが、「むかしは谷川に30センチくらいのヤマメがたくさんいて、女でも手づかみできたよ」と以前、教えてくださったことが思い出されました。そんな川があれば、クマは年中この山に棲めたのかもしれません。戦後の拡大造林政策によって、どこの谷川も水量が激減です。スギやヒノキばかり植えられたことによって、クマたちは直接、食糧を失っただけでなく、川魚という貴重な食料も失うことになったのです。
この自然の山に液果植物がほとんどない理由は、よくわかりません。理由を思いつかれた方は教えてください。自然界の事は、人間には永久にわからないことでいっぱいですが。
東中国山地にある兵庫県では、兵庫県森林動物研究センターの研究者(当時、兵庫県立大学准教授、現在、株式会社 野生鳥獣対策連携センター代表取締役)が2011年春、ベイズ推定法を用いてクマが爆発増加したと発表しました。私たちには、推定過程がよくわかりません。集落でのクマの目撃が増加したこともあって、兵庫県はクマ狩猟を再開しただけではなく、現在、積極的にどんどんクマを有害捕殺しています。
山すそに、クマが大好きな糠入りの罠をシカ・イノシシ用として大量に設置したことも、クマの目撃数や錯誤捕獲が激増した原因の一つではないかと私たちは思うのですが、兵庫県は情報公開を請求してもほとんど非公開回答なので、県民としては訳が分からなくなります。
一方、西中国山地では、生息推定数は微減とされ、奥山のクマの生息密度が低下していることが分かった(ドーナツ化現象)として、狩猟も禁止されたままです。熊森の自動撮影カメラから、兵庫県もドーナツ化現象を引き起こしていることはまちがいありません。
中国山地の東と西、なぜこれほどまでに結論が違うのでしょうか。
6月27日 岐阜の山中で2頭でいるクマを目撃
本部職員2名と岐阜県支部スタッフが岐阜の奥山を調査しました。
6月27日午前11時ごろ、崩壊した林道を伝って登山中、中年男性がくしゃみをしたような音を聞きました。
「こんな山奥に、他にも来ている人がいるのかな」と話していると、10秒後ぐらいに「オーオー」というまたしても中年男性のような低くて太い声が、谷を隔てた対岸の斜面から聞こえてきました。
声の方を見ると、対岸の斜面の上から何かが10メートルぐらい落ちてきて、途中で止まりました。
てっきり人が滑落してきたと思い、助けに行こうと思った瞬間、真っ黒の塊のようなものが見えました。
人ではないとわかりました。「クマや」という声があがり、すぐに一同、カメラとビデオを取り出しました。
直線距離で100メートルはあるでしょう。
カメラを持つ者、ビデオを持つ者、それぞれを拡大してレンズをのぞくと、何と2頭がケガもなくじゃれ合っているではないですか。
しばらくして、2頭は別の方向に急斜面山を駆け上がっていきました。
人間には絶対あんなことできません。すごい運動能力です。
クマってすごいな。見とれてしまいました。
クマにとって6月は交尾の季節、成獣のオスメスだったのだろうか、それとも兄弟グマだったのだろうか。
一同興奮冷めやらず、とりあえずビデオのスイッチを切ったら、何と録画が始まりました。
えっ、一連の動きを動画撮影したつもりだったのに、撮影されていなかったのです。がっくり。
という訳で、今回は写真のみの報告です。
日本にはまだこうやって、野生のクマが人間と無関係に暮らしている原生林が残っている。
何とすばらしい国なんだろう。未来永劫、絶対にこの自然を残したいと思いました。
ちなみに、このあたりの森は、兵庫県と違って下層植生が豊かで植物も虫も多様性にあふれているように見えました。
兵庫県のクマ哀れ。
【くまもり本部】イノシシがクマ用カキ園の金網柵内に侵入 電気柵設置へ
平成のクマ止め林を造ろうと、2年前兵庫県宍粟市で、熊森と地元がカキ苗を植樹しました。ここに、イノシシが入ったという連絡が、地元から入りました。こんなことは初めてです。
