林野庁が出してきた重大な法案が、今国会で審議されています。
残念ながら、現在の状況ではこの法案に関心を持っている国民は、林業者以外にはほとんどいないと思います。
森林経営管理というのは、林業のことだと思ってしまうからです。
実は、この法案は、この国の水源の森、生物の多様性、国土のグランドデザインを大きく変える、重大な法案です。
しかし、99%の国民は、そんな法案が国会で審議されていることすら知らないのではないでしょうか。
マスコミが大きく取り上げないからです。
一般国民は、マスコミが騒いでくれないと気づきませんから、マスコミのみなさんは使命感を持って、国民に今どの問題を大きく伝えるべきか、判断していただきたいです。
林野庁の「森林経営管理法案」の趣旨は、まとめると以下のようになります。
林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を図るために、
①山主に、経営管理の責務を持ってもらう。
②経営管理ができない山主の山は、市町村が経営管理を行うか、意欲のある林業経営者に委託する。
「森林経営管理法案」は、2019年度から実施されることになっている国民一人1000円徴収、年間620億円の森林環境税の前提となる法案で、「戦後林政の大転換」と呼べるものです。
戦後の拡大造林政策で造りすぎた人工林の材が売れずに延々と放置されて内部が大崩壊、水源涵養機能、生物多様性機能、土砂災害防止機能など、森林の持つあらゆる機能が低下し、もうどうしようもないところまで行って行き詰まってしまっている現状を大転換しようという訳です。
AERAは、「データ捏造」疑惑が浮上した森林環境税関連法という見出しで、「森林経営管理法案」を論評しています。
こんな大事な問題に取り組もうという時に、「データ捏造」疑惑など、あってはならぬことです。
どういうことかと調べてみたら、林野庁がこの法案を説明するために作成した資料「林業の現状」に、森林所有者へのアンケートの結果、「8割の森林経営者が経営意欲がない」とわかったと書かれてあったそうです。そもそもアンケートには、「経営への意欲」を聞いた質問は存在していなかったのだそうです。さらに、「意欲の低い森林所有者のうち7割は主伐の意向すらない」と断じられていたのだそうです。
森林所有者などから猛烈な反発が出て、林野庁は「誤解を受けた」として、4月19日、資料の文言を修正したそうです。責任転嫁はよくありません。
熊森としては、林野庁がどうして今や誰の目にも明らかな戦後の拡大造林政策の失敗を認めようとしないのか、残念でなりません。
人間は神様ではないのですから、良かれと思ってしたことが失敗することもあります。
林野庁が素直に失敗しましたと認めたら、ほとんどの国民は拍手すると思います。
森林所有者が、主伐して材を売ろうとしないのは、彼らに意欲がないからではなく、材を出せないような奥地や道も造れないような急斜面に国の指導でスギやヒノキを植えてしまっていたり、材は出せるけれど人件費や運搬費がかかってかえって赤字になってしまうなど、伐採できない理由があるからです。
そんなことは、ほとんどの国民が知っていることです。
拡大造林政策を考え出した林野庁も、それに乗った山林所有者も、そんな政策が人目のつかない奥地で展開されていたことに気づきもしなかったわたしたち多くの国民も、みんなここで反省して、未来のために出直しましょう。
戦後の森林政策の一番の失敗は、山を全て林業という人間の経済活動にだけ使おうとしたことです。
生きられなくなった森の動物たちは泣いています。
花粉症の人達も苦しんでいます。
渓流釣りの人達も渓流魚が激減して怒っています。
「森林・林業再生プラン」の失敗は、日本と条件の違う国のモデルを真似ようとしたことです。
山は地方によってみんな違うのに、東京で考えた一つのモデルを全国に強要したことです。
山にはさまざまな機能があるのに、それを忘れて、スギやヒノキの林ばかりにしてしまったら、弊害が出るのは当然です。現在放置されている広大な人工林は、手を入れても仕方がないから放置されているのです。
熊森は、これらは原則として伐採して森林環境税で自然林にもどしてしまうべきだと考えます。近い将来3軒に1軒が空き家になると言われています。建材としてのスギ・ヒノキの爆発的な需要は見込めないでしょう。
自然林を再生することにより、涸れた川がよみがえり、土砂災害が減り、農家の獣害が軽減される、このような朗報を期待します。
さまざまなな立場の人たちが、「森林経営管理法案」
「林野庁法案概要」に、意見を述べています。
・自伐型林業推進協会
4月24日 問題法案が衆議院通過 「自伐」重視と環境破壊の矛盾
・日本農業新聞 5月11 日「乱伐の恐れ、山守る林家の声を 主伐推奨荒廃進む」
・日本農業新聞 5月16日現場の不安拭う審議を
クマ、サル、シカ、イノシシなどの大型野生動物の住む森をこの国に保全するという熊森の理念からこの法案をチェックしてみましたが、国から森林環境税を得た市町村が、民間から預かった人工林をどのように経営管理しようとしているのか具体的なことが書かれていないため、今の段階では評価のしようがないです。
林業は大事な産業ですから、林業が林業として成り立つしくみを林業家に作ってあげてほしいというのは、熊森もずっと願ってきたことです。
今後熊森は、奥山など林業に向かない場所は自然林に再生していくよう、市町村担当者や市町村議会議員のみなさんに全力を挙げて訴え続けて行きます。
p.s この法案によって、江戸時代の藩ごとの責任ある森林保全制度が再現される方向に進んでくれればいいなと思います。
現在、山林の境界が不明となっている場所が多くあります。その点をどうするのか林野庁に問い合わせてみましたら、現段階ではその対策はまだ考えていないということでした。