この現場は、広さ約1800㎡に約50本のカキの木が植えられています。
シカが入らないように、周囲を高さ2.5m程の金網で囲っています。
平成のクマ止め林
イノシシは、金網の下を掘って柿園へ侵入していました。
植樹した柿の苗木は、ほとんど無事でしたが、苗木の盛り土が全て崩されていました。
柿の木の盛り土が崩されている
地元の方の話では、イノシシはカキの木の盛り土に繁茂したカズラ(つる草)の一種であるクズ(葛)の根を掘り起こして、食べているのだということです。くず餅からもわかるように、クズの根には良質のでんぷんが蓄えられています。
地面を這って広がって行くクズの根
イノシシがあの鼻で土を掘り返すのは大変なことだと思います。(どうやって土を掘るのか見たことがありませんが)しかし、カキの苗木の盛り土に生えたクズなら、土が柔らかいので簡単に掘り起こせます。
ここに目を付けたイノシシは賢いです。
大きくて真っ黒なイノシシの糞に交じって、いくつもの小さな糞が散乱していました。子供を何頭か連れて侵入しているのでしょう。
イノシシ糞(写真右下)
この時期、イノシシの親子のえさ探しの大変さを思うと、同情を覚えます。しかし、カキの苗木を枯らされたら困るので、この日は地元の方と、イノシシが入った金網の下の穴をふさぎ、植えたカキの木の盛り土を直して、電気柵を設置しました。
組み立て
つなぐ
がいしに線を掛ける
通電テストをして、電気柵張りは完了しました。
最後に、手袋をはいた手でワイヤーを触ってみたら、手首にバンと電気が来ました。
参った。
電源は乾電池8個の12ボルトですが、それを数千ボルトぐらいに高めて流しているのだろうと思います。しかし、電圧は高くても、流れている電流自体は微弱なので、イノシシの鼻に電線が当たっても、心臓をやられて死ぬようなことはありません。
兵庫県では、年間15000頭ものイノシシが狩猟や有害駆除で殺されています。
しかし今回のように、イノシシによる被害が出ても、殺さずに電気柵を張ったり、侵入経路を塞ぐなどの対策で、被害をなくしていくことができます。
祖先は昔から、こうやって被害防止に汗を流して、野生動物たちと共存してきました。
その根底には、同じ生きとし生けるものとしての共感がありました。
この共感を子々孫々、民族の文化として伝えていくことが、人間の生息環境でもある自然を守ることにつながるのです。
これでもう、イノシシは入らないよと、地元の方が保証してくださいました。
電気柵張り作業に初めて参加してみて、祖先が石や泥を積んでシシ垣を造ったことを思うと、今は、各段に簡単に被害防止柵が張れる時代だと思いました。
もちろん、夏に草が茂ってくると、漏電が起きますから、電気柵の下の草刈りが必要です。
その時は、会員のみなさん、ボランティア草刈り隊をお願いします。
この日、地元のみなさんに教わって、電気柵張りをマスターでき、うれしかったです。
クマの生息地でイノシシ被害に困っておられる地元があれば、電気柵張りの応援をしていきたいです。
クマ狩猟を実施している岐阜県のクマ生息林調査
熊森本部は、10月16日、研究者にもご参加いただいて、総勢9名で岐阜県のクマ生息林を兵庫県の山と比較しながら調査しました。
初めに調査した山は奥飛騨にある山で、70年程前に1度伐採されています。そのため、先駆種のカバノキ科やシデ類が多い林でした。下層植生はオタカラコウにそっくりのメタカラコウや、オオイタドリ、アカソ、アキノキリンソウ、カメバヒキオコシ、マルバユキザサ、マルバフユイチゴなどです。
この山の向かいにある国有林は、森林遷移の最終である極相状態の非常に豊かな山です。天然のブナやミズナラと、クロベ、チョウセンゴヨウ、サワラ、シラビソ、オオシラビソ、トウヒなどの針葉樹が生えています。将来的には、このあたりの山は、伐採後放置すると、この国有林のような針広混交林に遷移していくと思われます。
国有林
国有林内はササが繁茂していました。ここには、20年前の兵庫県の山の姿が残っていました。クマ狩猟を認める訳ではありませんが、こんな林なら隠れ場があり、そう簡単にはクマも狩猟されないだろうと感じました。
部分的にササが一斉開花しているところがありました。
チマキザサ?チシマザサ?この時期の判別はむずかしい。
この辺りの地質はとても崩れやすく、あちこちで崩れていました。山が崩れることも自然なので、人家に影響がない限り、放置しておけばいいと思います。
ところどころ、巨大な堰堤が造られていますが、それにヒビが入っていました。
この日は、この下流の宿に宿泊しました。この堰堤が崩れたら集落が影響を受けると言われて、そういう場所では何とかしなければならないと思いました。
宿舎で、御主人からイヌワシやクマの話を聞きました。
地元の人達にとって、クマがいるのは当たり前だそうです。庭のクリの木にもクマが来るそうです。クマを見かけて通報するのは観光客だと言われていました。
クマの存在を許容している人々は、このような奥地に行くと今でも全国どこでも普通におられます。クマは本来、平和愛好家で、人と共存できる動物なのです。兵庫のクマの専門家と呼ばれる研究者のみなさんに、この真実を知っていただきたいです。
次の日、10月17日は飛騨高地にある白川郷の近くの山を見に行きました。
このあたりは自然林がとても多くて、動物が棲めそうな山がたくさんありました。
カモシカの角研ぎの跡がありました。
チョウセンゴヨウマツについたカモシカの角研ぎ
古いクマの爪痕も見つけました。
ウワミズザクラについたクマの爪痕
林道を1時間ほど車で走っていると、突然、車の10メートルほど前を、黒い大きな動物が一瞬横切りました。クマかカモシカでしょう。
樹齢120年ほどのブナ林や、遷移段階の白樺林、その上には樹齢200年ほどのブナ帯など非常に豊かな植生でした。また極相状態の針広混交林も残っており、動物にとってはいろいろな種類の自然林が点在する本当にいい場所だと感じました。
岐阜県の人工林率は、県平均44%で、林業県として有名です。しかし、奥地にはまだ豊かな自然林がたくさん残っていることがわかり、ほっとしました。地方や県によって、山のようすが随分違います。
ここは道路を作ったからでしょうか。山が恐ろしく崩れていました。
山も野生動物も、人間が手を付けると、取り返しのつかないことになっていきます。
今回、日本にまだ残っていた動物の棲める森に入っていろいろと勉強することができ、幸せでした。わたしたち人間の心身まで豊かになりました。(但し、お年寄りは、山の樹木の葉の量や実りの量が昔と比べて激減していると嘆かれます。昔を知らない私たちには、本来の自然がわかりません)
8月23日、28日 クマのひそみ場所をなくすため、地元集落の草刈りに出動
兵庫県豊岡市で、本部8月23日の「いきものの森」活動を行いました。
集落へのクマの出没を抑えるため、地元から依頼された草刈りです。
ここは今年6月にクマが目撃され、わたしたちが追い払いをした場所のすぐ近くです。
草刈りを頼まれた場所は山すその斜面で、幅が45mぐらいありました。
刈り払い機を使える人は草藪をどんどん刈っていきます。
機械を使えない人は、のこぎりで竹を伐ったり、ササを刈ったりしていきます。
草刈り前 草刈り後
作業終了です。
ここは竹が多くてなかなか大変でした。この日は炎天下で熱中症の心配もあり、早めに切り上げました。遠目にはあまり変わっていないように見えますが、作業前と比べるとかなりすっきりしました。
続いて8月28日。この日は熊森本部職員2名が刈り払い機を持って出動しました。23日に草刈りを行った場所の国道を挟んだ向かい側です。
現場は、幅65m、奥行きが15mほどあり、前回よりかなり広い場所です。竹がないぶん楽ですが、笹が人の背丈より高かったです。
最初は上側の獣害防止金網フェンスのそばから刈っていきました。
地元の方が、上から刈ると刈った笹が下側に落ちていくので、下から刈り上げていくのが鉄則だよと、教えてくれました。途中から、地元の方も参加してくださいました。
どんな刈り払い機がいいかなどいろいろ教わり、大変参考になりました。
この集落では集落のまわりを田畑ごと何キロもの金網防獣フェンスで囲っており、シカやイノシシは集落内に入って来れません。そのため、集落内にササや草が生い茂ってしまいます。しかし、地元集落は過疎化高齢化が進んでおり、山裾の刈り払いをする余裕がありません。
一方、クマは金網を器用に乗り越えて、集落内に入ってきて、草薮に身を隠します。金網防獣フェンスの山側は放置された人工林で、クマが体を隠す下草がありません。クマが好む体を隠せる草藪は、皮肉なことに、集落内にあるのです。そしてそこにはクリや柿の木が植えられています。クマにとっては山の中よりこの場所の方が居心地がいいことになってしまいます。
草を刈りながら、人工林が金網フェンスの内側にあればなあと思いました。そしたら、草刈りをする必要などありません。見通しのいい場所にはクマは近寄りません。本当に、現実は逆になっているのです。
目指したいのは、山にクマたちの食料や隠れ場があって、集落にはクマたちの食料や隠れ場がない、そんな集落です。
ここの草刈を終えるには、あと2,3回の出動が必要です。
次回は9月3日(土)に行きます。クマ生息地の集落での草刈りボランティアに参加していただける方は、本部まで至急お知らせください。機械が使えない方は、鎌を用意させていただきます。
ちなみに、集落のみなさんは、みんなやさしくて、都市からの応援部隊を歓迎してくださいます。
<熊森本部連絡先>
TEL 0798-22-4190 FAX 0798-22-4196 mail contact@kumamori.org
10年間でさらに劣化 兵庫の原生林を調査
- 2016-08-19 (金)
- _現地訪問・調査
8月8日、熊森は2泊3日の全国支部長研修会を兵庫県宍粟市でもちました。
本部がこの場所で研修会を持ったのは、全国支部長のみなさんに、兵庫県のクマ生息地に残された山の現状を知っていただくとともに、本部が地元集落のみなさんとどのようにつながって活動しているのかを見ていただきたかったからです。
山形県から参加してくださった支部長代理の方は、「(下草も低木もない)こんな山に、本当にクマがいるのか」と、信じられない様子でした。
毎年北海道から自費で参加してくださる門崎允昭顧問(北海道野生動物研究所所長)は、「こんな山には、クマは棲めないよ」と、バッサリ。
臆病者のクマは、隠れ場がないこんな山は嫌でしょうが、こんな山しかありません。
2006.8.27撮影 → 2016.8.8撮影
帰ってから、10年前の同じ場所で撮った写真と比べてみて、原生林の劣化が一層進んでいることに衝撃を受けました。(手前の巨木は桂、奥の巨木は栃です)
渓流を地下足袋で何度か渡られた宮崎県支部長は、宮崎県の渓流と比べて、兵庫の渓流水のぬるいことと、魚影がほとんどないことに驚いておられました。ちなみに支部長が住んでおられる所の渓流水は冷たくて、魚がうじゃうじゃいるそうです。
門崎允昭顧問は、兵庫県のスギの人工林を見て、「北海道には、こんな山ないよ。密植し過ぎだよ」とショックを受けられていました。北海道の人工林率は29%で、樹種はトドマツ・エゾマツです。
ここ、氷ノ山のふもとにあたる兵庫県宍粟市の人工林率は73%、植えられるだけスギを植えたということです。
九州から参加した支部長たちは、「こんな山は、九州で毎日見ている。見慣れているよ」として、全然驚いていませんでした。
くまもり本部 近畿とは違う、九州の人工林を視察
7月19,20日、熊森協会本部から九州におもむき、熊本県支部長、宮崎県支部長、福岡県支部長、平野虎丸顧問や現地の熊森会員と共に,熊本県、宮崎県、大分県の山々を現地視察してまわりました。
移動中の車窓から眺める景色は本当に人工林ばかりで、九州の人工林の多さには愕然とするものがありました。
九州の山は、ほとんどがスギの人工林
●地震による山崩れ跡と、豊かな湧水(熊本県)
熊本県阿蘇に入り、まず目についたのが今年4月の地震で崩壊した山々の姿でした。
地震による山地崩壊
今回の地震で崩れた場所はその多くが人工林でした。しかし、そのような観点では報道されていないので、人々は<人工林が土砂災害の大きな原因>となったことにあまり気づいていないそうです。
阿蘇周辺では湧水が非常に多く、とてもきれいでした。毎分60トンもの水が湧きだす場所もあるそうです。高森町では湧水をいただきました。クマが絶滅した九州で、こんなにきれいな湧水が出るのを不思議に感じました。昔はもっとたくさんの湧水が湧いていたということです。私たち若い世代は、過去の自然の姿を知らないので、つい今の自然の状態だけで判断してしまいます。
湧水(熊本県高森)
●九州では、皆伐してもすぐに森が再生
今回、九州の山を視察しに行った目的の一つは、九州の支部長の皆さんが、「九州では皆伐後、シカ柵を張ったり植林したりしなくてもすぐに自然林が回復する」と言われるので、この目で見てみたいと思ったことです。
実際に九州の山に入って驚きました。
皆伐して一年放置されていた山が、すでにパイオニア種であるヌルデやネムノキ、カラスザンショウなどの稚樹や、ノイチゴなどの下草に覆われていました。近くに広葉樹林が残っていたので、今後、次々と種が飛んできて立派な自然林に回復していくと思われました。
人工林を皆伐して1年後の跡地(熊本県山都町)
下の写真は50~60年放置されていた牛の放牧場跡です。見事に自然林に復元しています。
奥山保全トラストが6年前に購入した宮崎県高千穂の人工林の皆伐跡地を見に行きました。沢の対岸から眺めただけですが、見るからに自然植生が回復しており、樹高が6~7mくらいに成長していると見られる木々もありました。九州では、わずか6年でこれほど回復するのかと、とても驚きました。もちろんどこも、シカ柵は張られていません。
皆伐後6年の山(宮崎県高千穂)
自然林再生がむずかしい現在の兵庫の山
下の写真は人工林皆伐後3年たった兵庫県宍粟市の広葉樹植樹地です。シカ除けネットの外はもちろん、中にもほとんど下草が生えてきていません。
この違いは?
兵庫県のシカ年間捕殺数は4万6千頭、宮崎は2万5千頭、熊本は2万頭、どちらにもシカはたくさんいそうです。九州と兵庫の自然再生スピードの違いは、シカの密度差?気候差?他にも理由がありそうです。
●バイオマス事業の為に皆伐
九州では林業が収入になるということで、皆伐がかなり進んでいました。近年急速に需要が進んでいるのが、バイオマス事業です。これまで売れなかった木材がある程度の値段で売れるということで、林業界は活気づいていました。しかし、バイオマス発電に使われる木は、どんな木でもいいので、バイオマス事業を中心に林業を進めていくと、人工林を放置したり、自然林を伐採したりすることも考えられます。
バイオマス事業のために皆伐された山(宮崎県)
熊森は林業を否定しているわけではありませんが、木材生産に使う場所、バイオマスに使う場所、そして動物がすめる自然豊かな水源の森にする場所などと、山をゾーニングすることがとても重要だと考えています。今のように、目先のお金のために人間が山を全部使うというやり方では、貴重な自然や生物の多様性、水源の森が失われてしまいます。
●ストップ・ザ・スギ再植林
残念ながら、九州では人工林の皆伐跡地は、ほぼ必ずスギを再植林していました。手厚い補助金が出るからです。
九州では、人工林皆伐跡地でも、放置しておくだけで簡単に自然林に移行していくのですから、何とか植え過ぎた人工林を自然林に戻していけるよう、熊森がその流れを作っていこうと、支部長さんたちと話し合いました。
再植林したものの、その後、放置されて、自然林に戻りつつある山もありました。
再植林地が放置され、自然林へと移行
九州で再植林がさかんなのは、九州の山林所有者のみなさんの考え方として、人工林は手入れされたきれいな山で、雑木林は管理されていないきたない山であり、自分の山が雑木林になるのは恥ずかしいという意識があるのだそうです。そのため再植林したものの、その後の管理は補助金で補いきれないので、結局山は放置され、雑木林に戻っていく例もあるようです。
●自伐林家の手入れされた美しい人工林
最後に、山を非常にきれいな状態で保っている宮崎県の自伐林家の方をご紹介します。自伐林家は自分の山を間伐し、山が崩れないように手を入れてていねいに木を育てます。本来であれば60年生ほどの太さと思われるスギが、まだ45年しかたっていないというのでとても驚きました。下草もたくさん生えているとても綺麗な山でした。
林床にはキレンゲショウマの花が一面に咲いていた(宮崎県高千穂)
他県の支部の山を見せていただいたことで、また、いろいろと勉強になりました。ご案内くださったみなさん、本当にありがとうございました。
なぜこのクマは殺されねばならないのか 12月24日本部柿もぎ→12月28日クマ捕獲罠撤去確認
わたしたちは、12月22日、兵庫県北部のクマ生息地を巡回中に、クマの捕獲罠を発見した。12月15日に仕掛けられたものだ。黒色の直方体の箱罠だった。クマがかかれば、すぐに射殺される。
確かにこの柿の木に、今秋、クマは来ていた。しかし、すごく背の高い木で、もう上の方しか実が残っていない。いくらクマでも、あんな上の細い枝まで登ったら、枝が折れて落ちて死ぬだろう。
今後、ここへまたクマが来るのか。もう来ないような気がする。
檻の中をのぞいてみた。
これはだめだ。クマを奥に誘導するように、ハチの巣が点々と奥まで置かれている。柿にはもうクマは来ないかもしれないが、この蜂の巣の匂いにつられて箱罠の中に入るかもしれない。おびきだして殺すとはこのことだ。
とりあえず、あたりの柿の木に残っている実を、もげるだけもいでみようと思い、許可をもらいに周りの家を訪ねて回って驚いた。空き家ばかりだ。胸が痛む。
周りの山にはすごく人間の手が入っている。ここまで山を壊されたら、クマは冬籠り前、もうこの柿を食べるしかないのではないか。
誰も取らない柿だから、クマにあげればいいのに、なぜ、行政は罠をかけたんだろう。
いろいろ考えながら、集落を回り、人が棲んでおられる家を見つけて、話を聞いてみた。空き家の方たちの連絡先を訪ねたが、知らないと言われる。クマが柿の実を食べるのはいいらしいが、いつも夜遅くに仕事から帰ってこられる方がいて、この近くを通られるということだ。その時、人身事故が起きては困ると言うことで、罠がかけられたようだ。その方が、通られる道に、まぶしいぐらいの明るいLED街灯を付ければどうだろうか。または、この柿の木にやってきたクマが、人が通る道に出て来ないように電気柵を張ればどうか。
それにしても、人を恐れて、夜そっと、空き家がならぶ場所の柿の実を食べに来ただけで、死刑判決とは。絶滅危惧種に対する保護策としては、間違っているし、こんなことで殺されるなら、クマの命がいくらあっても足りない。柿の実をもいでしまいたいが、持ち主のわからない柿の実はもいではいけないことになっているので、もげない。どう考えても、この柿の持ち主が、この柿の実を取りにだけ何年振りかで帰ってこられるようには思えない。第一、帰ってこられても、あんな上の柿の実をもぐことは、木を伐らない限り不可能だ。
行政が調べても持ち主のわからない柿の実は、もいでもいいことにしたらどうか。
兵庫県に、そのような条例を作ってもらいたい。それだけでどれほどのクマの命が救えることか。
仕方がないので、この檻の周りの柿の木はあきらめて、それより手前の、持ち主に許可を得た柿の実だけをもぐことにした。24日に出かけて、4人で作業した。クリスマスイブの日に、罠にかかって撃ち殺されるクマが出ませんように。もぐのが難しいところは、許可を得て、枝を一部落とした。
もいだ実は少し前のクマの糞をたどって、山に運んだ。
27日に、また訪れてみた。クマは檻の場所には、あれからもう来ていなかった。
山の中に置いた柿の実の山を見に行った。ここにもクマは来ていなかった。
空き家の柿に来ていたクマたちが、今頃どこで何をしているのか、さっぱりわからない。
しかし、人間に見つからないように、ひっそりと生きているクマたちを、これ以上追うのはやめる。
28日に、捕獲檻が撤去されたことを確認した。
生息地を回ることによって、クマ捕殺の実態が少しずつ見えてきた。
くまもりの<クマ保護活動>と<森再生活動>が全国に広がっていくように、来年もがんばります。会員のみなさん、応援してくださいね。
奥山広葉樹林化の現場を見る③ (兵庫県戸倉第2皆伐地の最後の1本を伐る)
第2伐採地最後の1本は、ちょうどこの伐採地での伐採木の100本目に当たります。
写真では2本のスギが残っていますが、奥の1本は残すそうです。
そういうわけで、手前の1本が、第2伐採地の最後の伐採木となります。2015.11.6の伐採の様子を映像で見て下さい。
伐採後
2015.11.6撮影
最新の、第2伐採地風景
2015.11.13現在
まだまだ今後も、伐採木の搬出作業が続きます。
第2伐採地の上は、コナラを中心とした落葉広葉樹の2次林です。
これでこの場所にも、日光が当たるようになります。
生き物たちの棲める森がよみかえりますように。
それにしても、谷川の水量の少ないこと!
昔は30センチのアマゴがたくさん泳いでいたという、地元のおばあさんたちの話が夢のようです。
造り過ぎた人工林を自然の広葉樹林に戻さない限り、水量は戻りません。
さらにこの奥の川沿いに奥山保全トラスト第3伐採地となる予定の人工林があります。
すでに、今年の春(2015.5.31)に、大阪西ライオンズクラブのみなさんによって、皮むきがなされています。
第3全伐予定地 2011.11.13撮影
持ち山を、保水力豊かでいきものたちがすめる広葉樹林に戻したいという個人山主さんが、次々と誕生してくださることを願います。
もちろん国産林業は大切ですから、林業地として残すべきところは残して下さい。
自然林復元を願うのは次の5か所です。奥山全域、尾根、川筋、山の上3分の1、急斜面
奥山広葉樹林化の現場を見る② (兵庫県戸倉第2皆伐地)
奥山保全トラストが所有する第2皆伐地の広葉樹林化の現場です。
2013年 チェンソー間伐実施
まだ林内が暗いです。
2013年 人工林部分の全除去を決定
残された木の皮むきを実施(5月26日)
2014年 皮むきスギの伐採開始(1月29日)
スギがあまりにも太いため、地面が伐採木で埋まってしまい、天然更新(森の再生)が期待できない。
伐採木を山から運び出したいが、川には橋がなく、川向うにも道がないため、トラックを入れることが出来ない。
長い苦悩の日々がありました。いろいろな可能性を調べ考え、地元、行政、森林組合、みなさん方からの助言もいただきました。
2015年10月 ついに、林内作業車による丸太の運び出しを決定
林内作業車が入れる道作り
川をはさんだ第2皆伐地の伐採木を林内作業車に引き上げる。
重くて人力ではびくともしない太い丸太が、軽々と持ち上げられていく。
機械の力はすごい。
材を山から運び出す。
トラックが入れるところまで運んで積み上げ、業者に市場まで持って行ってもらう。
延々と連日、材運び出しの作業が続いています。
第2皆伐地の残されたスギ伐採も続きます。
そしてついに、11月6日、第2皆伐地の最後のスギを伐採する日がやってきました。